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番外411 南方の海で

「では、腹ごなしもしましたし、私達は少し出かけて参ります」

「わかりました。お気をつけて」

「はい。後程」


 イチエモンやエルマーやドノヴァン達。諜報部隊の面々は、俺達とは入れ替わりに大公家の使用人に案内してもらい、街へ買い物に行くらしい。

 離れた土地の港町に来たという事もあり、服やら民芸品やら、お土産を探しに行こうという事のようだ。イチエモンにとっては西国だし、エルマー達にとっては遥か南国だからな。色々と珍しいのだろう。


 そんなわけで街に買い物に行く班と浜辺に遊びに行く班とに分かれる。串焼きを食べてからそれぞれ移動する。


 日当たりのいい浜辺だった。

 結構広々としていて浜辺の白い砂と、エメラルドグリーンの海が何とも綺麗だった。波も穏やかで、浜辺と海との境目に白と薄い青緑のグラデーションが形成されており、少し遠くに目を向ければ青緑から群青色へと変化している境目が見えて……何ともため息の出そうな美しい色彩を見せている。


 色で見ると、海底まで見通せる……つまり比較的浅いところが浜辺を中心に少し広がっているようだ。

 浜辺の端から海上に向かって突堤と言えば良いのか。木の桟橋が伸びていて、その向こうに海の上に作られた東屋のようなものが見える。あれは釣り小屋としても使えるのかな。

 また、釣り道具やボートが置かれた小屋が浜辺の近くにも建てられているので……着替えにも使えて中々利便性が高そうだ。


「すごい、綺麗」

「空から見た時も綺麗だったけど、近くで見てもすごい」


 と、カルセドネとシトリアは目の前の光景に目をキラキラとさせていた。みんなもそんな反応に微笑んでいたりして。


「浅いところにも魚が沢山。宝の海」


 そんな反応をしているシーラである。釣竿を手に臨戦態勢という雰囲気だが。


「エレナ様とお二人は、泳げますか?」


 グレイスが尋ねると、3人は揃って首を横に振る。


「内陸部育ちですので……。落水しても大丈夫なようにという程度の術なら船上で師から教わっていますが」

「とりあえずは飛行呪法の応用で、問題ないって」

「水中呼吸の術なら、できるよ」


 と、そんな解答が返って来た。

 なるほどな。エレナの場合は漂流生活があったから、というわけか。

 カルセドネとシトリアは……場合によっては泳ぎも教えているかと思ったが、ある程度海中での活動も、飛行も可能だからと特に泳ぎは習得してはいないと。


「でしたら泳ぎも覚えますか?」

「良いのですか?」

「勿論です」


 と、グレイスが微笑む。


「私もグレイス様から教わって泳げるようになったんです」

「泳げるようになると中々楽しいものではあるわね」


 アシュレイがにっこり笑い、ローズマリーがそんな風に言う。

 うむ。では、とりあえず諸注意だけは伝えておくか。特に、カルセドネとシトリアには丁寧に物事を進めた方が良い。


「ああ。その前に。エレナは知っていると思うけど、あの桟橋が伸びている東屋のあたりまでは水深も浅いみたいだ。東屋より向こうは――見えるかな? 色合い的に緑から群青の深い色になっている」


 そう言うと3人は海を見て、首を縦に振る。


「ああして海の色が変わっているのは――水質の違いの場合もあるけれど、今回の場合、光が底まで届きにくくなっている深い所だからなんだ。精霊の加護もあるし自前の術もあるから溺れるっていうことはないとは思うけれど、海には波や気付きにくい水の流れがあるからね。気が付いたら沖にいたなんてこともある。泳ぎを覚えるにしても、浜辺や浅瀬で遊ぶにしても、あまり遠くまではいかないようにね」


 そんな風に伝えると、エレナは確かに、というように目を閉じて首肯し、カルセドネとシトリアは神妙な面持ちでこくこくと頷いていた。


「そうですね。綺麗ですが自然は怖い面もあるので、気を付けましょう、二人とも」


 と、エレナが言うとカルセドネとシトリアも答える。


「うん。浜辺が見えるところにいる」

「私達だけで、遠くにいったりしない」


 うむ。素直で大変結構なことだ。

 一応、少し離れたところにシリウス号も停泊させている。桟橋の東屋と合わせて自分の位置関係は判断しやすいとは言える。これに加えて念のためにティアーズ達にも空から監視しておいてもらえば環境としては安心だ。


 というわけでティアーズ達に命令を出し、水中呼吸の魔法もみんなに用いておく。闇魔法で日焼け防止のフィールドを展開すれば準備は完了だ。


「子供達もこの環境なら安心でしょうか。浜辺で貝殻や珊瑚の欠片を探してみたいなとも思っていたのですが。飾りにすればカミラも喜んでくれるかも知れません」

「ああ、それはいいね。僕もオフィーリアに何か探してこよう」


 と、エリオットの言葉にアルフレッドも相好を崩す。


「ああ。ティアーズ達にも動いてもらっているから大丈夫かな。精霊の加護もあるし」


 そう答えると2人は頷いて、ヒポグリフのサフィールも嬉しそうにエリオットに続いた。 


 そうして小屋へと水着に着替えに向かう。手早く着替えて小屋から出ると、入れ替わるように女性陣も小屋へ。

 少し待っているとみんなも出てくる。

 鮮やかな色合いの水着と、明るい陽光に映える艶やかな髪と白い肌が……何というか、健康的で眩しく感じてしまうというか。


「お待たせしました」


 と、グレイスがにっこりと微笑む。


「うん。ああ、そうだ。海に入る前に手首や足首はこう、少しほぐしておくといいよ」


 というわけで軽く準備運動をして身体をほぐしてから海へと入る。

 カルセドネとシトリアは海に入るなり、塩辛さを感じて目を丸くしていた。


「塩水なんだ」

「しょっぱい」

「海水は塩気がきついからね。そのままじゃ飲み水にはならないし、少しぐらいは大丈夫だとしても沢山飲んだりすると身体に悪いから気を付けてね。水中呼吸は海にも対応しているから、潜った場合はそのへんも防いでくれるけど、泳ぎを覚えるならちゃんとした息継ぎも覚えた方が良いね」

「ふふ、ではこちらへ」

「まずは……そうね。海中で目を開いたり、身体の力を抜いて水に浮かぶ事から覚えていきましょうか」


 と、グレイスやクラウディアはそんなやり取りに微笑んで、早速エレナ達に浅い場所で泳ぎの指導を始める。

 3人がもう少し水に慣れたら魔法を使って海の中を見に行くのも面白いかも知れないな。


「いざ」


 シーラは東屋の縁に腰かけて釣りをする気満々のようだ。遊泳の邪魔にならないように深い方に糸を投げていた。


「ふふ。私も少し泳いだら、シーラの隣で演奏してこようかしら」


 イルムヒルトが俺の横から海面に浮かび上がってきて笑う。光る水滴。濡れた髪と肌を間近に感じる。どうやら人化の術を解いているようで。


「ユスティアの教えてくれた曲?」

「ええ。釣りの邪魔にならないし、加勢が欲しいって言うなら、釣りの手伝いができる曲もあるわ」

「ああ、うん。真剣勝負みたいだしね」


 俺の言葉にイルムヒルトは耳と尻尾がぴくぴくと反応しているシーラの後ろ姿を見て、微笑んで頷いていた。

 コルリスの背中にステファニアとマルレーンが乗って、楽しそうに笑い声をあげている。他の動物組も早速海を楽しんでいるようで。

 特にティールも久しぶりの海ということで嬉しそうな声をあげ、心地よさそうに泳ぎ回っている。


 コマチはコマチで、何やら水上を歩行していた。円形の物品を足に装着していたりして。


「面白い道具ですね、コマチさん」

「ふっふっふ。イチエモンさんが水上用に珍しい道具を持っていると仰るのでお借りしたのです。水遁に使う道具で加工の仕方は秘伝だそうですが、魔道具の類ではないらしいですよ。これも水蜘蛛というらしいので、この衣の糸を吐く魔物と同じ名前ですね。おっ……と、と」


 と、そんな調子でビオラに受け答えしながらもふらついたりしている。どうやら使いこなすのに少し熟練が必要なようだ。

 うん。面白いな。俺も前に魔法で浮き輪を作ったり、水上を滑ったりしたことがあるが、本物の忍者の水蜘蛛というのは初めて見る。景久の記憶ではあまり上手く浮かばないとか、実は浮き輪だったのではないかなんて話を聞いたことがあるが、コマチの使っている水蜘蛛はイメージ通りのそれだ。ああいうのを見るとこちらとしてもモチベーションが上がるというか。


 ふむ。海用に何か乗り物でも作ってみようかな。ゴーレム用のメダルもあるし、即席でもまあまあの物を作れるのではないだろうか。

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