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番外398 管理の在り方は

 話し合いの前にやっておくべき事として、まずは門の周りにある呪法の品々を片付けてしまう、という事になった。


 術式を刻んだ制御系として使われている魔石には封印術。動力系の魔石はそのまま取り外しということになるが……制御系の魔石はパルテニアラが打ち破ってやったと言った通り、負荷で粉砕されている状態だった。


 床に紋様が刻まれているので、柱をあちこちに立て、その間をミスリル銀線で繋いで空中に魔法陣を構築したようだが、そのミスリル銀線も内側からの圧力で千切れている。呪法の解除ということでもっと繊細な作業になるかと思っていたが。


「部品ごとに分解できるものは分解して、後は中庭に運び出してしまえば大丈夫そうですね。危険性もなさそうです」


 ざっと構造を調べて言うと、イグナード王が頷いて水晶柱を両肩に担いだ。


「そういうことなら、手早く済ませてしまおうか」

「イ、イグナード陛下にそのような事をしていただくわけには! 元はと言えば我らの不始末です。こちらで片付けますぞ」

「そのあたりは気にしなくていいわ。場所が場所だし、兵士達にここまで来てもらって、ということができないでしょう?」


 バルソロミューが慌てるが、オーレリア女王も水晶柱をレビテーションで浮かせて笑った。


「確かに事情を知る者しか運搬作業に加われないですね。テオ、呪具をお願いします」

「門についてはみんなで考えるといったばかりだものね」


 と、グレイスも微笑み、クラウディアも相好を崩す。


「それじゃ、みんなで手分けして一気に終わらせるのがいいかな。何度も往復するのは大変だし」


 俺もそう答えて、グレイスの封印を解除する。マルレーンもにこにこしながらピエトロを召喚していた。


「かたじけない……。感謝いたしますぞ」

「ん。こういう時レビテーションの魔道具は便利」

「魔法が使えなくても重い物が運搬できるものね」


 シーラとイルムヒルトも、それぞれ水晶柱をレビテーションで浮かせて運んでいくようだ。


「アシュレイ、妾と協力して運び出すというのはどうかな? 氷の入れ物を作って、それを水に浮かべて物品を積んで運ぶ、などというのは。グランティオスでは水上で何かを運ぶ時にそうした行動をする者がおってな」

「ああ。それは良いですね。では、ご一緒に」


 と、アシュレイもエルドレーネ女王と協力して物品を運び出す事にしたらしい。アシュレイが氷の器を作り出し、エルドレーネ女王が水球を作ってそこに浮かべる。


「上の階にあった実験器具のような細々としたものは、わたくしやピエトロが引き受けるわ」


 ローズマリーが言う。そうだな。魔法の鞄に入れたり、ピエトロの分身達に運んで貰えばそれらに関しては問題あるまい。


「ふふ。こういうのって楽しいわね。側近の人達が見たら凄い顔をされそうだけれど」


 と、レビテーションで水晶柱を浮かせてステファニアが笑う。

 その言葉にエレナがくすくすと笑い、レアンドル王やファリード王も「確かに」と、肩を震わせていた。

 コルリスも柱を背中に何本か乗せて自身の結晶鎧で固定。ラヴィーネやティール達、動物組も手伝ってくれる。余った品々はゴーレムやエレナのエッグナイト達を使ったりして。そうして荷物を持って地上に向かってみんなで戻るのであった。




 祭壇の隠し扉を閉じて、城の中庭に持ち出した物品を置いて。そうして地下区画からの運搬作業を終えたところで再び城の会議室に戻って門や巫女姫についての話し合いだ。

 

 門についてはどうするのが再発防止として最善で……実行可能な案としてはどんなものがあるのかを検討していくのが良いだろう。

 会議室に水晶板モニターを置いて、メルヴィン王と、エベルバート王、ヨウキ帝、シュンカイ帝も参加する。状況も落ち着いたので水晶板モニターやら東国の王の紹介やらも腰を落ち着けて可能になった、というわけである。クェンティン達は随分驚いていたが。

 そうしてお茶が淹れられたところで、俺から提案をする。


「では、僭越ながら僕から案について一つ。魔界に関する事情を聞いた時は――鍵や門などを何らかの形で高位精霊のように俗世の権力に関わることのないような存在に預けられれば、と考えました」


 刻印の別の人間や物品への移し替えや、門の移送等が実行可能な条件となるか。

 この辺はベシュメルクの王から奪還して研究次第で、と考えていたが、パルテニアラが協力してくれるのなら可能か不可能かもすぐに判明するだろう。


「高位精霊に、とな」


 パルテニアラがこちらに視線を向けてくる。


「この案については、実行可能かどうかは保留としても、当人である高位精霊については快諾を貰っています。ベシュメルク王都側の安全も確保できましたし、いずれにしてもパルテニアラ陛下にも紹介したいと思っておりましたので、問題がなければこの場に来ていただこうかと考えているのですが」


 そう言うと、エレナが俺に視線を向けてくる。頷くと、エレナは他の面々に聞こえないようにパルテニアラにティエーラの事を伝えていた。


「――そう、だったのか。それは確かに妾が話をしなければならない相手ではあるな」


 と、パルテニアラが目を見開いた後で、真剣な面持ちで頷く。では……シリウス号側に通信機で連絡を入れよう。

 安全を確保したのでこっちに顕現してもらえないかと連絡を入れると、すぐに反応があった。四大精霊王のタブレットが輝きを放ち、そうしてティエーラとコルティエーラ、四大精霊王とテフラ、フローリア達が俺のいる場所に顕現したのだ。

 高位精霊の友人と言うことで紹介する。四大精霊王の名前が出たところでクェンティンやバルソロミューが乾いた笑い声をあげた。


「これはもう、何と言いますか……感覚が麻痺してきました」

「全くです。今日の数々の出来事に……遠隔からの会議参加に続いて、これですか」


 まあ、何というか。四大精霊王もそうだが、ティエーラに関しては顕現しただけで場の雰囲気が変わるぐらいの存在感があるからな。

 肩書きは伏せたが大物の精霊であるというのは十分に伝わるのだろう。


「すまぬが、そなた達は少しだけ席を外していてもらえぬか? 妾に古い縁のある相手でな」


 と、パルテニアラがクェンティン達に言う。


「承知しました。隣の部屋で控えておりますので、お声をおかけ頂けるまで待機しておりましょう」


 そう言って席を外してくれる。彼らが退室したところで、パルテニアラは改めてティエーラ達に向き直る。


「お初にお目にかかる。妾はベシュメルクの初代女王、パルテニアラと言う。過去、精霊達を苦しめ、また大災害を引き起こしてしまった事、かつての王国の当事者として謝罪したい。本当に、申し訳ない」


 そんな、パルテニアラの言葉に。ティエーラは静かに頷く。コルティエーラもまた、静かに光を放った。


「その言葉は、確かに受け取りました。エレナにも言いましたが、それはあなたのせいではないと、考えます。あなたは……事態を収拾しようと奔走した側なのですから。それに……私もまた自らの力を御し切れず、我が子らを徒に傷つけてしまった。その事を……悔いているのです。ですから謝るのなら、私のほうこそ、でしょう」


 ティエーラから逆に謝られるとは思っていなかったのか、パルテニアラは驚いたような顔をしていた。そこにオーレリア女王が言った。


「クラウディア様とパルテニアラ様は既に和解したようですが……私も今の月の女王として、今後とも友好的な関係を築きたいものだわ。この機会に友人とはなれないかしら?」

「友人か。そう。そうだな。妾のようなものでよければ」

「願ってもありません」


 そう言って、3人は手を取り合う。


「私も!」


 と、ルスキニアがセラフィナと一緒に元気よく手を上げていたりして。


「ふふ。それはいいですね」

「かくして、我ら精霊達とも和解、ということだな」


 と、マールやラケルド、プロフィオンがそんなルスキニア達の様子に肩を震わせる。

 ティエーラもコルティエーラも、嬉しく思っているのだろう。何だか暖かな感覚が伝わってきて。小さな精霊達も嬉しそうにあちこち走り回ったり、手を取り合って踊ったりと……お祭り騒ぎになっていた。


 精霊王達も交えて握手をして、落ち着いたところでクェンティン達にも戻ってきてもらう。


「ふむ。手間取らせてしまったな。話の続きであるが……刻印については我が血族ならば、というところだ。精霊や物品に刻印を移すというのは些か難しい」


 ああ。確か……血の繋がりを以って封印を維持している、というような事を言っていたな。


「では、鍵をより堅牢なものとすることは可能ですか?」


 と、エレナが尋ねる。


「……可能か不可能かで言うなら可能ではあるな。今の状況で言うなら……ガブリエラの刻印を本物とし、門を開くために必要な鍵を2つにする事ができる。ザナエルクの一件で干渉し、妾と十分な縁が結ばれておるからな。妾としては子孫に更なる負担を強いるのは心苦しいところもあるが……これはガブリエラの立場を考えれば一長一短と言ったところか」


 パルテニアラは腕組みをして言った。一長一短。刻印が本物となればガブリエラの第二の巫女姫としての立場も安定したものとなる、ということか。


「お気遣い感謝します。鍵が複数となれば、狙われる危険性も分散し、途中で察知して阻止する猶予も生まれましょう。エレナ様のご負担を分かち合えるのであれば、私は望むところです」

「ガブリエラ様……」


 ガブリエラは構わないとエレナに笑顔を見せる。


「考えておこう」


 パルテニアラは目を閉じた。まだ……最終的な形も決まっていないからな。

 オリハルコンを使った精霊支配の技術……。魔力嵐を引き起こした原因となる情報が魔界側に残されていなければ危険度も少しは下がるが、対策が無ければ変異を起こすという点を考えても自由に行き来というわけにはいかない。


 かといって、向こうに生態系があり、友好的な種族もいるとなれば……破壊や消滅という手は取れないだろう。それらの事柄を考えていくと門の管理は適切に行わなければならない、というわけだ。


 リスクの分散ということならば……。


「門は――地下区画で浮いていましたが、移送はできますか?」

「可能だ。別の場所に移すことはできるし、それで封印が弱まることも、向こう側の入り口がズレるということもない。建造当時に実証済みだ」

「かつて向こうから何かが出てきたという実例は?」

「ない、な。地下区画のあれらの防衛設備は封印を作った折の保険で、門自体は長年安定しておるから、封印が守られ続ける限り、魔界から何かが出てこれるということはない」


 そうか。それなら封印している限り安全と考えて良さそうだ。数百年に渡る実績が既にあって、安全性が確保されているということなのだし。


「そういうことなら、別の場所に移送した方が人の手も届かず、安全かも知れないわね」

「例えば、月、というのも有りかしら」


 クラウディアが言うと、オーレリア女王が答え、エルドレーネ女王とティエーラも揃って頷く。候補としては迷宮、月、深海といった具合か……。


『移送の候補地はともかく、門と鍵の分散をすれば、野望を抱いた権力者が出たとしても、他国にまで回る必要性が出てくるから安全ではあるか』


 メルヴィン王が言う。

 そうだな。ベシュメルクだけが抱えなければならない秘密ではなくなった以上、分散した方がリスクは減る。


『門が壊れた場合の危険性は?』


 ヨウキ帝が尋ねる。


「魔界は広大に拡散しておるからな。門が壊れてこちら側に影響が出るとしても、それは門を中心としたものとはならず、世界規模であちこちに小規模な門が自然発生したり消滅したりといった、広範囲での影響が予想されておる。それに伴い、向こうの生き物がこちらに現れる、ということもあろう」


 ふむ。だとしたら……迷宮に置くのが最も安全かも知れないな。迷宮核で管理ができるからだ。

 あちら側の侵食が起こらないように門が壊れた際に予備の門を作り出し、魔界からの影響が及ばないようにするとか、予め想定しておいて非常事態に対する迷宮核の対処を決めておけばいい。


 予備の門に封印がなくとも、そこが迷宮内なら魔物等を隔離するのは容易い。

 まあ……迷宮や月の場合、それらの場所に置くとしても、魔界の調査を行うなどして、精霊支配技術が遺されていないか等、もう少しクリアしなければならない問題もあるけれど。


「それにその案を前提におくとしたら、巫女姫……の内、一人はそれなりに近くにいる必要があるぞ。妾も常に起きているというわけにもいかぬし、現世を生きる巫女姫が異常や危険を察知するからこそ、妾も眠りから目を覚ますことができるのであるから」

「門と巫女姫を完全に遠くに離すことはできない、というわけか」


 レアンドル王が思案するように腕組みをする。


『案を実行に移すなら、ベシュメルクに一人の巫女姫が残り、移送先にもう一人が残る、というような形になるのですね』


 シュンカイ帝が言った。


「もう1点。門の保管場所への立ち入りには、各国の承認を必要とし、承認を受けない侵入や結界の解除等々があれば、魔道具で通知されるというのはどうでしょう」

「各国の承認か。それならば確かに。異常があってもすぐに対処可能となるな」


 ファリード王が俺の意見に頷く。


「通信機で国王同士が会話できる状況ならではよな。良いのではないかな」


 と、イグナード王も笑うのであった。

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