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番外425 第4王子の手腕

 そうして。ベシュメルクの重鎮達を迎える日がやってくる。

 東国との時差を考慮するとタームウィルズでの夕方頃に転移港で待つ、というのが、こういう場合の基本になりつつある。

 今回の歓迎の席は各国の王族や重鎮だけでなく、デボニス大公家やブロデリック侯爵家を始めとした国内の貴族達も参加する。なので迎えにしても警備にしても結構大掛かりだ。


 俺達も少し早い時間に転移港に移動して待っていると……まずは国内の貴族達が転移港から訪問してくる予定の頃合いになる。国外の面々はあくまで客だからな。先に国内の面々が待っている形でなくてはならない。


「おお、テオドール公! 皆様もご無事で何よりです!」


 と、明るい笑顔で声をかけてきたのはドリスコル公爵一家だ。夫人や公爵の弟のレスリー、オスカーやヴァネッサの兄妹も一緒で「ご無沙汰しております」と明るい笑顔で挨拶をしてくる。


「ご無沙汰しております、ドリスコル公爵。ご家族も皆、お元気そうで僕も安心しました」


 と、こちらも挨拶を返す。


「ライブラ!」

「お久しぶりですわ」


 オスカーとヴァネッサは俺達に挨拶してからライブラにも声をかけ、その手を取ったりする。


「こんにちは、お二方とも。私の方こそ、元気そうなお顔を見て安心しました」


 ライブラは二人にも丁寧に挨拶していた。うむ。予定通りではあるが、ドリスコル公爵にもライブラに関しては説明をしておくべきだろう。


「ライブラには、予定通り感覚器を組み込んであります。感覚器と共に、食事からの魔力補給も低効率ながらできますので、通常の魔力補給の補助になるかなと」

「ほうほう。では、共に会食を楽しんだりできますな」

「そうですね。ライブラも味見ができるので、一人でもきちんと料理が作れると喜んでいましたよ」

「おお……。それはまた、楽しそうな話題ですな」


 ドリスコル公爵は肩を震わせてから尋ねてくる。


「皆様はこれから転移港で出迎えを?」

「そうですね。これから沢山の方がいらっしゃいますので」

「なるほど。では慌ただしくなるのはよろしくありませんな。今しばらくライブラは皆様と一緒にいる方が良いでしょう」

「それは……そうですね。お気遣いありがとうございます」

「ありがとうございます、旦那様」


 ライブラも俺の言葉に合わせて嬉しそうに一礼する。仲の良いマクスウェルも核を明滅させてお辞儀していた。

 ライブラは……いわばドリスコル公爵家からの助っ人だからな。

 ベシュメルクの一件が解決して、感覚器も組み込んで日常生活に対応できるようにもなってと……ここまでは予定通りだ。


 そうなるとドリスコル公爵家の一員として公爵家に帰るということになるが、こうして慌ただしい状況だと、別れを惜しむような雰囲気が阻害されてしまうというか。

 だから、ドリスコル公爵はこちらの面々にもライブラ本人にも、ゆっくり心の整理ができる時間と段取りを作ってくれているわけだ。


「んー。これから先の話ですが……僕達と一緒にタームウィルズに遊びに来れば、割とすぐに会えるのでは?」

「ライブラが寂しくないようにしたいですわね。その点、転移港で気軽に移動できますし」


 オスカーとヴァネッサがそう言う。


「それは良いね。ライブラがオスカー達の護衛なら安心だ」

「確かに」


 レスリーが穏やかに言うと、ドリスコル公爵と夫人も笑みを浮かべた。

 公爵の知らない新たな顔触れということでカルセドネとシトリア、アルクスやホルンも紹介する。


「ほうほう。ベシュメルクのお嬢さん方と、迷宮のガーディアンに東国の霊獣とは。よろしくお願いしますぞ」

「よ、よろしくおねがいします」

「はじめまして」

「こちらこそ」


 公爵達はカルセドネ達やアルクスと握手を交わしたり、ホルンを撫でたりしていた。

 それから公爵一家はライブラにまた後で、と声をかけながら騎士団の面々に護衛を受けつつ王城へと向かっていったのであった。


「中々気さくで明るい雰囲気のご一家ですね。ライブラの主家ということで安心しました」

「うむうむ」


 アルクスが言うと、マクスウェルも核を明滅させていた。


「何と申しますか……テオドール様達にもですが、ドリスコル公爵家の方々にも、大切にされているように感じられます。胸が暖かくなる、と言いますか」


 ライブラが胸に手を当てて言う。


「公爵家の人達は……レスリー卿の一件もあったからね。余計に後世の平和を考えていたワグナー公や、その願いを込めていたライブラの事は大切に思っているんじゃないかなって思うよ」


 俺の言葉にライブラはこくんと首を縦に振って。みんなもそんなライブラの様子に表情を綻ばせていた。

 そうして……公爵家が立ち去るのと時を同じくして、まずは国内から転移港に次々と人がやってくる。

 ベシュメルクとの国交に関わるデボニス大公家とブロデリック侯爵家の面々。

 アルバートとオフィーリアの結婚式を控えているフォブレスター侯爵と……次々と今回の集まりに用事のある面々が姿を現した。


「いやはや。国内の貴族だけでこれとは」


 と、挨拶と初対面の顔ぶれを紹介して挨拶もしたところで、フィリップが苦笑しながら言うと、それに応じるようにブロデリック侯爵――マルコムも口を開く。


「此度の集まりは大変な事になりそうですな。特にフォブレスター侯爵は通達もあるので大変なのでは」

「いやいや。アルバート殿下が奔走しておいでなので、私の負担はそれほどでもないのですよ」


 フォブレスター侯爵はそんな風に答えて柔和な笑みを浮かべる。


「アルバート殿下はこうと決めた後の実行力は目を見張るものがありますからね」


 俺も会話に混ざって言うと、フィリップが感心したように目を閉じて頷いていた。


「流石はというべきなのでしょうな。頼もしい事ですな」

「アルバート殿下の本当の姿をいち早く見抜いておいでだった、フォブレスター侯爵も慧眼でいらっしゃる」

「いやいや、機会に恵まれていたに過ぎません。皆様が私より先に知己を得る機会があってもそれは同じであったでしょう」


 そんな風にデボニス大公とフィリップ、マルコムとフォブレスター侯爵は言葉をかわして笑い合っていた。アルバートのそんな話題にマルレーンもにこにこしているが、ローズマリーやステファニアもさもありなんといった表情だ。


 メルヴィン王やフォブレスター侯爵が支援していた面もあるが、まず認めてもらうために魔法技師の腕を鍛えて交渉したのはアルバート個人の才覚と努力、手腕によるものだし、工房を開くためにお忍びで街へ出て人材を集めたりといった過程に関しても……諸々一人で進めていたようなものだからな。


 普段は魔法技師としての仕事に全力投球しているが、そのへんの実務能力や調整能力については、実際かなり高いのだ。

 フォブレスター侯爵としてもアルバートの人柄に加えて、才覚を見抜いていたからこそオフィーリアとの婚約を、と考えた部分があるのではないだろうか。


 ともかく、通達のための書状を書いたり連絡を回したり……そういった実務についてはアルバートがしっかりと進めているので問題はない。工房の仕事の負担を減らしたら減らしたで、別の仕事で大変そうではあるが、書状の文面をオフィーリアと考えたり、結構楽しそうではあった。

 しかし多忙なことには変わりはないので、結婚してからの新婚旅行などで、のんびり羽を伸ばしてきてもらいたいところではあるな。


「先ほどドリスコル公爵家の方々も王城へ向かいましたよ」

「では、挨拶をしにいかねばなりますまいな」


 と、デボニス大公が相好を崩す。うん。王家、大公家、公爵家の三家も和解しているからな。これも一昔前では考えられなかった事なのかも知れない。


 そうして転移港での出迎えは大変だが頑張って欲しいと労いの言葉をかけられて、デボニス大公達は王城へと向かうのであった。

 さてさて。父さん達もこれから来る予定か。国内の貴族を迎えたらベシュメルクの面々とも再会だな。

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