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番外410 双子戦士の社会勉強

 串焼きということで、そのまま串からかぶりつくのには作法的に抵抗があるという面々も多い。そこは木魔法で即席の器を作って外してやれば問題ないというわけだ。


「ありがとう。でも街角を見ていると、みんな串から美味しそうに食べるのよね。小さな頃は何だか良いなって思って見ていたわ」


 木皿に取り分けるとステファニアがそんな風に言って微笑む。


「ああ。それは何となく分かります」


 アシュレイが微笑む。


「姉上やアシュレイは根が真面目だから自分の立場に責任を負い過ぎなのよ。わたくしは……隠れて街に出た時はその時々に合わせていたわよ? そんな事で疑われても困るというのもあったけれどね」


 と、ローズマリーが肩を竦める。ローズマリーは城を隠れて抜け出していたので、食事を手早く済ませるために屋台等を利用したことも多いそうで。


「なら、ここなら怒られる事もないし、作法を合わせてみようかしらね」

「ん。それがいい。串焼きもきっといつもより美味しい」


 その横で、串焼きに刺さった貝をもぐもぐとやって、シーラはそんな感想を漏らしていた。マルレーンも微笑みながらこくこくと首を縦に振って。グレイスやクラウディアがくすくすと肩を震わせる。


 買い食い立ち食いであるが、まあ、中々に和やかな空気である。

 何種類かの貝を串に刺して、バターや少しの塩で味付けしたというものであったが、塩加減等々の味付けが丁度良い塩梅で、香ばしさや貝の歯ごたえ等々も相まって、これが中々に美味い。


「美味しい」

「歯ごたえが不思議」


 と、カルセドネとシトリアはそんな風に感想を言い合って頷いていた。それからこちらに視線を向けてくる。

 とりあえず、屋台で食べる目的等々については説明済みなので、俺も2人に頷いてから話を始める。

 値段は、普通の屋台といった感じだ。一本2モール。物価や貨幣価値というのは単純比較できないが……ざっくりとした日本円的な感覚で言うならば、200円支払った程度……だろうか? 串一本のボリューム感はそこそこでも冷静に考えれば割安感はあまりないが、屋台というのはこういうものだろう。


「タームウィルズじゃ大体兵士の日当が――少ない場合でも4キリグ銅貨になる。キリグはモールの10倍だから一日仕事をして40モール。この串焼きにして20本分ぐらいになるかな」


 そんな風に切り出しながら一般的な家賃、食費等々の計算をして、大体月にどれぐらいの収入があれば普通の生活ができるのかといった話をしていく。


「家賃はどんなところに住んでるかで結構変わってくるけどね。大雑把な話だけれど、家賃として月20から30キリグなら、そこそこの物件に住める。食費は……そうだな。1人なら月30キリグぐらいで足りると思う。そこから諸々出費を差し引いていけば――」


 と、簡単に計算をしてみせて、だから兵士を基準に月100キリグぐらいを稼げれば、生活の維持について言うなら問題ない、という話をする。


 2人は真剣な表情で俺の話を聞いた。2人にとっては自立した生活というのは、スティーヴン達の生き方に関わる内容でもあるからな。


 ベシュメルクの通貨は違うが貨幣価値もそれほど変わらない。

 末端の兵士を例えに出したが、勿論カルセドネとシトリアの場合、日当換算では、もっとかなり上を行く。これは高位の騎士相当の実力、と判断されているからだ。


 今までの給金を纏めて貰って……2人合わせてベシュメルクの金貨で500枚程になる。一財産に感じるし、贅沢や散財をしなければ食うのには困らないだろう。

 これが一生涯、となるとやや心許なくも感じるが……それは二人の年齢が仕えた年数だと考えると納得のいくところだ。


 この数字も今までの給金を使うことなく全て貯蓄に回していたわけで。そう考えれば世間的な基準としては不思議ではない。世情に疎い子供が持つには不安を感じるというだけだ。だから、必要のない浪費であるとか、不当にだまし取られるといった事がないように、こちらが気を配ってやる必要がある。


 ただ、2人とも計算能力はかなり高いそうで。支払う給金を試算し、詳しく説明しようとした時に瞬時に答えを出したそうである。

 読み書き計算については習得しておけば作戦行動中に役に立つ場面があるからと、ディアドーラに教えられたそうで、知識は偏りがあるものの結構幅広いものを持っているようだと、クェンティンから話を聞かされている。


「とにかく、手元に纏まったお金があると、その分だけ選択肢――使い道も増えるからね。だからと言って考えて使っていかないと、気が付いたら必要なお金まで無くなっていた、必要になった時に足りなかったなんてこともある。だから貯蓄とは別に、収入と支出を考えて、月に使える金額を決めてその中でやりくりする。余りを少しずつでも貯めていくっていう……そう、感覚を得る事が必要になってくるわけだ」

「感覚を――得る」

「それは、大事な事、だと思う」


 感覚を得る、という言葉にカルセドネとシトリアは思うところがあるのだろう。何せ、知らなかった感情を得たことで、今2人はここにいるのだから。


「例えば、武術にしても魔法にしてもそうなんだけど……。体力の配分や魔力の残量に気を付けないと後が続かないって言えば、2人にも言いたいことが伝わるかな」

「訓練して、覚えないと丁度良いところが分からない?」

「収入と支出……自分の体力と魔力。戦いの中での消費……。うん」

「そう。そういうこと」


 大体の意図するところは伝わったかな。カルセドネとシトリアの知識に沿った喩え話ではあるが。

 まあ、2人が自分で生活費を稼ぐ方法について話すなら、冒険者として迷宮に潜っているだけでも大丈夫な気もするが。冒険者なら尚更真っ当な金銭感覚は必要だからな。

 2人の反応に頷いて言葉を続ける。


「だから、分からない内は慎重にして、時には他の人に相談しても良い。分かってきたら考えた上で。これには使っても良いとか、高いけど必要だから対価を払うだとか……逆に無駄だから使わない、割に合わないから控える。そんな風に配分や価値を見て決めるわけだね。まあ……中には安物を不当に高く売りつけようとする輩もいるし、買い手側にだって本当に価値のあるものの値段が分からず、正当な対価の支払いを渋ったりして良いものを買い逃す、なんてこともあるけど」


 そのあたりは戦いにおける駆け引きと同じようなものだと、先程同様、2人の知識に合わせて武術や魔法になぞらえて話すと、すんなり腑に落ちるらしい。


「それと……息抜きも必要だから、時には遊ぶ事、楽しむ事にもお金を払うのもいいんじゃないかって思う。串焼きは一食の食費としてはちょっと割高だけど、みんなでこうして、楽しく食べたっていう記憶は残るからね」


 そんな風に串焼きに話を戻して話を結ぶ。


「テオドール様のお話は、分かりやすくて納得できます」


 エレナが言うと、カルセドネとシトリアも首をふんふんと縦に振りながら感心したような表情で拍手をしてくれた。


「確かに、思い出も大事よね」


 そんな風に目を閉じてイルムヒルトが言うと、他のみんなもうんうんと頷くのであった。

 そうして別邸に戻り、留守番をしていたみんなと合流する。


「ただいま」

「ああ。おかえり、テオ君」


 と、アルフレッド達が動物組と共に迎えてくれる。とりあえず少し寄り道をして、みんなの分も串焼きを買ってきたという旨を伝える。


「ああ。いいね。ちょっとだけ小腹も空いてたかなって思っていたところなんだ」


 そう言ってアルフレッドは串焼きを受け取ると、そのまま上機嫌そうに口に運ぶ。うむ。アルフレッドに関しては変装歴も長いのでこの辺、慣れたものという印象があるな。

 というわけで、みんなも串焼きを食べたらのんびり浜辺へ向かうとしよう。泳いで遊ぶなり、浜辺で貝殻を探すなり――或いは釣り竿を用意しているシーラのように釣りをするなり、思い思いに楽しめれば良いのではないかと思う。

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