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番外397 魔界の門

「秘密主義も最早意味のないもの。国民同士の監視による管理のしやすさを目指したもので……あの等級制度は廃止する方向が望ましかろう」

「あの制度も、先王の発案でしたな」


 と、クェンティンが言うとバルソロミューが頷く。

 ベシュメルクの今後の方針が話し合われる。こうして対魔人同盟各国が来ているということもあり、王国の内情が伝わってしまった以上はそれを隠すための秘密主義も意味が無くなった、というわけだ。

 基本的には先王が改悪した国内法のそれ以前への立ち返りと、これから国交を開いて各国と交流を持っていくための体制作りということで話が進むらしい。


「――では、残る問題としましては」

「やはり刻印の巫女姫と儀式や封印関係だろうか。我々はそれらの秘匿されていた内情について詳しくないので、表向きにどうすればいいかも分からないところがある。ご教授を頂きたい」


 情報が足りないので何を公にし、何を隠しておけばいいのか判別できないというわけだ。実際のところ、エレナもガブリエラも、外壁で話をした時は後から対応を決められるように、秘密にされていたことは内容が明確にならないように伏せて話をしていたしな。


「パルテニアラ陛下のお姿も将兵達に目撃されておりますからな」

「それでしたら、僕の仲間という事で済ませてしまっても構わないのでは」

「おお。それは良いな」


 バルソロミューの言葉にそんな風に答えるとパルテニアラが相好を崩す。


「確かに……説得力があるわね」


 と、悪戯っぽく笑うオーレリア女王の言葉に各国の王達も苦笑する。


「嘘のつもりもありませんよ」

「ふっふっふ。仲間とは良い響きよな」


 そんな風に笑うパルテニアラの様子に、エレナとガブリエラも微笑んでいた。少し空気が弛緩したが、そこでパルテニアラが立ち上がる。


「ふむ。では、ここに居並ぶ重鎮達。並びに事情を知り、王の暴虐を止めにきた者達を、城の地下へと案内するとしようか。詳しい話もそこで行おう。あれを見せた方が分かり易かろうて」


 そんなパルテニアラの言葉に、クェンティン達の表情が真剣なものになるのであった。




 城の地下は、聖域と呼ばれる区画であるらしく、ザナエルクが王になるより以前からみだりに立ち入る事は制限されてきたらしい。

 エレナ、ガブリエラ、パルテニアラの案内の元、王族の生活の場である城の奥へと向かう。王族の生活空間であるらしいが、その一角が――何やら神殿めいた場所になっていた。


 立ち並ぶ太い柱の奥に祭壇が作られているが、エレナ達は迷うことなく祭壇の裏側へと向かう。祭壇の裏側の紋様にエレナが手を触れると、紋様に光が走り、壁が透明になるようにして薄れて消える。

 その後には――地下へと続く螺旋階段が姿を現していた。

 秘密の通路、というには横幅も広く、階段の天井も高く。天井付近に魔法の明かりが灯っているので、見通しも良い。


 大人数で入っても問題無さそうな通路ではある。横に数人並んで緩い傾斜の階段を下りていけるだろうが……これは恐らく、魔界に関係した有事が発生した際に兵を送り込んで対処が可能なように、というわけか。


 コルリスやティールでも余裕で通れるな。みんなと一緒に地下まで降りられるのが嬉しそうなティールであるが。

 因みにコルリス達も俺達と一緒に王城にやってきている。パルテニアラ達が構わない、ということで聖域まで同行しているが。

 まあ、安全が確保された後でザナエルク派を調べる時にサトリを連れてきても怪しまれないように、というような布石でもあったりするわけだ。


「魔法についてはよく分かりませんが……凄い仕掛けですな」


 地下へと続く階段を目にしたバルソロミューが言葉を漏らした。


「王族と巫女姫のみが一部の者を連れて入る事を許される、という決まりになっていた場所です。儀式の折には巫女姫と共に巫女達が。真実を知っておかなければならない王族や一部の重鎮は王が情報を伝える時に同行する……ということになっていました」

「聖域に繋がるこの扉自体は――開門のための術式があるので、それを用いて行います」


 エレナとガブリエラが教えてくれる。


「しかしそれも上層までの話でな。更に下の区画には、平時には基本的に王と巫女姫しか立ち入れない、という規則になっていた。ザナエルクはそんな規則を何とも思ってはおらなんだがな」


 そんな風にパルテニアラが肩を竦めた。


「では、参りましょう」


 エレナがそう言って。皆と共に地下へと続く螺旋階段を降りていく。

 兵士や女官達がいないという状況になったからだろう。地下区画まで降りる途中で、パルテニアラが王国の過去についての出来事を話し出す。かつて、高い魔法技術力を持つ二つの古代王国があった事。その一つがベシュメルクの前身であった事。

 その当時の王のやり方に悪辣な部分があったので反感を招き、劣勢に立たされていった事。精霊の支配については具体的には伏せるらしい。


 その部分での手法を余人に伝えることに意味はないからだろう。ザナエルクという実例を知っていれば、そうした教訓を改めて言う必要もない、という部分もあろうか。


「――王国は、形勢を逆転しようと焦ったのだろうな。魔法の失敗による力の暴走を引き起こしてな。それにより世界規模での災害が起こったのだ。当時の王や術師共はそれから逃れようとして、更に失敗した。逃れようと作った空間が、暴走した力を取り込み……異界を形成してしまった、というわけだ」

「最下層には、異界――魔界に繋がる門があります。私達刻印の巫女姫はその門の封印を閉ざす、鍵の役割を負う者」

「そして……儀式は過去の教訓と警告を後世に伝えるという意味があります。先王はその警告を無視し……門の向こうにある異界の資源等々を軍事力強化の為に利用しようとしていた、というわけです」


 パルテニアラとエレナ、ガブリエラが説明をする。その後の王国の顛末は――彼らも知る通りだ。


「それ故に反発を招き――50年前の事件が起きた、ということですか。そうしてエレナ殿下から事情を聞き、此度の事に繋がる、と」

「色々と……納得致しました」

「そして先王は捜索の合間に見出したエルメントルード姫の影武者を立て、その間にもディアドーラと共に密かに封印を破るための研究を進め、魔界の調査や向こう側の魔物等々に対抗するためと言う名目で軍事開発も行っていた、というわけだな」


 その軍事開発というのがサルヴァトーラ等の呪法兵や生体呪法兵計画であったり、そこから派生した将兵を暴走状態にする呪法であったりと……蓋を開けてみればろくでもないものであったが。


「僕の方は――南方にティールの群れの仲間を探すという用事があって赴いた際、漂着していた船をティールの仲間に教えてもらって見つけ……生存者や遺品などの捜索をしたところで、魔道具で眠りについているエレナ殿下を発見したというわけです」


 と、こちらの経緯も話しておく。ティールがフリッパーをパタパタとさせて嬉しそうに声を上げる。


「テオドール様達とティール達のお陰ですね」

「友達ト、群レノ仲間達、偉イ!」


 エレナも微笑み、ロジャーも翼をバサバサと動かしながら声を上げていた。

 そうして話をしながら暫く降りていくと、螺旋階段を抜けて広間に出た。かなり広々とした空間だ。不可思議な光沢を放つ石材で作られていて――床、壁、天井と紋様が刻んであり、外部からの侵入が行えないよう。また地下区画の構造自体が壊れないように入念に術式が施してある。

 俺達以外に先客はいないようだが……何やら実験器具等々が置いてあるのが見えるな。あれは……ザナエルクが持ち込んだものか。


「正面の部屋は儀式場。そこから更なる下層に繋がる通路がある。左右の大部屋は物資を置いたり、ある程度の規模の部隊の展開や常駐が可能なようにして、想定される有事にも備えられるようにしてある……というわけだ」


 パルテニアラが構造を説明してくれる。


「紋様からすると……何重かに呪法障壁を張れるようになっているようですね」

「うむ。有事には足止めが必要になることもあろうと予想してな。大群の出現は勿論のこと、大型の魔物であっても結界で身動きを封じてから多数を以って事に当たる事ができる。更に構造自体の修復も可能というわけだ」


 ……なるほど。パルテニアラの対策はかなり厳重だな。


「ザナエルクが下層に新たに呪法を構築してな。それらで封印を弱め、破ろうとしていたが――まあ、呪いの主であるザナエルクや、呪法を構築しなおす術師さえいなくなればこちらのものよ。残らず打ち破ってくれたわ」


 と、パルテニアラはにやりと笑って胸を張る。


「では、その後片付けは必要でしょうか」

「そうさな。水晶柱等の魔道具に類する物を置かれたので、あれらは片付けてもらえると助かる」


 床や壁に紋様があるので魔法陣は描けない。代わりに水晶柱などの触媒を設置してそれらで門に対して呪法を仕掛けた、というわけだ。

 俺達は正面奥にある儀式場へと向かう。

 そこは――ああ。確かに侯爵領でガブリエラ達が構築した儀式場と似たような構造物の配置だな。材質等々に違いはあるけれど。


 その奥に――下層に続く緩やかなスロープがあって。更に奥へと進む。

 そこには巨大な円形のホールがあった。

 床や天井に刻まれた紋様。ザナエルクが幾重にも張り巡らせた呪法の柱からなる圧力の結界。


 そして――ホールの中央にあるのが、門か。

 斜めになって空中に浮かんでいる。奇妙な石材で作られた四角い枠のような。枠の内側は蜃気楼がかかったように揺らいでいて――。その揺らぎの奥に透けて見えるのは魔界ではなく、こちら側の風景だ。

 転移門のようではあるが、今現在は封印されているためにあちら側には繋がっていない、ということだろう。


「これが……我が王国の抱える最大の秘密、というわけですか。祖先が犯した過去の罪であり、危険を封じた門でもある、と」

「秘密主義になるのも頷けます」


 クェンティンが瞑目し、バルソロミューやマルブランシュ侯爵がかぶりを振った。


「そうさな。このことを踏まえた上で、巫女姫や門の今後についてを考えねばならぬ。またザナエルクのような暴君が現れぬよう――或いは、暴君が現れても問題のないように、かも知れぬな。故に、この場所に皆を連れて来て過去についても話をした、というわけだ」


 皆。それはこの場にいる皆、ということだ。各国の王達も含めてのもの。

 ベシュメルクが管理してきた門ではあるが……封じられているものの危険性を考えたら、国や種族を超えて今後の管理体制を考えるべき代物に間違いはないだろう。

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