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番外412 南海遊覧

「そうです。そうやって水をかいて進み顔を水面に出して息継ぎができるようになったなら、後は泳げる距離を伸ばしていくだけですよ」

「何だか、分かってきたような気がします。それにしてもカルセドネとシトリアは上達が早いですね」


 エレナは嬉しそうに微笑むも、先に泳げるようになったカルセドネとシトリアを見て苦笑する。カルセドネとシトリアに関してはもうかなり泳げるようになっていたりする。マルセスカあたりは、早く一緒に泳ぎたいというようにうずうずしているように見えるが。


「あ。訓練の時は、うまくいった時の感覚を、伝えあうようにしてたから何となくいつも通りにしちゃってた」

「そっか。ユーフェミアやエイヴリルは、これからは2人の間だけで納得しないように、言葉でみんなに伝えるようにって言ってたけど……確かに、よく考えたらずるだよね」


 なるほど。共感能力を使うことで、試行回数が同じ時間で2倍となり、上達速度……というより、コツを掴む頻度というか、そういった上達の機会が2倍となるわけか。泳ぎを覚えるのが早いわけだ。


「いえ、そんな事はありませんよ。便利でいいなあ、と」


 少し失敗したという様子のカルセドネとシトリアに、エレナは安心して欲しいというように微笑んで答える。


「俺も練習とか、そういう時に使うのは良いと思うよ。それは2人の能力でもあるし、今まで一緒に過ごしてきた絆でもあるんだから、否定するようなものじゃないと思う。ユーフェミア達も、考え方や感じた事、思った事を2人の中だけで止めないで、周りにも話して……そうだな。みんなで楽しく、仲良くしていきたいって意味で言ったんじゃないかな」

「みんなで楽しく、仲良く……」

「うん……うん」


 と、カルセドネとシトリアは頷いていた。

 能力。個性の違い。2人で物事にあたること。

 そういうものに自覚的であれば、共感能力を使ってもいい場面、使わない方がいい場面といった違いとて見えてくるだろう。そういう点にも自覚が見える。だから、カルセドネとシトリアに関しては大丈夫なんじゃないかと思う。


「テオドール様は、良き父親になられそうですね。納得できるような説明の仕方が上手いと感じます」

「うむ。主はそうであろうな」

「私の時も真摯に語りかけてくれましたからね」


 ヘルヴォルテの言葉に、泳いで……というより波間に浮かんで海を楽しんでいたマクスウェルが核を明滅させてそんな風に答えると、近くにいたライブラも言う。

 海上をふわりふわりと浮遊して遊んでいるウィズも帽子を折り曲げるようにして同意していた。


「んん……。そう、かも知れないわね」

「まあ、そう、ね。うん」


 と、ローズマリーとステファニアが咳払いをしたり明後日の方向を見ていたりするが。

 うん、まあね。大事なことではあるのだが、ややリアクションに困る話題だ。

 と、そこに、別邸に釣果を届けてきたシーラが戻ってくる。


「ん。充実した時間だった」


 水平線を見ながら満足げにそう言うと、海に飛び込んで……泳いで近くで浮上してきた。釣果については魚だけでなく何やらタコまで釣れて、イルムヒルトの拾ってきた蟹まであったようだが。


「ああ。おかえり」

「ん。夕飯に出してくれるって」


 釣果は別邸まで持ってくれば調理してくれるという話だったので、それらは活きが良い内に別邸に届け、そして戻ってきたというわけだ。


「あー。みんな泳げるようになってきたし、ちょっと考えたものがあるから、それで遊んでみようか」


 そう言うとみんなの視線が集まる。

 そんなわけで砂浜に上がって、メダルゴーレムに術式を刻んで木魔法、土魔法で乗り物を作ってみる。

 コルクのような質感のボードを樹脂でコーティングして防水性を持たせ、ハンドルと座席を取り付けたという簡素なものだ。


 メダルゴーレムが水魔法で推進させてくれたりするので、簡単に乗って水上を移動できる、という具合だ。ハンドルがついているのは身体の保持のため。誰でも簡単に習熟いらずというのが目指した方向性である。


 水上バイク的な乗り物ではあるが、最大の特徴はゴーレムの挙動として水中に潜っても推進可能にした事、その際にボードの操縦者を風魔法の空気のフィールドで覆って息継ぎ無しで移動できるよう調整を施したことだろう。水上及び水中推進ボードというわけだ。


「こういうのなら、海でも遊べるかなって思ってね。乗る板も軽くて柔らかめだから、ぶつかっても大した事にはならないし、乗ったまま海中を推進できるように作ってみた」

「おお。これはまた、面白そうですね」


 と、コマチが笑顔になって言う。


「少し試してみて、大丈夫そうならみんなで遊べるように他のメダルでも同じ物を作ってみるよ」


 というわけで、早速試乗してみる。

 加速減速はハンドルから行う。といってもゴーレムに指示を伝えるための疑似的なものだ。グリップを軽く捻れば加速の指示。ブレーキレバーを握れば減速の指示というのはバイクを踏襲している。

 但し、加減速は緩やかで最高速も大したことはない。誰でも乗れる安全で楽しい乗り物を目指したので、そこそこ快適な速度で海を滑走できればそれでいい。


 それでも煌めく海の上を、風を切って滑るような感覚は中々爽快なものだ。運転はゴーレムへの指示という疑似的なものではあるが、自分で操縦している感覚もしっかりとある。


 ボードの前に2つペダルがついている。これはゴーレムへ潜航と浮上の指示を出す事が可能だ。

 ゴーレムの挙動や、纏える空気のフィールドについても……概ね問題ないな。最大潜航深度も安全なところまでに制限してあり、ゴーレム側が乗り手の異常を察知したらすぐに浮上するという安全策も組み込んである。


 潜航したり浮上したりしながら遊泳場を軽く回ってきて、みんなに言う。


「大丈夫みたいだ。これと同じものを幾つか作って、少し海中遊覧に行ってみようか」


 そう言うと、みんなも嬉しそうに頷くのであった。




 そうしてみんなと共に行った南の海の中は――生態系が豊かで美しいものだった。

 洋上からはエメラルドグリーンに見えたが、水中から見れば青く映る。

 砂浜近辺の浅瀬から少し深いところまでみんなで足を延ばしてみれば――そこは赤や紫、黄色や緑がかった珊瑚や揺れるイソギンチャクやヒトデ。南の海らしい派手な色の魚が泳ぎ回っているという、何とも美しい世界だった。


「これは……すごいですね」

「綺麗――」

「こんな風にゆったりと間近で海中を見れる機会なんて中々ないものね」


 グレイスが言うとアシュレイも呟き、クラウディアも微笑む。セラフィナが能力で声を届けてくれるので海中でも問題なく会話が可能だ。

 近くに寄ってきた熱帯魚に手を伸ばして掠めるように泳いでいく魚にマルレーンもにこにことしている。


 シリウス号のモニターを通して海中を見る機会というのは結構あったが、こうして間近に、というのは、確かに今まででもそんなに多くはないだろう。魔光水脈も綺麗だったが、安全で穏やかな海というのとはまた違うしな。


 カルセドネとシトリアは広がる光景に言葉もないといった様子で、食い入るように海中の生き物たちを目で追っていた。ティールやリンドブルム、ヴィンクルも楽しそうに高速で周囲を泳ぎ回っている。シャルロッテは頭にオボロを乗せて更に自分もコルリスに乗っていたりしてご満悦そうだが。

 うむ。各々、充実した時間になったのではないだろうか。


 そうして海中遊覧を楽しんでいると段々と陽が傾いてきた。

 浜辺に戻ると、別邸の方からは食欲をそそる香りが漂い始めていて……そろそろ食事の時間のようだ。


 イチエモン達は先程買い物から戻ってきたと連絡が入っているし、エリオットやアルフレッド達も満足げな様子で戻ってきたところのようだ。珊瑚の欠片や貝殻も結構な数確保してきた様子である。

 では、海水を洗い流したら着替えて戻り、別邸でのんびり夕食といこう。

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