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番外420 種族伝来の知恵

 そんなこんなで、工房の一角に安置されている破損したパラディンの残骸を回収。一先ず、ということでフォレスタニアの居城に移送したのであった。

 パラディンは――その破壊された状態で機能停止してしまっているが、無事だった部分からもある程度の解析も進めているのだ。


 クラウディアの教えてくれた情報や残った制御術式部分からすると、パラディンに関しては迷宮の状態に応じて警備巡回や迎撃を行い、そこに感情の介在する余地はない。

 敵か味方か。敵であればどんな動きをすれば迅速に制圧できるのかなどといった、警備や戦闘関係では高い判断能力は持つが、それは任務用に特化されたもので、あくまでも効率的に仕事を遂行するためのアルゴリズムを組んであるという印象だ。


 フォレスタニア居城に運んでくると、それをティエーラやヴィンクルが見に来た。


「パラディンですね。修復して復帰させるのですか?」


 コルティエーラがラストガーディアンと同化していたということもあり、ティエーラにもパラディンの知識はあるようだ。


「うん。再生させて、迷宮の新区画の番人にできたらって思ってるんだけどね」


 外部からの侵入者だけではなく、魔界の門の向こうから出てきた危険な存在に対しての戦力ともなる。

 と、ヴィンクルがそこで声を上げる。パラディンとも友人にはなれないか、と。


「それは、マクスウェルやライブラ達みたいに自我をということかしら?」


 ステファニアがそう尋ねるとヴィンクルはこくんと頷く。


「そうだな。それも考えてもみたけれど」


 顎に手をやって、少し思案する。

 その場合の問題は、魔法生物の自我を形成する作業が上手くいかなかった時、だろう。

 パラディン自体が高度な戦闘能力を備えている設計だけに、危険性は考慮しないといけない。


「けれど、調整が難しそうね。善良過ぎても騙されるようでは向いていないし、魔界には友好的な種族もいるのでしょう? あまり猜疑心が強くて攻撃的なのも、ね」


 ローズマリーが言う。それも……確かにな。自我を与えて柔軟な対応力を求めるよりは、最初から判断基準を決めてしまってその枠組みで行動させるなどすれば、警告等々で相対した側に対応してもらうということで運用は可能ではある。


 だが――その一方で、ただの戦闘機械であるよりは、ティエーラ、コルティエーラやヴィンクルの友人であってくれれば。そちらの方が望ましいのは事実だ。

 直属のガーディアンとして長らく一緒にいたのは事実だし、それは新区画の番人となった後でもそうだろう。


「んー。そうだな。活動用の身体と、門番用の身体の間で意識を行き来できるようにすれば――精神的な成熟が足りない状態でパラディンの器で暴れる、なんていう危険性は、とりあえず回避できるのかな」


 パラディンの器を操る候補として育成し、適性があると判断できれば器を預けるといった具合だ。


「私やヴィンクルの言葉は、あくまでそうならいい、という希望ですから。難しいのなら無理にとは言えませんが」


 ティエーラが言うと、コルティエーラの核も明滅し、ヴィンクルも同意するように声を上げる。


「ふうむ。儂らの能力を術式化して組み込み、必要な場面だけ使えるようにすれば、調整もしやすくなるのではないかの?」


 と、そこにそんな声があった。ティエーラ達と共に様子を見に来ていたカーバンクルの長老、フォルトックだ。


「ん。感情を読む、能力だっけ?」

「ああ。サトリよりは――エイヴリルの能力に似ているかな?」


 首を傾げるシーラに答える。

 カーバンクルは――その能力により、他者の感情を感知することが可能だ。

 サトリ同様、能力を知られると悪用されやすいとか、また額の宝石が美しいので、そういう意味でも狙われるといった理由から……カーバンクル達はあまり人前には姿を現さないようにしている。

 そんなカーバンクル達だけに、能力を活用してはどうかと向こうから持ちかけられるとは思っていなかったが。ふむ。


 もう少し話を聞いてみよう。


「詳しく聞かせてもらえるかな?」

「うむ。儂らの能力は、相手の感情の種類を読み取り――儂らの体内魔力の反応、感覚で特定している……というのかの。故にこんな感覚がした時、相手はこうした感情を抱いていると……親から子へ、先祖代々の知恵として語り継いでおるのじゃな。悪い感情に対して悪い感覚があるとは限らぬのじゃよ」


 ……なるほど。言いたいことが分かってきた。


「そこで判断ができれば、騙されるということや不必要な相手に攻撃を仕掛けるということも防げて、自我を形成するにしても対話を重んじる性格にしながら、判断を間違いにくい魔法生物を作れる……とか?」

「そう言うことじゃな。儂らの同胞も、割とお気楽じゃろ?」


 そうだな。時々中庭でシャルロッテがカーバンクル達を鈴生り状態にして、幸せそうにしているのを見かける事がある。明るくて人懐っこい性格、だと思う。まあ、そのへんは、信じられる相手だからこそ、という部分もあるのだろうが。


 高い戦闘力を持つ番人が、対話の場面での感情の動きから、訪問者の主張の真贋を見抜く事が出来たら……それは確かに色々と心強い。


「姫と境界公には……儂らも恩義を感じておるのじゃよ。こうして安心して住める静かな場所があるという事の、なんと恵まれたことか。儂らの力が後々の為に役立つ、今までの恩を僅かばかりでも返せるというのであれば……それは願ってもないことでな」

「きちんと考えた上での事なのね」

「お役に立てれば……嬉しいのですがのう」


 クラウディアの言葉に、フォルトックはこちらを見てくる。


「――分かった。他の事に技術は転用しないし、後世にも伝えないって、ここで約束しておくよ」


 そんな風に答えると、フォルトックは目を細めて満足げな笑みを浮かべて頷いた。

 他のカーバンクル達も集まってきて、肩に登ったりしてから頬を擦りつけるように甘えてくるような仕草を見せたり、こくこくと頷いたりしていた。


「魔力の動きを探るのは循環錬気だったかの?」

「オリハルコンも必要だけどね。負担がかからないのは保証する」


 そんなこんなで早速やってしまおうということになった。フォルトックに肩の上に登ってもらって、オリハルコンと循環錬気を使って、魔力の動き、波長を見ていく。


「まあ、なんじゃな。相手が好意的な時、悪意のある時、それぞれに応じて感じ取って魔力が感覚に反応を返す。これは親から子へ疑似的に訓練もして教えておるからの。カーバンクル同士であれば感覚が伝えられるし説明も色々楽なのじゃが……」

「なら、疑似的に五感リンクをすればいけるかな?」


 フォルトックとの間に五感リンクを繋ぐ。するとどんな感情を持っている相手なら魔力がどう反応するかというのをフォルトックが色々と教えてくれた。


 なるほど。これは――予想以上にパラディン向きなのではないだろうか。

 反応をセンサーで見た結果として、システマチックに判断することが可能だからだ。直接読み取ってしまうのとは違い、対話の中で質問を投げかけて、相手の感情、反応を表情や仕草に惑わされる事なく読み解くことができる、というのが良い。


 精神を読み解く能力というのは、とかく共振したり、悪感情を受け取ってしまって人間不信になったりなどといったデメリットも表裏一体だからな。中々に扱いが難しいのだが……カーバンクルのそれはもう少しアバウトというか、思考をまともに読み解くよりワンクッション挟んでいるから精神的な負担が少ない印象がある。これなら……確かに諸問題も解決できるかも知れない。


 これでティエーラやヴィンクル達の友人に、か。うん。後は俺がしっかりと仕事をこなせばいい。

 カーバンクル達の先祖代々からの種族の知恵を預けてもらったようなものだしな。きちんと結果を出す事で応えたいものである。

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