番外440 浮遊要塞構想
パルテニアラが扉の封印の時に使った一族の血を利用した術式を基本とし、魔力による扉の自然修復。攻撃を受けた際の反射。扉が破られた際の強力な返し技と簡易の再封印等々……パルテニアラが構築した魔界の扉への対策呪法は、起こり得る状況を想定して多岐に渡っている事が分かった。
迷宮の新区画はパルテニアラの祭祀場から力が流れ込むため、それらの呪法の効果を後押しして強固なものにし、一方でパルテニアラへの負担はかなり減る、という結果に繋がる。巫女達の平穏を願う祈りはそのまま魔界の扉の封印を強固なものにする、というわけだ。
また、パルテニアラや刻印の巫女が大きな力を振るえる区画でもある。アルクスやティアーズ達への呪法強化というのも迷宮核側で調整すれば可能となる。有事の折にはその力を発揮してくれるだろう。
「前に、ベリオンドーラを迎撃する時に砦の内部構造を操作して変化、敵の分断や誘導、待ち伏せを可能に、っていう作戦を使ったけど、浮遊要塞内部でもティアーズ達に同じ事をしてもらうのも面白いかもね」
「そうなると……迷宮深層のティアーズとはまた違った調整が必要かも知れないわね」
クラウディアが言う。
「ティアーズの解析は大体済んでるし、迷宮核を通して専用調整をした防衛部隊の形成も可能だと思うよ。勿論城塞内部の操作と連係だけじゃなく、アルクスの指揮や呪法支援も受けられるようにする、と」
浮遊要塞と区画全体の模型を作りながら色々と想定を重ねる。
「魔界から友好的な種族が現れた場合はどうなさるのでしょうか?」
グレイスが首を傾げて尋ねてくる。
「迎賓館みたいな場所も必要かも知れないわね」
「ん。できるならそういう相手の方が嬉しい」
ステファニアの意見にシーラがそんな風に言って、マルレーンも真剣な面持ちでこくこくと首を縦に振る。
「要塞の周りにそういう拠点を作っておけば……魔界探索の時にも使えて丁度良いかも知れないな」
「本格的にどこかに案内する場合は、転移魔法で移動すればいいものね」
と、イルムヒルトが言う。
「そうだね。外からの正式な移動手段が転移なら、中から出てきた相手を案内する時も転移魔法ですればいいし」
「魔界の扉を安置する場所は……魔法的防御の緻密さと景観をある程度両立した方が良いかも知れないわね」
「こちらの備えと方針の両方を理解してもらう、というわけですね」
ローズマリーの言葉に、アシュレイが明るい笑顔で頷く。
そうだな。防御の緻密さで相手にこちらの技術力とそれに伴う実力を、ある程度察してもらえるだろうし、歓迎する雰囲気を見せられるなら、こちらは必ずしも敵対的ではないというのを示せる。
「仮に好戦的な種族であったり敵対的な性質だとしても、交渉が可能か否かとはまた別の話というわけだな」
「ゴブリンにしても、実力差を理解すれば大人しくなりますからね」
パルテニアラとエレナも頷いていた。
そうだな。未知の種族だとしてもアルクスの本体に組み込んだカーバンクルの術式である程度の判別がつくし、戦いを回避できるのなら、その後歓迎するにしてもお引き取り願うにしても、色々な可能性を残せるようにしておいた方がいいに決まっている。
それらの提示されたものを理解しないような種や存在であるなら、こちらとしても最初から割り切った対応もできるわけだし。
浮遊要塞区画の構想は、そんな調子でみんなとのんびり相談しながら進められていくのであった。
そうして明くる日。執務や領地の巡回を終わらせてから、まずは迷宮核へと向かった。
昨日決まったあれこれを、これからの方針として迷宮核にデータとして入力しておくためだ。
実際にパルテニアラが領地を得たわけで、祈りや信仰の力の蓄積はもう迷宮側で行われている。その蓄積が想定より早かった場合でも、新区画の形成に問題が起こらないようにするための、念のための処置、というわけだ。
まずこちらの構想を迷宮核に伝え、魔力のリソースを見ながらどの程度の規模の要塞が現実的なのか試算してもらう。平時は浮遊していない省エネ仕様であるというのを加味してのものだ。
その傍らで区画全体のデザインも考えていく。イメージとしては――迷宮深層の扉を抜けた先に広がる深い奈落の底――断崖絶壁に四方を囲まれたその中央に要塞を擁する土地があり……有事の際に必要に応じて要塞が中央の土地から浮上する、といった具合だ。
外周の土地と中央の土地を結ぶ移動手段。これは――浮石が最適だろうと思われる。
浮石ならばその制御は迷宮側のものであるし、敵が有効活用することはできないからだ。誰かが必要に応じて移動する場合でも、吊り橋や細い足場等よりも安全性が高く確実でもある。
更に昨日の話し合いの中で案が出た通り、外周部分に迎賓館を作る。魔界探索の折の中継拠点。或いは魔界から友好的な種族がやってきた場合の歓迎。どちらの用途でも使えるようにというわけだ。
そんな調子で迷宮新区画の基本的な地形だけはまず決めてしまう。
浮遊要塞の中央部に魔界の扉を安置する大広間。紋様魔法で有事の折に呪法を発動したり結界壁を構築可能にしつつ、水晶の造花等々を配置したり、白い石のアーチを作ったり、噴水を内側からライトアップして幻想的な風景の庭園めいた外観にしておく。
『扉は中央に。その周辺はこんな感じでどうかな?』
と、迷宮核の周りで待ってくれているみんなに幻影の風景を見せて、確認してもらう。
「綺麗……ですね。光る水晶の花々と白い石作りの庭園、ですか」
「歓迎もしているようでもあるし、いざとなれば石畳の紋様が呪法や結界壁を構築する、と。昨日の構想通りね」
グレイスやクラウディアからそんな反応が得られた。
『更にこの庭園の外部を囲うように浮遊要塞を作っていく。それに関してはもう少し時間をかけて構想を練っていこうかなって考えてるけど……基本的な骨組みはこれで良さそうだね』
浮遊要塞についてはこの区画の心臓部となるので、生半可な仕事にならないようにしないといけない。
時間を使ってより堅牢なものにし、強硬突破が不可能に近くなるよう、しっかりと構想を練っていきたいものだ。配置される防衛戦力の主要構成はティアーズ達だが、要塞の内部構造に合わせて改造する必要があるので、その予定だけは迷宮核に伝えておく。……よし。これで……あとはじっくりと要塞の構築をしていけばいいだろう。
じっくりと構築、か。それに関しては並行世界干渉用の装置や竜輪ウロボロスもだな。迷宮核での仕事も増えるし、そちらも並行して進めていきたい。
星々の魔力を集めてそれを浴びせ、神秘性を高めた魔石を構築し、それを核に干渉用ゲートを作る。
こちらとあちらを繋いで記憶を伝達する竜輪ウロボロスも……素材は集まったからやはり星々の力に晒して神秘性を蓄積して馴染ませるといった作業が必要だ。一朝一夕に作れるものではないから、時間をかけて丁寧に作っていくとしよう。
さてさて。この後は王城に行ってこないとな。
というのも、ヘルフリート王子はまだ王城に滞在中なのだ。アルバートもヘルフリート王子を応援しているようで、手伝える事があるなら協力は惜しまないと言っているし。
みんなと共に王城に向かい、探りを入れつつローズマリーの予想した通りであるなら俺達も動いていこうというわけである。
まあ……ヘルフリート王子に関してはその意向を確認したわけではないから、協力する、後押しすると言っても本人がどれだけの事を望むのかという問題もあるけれど、ローズマリーはそのあたりの事を指摘するだけでも背中を押す事に繋がる、と考えているようだしな。
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