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番外413 港町の宴

 別邸で出された料理はパンやチーズなどの他に、牛肉をワインで煮込んだというものもあるが……やはり魚介類をふんだんに使った料理が目を引く。

 白身魚、蟹、貝、イカ、タコといった沢山の種類の魚介類にトマトやオリーブオイル等を加えて煮込んだスープなどは、流石は港町ならではの料理と言えよう。


 丸々としたロブスターを開いてチーズをかけて焼いたものであるとか、見た目にも鮮やかなトマトやハムの入ったサラダであるとか……各種果物であるとか。全体を通して見ると明るい色合いで、いかにも南らしい雰囲気である。


「地元の漁師の料理を、料理長が取り入れて研究を重ねたものでしてな。楽しんで頂ければ幸いです」


 そんな風にフィリップが教えてくれる。そうして料理が行き渡ったところで夕食の席が幕を開けたのであった。


「――ああ。これはまた濃厚な味わいですね」


 魚介スープが何とも……。少し酸味を利かせた味付けの中に、種々様々な魚介類の旨味を濃縮したような深い味わいだ。肉厚な貝や味の染みた白身魚が何とも言えない。

 後を引くというか食欲を増進させられるというか、こう、何杯でもお代わりが出来そうな。


「後を引く味で……美味しいです」

「シーラ様が新鮮な魚を提供してくれたおかげで更に増量しておりますからな。たっぷりありますので存分に楽しんで頂ければ幸いです」

「ん。食材が増えて何より。美味」


 エレナの言葉にフィリップが笑い、シーラはそんな風に答えながら料理を口に運んで頷く。尻尾がぴんと立って耳がぴくぴく動いて上機嫌なのが傍目にも分かるというか。


 牛肉も時間をかけて丁寧に煮込まれたものらしく、肉厚なのに口の中に運ぶと簡単に崩れていって……こちらも絶品だ。

 ロブスターもまた美味い。少し焦げ目をつけたチーズと海老の香ばしさと旨味が一体になって……ああ。これも良いな。


 サラダも新鮮で……デザートとして冷やしたメロンまであって……至れり尽くせりといった感じだ。


「おいしい……」

「料理って、すごいね。魔法みたい」


 カルセドネとシトリアを見てみれば、目を丸くして一口一口味わっては顔を見合わせて笑顔になったりといった様子であった。

 まあ、カルセドネとシトリアに関してはこれまで食に限らず、生活全般はおざなりにされて不遇だったからな。色々美味しい物を食べてもらいたいし食べさせてやりたいと思う。


 シオン達もそんな2人の様子に楽しそうに笑い合っていたりして。先輩、先達として見守っている感があるな。フォルセトもそんなシオン達を見て微笑ましそうにしているし、何となく成長が見られて嬉しいのかも知れない。


 魔法生物組に関してはベリウスや、日常生活用のボディを手に入れたアルファも普通の食事を好むので、ラヴィーネやリンドブルム、ヴィンクル達と共に骨付き肉にかぶりついたりしているが。マクスウェルやライブラも感覚を共有して食事を楽しんでいたりと、割と仲が良い。

 一方でカドケウスやエクレール達は魔力を貰って活動するので、食事が済んだら魔力補給といこう。


 ティールは魚が好みなので当然今夜は御馳走だし、草食兼鉱石を好むホルンはメロンを貰って嬉しそうな声を上げていた。

 コルリスはマイペースだ。ホルンの隣でぺたんと座って鉱石を摘まんでポリポリと齧っているのはいつも通りだが、その傍らで何やらアピラシアの養蜂球に魔力を供給したりして、お礼を言われていたりした。土の気配が強い魔力だから変わった働き蜂も作れる、とそんな風にアピラシアは言っているが、どんな働き蜂ができることやら。




 食事が一段落すればイルムヒルトとシーラ、ゴーレムの楽団による演奏を楽しんだりして。その時間を使ってのんびり魔力補給もしたりしながら過ごした。


 カルセドネとシトリアも楽器に興味を示したので魔力楽器に触れて遊んだり、イルムヒルトやクラウディアも演奏の仕方を教えたりと、中々楽しそうだ。ああして色々な事に興味を持つのは良い事だと思う。


「そう言えば、また面白そうなものを作ったみたいだね」


 アルフレッドが尋ねてくる。


「ああ、海用の乗り物?」

「うん。魔道具にすると……安価にはできそうにないけどね」


 と、アルフレッドとはこうして、雑談の延長で自然と工房で扱って需要があるかという内容の相談になってしまうところもあるが。


「んー。貴族や好事家の余暇の娯楽用としては良いかも知れない。海か湖が近くに必要だけど」


 というか、それ以外の使い道はあまり考えてない代物ではある。とりあえず軍事目的での利用がされないのなら売るのは有りだな。一般流通用として海中遊覧の機能を制限するなどすれば、安易に偵察用として使われるようなこともないだろうし。


「海や湖か。ドリスコル公爵は喜びそうだね」

「ああ。それは確かに」


 公爵は新しい物好きだしな。グランティオスの面々と交流もしやすくなるだろうし、確かに需要があると思う。


「タームウィルズやフォレスタニアに置いて、遊んでもらう区画を作るとか?」

「それもありだね。他に……海や湖っていうと、国内では王都とテオ君のところ。フォブレスター侯爵、ウィスネイア伯爵、ガートナー伯爵家……エリオット伯爵のところもだね」

「カミラとサフィールも喜んでくれそうですね。元々カミラは外で身体を動かすのも好きな性分ですから」


 と、俺の言葉に頷いたアルフレッドが指折り数え、エリオットが笑う。ああ。そう言えばカミラは剣術も得意としているんだったか。

 塞ぎこんでいた時期もあったようだが、エリオットが帰って来た今は、活動的な面が戻ってきているのかも知れないな。

 それにしても、こうしてみると国内だけでも海に面した領地を持つ貴族は結構いるな。まあ、父さんのところは湖だけれど。


「フォブレスター侯爵はどうなのですかな」

「あの方は……こういうのは好んでくれるかなと。何事もご自分で確かめられて良し悪しを判断する方で、考え方も柔軟なので」


 マルコムの質問にアルフレッドが笑って答える。2人ともアルフレッドがアルバート王子と知っている面々なので納得顔だ。


「どうやらアルフレッド殿とも良い御関係のようですな」

「まあ、そうですね。ベシュメルクの一件が一段落したら、色々な話を前に進めようということになっていますよ」

「ほうほう」


 アルフレッドの答えに、フィリップやマルコムは感心したように頷く。


「差し支えなければ先々の話も聞きたいところですな」


 フォブレスター侯爵も有力な貴族だからな。2人としては今後の動向は気になるところだろうが。


「工房の仕事はそのままでも大丈夫と仰っていましたね。オフィーリアも領地経営の内情も把握していますし、具体的な実務についてもペレスフォード学舎で学んでおりますから。引退した後でも先々に渡って2人で力を合わせていけば良いと。そんな風に後押しをして下さいました。このあたりは、転移港の存在が大きいのかなと。僕の事情を酌んでくれたようで、嬉しく思っています」

「流石はフォブレスター侯爵ですな。度量が広いお方だ」


 フィリップは目を閉じて頷いていた。この話の流れで引退や領地経営の話が出るというのは……つまり色々な話を前に進めていくというのは、アルバート王子とオフィーリアの結婚の話も進行中だからということに他ならない。


「具体的な話が纏まってきたら、教えて欲しいな」

「勿論。テオ君には一番最初に教えるよ。まあ、そんなに先の事にはならないと思う」


 と、アルフレッドは嬉しそうに笑い、マルレーンもにこにこと微笑む。

 うん。アルバートとオフィーリアの結婚式では何かしら演出を担当させてもらうと前から約束をしているしな。具体的なところが決まったならこちらも色々準備を進めていきたいところだ。

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