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番外445 扉の移設に向けて

 さて、浮遊要塞の構想も出来上がったところで早速迷宮核へ向かい、要塞に関する情報を入力していく。魔界の門を安置する広間からそれを覆うように、要塞を構築していくわけだ。


「浮遊要塞はどうやって作るの? 月の船と同じ?」


 と、イルムヒルトが首を傾げる。


『あれは、オリハルコンの核があるからね。こっちは飛行してどこかに行くわけじゃなくて、一定の場所に浮くだけだから、基本の建材を工夫することで十分に建築可能って迷宮核からも試算が出てる』


 みんなともいつも通り、迷宮核外部と通信機でやり取りをしながらの作業だ。

 要塞の素材、構造に関しては――基本的には浮石や飛行船と同じだ。

 建材には魔力を受けて浮遊する性質を持つ、飛空石を使う。

 自然産出は珍しい鉱物だ。これを精製して魔力制御を受けられる状態に加工することで浮石なども作られているわけだ。……これで巨大な建造物を作るというのは、迷宮内部でもなければできないだろうが。


 全体がこの加工した飛空石で構築されることにより、魔力が充填されると要塞全体が浮かび上がる、というわけだ。

 ミスリル銀線を血管のように伸ばし、要所要所に補助用の魔石を置いて、更に表面に紋様魔法まで施して、全体に魔力が行き渡るように調整しておく。


 そうして内部に上下左右、立体的に入り組んだ迷路を組み、内部構造を状況に応じてメダルゴーレムとティアーズ達が現場の判断で変化させられるようにする。


「ん。敵が、建物自体を破壊しようとした場合は?」


 と、シーラが首を傾げる。そうだな。当然だが、要塞そのものが難攻不落であればあるほど正攻法は敬遠される。

 構造そのものを破壊するという対抗策へは、呪法によるカウンターが発動する。


『――要するに正当な立ち入り許可を持たない侵入者等が壁を破壊しようとすると、呪法で攻撃者にダメージが跳ね返るわけだね』


 ザナエルクは自分でやらかしたことの無茶や理不尽を他人に押し付けようとしていたが……本来は、こうした正当な理由でのカウンターという方が呪法として力を発揮しやすいようだ。

 正当な許可が無い者による破壊、という条件がつくことで戦闘用の反射呪法より一段強烈なカウンターが発動するというわけだな。


 当然、他の迷宮区画同様、時間と共に構造物も修復される。


「つまり……迷宮側の戦力は何ら気にせず敵に攻撃を仕掛ける事ができて、侵入者側は構造物を破壊しないように気をつけねばならない、ということかしら?」

『……そうなるね』


 クラウディアの言葉にそんな風に答える。確かに……副産物として片付けるにはえげつないというか、随分凶悪な仕様になった気がしないでもない。

 こちらの戦力に大きな攻撃を誘発させて壁を壊させる等という手も予想されなくもないが、ティアーズは中枢の守りに配備されていただけあって、細かい白兵戦も得意だからな。そのへんは上手くやってくれるだろう。


 そうして計画通りに罠を構築。乱数表でバラけさせた通りに、手を変え品を変え、色々と配置していく。

 定番の落とし穴、吊り天井、出入り口の封鎖、睡眠ガス噴霧、射出槍等々……。壁や床の紋様など、様々な部分に紛れ込ませる形で起動スイッチを仕込んだり、起動方も機械式の感圧や、魔法式の動体感知、音響感知。更には複合方式まで色々と……という具合だ。


 そうして諸々の内部構造を作り、外観も仕上げる。内部に迷宮。最終的な出入り口を縦穴にしたのであまり融通が利かない部分があるが、できるだけベシュメルクの建築様式、装飾技術等々を取り入れていく。


 基本的佇まいは精霊殿に近い。上半分はピラミッド状。下は半球型のドーム状になり、表面の紋様魔法に魔力のラインが走る。浮遊させるとかなり怪しげな建物になってしまったが……まあ、致し方あるまい。鎮座している状態なら他の四大精霊殿にベシュメルクのエッセンスを取り入れた……神殿っぽい見た目ではあるし。


 更に要塞内部の操作や戦闘、連係に特化したティアーズのアルゴリズムを組み上げる。

 ティアーズに関しては中枢部防衛の役割を持つ部隊と区別化するために、変化を加えておこう。装甲の色調を少し変えて要塞の外観に合わせる。魔力のラインを壁の紋様、装飾に似せて特徴を出しつつも迷彩仕様にする。要塞の風景に溶け込ませて視認性を悪くする、というわけだ。


『ティアーズの見た目は……こんな感じでどうかな?』

「要塞の見た目に合わせたのかしら? さっき言っていた呪法と併せて、ますます厄介なことになりそうね」


 と、ローズマリーが笑う。確かにそうかも知れない。まあ、あらゆる手で難攻不落な物に仕上げるという方針なので悪いものでもあるまい。


 更に実際に脱出と侵入の際にどういうことになるのか、迷宮核内部で軽くシミュレーションを行う。暫くシミュレーション上でチェックをしていたが――あっという間に想定した侵入者が戦闘不能になっていく。


 ……うん。まあ、相当な実力がないと満足に進む事も出来ないと分かった。実動させて問題があれば構築した後にも手直しできるから、一先ずはこんなところにしておくか。

 そんなわけで要塞外部の迎賓館も仕上げ……ガーディアンとしてアルクスを設定。防衛部隊を配置。後は……迷宮核に構築を実行してもらう。


「それじゃあ、始めよう」


 俺の意識の周辺に浮かぶ術式の海が煌めきを増して、衛星のように周囲を舞う。光の渦の動きと共に、俺の意識にも新区画の構築風景が流れ込んできて――。

 空間が広がり、足場や断崖。浮石、結界壁、要塞といった様々な物が構築されていくのが分かる。満月の迷宮から分岐点が作られ――そうして、新区画の構築が完了する。


 よし。実際に足を運んでみて、問題がなければ魔界の扉の移設ということになるだろう。




 というわけでパルテニアラ、エレナ、アルクス達も連れて、迷宮奥へと転移することとなった。

 浮遊要塞区画には満月の迷宮から接続する形だ。迷宮深層へ向かう門の横手に、もう一つの扉に続く通路が新たに作られている。こちらは各国の承認システムが完成すれば扉が封印されて開かなくなる予定ではあるが、今のところは通る事が可能だ。


 みんなで扉を抜けると……見た目はそれほど変化がないのに、周辺を取り巻く魔力の波長に明らかな変化があった。


「連結用通路はまだ満月の迷宮の様式に合わせたものですが、先程の扉を抜けた時点で新しい区画に入っています」

「なるほど。それで、扉を抜けた瞬間に祭祀場に近い魔力の雰囲気になったわけですね」


 エレナが言う。そうだな。通路の装飾も進むに従ってベシュメルクの様式の装飾の比率を混ぜていくといった具合だ。パルテニアラもエレナもそれが分かるのか、周囲の装飾を見ながら感心したような声を上げていた。

 そして通路を抜けると――突然に開けた空間に出た。満点の星空。青白い月明かりに照らされて、断崖の向こうの足場に浮かび上がるかのように聳える浮遊要塞。


 あちこちから水晶柱が突き出てぼんやりとした光であたりを照らしている。光に沿って進むと迎賓館へ行ける。


 既に巡回を始めている改造型ティアーズ達がこちらに向かって編隊飛行で飛んできて、マニピュレーターを動かしてお辞儀をするような仕草を見せてくる。管理者代行と区画の主、刻印の巫女姫という面々だからな。ティアーズ達の挙動も問題なさそうだ。



「これはまた……絶景よな」

「これが……私が守るべき区画というわけですか」


 パルテニアラとアルクスが言った。


「フォレスタニアの遠景と同じく、外殻部に景色を投影しているわけですね」

「美しい風景ですが、外に出た、と間違えてしまいそうですね」


 アルクスが言う。


「それも狙いの一つではあるね。遠景に向かって逃亡したつもりが区画の外殻に追いつめられていた、という事態になるから」

「なるほど。実際に戦闘指揮を行う際は役に立ちそうですね。包囲の一部を甘くするなどすれば、敵の動きを誘導できます」


 そうなるな。部隊指揮能力も健在といったところか。このままあちこち見て貰って、問題なければいよいよ魔界の扉の移設ということになるだろう。

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