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番外432 幻影朗読会

 そうして幻影の風景と、光や泡とを交えた特別公演は何度かのアンコールを経て終わりを迎えたのであった。

 楽屋から入口奥のホールに戻ってきた歌姫達が、盛大な拍手と歓声で迎えられる。


「ああ、楽しかったぁ……」

「特別公演のために、みんなの前での演奏を合わせるの、我慢していたものね」


 と、ドミニクとユスティアが言う。


「その分今日は思いっきり楽しませてもらいましたからね」

「ん。楽しかった」

「みんなにも喜んで貰えたなら嬉しいわ」


 シリルが笑うと、シーラとイルムヒルトも頷く。


「……見事なものであった。いや、堪能させてもらった」

「歌声や旋律が綺麗で……演出も凄くて……驚きました」


 目を閉じてしみじみと言うパルテニアラに、感動した様子のガブリエラが頷く。初見であるベシュメルクの面々や、アルクス、アピラシア達の反応は上々なようだ。


「きれい……だった……」

「うん……。歌声と一緒にきらきら光ってて……」


 と、心ここに在らずといった様子で劇場の方を見つめるカルセドネとシトリア。

 スティーヴンのところの子供達も、イルムヒルト達の歌や演奏のフレーズを口ずさんでいたりして。ユーフェミア達もそれを見て、微笑ましそうにしていた。


「私は前に拝見したのですが……その時とは演出が変わっていましたね」


 エレナが言う。

「魔道具は既にあったので、ベシュメルク王国の方々を迎える前に調整だけは進めていましたからね」

「それはまた……。お心遣いに感謝するべきなのでしょうな」


 俺の言葉にクェンティンが笑みを浮かべ、既に特別公演を見たことのある同盟各国の面々もうんうんと頷いていた。


 劇場の新しい設備については、ブロデリック侯爵領にあるハーピー達の劇場やドリスコル公爵領の島に作った劇場に近いものだ。

 ノウハウは構築されているので、後は魔道具を敷設し、幻影の内容を調整してやるだけで事足りる。万端準備ができていたからこその追加演出部分ではあったのだが、演出は現在のところ、視覚への刺激のみに留まっている。


 しかしまあ、歌や演奏を聴くのと劇内の感覚を追体験して没入するのとでは目的が少し違うので……幻影劇場とはまた別の演出法で良いのでは、とも思うのだが。

 後は……あらかじめプリセットとして幻影の舞台、小道具を用意して、それを組み合わせて、演目の内容に合わせて背景を変えたり演出を細かく調整したりといったような魔道具が必要かな。


 俺が使うためというより、劇場の関係者や利用者だけで細かく設定と演出が可能なようなエンジンを組んでやるというか。


「幻影劇場は少し刺激が強いので、デイヴィッド王子や小さな子が鑑賞するにはやや向きませんが」


 この後、境界劇場から幻影劇場に梯子する予定だったりするが、幻影劇に関してはゴブリンとの近接戦闘などもあるからな。


「それでしたら、この子に関しては丁度良いかも知れませんね」


 と、コートニーが苦笑する。その腕に抱かれたデイヴィッド王子はと言えば……先程まで機嫌が良さそうにしていたが……今は夜も更けてきたからか、それとも境界劇場ではしゃぎ疲れたからか、寝息を立てている状態だった。


 ふむ。では幻影劇の途中で起きてしまわないように消音の魔法をかけるか、或いはクェンティンやコートニーが任せてくれるなら――ホスト側であるこちらに預けて貰っても良い。上映中気にしなくても大丈夫なようにという感じで。同様の事は、スティーヴン達のところの小さな子供達にも言える。


 そんな考えを伝えると、クェンティンとコートニーは顔を見合わせ、少し周囲の面々にも声をかけて相談した後、やがて申し訳なさそうに頷いた。


「では、乳母と数名の使用人を連れて行ってください。テオドール様に全てお任せするには些か心苦しいですから。将来の事を考えてもデイヴィッドとのお時間を作って頂けるのは嬉しく思います」

「分かりました。その方がお二方にも安心して頂けると思いますし、こちらとしては異存ありません。こちらの使用人にも声をかけて体制は万端にしておきます」


 そしてその乳母や使用人達には、折角観光に来ているということもあるので、明日改めて幻影劇場鑑賞の時間を作るということで話が纏まった。

 ゴブリンが怖い、という小さな子達もこちらで預かる。幻影劇場には開場待ちのために休憩できるスペースもあるので、そこでみんなでのんびり過ごすのが良いだろう。




 というわけで、フォレスタニアへとみんなで移動する。


「おお……。何とも夜景が幻想的ですな」


 フォレスタニアの夜景……。湖に反射する城や街の灯り。湖底から漏れる光といった風景を楽しんでもらいつつ、浮石のエレベーターであるとかそういったものを楽しんでもらう。


 そうして劇場に到着。招待客の大半は幻影劇鑑賞。デイヴィッド王子を含めた小さな子供達は、俺やみんなと共に臨時の休憩所へという具合だ。代わりに劇場内部の様子はカドケウスに見てきてもらう。これで鑑賞側と休憩側の両方の様子を見られるというわけだな。


 エレナに関しては幻影劇も二度目ということもあり、普段デイヴィッド王子とはあまり顔を合わせられないので、今回は休憩所側で一緒に過ごす、ということになった。


 植物園で育てていたコーンの収穫も間に合ったのでそれをポップコーンにして飲み物と共にみんなに配る。鑑賞中や休憩中に小腹が空いたら食べて貰ったりすればいいだろう。

 そうしてセシリアやミハエラにも助っ人に来てもらって、準備万端といったところだ。幻影劇の前の諸注意を伝えて、席に案内する。


「では、後でな。今回は皆と共に楽しませてもらうとしよう」

「ではまた、後程」

「はい、お二方とも、また後程お会いしましょう」


 パルテニアラやガブリエラ達とそんな言葉を交わす。というわけで、上映の間、一時のお別れだ。上映が始まる前に退出して扉を閉じる。


「それじゃ、俺達も場所を移そうか」


 というわけで、みんなで休憩所に移動する。夜も更けてきているので眠気に負けそうな子も多いだろう。床に敷布を敷いたりして、みんなで雑魚寝をできるような状態を整えておく。


「居城の書庫から、童話や冒険譚の類を持ってきたのですが、こうした内容で宜しかったでしょうか?」


 セシリアの持ってきた本を確認して頷く。童話、民話、冒険譚等々、落ち着けるような内容の物語が収録された本だ。


「ん。ありがとう。流石」

「恐れ入ります」


 笑って一礼するセシリアである。ラインナップとしては申し分ない。子供達に幻影劇の代わりというわけではないが、のんびり幻影を交えた朗読を楽しんでもらえればいいだろう。


「ふふ。幻影劇も朗読も、楽しんでもらえたら良いですね」


 グレイスが微笑み、マルレーンもランタンを俺に預けながらこくこくと嬉しそうに首を縦に振ってくれた。

 そうだな。子供達もぺたんと座ったコルリスやティールの身体に背中を預けたりラヴィーネ、アルファやベリウス、オボロといった面々にぴったり寄り添っていたりと、動物組と一緒なので嬉しそうだ。その中にシャルロッテが混じってご満悦だったりするのは……まあ気にしないとして。


「それじゃあ、のんびり朗読でもしていこうか」

「お話を読むのに疲れたら、いつでも朗読は替わるわね」

「そうね。幻影については……テオドールじゃないと無理かもしれないけど」


 ステファニアとクラウディアがそんな風に言ってくれた。そうだな。話の内容を知っているものなら誰かに朗読を変わってもらっても、幻影の展開には問題ない。持ってきてもらった本については、大体内容も把握している。


「ありがとう。それじゃ交代でっていうことでどうかな?」

「それは――楽しそうです」


 提案するとアシュレイがそんな風に言って、みんなも微笑んで頷く。

 ローズマリーもやや気恥ずかしげだが、「仕方がないわね。わたくしで子供に好かれる話し方になるとは限らないけど」と目を閉じて言っていた。まあ、あれでローズマリーは面倒見が良いし、演技力も高いので大丈夫だろう。


 さてさて。最初は……そうだな。妖精の国に迷い込んだ兄妹の話というのが良さそうだ。舞台も森なので境界劇場の演出の舞台になった海とは少し違うしな。そうして、マルレーンのランタンを使って、童話の風景を周囲に展開しながらのんびりと朗読していく。子供達は目を輝かせながら朗読と幻影を食い入るように眺めるのであった。

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