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番外400 後始末と宴会と

 ロジャーはああ言ったが、まあ、すぐに宴会とはいかない。

 ザナエルク派の自宅謹慎等の処理が終わったところで、改めてマルブランシュ侯爵領へ向かう。シリウス号以外の2隻は先行してもらい、向こうに待機している1隻と合わせた3隻で侯爵領に梱包してある連中や輸送しきれなかった兵士達をこっちに輸送してもらうというわけだ。

 侯爵領側の王都での顛末については、向こうの飛行船の面々が無事だと伝えてくれているので大丈夫だとして。


 その間に俺達はハイダー達の回収、街道の整備といった仕事を行う、と。


「話が纏まったようで、良かったです」


 シリウス号の艦橋に戻るとライブラがそんな風に言って迎えてくれた。


「ありがとうございます、ライブラさん」


 そんなライブラにエレナがお礼を言う。


「僕達が手伝うものとしては、国家間の承認で結界や転移門が解放されたりする魔道具、っていうことになるのかな?」

「んー。多分そうなるね。帰ったら魔道具の作りについても検討しないとな」


 複数の契約魔法を組み込んで処理する、といったような具合だ。


「また壮大と言いますか何と言いますか」

「わくわくしますね!」


 アルフレッドの言葉に答えると、ビオラとコマチはそんな風に反応していた。

 そんな会話をしながらシリウス号を飛行させていき、ハイダー達を配置したあちこちから回収していく。

 シリウス号の速度は控えめにし、近付いたら甲板からバロールを飛ばして迎えに行く。

 甲板から飛んでいったバロールが地面に近付くと、ひょっこりとハイダーが地面から顔を見せる。バロールがそれをメダルゴーレムで形成したアームによってキャッチ。そのまま船に追いつくようにして運んできてもらう、と。


 何となく……クレーンゲームを彷彿とさせる風景だが。


「ん。おかえり」


 甲板に戻ってきたバロールからハイダーをシーラが受け取った。

 異常や破損がないか確認しつつ、バロールを肩に乗せて次の行動のために魔力も補給し直しておく、という具合だ。


 ハイダーは点検が終わったら自分で船の中に戻っていく。

 ちょこちょこと小走りで進んでいって、甲板にある大型騎獣用の出撃用ハッチに向かうと、ステファニアから合図を受けたコルリスがハッチを押し上げてハイダーを迎え入れる。うむ。

 次のポイントが近付いてきたら肩からバロールを射出して、同様の手順で回収していく。


 配置ポイントを選ぶ時のように気を遣う必要もないので、回収に関してはそれほど時間もかからないだろう。




 そんな調子であちらこちらに配置したハイダー達を回収したら、急場しのぎになっていた街道の整備を行う。

 メダルゴーレムを動員して残っている残骸を集めて街道脇に除ける。石材のブロックも全部石切り場に戻して再利用できるようにと考えていたのだが――。


「戦いの痕跡は邪魔にならない程度なら残しておいても良いかも知れませんね」

「ふむ。後の世に教訓となろう」

「新たな名所になってしまうやも知れませんな」


 そんなガブリエラとパルテニアラの案にマルブランシュ侯爵が同意したので、全ては片付けずに幾つかのブロックを道の脇に残しておく、ということになった。


 ドリスコル公爵の領地でも同じような事があったような気もするな……。

 そんなわけで道端にブロックを残し、その上にブロックを重ねることで何となくの雰囲気を再現しておく。崩れないように固めて構造強化の魔法もかけておけば後々も安心だな。


 というわけで、早速作業を進めていく。


 それから……一番の問題はやはり、サルヴァトーラの残骸だろうか。

 呪法は解けているし、魔石等々は既に回収済みなので装甲や内部構造、骨格、ミスリル銀線等々が残りの残骸ということになる。

 これらはザナエルクが作らせたものではあるが、無力化した以上は、再利用可能な資源とも言える。

 寧ろ修復可能な状態で残しておいても火種になるだけなので、解体してもらった方が助かると、クェンティン達にも許可は貰っているしな。


 というわけで……マジックサークルを展開。サルヴァトーラの残骸を、端から光球の中に溶かして部品ごとに使いやすい形状、大きさに再加工していく。

 金属素材は種類ごとに分割し、使いやすいサイズのインゴットに。ミスリル銀線はそのまま利用できるよう、糸束にして纏めていく。


 装甲については裏面に紋様を刻んで防御能力等々を強化しているようであるが、供給されていた魔力も断たれているし、全体を制御する呪法も解けているので問題なく光球に溶かして加工可能である。


 俺がそうやってサルヴァトーラや他の呪法兵の残骸を解体している傍らで、バロールや長老達が街道を整備。解体された素材は、みんなに運搬用のメダルゴーレムを使ってシリウス号に回収してもらう。


 そうして街道も概ね元通りになり、解体した素材も粗方積み終わったというところで、侯爵領に向かっていた飛行船も戻ってきた。


「おお。これはまた、随分と綺麗になったのではありませんか?」


 と、シリウス号の周辺に停泊させたところで、甲板からシュンカイ帝が顔を出して笑みを浮かべた。


「そうですね。目立つところは粗方、といったところです」

「儂らは街道沿いに住んでいる避難民を送り届けてきたところでな」

「ああ、それは皆さん喜んでくれたのでは」

「そうですね。皆さん感謝してくれましたよ。家や畑を守ってくれてありがとうと、テオドール様やエレナ様に伝えておいてほしいと仰っていました」


 ゲンライの言葉にそう答えると、ユラも顔を見せて相好を崩してそんな風に教えてくれた。

 梱包された連中も回収してきたし、侯爵領の方も一段落といったところだな。領民や領地に被害も無くて何よりだ。




 そうして街道の片付けと整備を終えて、飛行船団でベシュメルクの王都へ戻る。積み込んだ素材や梱包した連中は王都に到着したところで運搬用ゴーレム達が広場へ持っていき、兵士達が分類ごとに城へと運び込む。素材は倉庫へ。梱包された連中は地下牢へ、という具合だ。いずれも後の事はクェンティン達に任せれば良いだろう。


 これで……決めるべき事も決まり、やるべき仕事も一通り終わった。ようやく心置きなく宴会もできる。

 食材に関しても海の幸等々色々残っているので、王城で準備する料理の他に、こちらでも用意させてもらうとしよう。


 というわけでみんなと共に宴会の準備をしていると、そこにユーフェミアと共にカルセドネとシトリアが姿を見せた。

 ユーフェミアの後ろに隠れて顔だけ出すようにして。まだ少し心細そうな様子にも見えるが、穏やかな笑顔のユーフェミアに何事か声をかけられて、こくこくと頷いて。俺やスティーヴン、レドリックの方におずおずと近付いてくる。


「こんにちは、かな。どこか痛いところとかはない?」

「こ、こんにち、は」

「大丈夫、です」


 声をかけると、2人は少しぎこちなく答える。


「元気になったようで何よりだ」

「ちゃんと、お礼を言いたいんだって。最初はびっくりして混乱したみたいだけれど」

「大切なこと教えてもらったって、知ったから」

「……そっか」


 俺が小さく笑って頷くと、2人は揃ってこくこくと頷き返してくる。


「私達が、攻撃しても、許してくれた、から。大丈夫、だった?」

「まあな。あれぐらいどうってことねえさ」

「かすり傷だよね」


 スティーヴンがにやりと笑うとレドリックもそんな風に答える。


「うむ。心を教えてもらったというのは、我と同じだな」


 と、マクスウェルが核を明滅させながら言う。


「私も他人事には思えません」

「お二人さえよければ、友人になりたいと存じます」


 ヘルヴォルテが自分の胸に手を当てて言うとライブラもそんな風に頷いていた。


「友、人……」

「友人」


 ライブラの言葉を反芻するカルセドネとシトリア。


「よろしくね!」

「……よろしく……」


 と、物怖じしないマルセスカとシグリッタがそれぞれ手を差し出す。


「こうやって、握手して友達になるんですよ」

「ねー」


 シオンとセラフィナがお手本を見せると言うように笑顔で握手をかわし、カルセドネとシトリアは恐る恐ると言った様子でマルセスカとシグリッタの手を取る。


 そうして、握手を終えた後にカルセドネとシトリアは自分の手とお互いの顔を交互にみやる。


「何だか、不思議」

「うん。でも、嫌じゃない」


 そうして。カルセドネとシトリアはみんなと丁寧に握手していく。コルリスやティール、ラヴィーネやバロール、マクスウェルといった面々に律儀に挨拶をしていくのが中々に微笑ましかった。


「何だか、良い匂い」

「お腹が、空く」


 漂ってくる料理の匂いに2人はそんな風に呟く。


「ふふ。料理も楽しんでもらえたら嬉しいですね」

「お二人が元気になられた記念でもありますね」

「腕によりをかけたものね。宴会で丁度良かったわ」


 グレイスが小さく肩を震わせ、アシュレイとクラウディアが穏やかな笑顔で言うと、マルレーンもにこにこと首を縦に振る。


「後で演奏も聞いてね。楽しんでもらえたら良いな」

「色々見せたり教えたりしたくなる、というのは何となく分かるわね」


 イルムヒルトの言葉に、ローズマリーもそう言って頷いていた。

 うん。それじゃあ料理ができたら宴会といこう。カルセドネとシトリア達にも楽しんでもらえたら。そうだな。確かにそれは嬉しいな。

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