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番外402 夜空に咲く

 というわけで、余興に使えそうなのでミスリル銀線の束を借りる事にする。丘陵地帯から回収してきた物、ということでかなり長い糸束が手に入っているのだ。

 後はこれにメダルゴーレム達を組み合わせればいけそうだ。今の内に術式を組んでウィズの機能も一部割いて、ちょっとした計算とシミュレーションを行う。……よし。これなら何とかなるな。


 そうして準備を進めていたところで、クェンティンと共に赤ん坊を抱えた女性が近付いてきた。


「テオドール公。少し良いでしょうか」

「はい、クェンティン殿下」


 真剣な話のようなので、一旦術式のシミュレーションを中断して3人と向かい合う。


「妻のコートニーと、息子のデイヴィッドです。紹介をしておきたいと思いまして」

「コートニー=ベシュメルクと申します。この子はデイヴィッドです」


 コートニーは少し緊張した様子で一礼し、デイヴィッド王子も俺に紹介してくれる。


「これは……丁寧にありがとうございます。初めまして、デイヴィッド殿下」


 と、挨拶をするとデイヴィッド王子は薄く目を開けて、俺を見てからきゃっきゃと笑う。

 あまり人見知りをしない子のようだ。こちらに向かって一生懸命小さな手を伸ばしてきたので握手をするように軽く手を出すと指を握られて、嬉しそうに笑いながら小さな力で握りしめられた。

 グレイス達もデイヴィッド王子を見て、微笑ましそうに表情を緩めていたりして。こちらの面々とも挨拶をするとコートニーが口を開く。


「その……祖父の事なので些かお伝えするべき言葉が難しいところはあるのですが、できるだけ早くお会いし、気持ちを直接伝えておきたいと思った次第なのです。この国に変化が無ければ、いずれ私達の子からも……笑顔が失われていたのではないかと。祖父はその……肉親相手でも、とても冷たい人でしたので」


 コートニーは少し言葉を選びながら言う。


「隷属魔法の用意もできたのでクロムウェルやディアドーラに問い質したところ、テオドール公の予想は当たっていたようでしてな。妻から言うのは難しい部分はありますから、私から、我が子を助けて頂いた事の感謝を申し上げておきます」


 クェンティンがそう言って、一礼してきた。

 そうか……。やはり入れ替わりを計画していたわけだ。

 若返りを前提とした計画など……秘術を知っていなければ想像にも至らないような内容ではある。

 だが肉親だからこそ、それを聞けばザナエルクという人間が本気でそれを計画していたのか、実感を伴って分かってしまうのかも知れない。


「お二方の仰りたい事は分かります。経緯が経緯だけに、複雑な部分もあったかも知れませんが……お言葉とお気持ちは確かに受け取りました」


 そう答えるとクェンティン夫婦は真剣な表情で俺の目を見て頷いていた。


「この後は……そうですね。ささやかではありますが、少し考えている事があるので、見ていっていただけたら幸いです」

「それは……楽しみですね」


 仕組みの違いはあるが、確か……日本での元々の意味合いは鎮魂や慰霊であったはずだ。今回の宴の意味にも沿うものとして受け取って貰えればいいのだが。




 みんなの食事も一段落して、酒杯を酌み交わしたりして談笑したりという段になったところで、俺も準備に回る。

 メダルゴーレムに術式を覚えさせるのに少しだけ準備が必要だったので、その間に通達してもらう。『魔法でちょっとした出し物を行うのでのんびりと見て行って欲しい』であるとか、どうしても目立つので街の住民にも『ただの出し物でしかないので驚かないで欲しい』といった内容だ。


 そうして、城の中庭から見える位置を選んで城壁の上にミスリル銀線を伸ばし、要所要所にゴーレム用のメダルを配置して銀線で縛る。


 俺自身は左右に伸ばしたミスリル銀線の丁度真ん中に立つ。そうしてウロボロスを構えてミスリル銀線に魔力を流し、ゴーレム達に一気に魔力を供給していく。


 ……よし。いけそうだ。広範囲に術式を展開するのは得意ではないが、ミスリル銀線で繋がったメダルゴーレム達がマジックスレイブの代わりを務めてくれるだろう。使うのは――光魔法と風魔法。元は伝令用に開発された光魔法で、信号弾に近い。救援を求めたり暗号も送れるようにと色々パターンを構築できるようになっている。それほど高度の魔法ではないが、それを応用すれば――。


 みんなの注目が集まる中で、メダルゴーレムに指示を出す。弾けるような音と共に城壁に配置されたメダルから一斉に光の玉が打ち上がる。高空に打ち上げられたところで、風の音響弾と共に光が弾けた。放射状に光の粒が広がって、煌めきを放ちながら消えていく。


 続けて光の玉を打ち上げる。僅かな時間差で、次は色違いの光が夜空に広がる。


 それを見上げる兵士達の顔が一瞬驚いたようなものになった後で――これが出し物の内容だということを理解してあちこちから歓声があがった。


 そう。光魔法を使った花火の再現だ。音響弾を使って花火の小気味よい音も再現しているが、火魔法ではないので誤爆した時の危険性がすこぶる少ない。


 理解してもらったところでどんどんと打ち上げていく。赤、青、緑、黄色。一個置きに交互に次々と打ち上げたり、右端から左端に向かって波のように打ち上げたり。

 高空で破裂する光のパターン、動きを様々に変えて。景久の記憶に残る花火大会の様子を魔法で再現してみせる。風魔法は音響弾だけでなく、空に残る火薬の煙も再現する。この煙に光を当てる事で色のついた煙というような演出をすることも可能だ。


 夜空に大輪の花を咲かせる。赤から青に変わる花火玉。煌めきを次々に閃かせながら消えていく光。破裂した後の光の玉が複雑に跳ね回るような軌道を描いて四方に散るような花火。

 破裂した後の光が柳の枝のように余韻を残して降り注いだり、打ち上げられた魔力の花火玉が空中に留まってそこから光の滝を形成したり。


 様々なパターンを構築したかと思えば同時に同じパターンで炸裂する魔力玉を打ち上げて、一斉に夜空を明るい色で照らす。大きく破裂させず、小さく煌めきを散らす魔力玉。


 みんなの様子を見てみれば、打ち上げられる花火を見上げて笑顔になっていた。花火の光に照らされて。笑顔になって歓声や拍手を送ってくれるグレイス達や王様達。

 目を輝かせて夜空を食い入るように見上げているカルセドネとシトリア。そして火花が散るたびに手を動かしてきゃっきゃと喜ぶデイヴィッド王子。酒杯を掲げて快哉を叫ぶ兵士達。


 動物組も目を瞬かせたり、フリッパーをパタパタと動かしたり。ベシュメルクの街側でも住民達が沿道に顔を出して夜空を見上げている。


 うん。みんなの受けも良いようだ。どんどん行こう。

 控え目なものにしたり派手なものにしたりと緩急をつけて、盛り上がってきた流れに沿って一気にラッシュを仕掛ける。


 大小様々。色とりどりにいくつものパターンを重ねて。下方に光の扇を作り上空に大玉を続けざまに炸裂させる。

 段々と規模を大きなものにしていく。一際大きな玉を炸裂させて、光の雨を降らせ。余韻を残すように煌めきを散らして。これで終わりと、思わせたところでメダルゴーレムからの打ち上げの軌道を交差させ、夜空の広範囲に光の花を広げてみせると大きな歓声と拍手が上がった。いくつも重なる音響弾はリズムに乗ってきた太鼓のようだ。


 そうして、最後に煌めきを散らしながら上昇していき、夜空一杯に広がるような大輪の花が咲く。余韻を残すように長く長く光のシャワーを降らせて……俺の出し物を終えるのであった。


 あちこちから大きな拍手と歓声。


 そうしてミスリル銀線を巻き取り、メダルゴーレムも回収して宴の席へと戻る。


「すごく綺麗でした」

「すぐに消えてしまう儚さも、味があっていいわね」


 アシュレイとクラウディアがそんな風に言って。みんなもうんうんと頷いてくれる。


「いや、素晴らしい内容であった」


 と、パルテニアラが俺を迎え、ティエーラ達高位精霊も笑顔で拍手をしてくれた。カルセドネとシトリアやデイヴィッド王子達も喜んでくれたようで何よりだ。


「何と言いますか。魔法や呪法には……こんな使い方もあるんじゃないかなと」

「魔法や呪法を戦いに使わなくても済むように……ですか」

「これから……平和になってくれたら良いですね」


 エレナとガブリエラもそう言って頷いて。クェンティンや侯爵、バルソロミューも感じ入るように目を閉じる。

 そう。そうだな。本当の花火にしたって、戦いのために使われていた火薬を花火として使うことで、平和になってくれることを願ってのものであったというし。

 魔法で再現したものだけれど、花火の元々の意味ということで伝わってくれるなら、俺も嬉しいと思う。


 そうして、俺の余興が終わったところでまた楽士達が演奏を再開して。宴の夜はゆっくりと過ぎていくのであった。

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