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番外446 要塞と魔法生物

 編隊を組む3機のティアーズ達に案内される形で浮遊要塞を内部へ進む。先導するティアーズが少し先行し、僚機が両脇を固める、というような方式だ。


 内部はかなり入り組んでいて堂々巡りにされたりするような仕組みではあるのだが、俺達に関してはティアーズ達が通路を操作してくれているので安全に進む事が可能である。

 逆に言うと、この状況でもティアーズの案内無しでは奥まで進むのは難しい。正しい順路で歩かなければ罠のある通路の方に迷い込んでしまうからだ。

 順路を構築して迷路を作るという関係上、安全な配置にした場合でも上下左右の部屋に歩き回る事になるのは変わらない。


「案内中に順路から外れようとした場合の確認をしますね。少し待っていて頂けますか?」

「あい分かった」


 動作チェックという事でみんなに断りを入れてから、敢えて誤った順路に進もうとすると、ティアーズの内一機が警告音を慣らして回り込み、マニピュレーターをバツ字に交差させてこっちは危険、と警告を発してくる。

 うん。案内中の動きも間違いないようだ。みんなのところへ戻ると警告を発してくれたティアーズも一緒についてくる。


「何と言いますか。テオドール様の改造したティアーズは、何となく愛嬌がありますね」

「そうね。こんなに感情表現が豊かだと可愛いかも知れないわ」


 と、そんな風に言ってアシュレイが微笑み、クラウディアもくすくすと笑う。


「ん。握手も応えてくれる」


 シーラが手を差し出すとティアーズ達も握手で応じていた。それを見たマルレーンもにこにことしながらティアーズ達と握手を交わす。マクスウェルの核の明滅やラヴィーネの尻尾の動きに合わせてティアーズ達も魔力のラインを点滅させたりと、何やらコンタクトを取ったりしていた。……コルリスはティアーズとハイタッチしているし。


 まあ、ティアーズ達もボディランゲージが基本だからな。元々見た目の威圧感があるデザインでもないし、魔界からの友好的な種族を迎える場合も良い方向に働いてくれる事を期待してこうしたコミュニケーションを何となく教えてみたが……。


「ティアーズ達がお互い連携して要塞を操作しているせいか、前よりも自意識が高度になっているような気がしますね。同僚だと思うと頼もしいです」


 と、アルクスが笑みを見せる。そんな言葉にティアーズ達が魔力のラインを光らせながら電子音に似た音で応えていた。肯定、否定、警告など、音と光で簡単な受け答えができるのだ。肯定の際の音なのでどういたしまして、といったニュアンスだろうか。


「アルクスは、ティアーズ達のやり取りが分かるのであったか」

「はい。ここまでのティアーズ達のやり取りで内部の仕組みも段々分かってきました。あちこち罠があるようですが……罠の無い部屋と通路を組み合わせて奥まで進めるというわけですね」


 パルテニアラが尋ねると、アルクスは頷いてそんな風に答えた。


「うん。ティアーズの鹵獲と解析対策に、他の区画と独立した管制から指示のみを出す統括専門のティアーズがいるんだ。そのティアーズもアルクスの指揮下に入るから、それも含めて後で正確な情報を渡すよ。予備知識がない時の要塞の印象も、実地で知っておいて欲しかったからね」

「それは確かに、誰かを案内する場合に役立つ、貴重な経験かも知れません。ありがとうございます」


 と、丁寧にお辞儀をしてくるアルクスである。

 アルクスとティアーズ達に関しては指揮能力を応用し、魔力の暗号をやり取りしてリアルタイムでの状況報告が可能となっている。

 アルクスの指揮権は統括ティアーズの上位に来るので、直接指揮と役割分担の使い分けを上手く活用して欲しいものだ。


 そうして奥へと進んでいくと、魔界の扉を安置するための広間に辿り着く。大きな扉が開かれると……その向こうには光る水晶の花とライトアップされた水路、白いアーチと、紋様魔法が施されたそれまでの通路とは打って変わったような風景がそこに広がっていた。


 3機のティアーズ達も案内が終わったということで、空中で揃ってお辞儀をすると扉の前に浮遊しながら待機する。


「――ティアーズ達も可愛いですし、ここも綺麗な場所ですね」

「友好的な種族が現れた時の事を考えて歓迎の意を示せるようにと言っていたが……なるほどな」


 エレナとパルテニアラが周囲を見渡しながら言う。


「そうです。教えて頂いた幾つかの呪法も広場に組み込んであります」

「うむ。扉を安置する準備に関しては問題なさそうに見えるな。ここまでの道のりも相当なものであったし」

「問題は無さそうですか?」

「無論だ。ベシュメルクの地下より防備は厚かろう」


 そんな風にパルテニアラが笑みを浮かべる。


「これなら無事に扉の移設も出来そうですね」

「そうだね。通信機で連絡を入れて、なるべく早く予定を立てる形でベシュメルク王国に行って来よう」


 グレイスの言葉にそう答えると、エレナも嬉しそうに表情を綻ばせるのであった。


 そうして――新区画についてあれこれ見て回り、迎賓館の設備や有事の際の挙動など、諸々の確認が終わったのであった。


 早速ベシュメルク王国側に連絡を入れると、魔界の扉を早めに移送してしまおうという事で意見の一致を見た。

 ベシュメルク国内は状況が落ち着いているとはいえ、まだ体制移行の途中であるし、ザナエルクが封印解除の為に色々やっていたせいで地下区画について知っている者もいる。


 であるなら、セキュリティを一新し、幾重にも厳重な守りを施した浮遊要塞に置いた方が余計な野心を出す者も現れずに安心、というわけだ。

 魔界の扉の移送は必要な事であり、観光や歓待を目的とせず迅速な処置を、というわけで、翌日にはベシュメルクを訪問する、という事で話が纏まったのであった。




 そうして――明けて一日。

 執務を終わらせてから、通信機で連絡を取り合い、向こうの都合もついたところで転移港を使ってベシュメルクへ向かうことになった。


「それじゃ、向こうへ飛ぼうか」

「うんっ」

「みんな元気かな」


 俺の言葉に元気よく返事をする二人である。エレナもそうだが、カルセドネとシトリアも、ベシュメルクのみんなに会えるから嬉しそうだ。

 遊びに行くというわけではないが、その後の近況についてはしっかりと話を聞いたりしておきたいという事も打ち合わせてある。

 そうして転移門を使ってベシュメルクへと飛ぶ。光に包まれてそれが収まると――ベシュメルク王城の迎賓館に俺達の姿はあった。


「おお、ようこそいらっしゃいました」


 と、クェンティン達が笑顔で迎えてくれる。通信機でタイミングを合わせたということもあり、重鎮達も勢揃いで待っていてくれた。


「お久しぶりと言う程、日は空いておりませんが、皆さん元気そうで何よりです」

「転移と通信機は便利なものですな。実に予定が立てやすい。さ、どうぞこちらへ」


 再会の挨拶を交わし、それから迎賓館の応接室へとみんなで移動する。ガブリエラやスティーヴン達と再会できてエレナ達も嬉しそうだ。

 応接室に移動すると、既にお茶とお茶請けの菓子の用意がされていて。みんなで腰を落ち着けて話をする。


「こちらの状況は通信機でお伝えした通りです。時間がおありでしたら新区画の見学と言うのも考えていますが――」

「それについては先王という前例もあります。私達のように政に関わる者達は固辞させていただいた方が今後の抑止にも繋がるのではないかと考えておりますよ」

「今回は私が責任を持って、パルテニアラ陛下やエレナ様と、移設を見届けにという話をしていました」


 クェンティンの言葉を受けて、ガブリエラが言う。マルブランシュ侯爵やバルソロミューも異存はないのか、真剣な表情で頷いていた。


「分かりました。確かに、実務に関わる方々はその方がいいのかも知れませんね。今回固辞なさったという事も今後の方針に関わってくると思いますし」


 ふむ。移送時の話についてはこんなところだろうか。見た印象ではベシュメルク国内も問題無さそうだが、色々と話を聞いてみるとしよう。

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