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番外442 第3王子の事情

「済まない。前祝いの場で心配をかけるような事を」

「いいえ。謝るのなら僕達の方かも知れません」

「兄上が悩んでいるようなら力になれる事があればって、この場を用意した部分があってね」

「まあ……マリーは前の意趣返しなんて言ってるけれど」


 俺の言葉を引き継ぐようにアルバートとステファニアも言う。ローズマリーは肩を竦めてそっぽを向いていたりして、マルレーンはにこにことしていた。


「そう、だったのか。……いや、嬉しいよ。父上に伝わらないように手を回してくれていたようだし、心配してくれて配慮までしてくれてのことなんだから。それに僕も……姉上に同じようなことをしたからね」


 と、ヘルフリート王子は苦笑してから少し真剣な表情になって言葉を続けた。


「でも、そういうことなら……話を聞いてもらえるかな」

「勿論です」


 そう言って頷いて、ヘルフリート王子に向き直る。


「それじゃあ――」


 前置きをしてからヘルフリート王子は事情を話し出す。


「彼女は――もしかしたら僕の動きからみんなには察しがついているかも知れないけれど……人魚なんだ」


 そう。そうだな。それは予想がついていたことではある。


「ただ、グランティオス王国とはまた別の出自で、グロウフォニカ南方で暮らしている一族だって言ってた。人魚ではあるけれど精霊に近いところもあって、ネレイドという種族みたいだね」


 ヘルフリート王子は自分にも関わることだけに結構調べているようだな。

 そうだな……。俺もネレイドは魔物に分類されながらも、精霊に近い種族ということで理解している。


 自身の住む海域からあまり外には出ず、魔力溜まりは忌避する。敵対的な魔物を打ち倒し海域の平穏を守る事で、信仰や畏れ等を受け取って活動のための力とする性質を持っているそうだ。


 ……そう考えるとクラウドエルクも精霊に近い種……なのかな。種族として独立心は高くとも敵対的ではない、という点も同じだ。活動拠点が海だから、クラウドエルクよりも大分目撃情報も少ないが。


「地上では中々接点を持つことのできない、珍しい種族と理解していますが」

「そうだね。僕も全く予想していなかった。彼女と出会ったのは――グランティオス王国の問題が解決して、グロウフォニカ王国の留学先に戻ってからの事だった」


 留学先に戻って少ししてから、グロウフォニカでは大きな嵐が起こったらしい。

 ヘルフリート王子はグランティオス王国の経緯を見てきたばかりということもあって……海の事が気になって、一夜明けて、天気が落ち着いてから浜辺を見に行ったそうだ。


「レビテーションも使えるし、魔道具もあるからね。波が少し高くても距離を取っていれば大丈夫だろうと海の様子を見に行ったんだ。そうして、岩場の陰に、打ち上げられている彼女を見つけた」


 どうやらネレイドは怪我をしている様子だったとか。驚いたヘルフリート王子は館にとって返し、ポーションや治療用の品々を持って現場に戻ったという。


「テオドール公が僕に渡してくれたポーションだね。戦いが終わって返そうとしたら、何かの役に立つかも知れないから餞別にって、僕にくれた――」

「ああ、そう言えばお渡ししていましたね」


 ヘルフリート王子は最終的に留学先であるグロウフォニカに戻る。

 別行動になるのでそうした備えがあれば何かの折に役に立つこともあるだろうと、そのまま持っていって貰った品だ。


「そのポーションで彼女の傷を治療したんだ。嵐の折に、沖に取り残されていた船に沈まないように魔法をかけにいったところで、暴風で飛んできた船か何かの破片に当たってしまったって言ってた。気を失って流されて……その時に暗礁みたいな岩場で、足ヒレを挟んで痛めてしまったらしい」


 遠くに流されずに済んだが頭からは血も出ているし、少し岩陰で休まないと危険だと判断したわけだ。雨風を避けられる場所で身体を休めていたら、そこにヘルフリート王子が助けにきた、というわけである。


 ポーションで頭部の傷は塞いだが、足ヒレの分まではポーションが行き渡らなかった。なので宿舎から持ってきた軟膏やら包帯やら添え木やらで応急処置を施したそうだ。


「何だか、水の精霊達は信用できる人だって言ってくれていたそうだよ。それで僕への警戒を下げてくれたところもある。多分、テオドール公と知己があったからじゃないかなって思うけど」

「だとしても、精霊達は個々の行動も見ていますからね」


 身内の心配をしたり、グランティオスの事があったから海を見に行ってみたり。

 ヘルフリート王子は基本的に周囲の者のために行動するような……そんな善良な性格なのだと思う。だから水の精霊達も口添えしてくれたのだろう。


「その場所も夕方頃になると漁師達も近くにやってくるし、そうなって余人に見つかった場合に、事態がどう動くか分からない。だから……馬車でヴェルドガル王国の保有する館に避難してそっちで怪我が治るまで休んでもらうことにしたんだ。彼女の言っている船に関しては嵐に巻き込まれて沈みかけたけれど帰ってこれたって、話題になっていた船があって、裏付けも取れていたからね」


 なるほど。ヴェルドガル王国の関係者なら国の方針として人魚の国――グランティオスとも友好関係にあるし、元々ヘルフリート王子の見知った人間達なので信用のおける者達ばかりだ。


 精霊と交信して判断したあたりをみても、人間に敵対的な種族ではない。船を助けたというのも事実。であれば怪我が治るまで大事にならないように匿ったり、というのも問題はあるまい。


「最初はそうして波風を立てないようにって思っていたんだけど、ね」


 そう言ってヘルフリート王子は後頭部を掻く。怪我の具合を聞いたり、食べ物を持っていったり。そんな事をしている内に、グランティオス王国の海の都に足を運んだとか、そんな話題も出て、段々意気投合していったのだとか。


「つまりは――怪我が治るまでの間に、お互いに好意を持ったということかしら?」

「そう、とも言うかな」


 ステファニアの言葉に苦笑するヘルフリート王子である。

 その頃は俺に関しての情報操作もあったので話せる事や話せない事、色々あった。

 だから話題の内容には気を付けていたそうだが……それでもグランティオス王国とヴェルドガル王国が友好関係にあることは話として広まっていたし、そういった一般的な内容なら問題なく話題にできたそうだ。


 そうして。ヘルフリート王子もまた、ネレイドから事情を教えてもらった、らしい。


「だけどまあ。その事情については……彼女のいないところでは詳しくは話しにくいな……。秘密にするって約束をしているわけじゃないし、悪い事ではないけれど、信用して教えてもらった事を勝手に話すのは、その、ね」

「ん。信用に関わる事だから仕方ない」


 そんな風にシーラがうんうんと首肯する。そうだな。顔を合わせて当人から教えてもらうならともかく。


「まあ、なんだ。当たり障りのない話をするなら、彼女だけじゃなくて、一族でちょっとした用があって動いているんだ。それで、僕は彼女が怪我で動けないから、その用に関わる事を過去の記録を当たって調べてみたりもしている。それも彼女の言葉の裏付けになっているね」


 なるほど。調べた上で悪い事ではないと断言するからには、何かしらの裏付けも取れたのだろう。


「王城の書庫で調べ物をしていた、というのはそれですか」

「それもある。その……そういう事情とは少し別に、もっと個人的な話として結婚を認められるかとか、そういった許可を得られるかとか、どちらの側でどんなふうに暮らすのが互いに負担が少ないのかとか、そう言った事も海の都に見学にいったりして、調べてもいるよ。ヴェルドガル王国やグロウフォニカ王国の過去の記録も当たって前例や現状を把握したり、ね」


 俺が尋ねると、ヘルフリート王子はそんな風に教えてくれた。

 ……うん。一族の事情は事情として、彼女個人とは結婚も視野に入れた交際をしている、というわけだ。

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