番外448 守り手達の矜持
ティアーズ達の先導についていく形で、封印の巫女姫達、パルテニアラ、そして扉を護衛しつつ奥へ奥へと進む。
人数が多く、移送もしているのでエレナとパルテニアラを案内した時よりゆっくりとした移動になるが、ティアーズ達はこちらの移動速度にしっかりと合わせて動いてくれた。
こちらの人数が多いということで、後ろがはぐれないように更に3機のティアーズも合流して、殿を務めるという対応まで見せてくれたあたり、中々に臨機応変なことである。
そうして……暫く要塞内部を上下左右に進んでいたが――やがて魔界の扉を安置するための広間に辿り着いた。
最後まで気を抜かずに進んでいき、魔界の扉を広間の中央に配置する。そこで移送役を担っていたゴーレム達も扉から離れる。
「では――」
「うむ。始めるとしよう」
俺の言葉に頷いてパルテニアラがエレナ、ガブリエラと共に前に出ていく。
2人の巫女姫が祈りを捧げると、再びパルテニアラの魔力が増大する。そうしてパルテニアラの足元からマジックサークルが展開される。幾重にも呪法が展開されて――片眼鏡で魔力反応を見ると、いくつもの光の帯が扉に絡みついているようにも見えた。
パルテニアラの術は扉だけに留まらず、自身とエレナ、ガブリエラも光の帯で繋ぎ――そうして眩い輝きと共に光の粒になって散った。
「――これで、要塞への固定ができた」
パルテニアラが言う。要塞への固定。有事の際に要塞が浮上するから、座標ではなく要塞に対しての固定というわけだ。浮遊要塞の環境は迷宮に依存しているので、ベリオンドーラのように要塞ごと持ち出す、なんて荒業もできない。
「エレナとガブリエラ。2人の開錠の術によってのみ、扉を開くことができる。守護者となるアルクスもそうだが、辛い役目を押し付けてすまなんだな」
そんなパルテニアラの言葉に、エレナもガブリエラも微笑んで首を横に振った。
「いいえ。良かったと思っていますよ。無事に巫女姫として、お勤めを果たせました」
「そうですね。私にとっても、今の私は誇りなのです」
「私はまだ未熟ではありますが、守るべき門がここに置かれた日の事を胸に精進しましょう」
「……そうか」
エレナとガブリエラ、アルクスの言葉に、パルテニアラも目を閉じて微笑む。ティエーラやコルティエーラ、ヴィンクルもそれを静かに見届けて頷いていた。
「それにしても……これで移送が終わったと思ったら安心して、少し力が抜けてしまいました」
「ああ、それは確かに。私達は護衛されていただけですが、緊張が解けたら何となく脱力してしまったと言いますか」
と、エレナとガブリエラは顔を見合わせて笑いあう。
同様の思いはみんなにもあるのか、移送と固定が終わったことで軽く弛緩したような雰囲気もある。
「少しだけ、ここで休憩していきますか。要塞内部も気を抜けば危ない場所ですからね」
「ふむ、確かにそうか。ここならば扉に手出しをしなければ安全とも言えるし……それに美しい場所でもあるからな」
場合によってはここで待機してもらう事なども想定しているからな。
中央をこうして扉を安置するためのスペースとしているが、広間の一角には東屋や噴水なども作ってある。
というわけで、そちらに移動してみんなで少し腰を落ち着ける。グレイスの呪具については、どうするか迷うところだが――。
「私は……このままでも大丈夫ですよ。一時の事ですし、まだまだ疲れてはいませんから」
と、呪具に触れながらグレイスが微笑む。
「そっか」
「はい。魔界の扉に今何があっても、みんなを守れるように、ということで」
「ん。そうだね」
グレイスも……メイナードの事もあって縁の深いものだからな。気合が入っているようで。
扉の固定も終わったが、警戒だけは怠るべきではない。あくまで集中力や緊張感を肝心な場所で切らないようにするための小休止だ。
とは言え、休憩なら休憩としてしっかり休むべきなのも事実だ。必要なのはメリハリであるからだ。水晶の花やライトアップされた水路、東屋の装飾等を見ながら、みんなでお茶を飲む。
茶器に構造強化をかけておけばグレイスも呪具を解除したままでも大丈夫だからな。これはみんなで訓練などしていて、その中から出た案ではあるのだが。
そうしてステファニア達が淹れてくれたお茶を注いでもらい、グレイスも楽しそうにティーカップを傾けていた。
「輸送中は警戒していたのであまり要塞については伝えられなかったのですが、こうしている間ならガブリエラ殿下にもこの場所の機能等々についてお伝えできそうですね。特に、魔界の調査等で再びこの場所を訪れることになりそうですし」
「ああ、それは……よろしくお願いします」
と、ガブリエラが一礼してくる。では、休憩がてら要塞の概要について話をしておくか。
そうして……魔界の扉の移送と固定を終えて――。ティアーズ達にマニピュレーターを振って見送られるようにして要塞を後にした。
転移魔法で転移港に戻ってきたところで、スティーヴンのところの子供達におかえりなさい! と、嬉しそうに迎えられて……ようやく仕事も終わったと本当の意味で気を抜くことができたのであった。
「それじゃ、呪具の封印をするよ」
「よろしくお願いします、テオ」
グレイスに封印を施すと、大きく息をついて微笑みを向けてくる。
「ん。戦闘はなかったけど、運ぶ物が物だけに、気疲れした」
と、シーラが両腕をぶらんと脱力させてそんな風に言う。
「それは……まあ、確かに同感ね。私も転移魔法の準備だけはしていたもの」
目を閉じてクラウディアが言う。そうだな。もしもの場合は転移魔法対策の結界を切れば退避も可能だ。
「戦いはなかったけれど、それだけにずっと警戒しているというのはやっぱり疲れるものよね」
苦笑しながらイルムヒルトが言うとローズマリーやステファニアも頷いていた。
シーラやイルムヒルトは周囲に警戒をしていたが、ローズマリーやステファニアは魔法的な変化がないか、門に注視したりもしていたからな。
アシュレイも外部から攻撃があればすぐさま氷の防御陣地を構築できるよう準備していたし、マルレーンも召喚魔法の用意をしたり。みんなそれぞれ何かがあれば即座に動けるように備えていたわけだが。
最大級の警戒をしながらも魔法が誤って暴発しないように発動待機の手前で止めたりなどしていた、という事もあって……みんな気が抜けたというか、安堵感が強いようだ。まあ、ベシュメルク王国の騒動から残った仕事でもあったからな。思い入れもある、と言う事だろう。
さて。この後は……クェンティン達が王城セオレムの迎賓館で待ってくれている。
エレナとガブリエラも報告があるので、俺もしっかりと移送と固定が終わったことを報告してくるとしよう。
「――というわけで、要塞を通り、最奥の広間に扉を固定して参りました。具体的にどんな要塞なのかという詳細も、休憩中に教えて頂きましたが……」
「防犯上の観点から考えるなら、相手が我々と言えど、滅多な事では口外しない方が得策でしょうな」
ガブリエラの言葉を受けて、クェンティンが答える。そうだな。情報を知っていれば対策も取れるから。
「はい。ですが、私が想像していた以上に厳重であるのは間違いないかと」
「僕としても、考え得る限りの案で防備を厚くしたつもりでいます。大きく形を変えず、更に強固になる案があれば、順次追加していく可能性もありますが」
「ふむ。テオドールがそう言うのであれば、間違いはなかろう。ミルドレッドやメルセディア達から聞いたが、随分と気を張って気疲れしていたという話だが」
と、メルヴィン王が尋ねてくる。
「そうですね。ここまで来て誰かに横槍を入れられて台無しにされては落胆では済みませんから、僕もみんなも気合が入ってしまったと言いますか」
そんな風に冗談めかして答えると、みんなもうんうんと頷いていた。
メルヴィン王も、堅苦しい報告は早めに切り上げて、ゆるりとするのがよかろうと笑うのであった。そう、だな。前々からのベシュメルクに関する仕事はこれで一段落したわけだし、子供達もフォレスタニアに連れていって、のんびりと休ませてもらおう。