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番外401 友との道行きに

「――思えば、暗い時代だった。我らは先王の下で武芸を磨き、魔術を磨き……そう。然るべき時に備えた。それが必要な事だと言われたからだ。だが、振り返れば何を敵とするのかも知らず、何と戦うべきかも見定める事ができていなかったのではないだろうか」


 ベシュメルクの王城で、居並ぶ兵士達や文官達を前にクェンティンが挨拶を行う。


「確かに、戦いの日は来た。しかしそれは我らの誰しもが思うものとは違っていたのだ。理由や目的を見誤ったままで剣を交えるのはただただ不幸な事だ。しかし……戦いの場に立った者達――この場にいる多くの者は、剣を握るために、杖を振るうためにあるべき姿を目にしたはず」


 クェンティンの言葉に、中庭に並んだ兵士達が真剣な面持ちで頷いていた。

 宴会の始まりを告げる口上。それは戦いの結果が云々というよりは、これからのベシュメルクや、交流を持つ国々との歩みに向けられたものであるのだと思う。

 城のバルコニーから酒杯を掲げてクェンティンが声を響かせる。


「戦いを経ても我らはこうして生きている。その事を喜び合うと共に、今までの事を、そしてこれからの在り方を考えなければならない。今こそ閉じていた目を開き、永き停滞から前に進む時が来たのだ。今日という日はベシュメルク王国の新たな門出となろう。隣を歩く友との道行きに祝福があらんことを!」

「我らの道行きに祝福があらんことを!」


 皆の声が重なって掲げられた酒杯が一息に呷られて。宴会の席が幕を開けたのであった。

 料理はベシュメルクのものと、俺達が用意したもの、各国の料理などがあって。共に進んでいこうという宴の席で饗される料理としては符号する内容になったのではないだろうか。


 俺達からはマンモスカツであるとか魚介類のフライであるとか魔物の食材の揚げ物に醤油やタルタルソース等を添えたり。白米とカレーを用意してカレーライスやカツカレーにできるようにしたり。更に豚汁も用意している。


 酒は東国から清酒や老酒、グランティオスからも海洋熟成酒が持ち込まれたりしていて。早速各国の酒を飲み比べてみようなんて面々もいるようだ。


「ほおう。これが遥か東の酒か……」

「深海で寝かせた酒というのもあるらしいぞ」

「ほうほう。では……どれからいくかの」

「ふむ。それぞれで違うのを飲んでみるというのはどうか」

「それも面白いな」


 といった調子で早速酒を飲むことにしたのはドワーフの樵とその友人関係にあるドワーフ達である。

 何でも侯爵領では見回りや怪我人の手当、物資の運搬などに持ち前の腕力を活かしてかなり尽力してくれたらしい。

 なので功労者ということでスコット達と共にマルブランシュ侯爵領側の参加者として今回の宴に参加中である。


 各国の酒を杯に注いで味わい、それぞれたまらないといったようなリアクションをしていた。流石にドワーフは酒好きといったところだろうか。


「カルセドネとシトリアは、普段はどんなものを食べていたのかしら?」

「パンと野菜や、キノコのはいったスープ」

「身体を鍛えるから、魚と肉も必要だって、焼いたのを」


 クラウディアが尋ねると、2人はそんな風に答えた。


「あー……。俺らの時と同じか。だが、味付けや料理法は適当だったな。連日同じだったりとか」

「精神が抑制されていれば不平不満は言わないし、味だって気にしないものね」


 スティーヴンやイーリスがうんざりと言った様子でかぶりを振る。

 十分な栄養さえあれば、後は手のかからない方向に、ということか。


「それじゃ、ちゃんとした料理は今日が初めてかしらね」


 と、ローズマリーが2人の分を皿に取り分けて持ってくる。ケチャップのかかったオムライスに、タルタルソースのかかったエビフライやポテトサラダといった具合だ。カルセドネとシトリアの視線が釘付けになる。


「何だか、色がいっぱいで、綺麗」

「良い匂いが、する」

「どうぞ、召し上がれ」


 2人の反応に、そんな風にグレイスが微笑んで。スプーンを使って、オムライスをカルセドネとシトリアが口に運ぶ。

 そうしてもぐもぐと口を動かしていたが、大きく目を見開いた。


「すごい……! ふわふわで、口の中で広がって……!」

「びっくり、した……!」


 そこからはノンストップといった感じでどんどんと料理を口に運ぶ。

 そんな反応に、みんながしてやったりと言うように顔を見合わせ笑顔になる。料理を一緒に作ったアシュレイとマルレーン、イルムヒルトがハイタッチしたりして。

 小蜘蛛達もさもありなん、という感じで頷いているが。


 ともあれ、カルセドネとシトリアには気に入って貰えたようで何よりだ。ロジャーもタルタルソースが気に入ったのか、魚のフライと一緒に食べて快哉を上げている。うむ。


 ベシュメルクの料理は肉の蒸し焼き料理であるとか、サラダにチーズを添えてレモン汁やオリーブオイルをかけたもの等々……がっつりとした見た目のものから爽やかそうなものまで色々あって、総じて料理の見た目も洗練されている印象だ。

 こちらも交流ということでベシュメルクの料理から手を付けてみることにした。半分バイキング形式に近いもので、女官に料理を取り分けてもらうという形だ。


「こちらはこの国特有の魔物料理なのですが……大丈夫ですか?」

「タームウィルズでは魔物の食材は食べ慣れているので大丈夫かと。話題の種にもなりますし、友人に何の魔物か聞いてみますね」

「では、どうぞ」


 ということでその肉料理を貰ってきてテーブルに戻り、口に運んでみることにした。

 見た目はラムチョップに似ているが。ふむ……。味は……蟹に似た旨味がある? 香辛料と柔らかな肉の食感。美味しいのは間違いないが、確かに初めて食べる食材だ。


「ええと、それはバロメッツを使った料理ですね。王都の東にバロメッツの生息地があるので、そこから収穫してきたものでしょう」


 とエレナが教えてくれる。


「バロメッツ……というと、確か羊がなる木という?」


 分類するなら多分、植物型の魔物の一種ではある。細くて柔軟な木に……そのまま羊がなるというような代物らしい。

 BFOでは登場していなかったし迷宮にもいなかったな。こっちの世界の文献でそのようなものがいるという噂は聞いたことがあったが……ベシュメルクに生息していたか。あまり情報が出てこないはずだ。


「そうです。見た目や性質は羊に近いですが、味は蟹に似ていると言われますね」

「魔物としては害のない部類ですが、荒れた土地で育つ上に……こう、柔軟性のある茎をしならせて周囲の植物を食べるのです。作物の類があればそちらを優先的に食べようとしますからな。穀倉地帯からは遠ざける方針なのです」


 ガブリエラとマルブランシュ侯爵がそんな風に説明してくれる。……なるほど。


「バロメッツは変わっておるが、別に魔界発祥というわけでは無いから安心してよいぞ。まあ、魔界の食材を食べたからと、それで変異が起こるわけでは無いというのは妾達が実証しておるが」


 パルテニアラが言う。

 バロメッツは質の良い羊毛も取れるし、通常の羊同様かなり重宝するそうである。普通の羊毛より魔力と相性がいいそうで。魔術師用のローブ等を作る時にも便利とのことだ。


「中々興味深いな」

「ふむ。我らも試してみましょうか」


 とイグナード王とイングウェイ、それにレイメイと鬼達が揃ってバロメッツ料理を受け取りに席を立って行った。

 バロメッツか。苗木を貰っていくのもいいが、育てるなら他の作物を食べられないような環境を構築しないといけないな。

 干し草を与えても育つそうで……まあ、魔物だからな……。


「ん。蟹味なのは良い」


 シーラもバロメッツ料理を食べてそんな風に頷いている。確かに。肉の食感に蟹の旨味というのは……料理の幅が広がりそうな気がしないでもない。


 そんな調子で、各国の珍しい料理や酒も並んでいたりして、宴会は盛り上がりを見せている。ヨーグルトソースを使った料理に和食、中華……何でもありだ。

 ファリード王やレアンドル王、ヨウキ帝やシュンカイ帝達もあちこちの料理を食べて舌鼓を打ち、感想を言い合ったりと盛り上がっている様子である。


 カルセドネとシトリアは、途中でコルリスやホルンの食べている鉱石にも興味を示していたが、ステファニアやシャルロッテが「あれはコルリス達しか食べられないのよ」と、しっかり止めてくれたようだ。2人も納得して他の料理を楽しみ、アウリアや御前、オリエや小蜘蛛達、エルドレーネ女王と言った面々と一緒に食後のアイスクリームまで堪能したようである。


 イルムヒルトはカルセドネやシトリアが満腹になるタイミングを見計らって演奏を始める。今度はその音色に熱心に耳を傾けて、目を輝かせていた。見るもの聞くもの。何もかもが珍しく感じるのだろう。そうして素直に反応してもらえると料理を作ったり演奏を聞かせたりする側としては嬉しいものだ。ハーピーやセイレーン達も何となくカルセドネやシトリアの反応が気になるのか、自分達の番が早く回ってくるようにと、うずうずしているのが見て取れる。そんな光景を見て、オーレリア女王も相好を崩していた。


 そうだな。俺からも何か……後で頃合いを見て食後の余興を行うのも良いかも知れないな。

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