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番外419 新しい番人を

「みんな先に工房で待っているってさ」

「それじゃ、僕達も移動しようか」


 王城での報告と話し合いを終えて、アルバートと共に工房へ移動するということになった。

 今のアルバートは「ブライトウェルト工房を立ち上げて色々と支援をしていた」という対外的な立場を持っているので、アルバート王子として堂々と工房に顔を出せるというわけだ。


 これはアルバートの事情ではなく、ヴェルドガル王国の変装用の指輪は秘密にされているという理由によるものだ。それでもアルバート王子を魔人との戦いでの功労者として報いるために公表する理由が必要だった、というわけである。


 それらの理由はさておき、実際のところがどうなのかと言えば、工房に来客があった際にアルフレッドの格好をすれば問題ないし、アルバート王子が工房に出入りしているのなら、オフィーリアもまた変装せずに遊びにきても問題ない、という寸法なわけである。


 そもそもブライトウェルト工房の作品は迷宮商会で販売されるわけで。

 魔法技師であるアルフレッドに面会したいというのなら、迷宮商会でそういった約束を取り付ければいい。店主であるミリアムもアルバートの味方なので、その旨了解してくれているし、二重生活気味な部分はあるが破綻はしないだろう。


 必要なら折を見て幻術で変装していた、髪を染めていた等々の偽情報を出して、実は同一人物でしたと、指輪の事を秘密にしながら情報を公開してしまうという手もいいのでは、と。そんな風にメルヴィン王達とも話をしていたりする。


 さて。そんなわけでアルバートと共に王の塔のサロンから練兵場広場に戻ると、待っていたリンドブルムがこちらを見て顔を上げる。

 更に飛竜がもう一頭。リンドブルム達は竜籠に繋がれていて、アルバートと共に工房に行けるように手筈を整えていてくれた。

 王城の飛竜舎で働いている厩務員のマシューが装具を点検していて、俺達の姿を見ると深々とお辞儀をしてくる。


「これはお二方とも。お待ちしておりました」

「ああ、久しぶり。竜籠の用意はありがとう」


 礼を言うとマシューは静かにお辞儀をする。

 小型の竜籠なので、アルバートが工房から王城へ帰る時はもう一頭の飛竜に任せれば良いだろうというわけだ。

 装着は終わっているそうなのでアルバートと共に竜籠に乗り込む。リンドブルムが声を上げて、ゆっくりと竜籠が浮上した。


「アルも自分の事に集中できそうだね。準備とかで必要な事があれば手伝うよ」

「ああ。助かるよ」


 と、笑みを浮かべるアルバート。普段から世話になっているし、結婚式の準備で忙しくなるからな。可能な限りアルバートの負担を減らす方向で考えていこう。


 今の状況を見てみても、結婚式さえ済ませてしまえばアルバートがゆっくりできる環境は整っていると言える。

 魔界の門関係では各国の承認システムは代替わり後の事を考えたものだから、すぐに必要というわけではないし、魔界探索用の魔道具を作るとしても、こちらも準備を万端にしてから臨めばいいから緊急ではない。

 各国との兼ね合いがある飛行船の建造も、七家の長老達が進めているからアルバートの仕事ではなく、船体を作るのは俺の担当である。


 結婚式の演出はと言えば……段取りを決めて、それに合わせて魔法やマルレーンのランタンで演出をしていけばいいので、今回の場合は新たに魔道具が必須というわけでもない。

話し合いで計画を立てて進めればいいので、アルバートにもオフィーリアにも負担はあるまい。


 そうして竜籠は工房に到着する。中庭に竜籠をゆっくりと降ろすと、みんなが迎えてくれた。オフィーリアも来ているようだ。


「お帰りなさい」

「ん。おかえり」

「ああ、ただいま」


 と、笑顔で迎えてくれるグレイス達。工房の中に場所を移し、氷の入った炭酸飲料などで涼を取りながら、王城での報告の後で出た話等をみんなに話して聞かせる。といっても、既定路線なので特に真新しい情報があるわけではないが。


「ベシュメルクのみんなも集まるのですね」

「うん。準備は王城側で進めるから、こっちは心配しなくても良いってさ」

「でしたら、エレナ様もゆっくりできそうで良かったです」


 そうだな。後はアルバートの結婚式に関する通達などもその時にという話になっていると、みんなに伝えておく。実際の結婚式の段取りに関する話もだ。


「――というわけで、日程が決まったらそれに合わせて演出を考える、と。魔道具は新しいのは作らなくても問題ないようにするよ」

「ありがとう、テオ君」

「感謝しますわ」


 アルバートとオフィーリアが笑みを浮かべる。


「でもテオ君は僕とは逆に、色々仕事があって結構忙しそうだね」

「まあ、そのあたりは大丈夫。新区画の構想を練る必要があるけど……ああ。そうだ。それに関してなんだけど、一つ考えてることがあってさ」

「ふむ」

「工房の奥にある、あれさ。迷宮の新区画の守護者として復帰させられないかなって」

「……あれってパラディンの事?」

「そう。普段人のこない――必要のない時に絶対通さないようにしたい場所なら、あの戦力も過剰にならないし」


 以前迷宮の中枢部で戦ったパラディンだが……魔法生物型のガーディアンとしてはかなり性能がぶっ飛んでいる。しかし戦闘での破損が結構大きかった事もあり、改修するにしても制御をしっかりしなければならないからと手付かずであったが……あれを迷宮に戻し、迷宮核で修復及び改修を進めてしまおうと考えているわけだ。

 番人を改造したパラディンとし、その性能を活かせるようなフィールドを考えてやれば、魔界の門を置くべき新区画の形も見えてくるだろう。


「というわけだから、これもアルには負担がかからないかなって」

「なるほどね。うん。いいんじゃないかな」

「私も良いと思うわ。迷宮も正常化されて警戒体制は解けているから、パラディンが復帰しても危険はないと思うし……それに改修もするのでしょう?」


 と、アルバートが同意し、クラウディアもそんな風に言う。


「そのつもりでいるけどね。後でパラディンは運び出しておくよ」

「ん。了解」


 物が物だけに勝手に持ち出したら大騒ぎになるしな。

 そんなわけで、迷宮核関連の仕事としてこちらで進めさせてもらおう。

 そうして必要な話も済んだところで、話題がアピラシアの事に移った。


「ふっふっふ。面白そうでしたので、端材でではありますが、丁度良い大きさの木材が余っていましたので、早速コマチさんと作ってみました」


 と、そう言ってビオラが持ってきたのは、アピラシアのサイズに合わせたようなロッキングチェア……になる予定の品であった。椅子の足がカーブになっていて、座ったまま揺らせるあれだ。

 まだ細部までは作っていないが、腰かけて椅子を揺らせる程度には木材を組み立てて作ってあるらしい。


「装飾はこれからアピラシアさんが作る家の建築様式次第かなと。後は座面やら何やらをもう少し工夫して、セラフィナさんやアピラシアさんが座りやすいように、形状を工夫するというわけですね」


 コマチが言う。それを見たアピラシアとセラフィナは嬉しそうに顔を見合わせて、軽くハイタッチなどしていた。


「後は……生活に必要な品ということで、寝台なども良いかも知れませんね」


 エルハーム姫が微笑む。


「場合によっては天蓋付とか?」

「良いですね。装飾が細かいと楽しそうです」


 ビオラとエルハーム姫、コマチはそんな風に言って盛り上がっていた。そんなやり取りに、アピラシアもこちらを見て、それならお城風にするのがいいでしょうか。不遜ではないでしょうかと、尋ねてくる。


「いいんじゃないかな。フォレスタニアの城の中に更に城とか、面白そうだと思うよ」


 そんな風に答えると、アピラシアはこくんと頷いていた。うむ。ビオラ達もディテールの細かいものを作りたがっている様子だしな。

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