番外438 女王の祭祀場
「それじゃあ、行くわね」
「ああ、よろしく」
空き地を覆う結界を解除して、クラウディアの転移魔法で迷宮中枢からフォレスタニアにある現場へと転移する。
そうして空き地に転移魔法の光と共に現れたところで――何やら拍手と歓声とで迎えられた。屋台も近くにやって来ていて、何やら随分な盛り上がりを見せているようだ。
「んー。まあ、いいか」
苦笑して集まっている面々に軽く手を振る。
……周知して空き地を作った事で人だかりも出来ていたからな。フォレスタニアは冒険者や観光客も多いし、行商も多いのでこうなるのも致し方ないというか。
月神殿がパルテニアラの事を月女神の友人として広めてくれるし、その一助となるのならこちらとしては願ったりではあるのだし問題はないが。
「ああ。テオ君。待ってたよ」
「うん。お待たせ」
工房で一旦別れたアルバートや、エレナ、パルテニアラ達も魔道具類を持って手伝いに来てくれている。アルクスがガブリエラの水晶板モニターを持って浮遊していたりして。
工房からこっちに来た皆はゲオルグやアウリアと話をしていたようだが、俺達の姿を認めると軽く手を挙げて笑みを浮かべて近付いてくる。
アルバートは今一仕事終えて休憩中なので、魔道具の敷設等々はタルコットやシンディー、コマチ達といった他の工房の面々や俺達を中心にして進めていくことになっている。
「魔法建築……面白そう」
「うん。どうなるのかな」
カルセドネとシトリアも興味津々といった様子だ。
二人の魔力制御能力ならば魔道具関連の職人や技術者としても十分やっていけると思うので、色々見て学んでもらうのは良い事だろう。
そんなわけで早速魔法建築を始めていくとしよう。
「起きろ」
まずは地下区画の整備からということでゴーレムに作り替えて土を除けていく。上水、下水回りを整備して、祭祀場にも一通りの生活環境を整えておく、というわけだ。
そのほかにも地下に物置等々の必要なスペースを作ったら構造強化で固めてきっちりと土台作りを行い、ゴーレムを床や壁、柱に作り替えていく。
「うん。大丈夫だと思う。強度が心配だったら、その時にまた言うね!」
地下区画の壁を軽く掌で叩いて、セラフィナが太鼓判を押してくれる。うむ。
「ありがとう。それじゃ、地上部分も作っていこうかな」
ウィズの示す光のフレームに従い、用意した石材もゴーレムに変えて、それらを従えつつ、光球の中に溶かして祭祀場を作っていく。
入口からの通路を抜けたところに広々円形のホールを作り、正面奥には祭壇を。
祭祀場と言っても基本的にその役割は神殿や精霊殿と同じだ。但し……ベシュメルクの城に建築様式を似せている。パルテニアラを祀っている事を示すものであるからだ。
とは言えフォレスタニアの風景、街並みとも調和のとれる色合いにしているので、建築様式の違いはあれど殊更目立つ、と言うような事はないと思う。
一般人も巡礼に入れる区画を作ったら柱を立てて外壁部分も作っていく。そうして外から見えなくなったら関係者用のスペース――巫女達の生活空間等を作っていくというわけだ。
祭祀場に押し入るような不届きな輩も滅多にいないとは思うが……防犯上の観点からいうなら、関係者以外立ち入り禁止の区画まで衆人環視のまま作るわけにはいかない。
そう言った事を、見学している面々にも説明すると、カルセドネ達は感心したような顔でこくこくと頷いていた。
「まず警備が常駐可能な詰所。これは大広間や祭壇の状況を見通しやすく、すぐに出ていけて、もし侵入者が現れた時には、奥の生活空間側の防衛にも入れるような場所がいい」
というわけで詰所は広間入口の横だ。ここを通らなければ広間や祭壇。その奥にもどこにもいけない。
続いてその更に奥に厨房や食堂、風呂、トイレ。多目的に使える談話室や寝室。物置などの空き部屋等々。
敢えて光量を絞って神秘性を出す神殿部分とは違うので、大きめに彩光窓を作って生活空間は明るい雰囲気に。
更に、緊急時の避難用通路や隠し部屋といった諸々の設備を構築しつつ、必要なところにミスリル銀線を敷設していく。
細かな装飾等々は後から施すとして――。内部を一通り作ったら続いて外部も仕上げていく。庭園に石材で通路とアーチを作ったり、東屋や噴水、水路を作ったりといった具合だ。
建築様式に合わせた装飾を施していくと、見物に集まっていた面々から歓声が上がる。
最後に敷地回りを囲う塀を作れば一先ずは形としては完成である。後は細かな部分の装飾を仕上げつつ、魔道具を敷設、家財道具等々の手配を行えば祭祀場としての機能は完成するだろう。
ウラノスの像やパルテニアラの杖のレプリカも設置しなければならないが、それらはクオリティを上げたいので、装飾と共にじっくりと仕上げていく予定である。
「壮麗――と言いますか、綺麗な建物なのに何となく可愛らしさがありますね。ベシュメルクのお城が可愛らしくなった感じ、と言いますか」
『それは分かるような気がします。馴染んだ雰囲気なのに暖かい感じがありますね』
「ふむ。巫女姫達が気に入ったのなら何よりであるな。妾としてもこうして立派な祭祀場を作ってもらえるというのは嬉しいものだ」
当人であるエレナやガブリエラ、そしてパルテニアラはそんな風に言って、建物内部を床から天井まで感慨深そうに眺めていた。
「残りの細々とした部分を作り終えましたら、ティエーラにも来てもらって……それから迷宮との契約をしていただけたらと思います」
「承知した」
俺の言葉にパルテニアラが頷く。そうすることで――エレナやガブリエラが祭壇に祈りを捧げればパルテニアラへの信仰の力が迷宮の奥へと集められていく、というわけだ。
というわけで工房のみんなと共に仕上げに動いていく。
「それじゃあ、コルリス、お願いできるかしら?」
ステファニアの言葉に、コルリスがこくんと頷いて水晶を形成する。
手頃な大きさの水晶を作ってもらい、光源の魔道具にくっ付けてやれば手軽に神秘的な雰囲気の照明が作れたりするのだ。通路や柱、天井にそうした魔法の照明を作ったり、生活全般に必要な魔道具を敷設したりとみんなが作業を進めていく。
その傍らであちこち装飾を施していき、最後にウラノスの像とパルテニアラの杖のレプリカを作る。
ウラノスの像の骨格部分をまず作り、大きさとポーズを定めたら筋肉や脂肪のつき方等々を考慮しつつ、石材で素体を作る。
ウラノスの毛の模様、手触り、光沢等々はパルテニアラに細かく聞いているので、石像を細かく調整し、できる限り質感を再現していく。毛皮の下の筋肉、脂肪、骨も計算に入れて作っていくと……石像ではあるが中々リアルな質感になった。色合いも白い石に鮮やかな青みがかかって、瑠璃のような色合いが何とも綺麗なものだ。
ウラノスの性格、野生のクラウドエルクの性格等々を加味すると、あまり威圧的にはしない方がいいだろう。目元、口元を微妙に調整し、来訪者に微笑みかけているような柔和な表情にする。
「こんな感じでどうでしょうか?」
「おお、これはまた精巧ではないか。あやつは普段、もう少しとぼけたような雰囲気だったが、式典などの厳粛な場では……空気を読んでこんな感じだったかも知れんな」
パルテニアラに聞いてみると、そんな解答が返って来た。懐かしそうな表情で軽くウラノスの像の頭にぽんぽんと触れるパルテニアラであった。
ウラノスは始祖の女王の使い魔だったので、ベシュメルクではクラウドエルクはやはり敬われて大切にされている存在とのことだ。こうして神殿に置かれていると、この石像も信仰を集めそうな印象ではあるな。ウラノスが精霊化して顕現する、という可能性も有り得る……かも知れない。




