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番外408 初めて海を見た日

 黄金の蜂の巣こと、アピラシアの家はシリウス号の艦橋に仮設置をさせてもらった。木魔法と土魔法を用いて台座を作り、床と壁に固定。

 シリウス号が戦闘機動を取った際のGにも耐えられるよう、台座にレビテーションの魔道具を組み込んで、家が壊れないように対策を施しておく。

 ついでというか、台座の余ったスペースに噴水とベンチの模型をつけ足したりしてみる。蜂の巣をイメージした六角系の噴水。ベンチもアピラシアが使用しても問題ないスケールだ。


 それを見たアピラシアが声を上げていた。

 ――綺麗な噴水と長椅子ですね。使っても大丈夫なんですか? と、そんな内容だ。少しアピラシアと接して分かったことだが、こう、触覚が丁度眉毛のように動くので何となく感情も読み取れるというか、普通の蜜蜂より感情表現が豊かな気がする。


「細工が細かくて素敵ですね」


 と、エレナがそれを見て微笑む。


「折角だから作ってみたんだ。噴水は後で魔石を入れて、綺麗な水が出るようにしておこうかなって。椅子の方はもうしっかり座れる程度には作ってあるよ。ここに帯がついていて、椅子に身体の固定も可能になってる」

「テオドールは私の座席も良いのを作ってくれたんだよ!」

「我も日常用のゴーレムを拵えて貰ったしな」


 と、セラフィナやマクスウェルが言うと、アピラシアは大きく頷き、嬉しそうな声でお礼を言ってくる。ライブラもうんうんと頷いていたりして。


 ベンチについてはシートベルト付で、腰かけると丁度艦橋の正面が見える位置になるというわけだ。木魔法で綿毛とコルクを圧縮し、座り心地を良くすると共にアピラシアの体型も考えて作ったつもりだが、どうだろうか。


 アピラシアは椅子に腰かけてシートベルトを装着すると、座り心地も良い感じです! と教えてくれた。


「こう言うのを見ると、私としてもセラフィナちゃんとアピラシアちゃん用に日用品を作ってあげたくなりますね」

「ああ。それは面白そうです。小さくても実際に使える奴ですね」


 コマチが笑顔で言うとビオラも同意していた。おお……と、目を輝かせるセラフィナとアピラシアである。

 何となくミニチュア模型を作る感覚というか。確かにそういった小物作りは楽しいかも知れない。実際に使ってくれる面々がいるなら尚の事だ。そんな調子で賑やかな雰囲気のシリウス号は、デボニス大公領の南を目指して進んでいく。


 カルセドネとシトリアは模型を見たり、水晶板から見える周囲の風景を食い入るように見たり、それにイルムヒルトの奏でるリュートの音色に身体でリズムを取ったりと、見るもの聞くもの全てが新鮮という様子だ。


「ん。海が見えてきた」


 そんなシーラの言葉に、カルセドネとシトリア、それにアピラシアも反応を示した。シーラの見ていた方向を見やり、各々声を上げる。


「すごい……青くて、広い」

「光できらきらしてる……」


 アピラシアも、海を見るのは初めてです、とそんな風に呟いていた。


「海を初めて見た時の事を思い出します」

「うん。感動するよね!」

「……海。好き」


 と、双子の反応にシオン達もそんな風に言う。共感する面々も結構いるようで、グレイスも相好を崩したり、アシュレイも同意するように頷いていた。


「シルン伯爵領は内陸部だからね」

「はい。初めてタームウィルズを訪問して、海を見た時は私も嬉しかったです」


 と、相好を崩すエリオットとアシュレイである。


 やがて――断崖の港町が見えてくる。

 前に来た時と同じように領地の近くにシリウス号を停泊させる。但し、今回は姿を消しておく必要が無い。飛行するシリウス号を見て、断崖の上側の街の住人達が沿道に顔を出して手を振ってくれていたりする。

 ベシュメルクからの無事な帰還を喜んでくれているようだ。フィリップから通達が行っているのかも知れない。


 そうしてシリウス号から降りると、すぐに街から迎えの馬車がやってきた。こちらの人数も多いので何台も連なってやってきて……先頭の馬車からフィリップ夫妻とマルコム夫妻が顔を出す。


「おお、テオドール公! 皆様も!」

「ご無事で何よりです!」

「ありがとうございます。ただいま戻りました」


 と、笑顔で再会の挨拶を返す。マルコム夫妻は転移港からタームウィルズ経由でデボニス大公領に訪問中である。


「お二方とも、大変だったのでは? 作戦立案に関わった身としては後方拠点をお任せしてしまって、気苦労をかけてしまったかなと」

「いやいや。気さくな方ばかりでしたし、将兵も精鋭揃いで規律正しく、領民達からも評判が良かったですからな」

「そうですな。寧ろ賢君と知己を得られたのは喜ばしい事と思っておりますぞ」


 と、フィリップとマルコムは相好を崩してそんな風に言う。

 なるほど。気苦労から解放されて羽を伸ばすと言うよりは……一仕事やり終えた達成感的な空気が2人にはあるような気がする。


「ふふ。コルリス達も、今度は堂々と外に姿を見せても大丈夫だから嬉しいみたい」


 と、タラップを降りてきたステファニアが言う。


「ああ。リンドブルムやアルファ達も喜んでるみたいだね」


 ぞろぞろと降りてくる動物組と魔法生物組。リンドブルムも陽射しを浴びながらにやりと笑ったりして。魔法生物組も堂々と姿を見せられる。

 カルセドネ、シトリアと共に、アピラシアも新しい仲間ということでお互いに紹介する。


「はじめ、まして」

「よろしくおねがい、します」


 少したどたどしく挨拶するカルセドネとシトリア。丁寧に挨拶の仕草を見せるアピラシア。

 フィリップもマルコムもアピラシアを珍しがりつつも上機嫌に挨拶を返し、カルセドネ、シトリア、アピラシアそれぞれと握手を交わしていた。

 その後で、フィリップはこちらに向き直る。


「この後の事なのですが。少し御意向をお伺いしたく。崖下にある小さな浜辺の近くに、別邸がありまして。余人が立ち寄る事なく浜辺で過ごせる場所になっております。城と別邸と、お好きな方で滞在できるように準備を進めておいたのですが、どうなさいますか?」

「それは……お心遣いを頂きまして。少し皆と相談しても?」

「勿論です」


 というわけでみんなの意見を聞いてみる。


「行きがけに、戻ってきたら海で遊ぼうと話をしていたものね。特に問題がなければ別邸でいいのではないかしら?」


 ローズマリーが言うと、みんなも頷く。

 というわけで……満場一致で別邸で滞在という結論になった。ティールがフリッパーをパタパタとさせて嬉しそうな声を上げる。

 それを伝えると、フィリップは笑顔で頷いた。


「では、そちらに案内致しましょう。シリウス号も海側に停泊させた方が何かと便利かも知れませんな」

「それは確かに。では――」

「はい。馬車では崖下側まではお送りできないので戻らせましょう」


 というわけで、フィリップ夫妻、マルコム夫妻と共に再びシリウス号に乗り込み、崖下の別邸まで案内してもらう。

 崖下側の街の外れに別邸はあった。デボニス大公家の別荘ということもあり、かなり立派な洋館だ。


 近くの浜辺というのも敷地内の庭から直接降りられるようになっているようで……プライベートビーチといった印象である。

 別邸の近くにシリウス号を停泊させて、みんなでタラップから降りる。


「知らないにおいが、する」

「ふしぎな、におい」


 と、カルセドネとシトリアはそんな風に言って周囲の匂いを嗅いでいた。


「潮の匂いね。海が近いとこういう匂いがするのよ」


 クラウディアが言うと2人はこくこくと頷いて再度大きく息を吸い込んでいた。うむ。

 そんなわけでちょっとした休暇である。海も綺麗だし、港町で水蜘蛛の糸を使った水着も売っているという話だ。街で買い物をしたりしながら、後で浜辺に繰り出してみるとしよう。

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