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番外435 歓待の後に

 ヘルフリート王子に関することは気になるが一時保留、ということになった。

 当人が何も言っていないというのもあるが……他国を迎えている現状、王家内のこうした事情でゴタついているところを見せるわけにも行かないからだ。

 ローズマリーの予想ではメルヴィン王は許すだろうと言っているが、ヘルフリート王子にはそうした確信があるわけではないのだし。


 だからローズマリーは、どうであってもヘルフリート王子からは今の時期に言い出す事もないだろうと言ったわけだ。多分、その見立ては正しい。


「まあ……その上で、歓待が過ぎても言い出さずに迷っている様子なら、あれの背中を少しせっついてみようかしらね。いつぞやの意趣返しにもなるでしょう」


 と、羽扇の向こうで悪巧みをするようにくすくすと笑うローズマリーである。

 ああ、うん。ローズマリーは確かに、ヘルフリート王子に覚えておきなさいとか何とか、言っていたっけな。同じような事で意趣返しというのか、一周して姉弟間でお節介を焼いているだけと言えば良いのか。


「ヘルフリート兄上も、そういった話がうまく運ぶと良いね」

「異種族間となると苦労も多そうですが、それだけに協力できることがあれば良いですわね」

「魔道具作りならいくらでも、と思うけど。まあ、本人はまだ何も言っていないしね」


 マギアペンギンの雛を撫でながら、オフィーリアとそんな会話を交わすアルバートである。


 ともかくそういったわけでヘルフリート王子に関する事は歓待が終わって状況を見ながら、ということになるだろう。


 マギアペンギン達との交流については――子供達が背中に乗せてもらって雪の斜面を滑ったりしてそのまま湖に飛び込んだり、なんていう遊びにも発展していたが。

 水晶湖の水温はかなり低いので、水中呼吸の魔道具と精霊の加護があればこそできる事だな。


 そうして水晶湖見学も一段落し、マギアペンギン達とは一旦別れる。

 みんなで手を振るとマギアペンギン達もフリッパーを振り返してくれて。楽しかったとか、また遊びに来て欲しいとか、翻訳の魔道具ではそんな風に声を上げていた。シャルロッテは「また来ます!」と手をぶんぶん振っていた。


「ティールの仲間達、か。中々愉快な魔物達であったな。魔界で友好的な種族と出会えた時は随分と嬉しかったものだ」


 そんな風に言ってパルテニアラは笑う。


「例のキノコ一族ですか」

「うむ。今はどうなっているのか気になるところだな」


 そうだな。他にも同じように友好的な種族もいるかも知れないし。

 魔界の状況を調べた上で危険な遺産がない。或いはあったとしても適切に処分できたと分かれば、友好的な種族との交流という点に限って言うなら不可能ではないかも知れないしな。諸々の可能性を考えつつ動いていこう。




 そうして今度は工房と迷宮商会に足を運ぶ。

 押印機や計算機、炭酸飲料の製造機等々、ベシュメルク重鎮の面々にも試供品を兼ねて友好のお土産として渡す、というのもいつも通りだ。

 ビリヤード台やチェス盤、カードといった遊具もだ。これもガブリエラやその護衛となっているスティーヴン達のところの子供達にも楽しんでもらいつつ、競技人口を増やして普及させようという意図があったりする。


「ほうほうほう……。これは何とも素晴らしい」

「これは大幅に手間が省けますな! 帰ったらバルソロミュー殿にもお見せしなければ」


 と、クェンティンやマルブランシュ侯爵は紙に押印して使い心地を確かめると事務用品に猛烈に食いついていた。やはり執務を行う面々としては事務用品に大きな価値を見出すようで、他の王達や貴族達もそんな光景に身に覚えがあるのか、共感するように目を閉じてうんうんと頷いていた。


「しかし、こんなに沢山貰ってしまってもいいのですか?」

「普及させて広めることで、後々商会に注文が入りますから損はしていないのです。各国からの工房と商会の覚えもめでたくなり、評判と知名度が高まればその分商機も増えますので」


 ガブリエラの言葉に、ミリアムがそう答えてにっこり笑う。なるほど、とエレナと共に感心したような表情を浮かべる。

 試供品として渡しても国内外で利便性等が広まれば後で買い求める面々も増えるし、他の品々も迷宮商会で買っていって貰えるというわけだ。実際他国の貴族から注文が入ったりもしているしな。


「ふむ。これは……商会の他の品々も見せて頂きたいところですな」

「頂いた分、売り上げに貢献していきたいところです」

「我らも色々見せてもらいたいな」

「うむ」


 盛り上がるベシュメルクの面々とはまた別に、ファリード王やレアンドル王、イグナード王達がそう言って頷き合っていた。そうして……またも各国から商会にて、所謂「大人買い」があったのであった。




 ――魔道具の実演を兼ねてノンフライヤーを使って唐揚げを作って昼食にしてみたり、コウギョクに頼んで東国の料理をみんなで食べたり。

 今回のヴェルドガル王国訪問はそんな調子で和やかに進んでいった。


 やがて招待客の滞在予定日数も過ぎて――。後発のバルソロミュー達がやってくるのと時を同じくして、先に訪問してきていたクェンティン達も帰る予定の時刻が近付いてくるのであった。というわけで見送りと出迎えを兼ねて転移港へと向かう。


 子供達も別れを惜しむようにコルリスやティール、ホルンやラヴィーネ、ベリウス、アルファといった面々に抱きついたりして。それぞれ別れの挨拶をしていく。


「ではな。妾はもう少し祭祀場建造のために残らなければならぬ」

「移送の折は、私もベシュメルク側へ伺います」


 と、パルテニアラとエレナが言う。2人に関してはフォレスタニアでやる事があるので見送る側だ。


「と言っても、またいつでも遊びに来てもらって構わないよ。連絡を入れてくれれば迎えに来るし」


 そう言うと、スティーヴン達が頷き、動物組との別れを惜しんでいた子供達も笑顔になる。


「そうだな。移送が終われば行動に自由が利くようになるだろうし、護衛も兼ねて遊びに来る機会は増える、と思う」


 移送というのは、魔界の門の事だな。現状では――ガブリエラがベシュメルク中央にいれば門に異常があった時にパルテニアラに伝わるので、門の移送が終わらない内はガブリエラもあまり留守を長くできないという部分もある。


「子供達も楽しそうでしたし、私もエレナ様にお会いしたいので……そうですね。遊びに来る機会は増やしましょう」


 と、ガブリエラが微笑み、エレナと頷き合っていた。そんなやり取りに、カルセドネとシトリアもにこにこと笑みを深める。


「デイヴィッドがもう少し大きくなった時に色々見学しに行くというのは良さそうだね。ヴェルドガル王国に限らず、だが」

「そうですね。国内外の様々な物を見て、沢山の事を学んで欲しいものです」


 クェンティンとコートニーもそんな風に言って微笑み合っていた。


「デイヴィッド殿下も、またお会いしましょう」


 と、コートニーの腕に抱かれたデイヴィッド王子に笑みを向ける。デイヴィッド王子と視線が合うと、何やら楽しそうに笑って手足をばたつかせていた。


「ふふ。デイヴィッド殿下もテオドール公の事をお好きな様子ですな」

「そうだと嬉しいのですが」


 マルブランシュ侯爵の言葉に苦笑する。そんなやり取りを交わして……クェンティン達はベシュメルクへと帰って行った。

 入れ替わるように、バルソロミューやヒルトン卿達がやってくる。歓迎の挨拶をして、そうしてまた改めて後発組の歓待を始めるのであった。

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