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番外416 フォレスタニアの住民達

 アピラシアは――今は家の中に置くための魔道具の核を運んでいるから紛失したりしたら困ると、タームウィルズの街中では馬車からあまり顔を出せずにいたようだが……アルケニーの糸で編んだ丈夫な布を風呂敷替わりに用意してやると、首元にしっかりと結わえて行動できるようになった。何となく……引越し中と言った雰囲気だ。いや、実際そうなのだが。


 あちこちにアピラシアの家を建てる事は可能でも、家の内部に拠点としての機能を持たせる核だけは持ち込まないといけないそうで。

 核に関してはアピラシアがいれば再び作り出す事は可能とはいえ使い捨てにできるものでもないそうで。そうなると確かに移動中のリスクもある。そのあたりも今後、こちらで何かしら補助してやる必要があるかな。


 そんなわけで街中にある施設を紹介しつつフォレスタニア居城へ向かう。浮石のエレベーターやら移動する歩道やらにも中々驚いてくれたようで、案内しがいがある。


 そうして城で働いていたり、暮らしていたりする面々や、よく顔を出す者達を紹介する。

 セシリア、ミハエラやクレア、シリルといった迷宮村の使用人。

 水竜親子。先に帰ってきているティエーラ達高位精霊や、フローリアやハーベスタ。国外から滞在中のロヴィーサやイングウェイ。遊びに来ているマギアペンギン達。月光神殿の守護者であるカルディアと……顔触れが一気に増えるのでカルセドネとシトリアも大変そうだ。


「な、名前はちゃんと覚えていくから」

「だから、よろしくおねがいします」


 やや戸惑いつつも、そんな風に言って、居並ぶ面々にしっかりと挨拶を返していくカルセドネとシトリア。そしてこちらは割とマイペースに、ぺこりとお辞儀をするアピラシアである。

 カルセドネとシトリアにとっては相手が人であるかどうかは関係ないのだろう。城の船着き場からペルナスとインヴェル、ラスノーテが姿を見せても、身体の大きさや保有する魔力に驚きはしたようだが、竜であることには頓着しなかったという印象だ。アピラシアは竜の知り合いということで、相応に驚いていた様子だったが。


「ふむ。カルセドネとシトリアは、外の事をあまり知らないのだね」

「素直であることは良い事です。この土地で穏やかな時間を過ごし、健やかなる成長がなされる事を祈っていますよ」


 と、ペルナスとインヴェル夫婦はカルセドネ達の事情を聴くと、そんな風に答えていた。竜の姿なのではっきりとは分からないが、少し笑ったようであった。

 水竜親子は勿論、カーバンクルやハーベスタやマギアペンギン達、カルディアとも変わらず丁寧に握手をしていて、そんなカルセドネとシトリアの素直な反応に、集まった面々は好印象を持ったように見える。


「さっき、は元の姿だったけど、人化の術を使うとこうなる、の。よろしくね」

「うん。ラスノーテ」

「よろしくね」


 それでも年代が近いと仲良くなりやすいという面はあるのか、人化の術を使ったラスノーテと改めて握手をかわし、お互いはにかむように笑っていた。


 一方のアピラシアも、何やらハーベスタやカルディアと握手を交わしていたりして。何となく仲が良くなっている様子だ。蜜蜂がモデルだから植物と仲が良いということか。ではカルディアとは……同じ魔法生物としてのよしみかも知れないな。


 カルディアの姿は前に見た時より大分大きくなっていて、もうかなりヴァルロスに敗れた時のダメージから回復してきているようだ。月光神殿の守護者として大体の能力行使も問題ないところまで戻ってきていると、空間に魔力で文字を書いて教えてくれた。


「復調してきたようで何よりね」

「そうは言っても、守護者は出番が来ない方が平和でいいからね。それで暇なら……うん。気軽に遊びに来ると良いよ」


 クラウディアと共にそう言うと、カルディアは「止めを刺されないよう、戦闘に巻き込まないように庇ってくれたおかげ。そう言ってくれるのは嬉しい。時々遊びに来るからよろしく」と、魔力文字で返してくる。うむ。


 というわけで、改めてカルセドネとシトリア、それにアピラシアにも部屋を割り振る。

 カルセドネ、シトリアは同室が良いとのことなのでその通りに。


「エレナさまも近くの部屋」

「よかった」

「ふふ。これからよろしくお願いしますね」


 カルセドネ達の言葉に、エレナが笑う。

 ふむ。二人の最終的な目標が自活であるとしても、まずは世間一般の常識等々を身につけてからという部分があるので……しばらくは城を拠点にして色々と行動を共にしていこうということになっている。まあ……フォレスタニアが世間一般の常識を学ぶのに向いているのかという気もするが、そこはそれだ。


 アピラシアにも城の空き部屋を一つ割り振り、そこに好きなように家を建築していいと許可を出しておいた。

 こんなに広い部屋を丸ごと貰ってしまっていいのかと、アピラシアは少し恐縮している様子だが。


「アピラシアが何か作った後で、家の外観に合わせて周辺のものを作ったりして置いていったら面白いんじゃないかって思ってね」

「ビオラやコマチ達も小物作りに乗り気だったものね」


 ステファニアがそう言って笑う。

 そうだな。それに家が小さいからと相応の部屋に置くとなると小さな部屋を割り振るような形になってしまう。それはそれで狭いところに押し込むようで気後れしてしまうし。


「まあ、働き蜂が外に出やすいとか、そういう利便性も考えての配置だからね。広さについては気にしなくていいよ。家の周囲もアピラシアと相談しながら建造していくつもりだし」


 そう言うとアピラシアは納得したようで、そういう事でしたら楽しみにしています、と嬉しそうに答えていた。


「ところで、家の建材は用意しなくても大丈夫なのですか?」


 グレイスが首を傾げて尋ねると、アピラシアは、魔力が潤沢にあれば働き蜂だけでなく、蜜蝋のような建材も生成できるので、それを使うのです、と教えてくれた。


「つまりアピラシアは蜜の代わりに魔力を集める蜂というわけね」


 ローズマリーが言うと、アピラシアはこくこくと頷き、身振り手振りを交えて色々説明してくれる。

 効率的には魔力の方が上だが、働き蜂に花粉を集めさせる事でも力を高められるらしい。こちらは寓意的に意味を持たせる事で魔力の増幅が可能なのだとか。

 けれど、普通の蜜蜂達の邪魔になってはいけませんし、魔力を頂けたら嬉しいです、と、そんな風にアピラシアは言っていた。


「それぐらいならお安い御用です」


 アシュレイが微笑むとマルレーンもにっこり笑ってこくこく頷く。


「ん。どんな家になるのか、楽しみ」

「ふふ、そうね」


 シーラの言葉にイルムヒルトが笑う。そうだな。俺としてもアピラシアの今後の動向は気になるところだ。


 といった調子で新たな住民も城に迎えて部屋にも案内したところで、改めて集まり、無事に帰った事の祝いと歓迎の意味を込めてちょっとした宴会のような席を設ける。


 と言っても、またクェンティン達が来た時に改めて宴席を設けることになる。

 カルセドネ達も劇場や温泉はスティーヴン達が来た時にみんなで一緒に行くのが良いとのことなので、今日はのんびりとした気軽な交流の場といった感じの席となった。


 城の一角――湖を望む船着き場の広場にテーブルを置き、各種魔道具、ビリヤード台、ダーツボード等を用意して、軽く遊んだり、飲んだり摘まんだりしながら賑やか且つ気軽に過ごすというわけだ。


「んー。それじゃ、今日は劇場と同じにならないように、って言うことで」

「みんなで演奏したりしなければ大丈夫ね、きっと」


 ドミニクがそう言ってユスティアが頷き、劇場メンバー全員での協演という形にはならないようにしつつも、歌声や楽器の音色を響かせる。

 船着き場に響く美しい歌声と旋律を楽しみながら、炭酸飲料やアイスクリームを楽しんだり、お祝いの演奏が済んだらみんなでゲームをしたりしながら、穏やかな時間が過ぎていくのであった。

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