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番外434 陸と海の間にて

 そうして話し合いや公演、幻影劇鑑賞が済んだところでフォレスタニアの城でののんびりとした一夜も明けて――。

 今日は各国の王達もフォレスタニアは涼しいということで、フォレスタニア観光と共に避暑がてら湖底や水晶湖に繰り出すなどして、ゆったりと過ごす予定だ。


 水晶湖の方は些か避暑どころではないような気もするが……精霊王の加護もあるし防寒という意味では問題はあるまい。

 運動公園に滑りに行ったり、水中呼吸の魔道具を持ち出して都市の湖底部に遊びにいったりして過ごすというわけだ。


 運動公園ではファリード王やイグナード王、レイメイといった肉体派の面々が高速で滑走したり、その横の子供用の公園でスティーヴン達のところの子供達が楽しそうにアスレチック遊具で遊んでいたりといった具合だ。


 まあ……子供達の身体能力や反射神経も尋常ではないので時折大跳躍を見せたり、雲梯(うんてい)を何本か飛ばして水平に飛んで行ったり、中々常識外れな光景が展開していたりするが。

 結構無茶な飛び方をしても公園内に組み込んだ安全機構が働いてレビテーションでふんわり落ちてきたりして。それがまた楽しいのか別の遊びに発展している気がする。まあ、動きは無茶でも子供らしい笑顔なので良しとしよう。


「幅広い者が楽しめる、良い公園よな」


 と、そんな光景を見てパルテニアラが笑っていたが。

 公園も広いのでその横でレアンドル王がゼファードをカルセドネやシトリアを始めとした子供達に紹介したり。


「はじめまして」

「よろしくね、ゼファード」


 と、前足を上げるゼファードと握手をするカルセドネ達である。やはり昨晩幻影劇鑑賞をしていた子供達から人気といった印象であった。




 運動公園でのんびりと遊んでから今度は湖の遊覧へ。デボニス大公領南方の港町で作った乗り物の応用で、メダルゴーレムを組み込んだみんなで遊覧可能なボートを作ってある。

 やはり水上水中兼用なのだが、デザインとしては帆船に近い形状だ。

 マストを備えているが風で動くわけでは無く、魔道具を組み込んで泡で甲板を包む仕組みが備わっている。船首と船尾で水流を操作することで航行や姿勢制御が可能だ。

 操船はゴーレムに舵輪で指示を出すだけの仮想的なものであるが。


「水中遊覧用の小舟とは」

「飛行船もですが、西方の様式の船は興味深いですね」


 シュンカイ帝とセイランがそれを見て微笑んでいた。デザイン自体はそれほど奇抜でもない帆船なのだが、東国組には物珍しく映るようで。

 というわけでそれに乗り込んで、早速湖へ遊びに行く。


 湖遊覧で活き活きとしていたのはやはり、エルドレーネ女王やロヴィーサ、ユスティアやマリオンといったグランティオスの面々。それにティール、御前、河童といった水をホームグラウンドにしている面々だ。

 人化の術を解いてボートの周りを泳いだりして、そこにマールや水竜親子もやってきたりして、随分と楽しそうにしていた。


 湖底の滞在施設もまた、光る珊瑚を照明としてあしらっていたりして、中々綺麗なものだ。


「グランティオス王国の建築様式に近いものなんだね」


 ヘルフリート王子は湖底の施設を見て感心したように頷いていた。


「そうですね。元々グランティオス王国から来た方々を迎えるために作ったものですから、建築様式を合わせています。珊瑚は淡水では育たないので見せかけだけの飾りですが」

「生活方法を先方に合わせた方が過ごしやすいだろうからね。人化の術を使って陸上で暮らしたり、逆に魔道具を活用して海底で暮らしたり滞在したり、というのは……やはり大変なものなのかな?」


 ヘルフリート王子が首を傾げる。魔道具を使用して別の場所に、というのはこちらから海底に訪問した時等の話か。


「そのあたりは……どうでしょうか?」


 イルムヒルトやユスティア、ドミニクに視線を向けてみると、揃って首を横に振る。


「大変っていう事はない、かな? 私の場合は食生活の問題があったけれど、そのへんが解決されていれば別に困らなかったっていうか」

「でも、術を解いた時は何と言うのかしら? それなりに解放感がある気がするわ。大体、術を解くのが水辺に遊びに行った時とか、だからかも知れないけど」

「んー。解放感って言うのは分かるかも」


 と、そんな意見だ。ドミニクの言葉にイルムヒルトやラスノーテも頷いていた。人化の術を使っている時は然程意識しなくても……元の姿に戻った時に解放されたような感覚、というのが多かれ少なかれあるのかも知れない。


「魔道具や魔法の場合は……そうですね。水中呼吸による魔力の消耗より魔力回復の方が早いか、或いは魔道具等の手段で回復時間を補えるのであれば、水中に滞在するのも難しくないとは思いますが」

「実際に海の都で暮らした陸上の者も過去に例がないわけではない。全てを自力で何とかしようと思うのであれば、魔法の才が無ければやはり難しいとは思うが、我らもそうした者であれば便宜を図りもするであろうし」


 エルドレーネ女王が言った。真剣な表情で頷くヘルフリート王子を見て、ローズマリーは一瞬だけ思案するような仕草を見せた後でこちらに視線を送ってきた。

 ローズマリーとしては……ヘルフリート王子の言動等々に関して何か思うところがあったのだろうか。やはり姉弟だし、帰ってくる前にグランティオスに立ち寄っていたとは言うが……ふむ。



 そうして、湖底遊覧で風景を楽しんだりした後で、水晶湖に移動する。

 仲間達のところへ楽しそうに腹這いで滑っていくティール。

 マギアペンギンやその雛達も嬉しそうにこちらに寄ってきて。ログハウスの周りでのんびりマギアペンギン達と交流の時間を作る。


 雛達は前に見た時より大分大きくなっていて。すくすくと成長しているのが分かる。俺達のことはしっかり覚えていて積極的に集まって来てくれたりと可愛いものだ。

 雛を膝の上に乗せたりして、水晶湖に魚を捕りに行く親鳥達を見ながらのんびり過ごす。もこもこした感触が何とも心地良いが……。その傍らで、折を見てローズマリーに小声で先程の事を聞いてみる。


「何か気になった?」


 と、話題を振るとすぐにさっきの事と察したらしい。


「そう、ね。わたくしの推測が正しいなら、歓待中はあれも、何も言い出さないでしょうけれど。グランティオス王国を訪問した折に……んん。ええと、そうね。あれはマーメイドかセイレーンあたりに恋でもしたのではないかしら」


 少し言葉を選びながらもローズマリーはそんな風に言った。

 ああ……。そういうことか。何となく腑に落ちたというか。確かに、陸地と海中とで暮らすのは、という話題も振って来たしな。ローズマリーの場合はそれ以外の細かい仕草等からも色々察したりというのはありそうだ。


「ん。問題ありそう?」


 シーラが首を傾げる。


「父上の事を言っているのなら……大丈夫じゃないかと思うけれど。後継者という点で言うならジョサイアがいるものね。結婚という話ならわたくし達だってそうなのだし、同盟の理念や、海洋国家であるグロウフォニカとの関係性や内情を考えても……認める、とは思うわ。それ以上の事は、肝心の相手方の事が全く分からないから何とも言えないわね」


 そう。そうだな。状況を見てもローズマリーの見立てでも……メルヴィン王からの許可に関しては問題ないだろうということになるのか。


 王族はそうそう婚姻話を自由にできるものでもないのだろうが、少なくとも、そういう政略的な観点からも意味のあるものだ。まあ……いずれにしても同盟の歓待が終わってからでないと言い出せない話ではあるな。確かに。


「素敵なお話ですが……グロウフォニカの内情というのは?」

「人魚と結婚した貴族も過去にいた、という話よ。あの国は今でこそ国力が低下しているけれど、昔は西方海洋小国家群の盟主だった時代もあるのよね。広い海域に影響力があったから、そういった話も転がっているのよ」


 アシュレイが少し心配そうに尋ねるも、ローズマリーは別に深刻な話ではない、と苦笑して肩を竦めるのであった。

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