番外415 大切な人達と共に
まず、イチエモンやエルマー達を転移港へ見送りに向かう。
「では、テオドール公。拙者達はこれにて」
「また後日お会いしましょう」
「はい。再会できる日を楽しみにしています。今回の旅も、皆さんと一緒で心強かったですよ」
東西の一流諜報部隊所属で、しかも気心が知れている面々だけにな。共に行動して、敵の動きを読む場面にしても戦いの場でも安心感があったというか。
「それは……嬉しい言葉でござるな」
「討魔騎士団が再結成されたようで、我らとしても楽しかったですよ」
「それは私も同じことを思いながら旅をしていましたね」
「ジルボルト侯爵にもよろしくお伝えください」
と、エリオットと共に笑う。そうしてイチエモン達は転移港を通って――光を残して帰って行った。
「――それじゃ、少し街中を回ってこようか。転移港からだと、北区から東区側へ回って、最後に中央区かな」
そう言うとカルセドネとシトリアはこくんと頷いていた。
俺達も帰って来たということで、街を回ってカルセドネやシトリアに街の案内をしつつ、知り合いにも紹介して一巡りしてからフォレスタニアへ向かうということで。
鍛冶場などがある南区。孤児院と港、造船所のある西区と。周回しながらあれこれと見ていく。まずは転移港のある北区からだ。
「食料品以外の買い物は北区に来ることが多いかも知れませんね。服などは行きつけのお店があるのです」
と、グレイスが説明するとカルセドネとシトリアは馬車の窓から外の様子を眺めつつ、ふんふんと頷いていた。
「東区は私達がフォレスタニアに行く前に暮らしていたお家があるんですよ。元々生活拠点でしたから、アルフレッド様のブライトウェルト工房や、色んなことを学べるペレスフォード学舎もあります」
「東区の端にテオドールの作った火精温泉や植物園もあるから……これから色々足を運ぶ事も増えると思うわよ」
「それは……面白そう」
「うん。楽しみ」
アシュレイとローズマリーの言葉に、二人は期待感を高めているようだ。
「別邸には知り合いがいるから挨拶もしていこうか」
「別邸に住んでいるのは友好的な魔物だけれど、みんな私の作った村の知り合いだから心配はいらないわ」
クラウディアが微笑む。
というわけで別邸に立ち寄って、迷宮村の住民達ともカルセドネとシトリアを引き合わせる。近場で店を開いている迷宮商会の店主ミリアムも俺達が帰って来たということで別邸に姿を見せていた。
「こんにちは。いや、可愛らしい子達ですね」
「初めまして」
「よろしくお願いしますね」
と、ミリアムや迷宮村の面々に笑顔で迎えられるカルセドネとシトリアである。
「は、初めまして。カルセドネ、です」
「シトリア、です」
カルセドネとシトリアは――知らない相手は少しだけ不安もあるようだが、迷宮村の住人が魔物という点には頓着しないようで、笑顔で挨拶をされると少しだけ躊躇いがちにではあるが、丁寧に挨拶を返していた。
そうしてそのまま街を巡る。住民も慣れたもので、馬車と一緒に移動するコルリスやティールを見て手を振ってきたりする者も多い。このあたり、他の都市部とは少し違うところだ。
南区にはビオラの恩人の鍛冶職人達がいると説明をしたり、西区の注意も交えつつ、孤児院にも立ち寄って子供達と引き合わせたり。
「ん。孤児院は私とイルムヒルトがお世話になったところ」
「時々遊びに来るのよ」
と、子供達と院長を紹介してから、シーラとイルムヒルトがそんな風に説明する。
「じゃあ、2人の大事な場所」
「サンドラ院長……ユーフェミアやスティーヴン達みたいな人?」
「ふふ、立場としては似ているかもね」
そんな風に笑うイルムヒルトの言葉に、2人はこくこくと頷いていた。
西区から最後に中央区を回る。王城セオレムの他にも迷宮からの素材を売る市場。境界劇場、月神殿やそこから続く迷宮入口と重要設備が多い。活気のある中央区にカルセドネとシトリアは目を奪われていた。
と、広場には巫女頭のペネロープと共にアウリア、ユスティアにドミニク、ロゼッタやアドリアーナ姫もいて、俺達の馬車を認めると笑顔で迎えてくれる。
「ああ、皆様。無事に戻ってこられたようで何よりです」
「おお、テオドール!」
「ここで待っていて正解だったわね」
「おかえりなさい、皆」
「こんにちは。帰ってきました」
みんなと共に馬車から降りるとペネロープのところに嬉しそうなマルレーンが小走りでかけ寄っていき、ロゼッタにもアシュレイが穏やかな笑顔で丁寧に挨拶する。イルムヒルトがユスティア達と、ステファニアもアドリアーナ姫と、再会を喜び合っていた。
「マルレーン様とアシュレイ様、ステファニア様の大切な方々、ですね」
と、エレナがにこにこと説明する。カルセドネとシトリアは頷いて居並ぶ面々に挨拶していた。
「ふむ。今日戻ってくるという話だったのでのう。仕事を早めに切り上げられるようにしておき、フォレスタニアに遊びに行こうと話をしていてな」
そんな風にアウリアが笑う。多忙な面々だとは思うが……ペネロープはあまり外に出る事のない立場だからな。そういうところでアウリアが誘ってくれるというのは有難い。みんなも嬉しそうだ。
「ああ、それは良いですね。是非」
というわけで……みんなで連れ立ってフォレスタニアに向かう。
迷宮入口からフォレスタニアに飛ぶと――眼前に広がる光景にカルセドネとシトリアが声を上げていた。
「綺麗――」
「湖に……風景が映ってる」
そうした反応に微笑ましそうにみんなの表情が綻ぶ。
塔の上にはセシリアやゲオルグ、フォレストバード達も来てくれていて。
「ただいま、みんな」
「お帰りなさいませ、旦那様」
「お待ちしておりましたぞ。ご無事で何よりです」
と、セシリアやゲオルグ達がそんな風に出迎えてくれる。
「留守中のタームウィルズとフォレスタニアは平和でしたよ」
「冒険者達で賑わっていたのはいつも通りですが」
「それを聞いて安心した。警備の仕事から離れていたので気になっていた」
と、フォレストバードのロビンやルシアンの言葉に、テスディロスがそんな風に答えていた。
「えっと。何だろう。この感情って……羨ましい……でいいのかな?」
「うん。私達もああいう風に……大事な人達と仲良くしていきたいんだって、思う」
カルセドネとシトリアはそんな風に呟いていた。
「ふふ、お二人なら、なれますよ。きっと。スティーヴンさん達も同じ気持ちだと思います」
エレナが言うと、二人は頷いて。
「スティーヴン達もだけど……みんなや……エレナさまも、大事な人」
「うん。テオドールさまやエレナさまが戦ってくれたから、私達もこうしてここにいられるの」
そんな返答に。エレナは少し驚いたように目を見開いてから、恩師の残してくれた杖にそっと触れて、微笑んで頷く。
「――はい。私も、皆さんやお二人ともずっと仲良くしていきたいと思っています」
「そう、だな。俺も一緒に楽しく、過ごしていけたらって思うよ」
そんな風に笑って。
「というわけで、フォレスタニアにようこそ。街を案内したら、湖に見えてる城でのんびりしようか」
「うんっ!」
そう言うと、カルセドネ達は嬉しそうに笑って、いい返事で答えるのであった。
かくして、無事に帰ってこれたというわけだ。
溜まっている執務を片付けつつ、魔界の門を安置するための新区画の構想を練ったり、アルバートとオフィーリアの結婚式の事を考えたり。やる事はいくつかあるが……まあ、まずは無事に帰って来た事をみんなと喜び合えたらと、そう思う。




