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番外429 番人と未来

 そんなわけでいつも以上にじっくりと湯船に浸かってから風呂を出た。

 王家、貴族の面々で先に風呂を上がった人達は、休憩所に隣接する遊戯室で遊んでいたようだ。

 ドリスコル公爵とフィリップが楽しそうにビリヤードをしている横でデボニス大公がマルブランシュ侯爵とダーツを楽しんでいる……などという光景は……少し前の国内外事情から考えればまずありえない光景だったのだろうが。


 その一方でオスカーやヴァネッサ達など、会談に関係ない面々はその間遊泳場で遊んでくるという事になっていて、休憩所のテラスからオスカー達に手を引かれて遊泳場に出ていくレスリーとライブラの姿が見えたりして。

 遊泳場からは楽しそうな子供達のはしゃぐ声が聞こえてきたりと、中々賑やかなことになっている。


 みんなもそれから暫くして風呂から上がってきたようだ。


「お待たせしました」


 湯で火照った肌を少し紅潮させながらグレイスやみんなが微笑む。洗髪剤の香りもほのかに広がり、風呂上がり特有のこうした雰囲気は……良いものだ。うん。

 炭酸飲料を飲んだりしながら休憩所でまったりとしていると、会談に参加する面々が段々と集まってくる。

 そうして休憩所に全員揃ったところで改めて話し合い、となった。


「国交に関する話はゆるりと行うとして……まずはもっと喫緊の話題からということになるか」


 と、メルヴィン王から視線を向けられる。


「そうですね。では、例の一件に関わりのある方々と、テラス席にてお話を、ということにしましょうか」


 テラス席に移動し、風魔法で夏の暑さを和らげつつ、音を遮断する。不自然な生命反応、魔力反応、隠蔽術……いずれも異常無しだ。

 話し合いに参加するのは同盟各国の王と迷宮に関わる面々、それからベシュメルクの重鎮達とパルテニアラ、そして――。


「お話の時間ということですので――」


 と、通信機で連絡を入れて、顕現してきたティエーラ達やヴィンクルやアルクス……迷宮ガーディアン組も交えての話となる。


「まずはこちらの構想と進捗についてお話をしたいと思います。例の門については、迷宮の奥に安置し、管理体制を構築していくのがいいのでは、という話になっていましたが……そのためにはやはり、新区画を作る必要があるかと存じます。既存の区画にも重要設備がありますので、使い回しをするとお互いに影響を及ぼさないとも限りませんので」


 まずは既定路線についての再確認をしておく。居並ぶ面々を見てそんな風に切り出していく。


「ふむ。それについては――我らも異存ない」


 メルヴィン王が皆の反応をみながらこちらに先を促す。


「ありがとうございます。では――迷宮の新区画についてですが、迷宮側と契約して一部の所領を与えられることで、迷宮側にも領主の影響の出る区画を生じさせる事が可能です。この火精温泉もまた、シルヴァトリアの高位精霊、火山を司るテフラと迷宮側が契約したことによって作られた、迷宮外の区画ですね。迷宮奥にもテフラの影響を受けた区画が存在しています。これは迷宮が同じ性質のものを同一区画に溜め込もうとする性質があるからですね」


 これらは迷宮が落ち着いた今となっては人為的なコントロールが可能な事も説明しておく。火精温泉の成り立ちと同様の事を、新区画構築において行おう、というわけだ。


「つまり――タームウィルズかフォレスタニアのどこかに、パルテニアラ様を祀る祭祀場――神殿を建造。その影響下において作られる区画を、門を安置する場にしてしまおうと構想しているわけです」

「妾がティエーラ様と契約を交わす、ということになるのかな。確かに……妾の力、性質が及ぶのであればそれは門を封印しておくのに適した場所を構築しやすい」


 顎に手を当てて、思案するような仕草を見せながらパルテニアラが言う。


「魔界と門に関する知識を有するパルテニアラ様が賛同するのであれば、それが確実そうですね」

「余も異存はない。それが将来に渡って安全である方策であるというのであれば、それを支持しよう」


 オーレリア女王とエベルバート王が言う。同盟各国の王からも反対意見は出ないようだ。


「では、その方向で進めたいと思います。ついてはその区画構築にあたり、パルテニアラ陛下、エレナ殿下、ガブリエラ殿下から助言を頂けたら助かります」


 そう言うと、パルテニアラと共にエレナとガブリエラも揃ってこちらを見ながら頷いた。


「勿論です」

「私達でお役に立てる事があれば」

「ふむ。そうなると少しの間、妾もフォレスタニアに滞在する必要が出てくるか」


 エレナとガブリエラが言い、パルテニアラも笑みを浮かべてそんな風に答えてくれた。


「では、続いて魔界の門の防衛についてですが――」


 と、ここでアルクスを改めて紹介する。

「よろしくお願い致します」


 丁寧にお辞儀をするアルクスである。


「アルクスは迷宮最深部に近い区画のガーディアン、パラディンの器を本体として持つ、魔法生物ということになります」


 今の姿は本体ではなく、日常生活用のスレイブユニットであること。パルテニアラの話では魔界にも友好的な種族が存在している事。そんな魔界の門を守護する関係上、高い戦闘能力を求められるのは勿論だが、様々な事態や友好的な種族にも対処可能なように高度な自意識が必要とされるであろう事等々を説明していく。

 それに、迷宮管理者やラストガーディアンの友としても、という観点もだ。俺たちが代替わりしても、将来に渡って安心できる方策でなければならない。


「なるほどな。だからこそ高度な自意識を持つ魔法生物に、日常を学んでもらおうというわけか」

「代替わりしても、という点は重要ですね」


 ファリード王やシュンカイ帝が納得したというように目を閉じる。


「本体――パラディンの戦闘能力についてはどれほどのものなのかな?」


 レアンドル王が尋ねてくる。


「僕の見立てでは――上位の能力を有する高位魔人や、黒い悪霊本体、変身したベルクフリッツであるとか、ショウエンだとか……あのあたりと渡り合える戦闘能力があると思っていますよ。相性問題もあるので単純比較はできませんが」

「パラディンは超高速の飛行能力と強固な装甲、高度な近接戦闘と射撃能力と……何でも揃っているわね。ヴィンクルを除けば、迷宮でもほとんど最高位の戦力ではないかしら?」


 と、クラウディアが補足してくれる。


「それほどのものか……。確かにそれならば番人としては申し分ない。空中戦を得意とするのであれば、それだけで敵対者の対応の幅も限られよう」


 イグナード王が感心したように頷く。

 そうだな。相性についても言及したが、特にパラディンは搦め手で云々というよりは……シンプルで正統派として強いというタイプなので、相性を問わず能力を発揮しやすい側面がある。

 高レベルでスタンダードに強く、弱点らしい弱点がないというのは……実際問題として非常に対処が難しいのだ。


 それだけに修復と再起動には慎重にならざるを得ないところがあったが、それも今の形式で落ち着いてくれれば……というところだ。卓越した戦闘能力も魔界の門の番人としてであれば過不足がないと思うし。


「私は――本体のような武力があっても日常で共に過ごせる方法を考え、外の世界を見せて共に歩きたいと仰って下さった――テオドール殿や、私を友人として迎えたいと仰って下さったティエーラ様やヴィンクル達には……とても感謝しています。作られたばかりの私では、まだまだあの本体を扱うには未熟ではありますが、これから様々な事を学び、精進していきたいと思っております。どうか、よろしくお願い致します」


 アルクスは――そう言って、丁寧に騎士式の礼をしていた。居並ぶ王達からその言葉や作法に感心したような声が漏れる。


「これは――先々が楽しみになる御仁のようだ」

「うむ。妾も友人となれたら嬉しく思う」

「それは……勿論です」


 と、ヨウキ帝やエルドレーネ女王が頷き、手を差し出して、アルクスと握手を交わしたりしていた。うん。武闘派にもそうでない面々にも好印象な様子で……そのあたりは何よりだ。

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