表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1194/2811

番外433 迷宮都市の夜更けに

「そうして旅人は、妖精や歌う鳥と共に、悪い魔法使いの住む山から帰って来たのです。村人との約束通り薬草を届け、そして旅人は故郷へと帰りました。持ち帰った種を植えて育ててみたところ、沢山の甘い実がなる木が育ち――」


 と、グレイスの語りかけるような穏やかな声が休憩所に響き、朗読の内容に合わせて幻影が動く。

 悪い魔法使いが住むという山に旅人が村人の依頼で薬草を取りに入って道に迷い、その屋敷に迷い込む。

 屋敷に捕まっていた妖精や喋る鳥の助けを借りたりしながら魔法使いを出し抜いて、魔法の作物を持ち帰り、妖精や鳥と楽しく暮らす……とまあ、そんな話だ。

 幻想的な雰囲気の中で、魔法使いやその屋敷にはややおどろおどろしいイメージもあるが、全体としては中々読後感の良いお話だ。


 魔法で好き勝手していた魔法使いの男も、最後は旅人にかけようとしていた呪いが跳ね返って、自分が小さなトカゲになってしまうという、勧善懲悪的な教訓を含んだ話であった。


 あまり怖くならないように注意して演出もしていたが、子供達は固唾を呑んで話に聞き入っていたようだ。話が終わるとほっとしたように息をついて嬉しそうな顔をしていた。


 スティーヴンのところの子供達だが――男の子は割と好んでアンゼルフ王の劇を見に行ったようで。休憩所側には女の子の比率が多かったりもする。カルセドネとシトリアに関しては大丈夫、といって幻影劇を見に行ったが。


 デイヴィッド王子はと言えば――光量を落としてみんなも落ち着いた話し方をするので、朗読中もすやすやとよく眠っていた。

 逆に話に聞き入ってしまって眠れない、という子も多いようではあるな。


 だが、そうして朗読を続けていくと、やはり眠気に勝てずに眠りに落ちる子も増えて行った。生活魔法を使って歯磨きだけは簡易にこなしてもらってから、敷布の上で眠ってもらう、といった具合だ。


 俺としては……まあ何というか、子供達を前に朗読するみんなの優しげな表情、穏やかな表情等々を間近で見せてもらってこっそりと眼福であったというか何というか。

 子供の相手が得意な面々ばかりなのでみんな朗読も上手い。クラウディアは迷宮村、シーラやイルムヒルトは孤児院で慣れているからというのはある。

 アシュレイもこうした読み聞かせは小さい時にしてもらって慣れているらしい。する側になるのは楽しいです、と笑っていた。

 ステファニアとローズマリーはこう、場に応じて態度を使い分けられるしな。

 グレイスの場合は――ああうん。小さな子に慣れているのは俺と一緒にいたからということになるのか。むう。


 やがて幻影劇の上映も終わったのか、劇場から招待客達も出てくる。楽しそうに幻影劇の話をしながらもこちらに気遣ってか声の量を抑えているようだが、消音の魔法で休憩所外の音を遮断しているから問題ない。


 というわけで……朗読会もここまで、といったところだろうか。


「ありがとう、マルレーン」


 ランタンを返すと、大切なものを受け取るようにしてマルレーンは嬉しそうに微笑んで頷く。マルレーンとしては、こうやってランタンで色々な物語が紡がれるのが楽しいようだ。今回はみんなが朗読に加わっていたから余計に、だろうか。

 俺もマルレーンに微笑み返し、それから幻影劇を鑑賞していた皆のところへ向かう。そうして、消音の魔法の範囲外に出て伝える。


「普通に話をしていただいても大丈夫ですよ。休憩所の内外で消音の魔法を使っていますから、子供達を起こしたりはしません」

「そうであったか。いや、どのようなものかと思ったが……素晴らしい内容であった。外の歴史についてはあまり知らぬというのもあるが、終始堪能させてもらった」


 そう言ってにんまりと笑うパルテニアラである。それからふと真剣な顔になって言う。


「しかしあの、黒き悪霊というのは気になるな。我が国の術の流れを汲む可能性もある」

「有り得ますね。同系統の術なのでは、というのはベシュメルク王国の事が発覚してから、僕達の間でも話に上がったりしましたし。その後の顛末も含めて、一応ドラフデニア王国を訪れた折に、解決もしているのですが」

「ほう」

「まあ、結果を見れば……悪いものではなかったな。余の代で国父のやり残した仕事を片付けられ、テオドールや同盟の皆と知己を得られた」


 と、レアンドル王がにやりと笑う。


「実に興味深いですな。その後の話というのも気になります」

「確かに」


 クェンティンやマルブランシュ侯爵もそういったやり取りをして。


「では、明日はそれらのお話も、というところでしょうか」

「それは楽しみです」


 と、ガブリエラが笑みを浮かべる。


「お話はどうでしたか、ガブリエラ様」

「私は――第一部も好きですが、二部以降のお話も好きですね」

「ああ、それは分かる気がします」


 ガブリエラはエレナと楽しそうに幻影劇の感想を語り合ったりして。

 既に見たことがある面々はどこそこの場面で後ろを向くと面白いとか、リピーターならではの情報を伝えたりして盛り上がる。その手の情報に一番詳しいのがアウリアなあたり、幻影劇場の常連なのかも知れないが。


「王様、かっこうよかった」

「うん。グリフォンもかわいい」


 と、カルセドネとシトリアも気に入ってくれたようだ。レアンドル王の相棒のグリフォン、ゼファードがグリュークの子孫だと伝えると、カルセドネ達は驚いたような顔をしていた。レアンドル王が明日になったら合わせると約束すると嬉しそうな表情になっていたが。


「ゴブリンの動きが真に迫っていて、一気に話に引き込まれたな」


 スティーヴンが言う。


「戦いの際の動きや登場人物達の行動も臨場感があって素晴らしかったのですが……アンゼルフ王については実話というのが素晴らしいことです」


 そんなアルクスの言葉にアピラシアもこくこくと頷いていた。

 皆興奮冷めやらぬ、といった印象であるが。さてさて。休憩を挟みながらの三部作の上映だったからな。夜も大分更けてきた。


 夜道をあちこち移動してもらうというのも問題なので今日はこのまま、メルヴィン王達も含めてフォレスタニアの城で一泊という予定だ。場所を移してから羽を伸ばしてもらってゆっくりと休んでもらうとしよう。




 眠ってしまった子供達に関してはそのまま……起こさないようレビテーションで馬車に乗ってもらい、そうしてみんなで城へと向かう。

 温泉には既に入っているし、眠る前に歯も磨いているので迎賓館の大部屋を開けておいてそのまま寝台に入ってもらえば大丈夫というわけだ。中には眠たげな眼を擦りながら自力で馬車に乗り込む子もいたりする。


「スティーヴンのところは助け合いが基本だから、みんな素直な印象だね」

「まあ、そうかもな。俺としては子供らしい我儘が言えないってのは申し訳なくもあるんだが」


 俺の言葉に笑うスティーヴンである。それは……確かにあるかも知れない。とはいえ、スティーヴンやユーフェミア達の力になりたいと思っているからでもあるのだろうけれど。

 そんな考えを伝えると、スティーヴンは照れくさそうに軽く頬を掻いていた。


 そんな話をしながらも迎賓館に到着。招待客を部屋に案内していく。

 デイヴィッド王子も良く眠っていて、コートニーの腕に抱かれて、迎賓館の客室に案内されていった。

 客室に案内した後は……思い思いにのんびりと過ごせばいい。小さな子供達はともかく、いい大人がまだ眠るには少し早い時間帯でもある。東国から来た面々は時差があるから今から眠るには魔道具の助けが必要だろうし。


 そんなわけで、迎賓館の中庭に面した談話室、娯楽室を解放しておく。娯楽室でのんびりとしていると、一緒に休憩していたアルバートが言った。


「いや、僕も連絡と招待状を渡せて良かった。今回で招待については何とかなったよ」

「それは良かった。こっちでも、もっと手伝える事が有ったら良かったんだけどね」


 アルバートにそう答えると、笑って首を横に振る。


「テオ君には結婚式当日の事を頼んじゃっているからね。だから招待については僕とオフィーリアが進めないといけない。でも気持ちは……うん。嬉しいよ」


 んー。確かに、フォブレスター侯爵の手前もあるしな。


「テオドール公には感謝しておりますわ。それに色々な方と新しく知己を得られましたし」


 オフィーリアも微笑み、アルバートと顔を見合わせて頷き合う。そんなアルバートの様子に、マルレーンやステファニアもにこにこと上機嫌そうに微笑み、ローズマリーも少し離れたところで静かに目を閉じて頷くのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ