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番外430 信仰と神格と

 祭祀場を建造し、パルテニアラ達と話し合いをしながら迷宮新区画を構築。

 それが済んだら魔界の門を移送する、ということで俺達からの連絡と相談は完了だ。各国の承認用魔道具も後世に備えてのものなので、追って完成させていく、という事で話はついた。


「アルバート王子とオフィーリアの婚礼もありますからね」


 オーレリア女王が言うと、居並ぶ面々も頷いていた。アルバート達の結婚式についても、情報の周知はしっかりと進んだようだ。これなら心配はいらないだろう。


「では、続いての議題としては今後の国交に関することになるかな。関係する者に話に加わってもらうとしよう」


 メルヴィン王が言って――今度は国交関係の話をする面々が休憩所からテラス席の話し合いの輪に加わる。

 ベシュメルクと国境を接しているデボニス大公とフィリップ、ブロデリック侯爵は国交に関する話としては当事者、ということになるだろう。


 冒険者関係でも今後は変化が生じる事が予測されるからか、アウリアとオズワルドも話し合いに参加する。

 少し前までウォータースライダーで遊んでいたアウリアであるが、ギルド長として話し合いに参加するためか、表情も引き締まっている印象があるな。


「ふむ。これで揃ったか。通信機でも伝えたが――貿易に関してはいきなり大規模に話を進めていくと生産に関わる民が困窮することにもなりかねんからな。緊急の事案がなければ今までの同盟の方針通り、緩やかに状況を見ながら進めていきたいものだ」

「そうさな。ベシュメルク王国は国交を閉じていたわけであるし、自給自足で賄える部分も多かろう」


 メルヴィン王とエベルバート王が言う。

 だから同盟の方針としては……特産品、名産品を互いに融通し合ったり、過不足のあるものを調整したりという具合で、不要不急の品に限定して、という側面を強調した上で、各国間の貿易を進めるという方向になっている。


 酒や料理、細工物、工芸品、更には魔道具など。その国ならではの特色を持つ物品を融通し合おうというわけだ。管理貿易の形ではあるが、親善のためという目的なのだ。


 許可を受けた物品を、状況や総量を見ながら貿易するという形だが、とはいえ個々人の行商に関しては大規模な貿易とはならないので、社会的な影響も小さいと判断されれば許可が下りたりもする。


 一方で旱魃(かんばつ)等々で作物が不作の折であるとか、その他災害が起こった際には同盟間で互助をしようという方針でもあるが……今のところそういった災害時の支援に関しては具体的な事例がないのは幸いであると言えよう。


 まあ、同盟の元となった対魔人戦であるとか、ザナエルクに関連した動きもまた軍事的な面での互助ではあるが、これは世界全体の問題であるとも言えるのでやや別枠だ。


「そう、ですな。恐縮ではありますが、食糧生産等々の必需品については大きな問題はありません」

「特産品、名産品といった品々についてはこうして目録として纏めてきました。お望みのものがあれば良いのですが」


 クェンティンとマルブランシュ侯爵が言って、目録を見せる。代わりに各国も目録をベシュメルク側に見せてお互い合意できる妥協点を探るというわけだ。


「では、拝見させていただきます」


 とはいえ、そもそも国としても工業機械があるわけでもなし、需要が合っても大量生産できるわけでもないしな。生産品で国際的な競争が起こるというような背景があるわけでもない。同盟としては友好と互助を一義としているので、話し合いの雰囲気自体も柔らかいものであった。

 酒や美術品、工芸品といった品々については互いに興味があるのか、これまでも割とすんなりと話が纏まったりしているしな。


 その傍らで冒険者ギルドについても話が出る。今後ベシュメルク王都近隣では冒険者が必要とされるが、その下準備というか根回しに近い。

 出現する魔物の種類などを見た上で、ノウハウが不足しているようなら隣国から教導可能な人材を派遣するなり、特定の仕事を得意とする冒険者に仕事を斡旋できるよう体制を整えておく、というわけだ。


「これが書状になります」


 と、アウリアがベシュメルクの冒険者ギルドに宛てた手紙をクェンティンに渡す。レアンドル王もまた同様に書状を渡していた。


「確かに、お預かりしました」


 クェンティンが笑顔でそれを受け取る。そうして話し合いも和やかな空気の中で進んでいく。

 パルテニアラも国交に関する事については口出ししないと言いつつも成り行きを見守っていたあたり、どうなるのか心配していたようではあるが、実際の話し合いの内容を見て安心したところがあるようだ。時折満足げな笑顔で頷いたりしていたが、やがて話も一段落したところで、こちらを見て言う。


「ふむ。どうやら王達の話し合いについては問題ない様子。となれば妾は、建造しなければならない祭祀場についての話を早めにしておくべきなのかな?」


 そうだな。パルテニアラの祭祀場が無ければ迷宮奥の新区画作りも進まない。


「良いですね。この後は少し場所を移す事になりますが……予定時間まではまだ結構ありますので、余った時間で構想を練っておきますか」


 そんな風に返答し、エレナやガブリエラも交え、土魔法の模型を使ってどんな祭祀場にするのが良いのか話し合いの時間を作る。

 祭祀場については祈りや儀式の力を届けられるようにするのが最低条件だ。となるとどうしても当人や巫女にパルテニアラを祀るための作法を教えてもらい――その形式、条件を満たしつつ、できるだけ立派なものになるように見た目を整えてやる必要がある、というわけだ。

 それらについて説明すると、エレナが尋ねてくる。


「――祀るための作法、ですか。パルテニアラ陛下に祈りを捧げるための儀式や形式をお話すればいいのでしょうか?」

「後は、当人が好んでいた象徴的な品、とか。女神像という手もあるかな」

「女神像は……少しばかりこそばゆい。妾が生前使っていた杖の模造品やら、妾と契約していた使い魔の像であるとか、そういった具合か」


 女神像は遠慮したい、という言葉に心当たりがあるのか、クラウディアが苦笑していたりするが。月神殿の女神像も、クラウディアが自分の姿が少女であることを気にした結果だったりするしな。


「ああ。月神殿の巫女や神官達には、ベシュメルクの始祖の女王に関しても信仰を広められるよう協力してもらえることになっているわ。同時代を生きて、沢山の人達を助けて導いた上に、今は私の友人だものね」


 クラウディアがそう言うと、ペネロープが静かに自身の胸のあたりに手を当てて、お辞儀をするように頷いていた。


「祈りに対する祝福がどうなるか、気になるところね」


 と、ローズマリー。

 確かに、信仰がベシュメルク外にも広まってパルテニアラの神格が強まれば、祈りを捧げた時の祝福――つまり御利益的なものも生じるのだろうけれど……流石にそのあたりはどうなるか予想もつかないな。

 クラウディアもそうだが、御前も信仰を得て神格を得てから祈りに対して祝福を返せるようになったようだし。


「呪いを遠ざけたり、でしょうか?」

「魔界での変容から民を守ったのなら病魔を退けたりという事にもなるかも知れませんね」


 エレナとガブリエラがそんな風に言って楽しそうにしていた。


「神格……などというガラではないのだがなぁ」


 御本尊であるパルテニアラとしてはやや困ったように苦笑していたが。

 そうして土魔法の模型をこねくり回しつつ、火精温泉での話し合いの時間はゆっくりと過ぎていくのであった。この後は――植物園を見に行ったり、境界劇場で演奏を聞いたりする予定だ。必要な話し合いが終わってしまえば後は心置きなく観光できるからな。

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