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番外396 開城と後始末

「し、始祖の女王ですと……!? 国母ではありませんか……!」

「そうです。刻印の巫女姫であれば儀式を通して接していたので……感覚で分かってしまうところがあるのですが」

「エレナ様の言うとおりです。私は代役でしたが、陛下は私にも語りかけてきて下さいました。ですので、何となくその感覚は分かります」


 驚くバルソロミュー達に、エレナとガブリエラは揃って言った。


「その通りだ。妾の意思は封印を守るために残り……歴代の王族や巫女姫達が平和を想い、妾の事も語り継いでくれたからこそ、こうして存在が残った」

「な、なるほど。確かに何か、懐かしいような感覚があります」


 クェンティンは王族だからこそ、パルテニアラの放つ魔力の波長のようなものに呼応しているのかも知れない。膝を折って臣下の礼を取ろうとすると、それをパルテニアラは手で押し留める。


「よい。妾は今を生きる人間ではなく、幽霊のようなもの。死した者がいつまでも現世に権勢を振るうべきではないと考えている。少なくとも……このような場でそなた達が示すべき行動ではあるまい。過去の人間をどのように語り継いでいようと、それは物語から出てこないから丁度良いのだ」


 このような場……将兵達がいるから、というわけか。確かに、パルテニアラが今の世に権威があると認めてしまうと困ったことになるかも知れないな。


「そなた達の意思を見届けたからこそ、姿を現したのだ。まあ、巫女姫達やテオドール達の助力がなければ、こうして顕現することも難しかったが」


 と、パルテニアラはエレナとガブリエラ、そして俺達を見て言った。


「呪法はもう大丈夫なのですか?」

「ふむ。呪いの主であるザナエルクがいなくなったことで、こちらにも余裕ができたのでな」


 俺が尋ねると、パルテニアラはにやっと笑う。


「というわけで、妾は今後の体制や人事といった方針には口を挟まぬものと理解せよ。こうして現れたのは――妾の領分の話をするためでな。何しろ、妾にのみできる事、できない事もある故」


 パルテニアラの領分か。魔界云々については表ざたには出来ない事なのでこの場でも表現をぼかしているが、自分が政にできるだけ影響を与えないようにしているのと同じように……過去の負の遺産もまた世に出てくるべきではない領分の話、という括りで考えているわけだ。

 それでも姿を見せたのは、封印の有り方や再発防止の策等々を考えるなら、術式に干渉できるのは仕組みを知っているパルテニアラだけだから、ということなのだろう。


「場所を変えた方が良さそうですな。私達の見解は、先程伝えたとおりです」

「このような場所で話を続けるのは……確かに客人を迎えるのに不適当ではありますな。兵士達の防衛体制は解除させましょう。警備体制は、もう暫くこのままということになりますが」


 そんなバルソロミューとクェンティンの言葉に、居並ぶ一同も頷く。


「差し当たっては……先王派の身柄を早い段階で押さえてしまわねばなりますまい。連中、飛行船の接近に自身の立場が悪くなる可能性を考えたのか……この場に来ることを拒絶した者もおりましたからな。全く……保身ばかりで情けのない」


 と、バルソロミューが首を横に振った。




 そうして王都に残っていた将兵達の警戒態勢は解かれた。

 それに伴い、飛行船に乗ってきたベシュメルクの兵士達も残らず解放される。無事に帰って来た兵士達を迎えて、王都の住民達も家族同士、抱き合ったりして喜んでいるようだ。


「マルブランシュ侯爵やガブリエラ様、それにヴェルドガル王国のテオドール様達が、俺達は戦わされているだけだから、怪我をしないようにって……。こうして治療までしてもらって――」


 と、兵士達はそんな風に家族に帰ってきた経緯を説明していた。

 彼らは協力的で……自分達が王都に戻れば、残っているザナエルク派に対する分かりやすい牽制として作用するだろうと、自分達の役割についても承知してくれているようでもある。

 だが、そうした事は抜きにして、家族と再会できることを手放しに喜んでいるようであった。子供を抱えて喜んでいる者や、親や伴侶と抱き合う者もいて。


「まだ痛いところはありますか?」

「……おお。あっという間に痛みが引いて……治癒魔法というのは、凄いものですね」


 アシュレイの作り出すヒールスポットの中で、証言者として協力してくれた兵士達の一団の怪我も急速に回復していく。

 そうして怪我が回復して落ち着いたところで彼らの中で最も立場が上の、兵士長に当たる人物が言った。


「我々の役割については承知しております。今後に関する指示を頂けますか?」


 と、兵士長が言うとクェンティンとバルソロミューが揃って頷く。


「そうだな。家族との再会等……状況が落ち着き次第、先王と近しい立場だった貴族、文官について自宅での待機命令を伝え、監視を兼ねた警護を行うように」

「はっ!」


 荒事を得意とする面々は武官、魔術師問わず、ザナエルクと共に侯爵領への進軍に加わっていたそうで。つまり、ザナエルク派の実権を裏付けする武力が今の王都では少数派というわけだ。


 ザナエルク派の貴族については後程精査して沙汰を言い渡すということで、今回の話し合いでは蚊帳の外に置かれることになるらしい。

 ……まあ王の力に従っていただけなのか、嬉々として協力していたのか。そのあたりの罪の軽重は個々のケースをしっかりと調べていけばいいだろう。


 そして俺達は――城の内部へと案内される。離宮の奥に残る魔術師達が最大の問題、ということで、まずそちらの問題を片付けてしまおうということになった。

 外壁での話し合いに立ち会った魔術師については……ある程度裏の事情を知っていたものの、生体呪法兵のような非道な研究をしていたとは知らなかったと、大人しく沙汰を受け入れると、話し合いから外れ、封印術を受け入れた上で謹慎すると、その場を辞去していた。


「少し前までは忍び込むのも命懸けだったんだがな。こうして大手を振って正面から入れるってのは……奇妙なもんだな」


 と、スティーヴンが王城の敷地内に入る時にそんな感想を漏らしていた。

 そうして……最初に離宮に足を運び、抵抗しなければ手荒な真似はしないと、クェンティンやバルソロミュー、兵士達と共に投降を呼びかける。


「わ、我々は、ザナエルク陛下に従っていただけで……」


 と、交渉役として出てきた魔術師が青い顔をして言った。

 ……あまり強い魔力は感じないな。研究者畑の魔術師ということなのだろう。

 それに……裏の事情を知っているだけに、ザナエルクの実力や呪法兵の強さも肌で感じていた部分があるだろうしな。ザナエルクが敗れたとなっては……抵抗する気も起きないというわけか。


「そのあたりは追って調べるが……公正で温情のあるものになるよう王族の誇りにかけて約束しよう」

「……そう、伝えてきます」


 クェンティンの言葉に魔術師は頷いて、離宮の奥へと戻っていった。

 やがて、研究者達がぞろぞろと連れ立って出てくる。王の影武者も連れられてきたが……似た顔立ちではあるが、瓜二つというところまではいかない。

 浮かない表情で項垂れているというのも、尊大だったザナエルクらしさが全くない。


「話を聞くに、先王の呪法が解けてしまったようですな。瞳の色や顔立ちが違ってきてしまっている。私に立ち会うよう命令を出した時も、寝室からほとんど顔を見せずに、というものでしたので」


 バルソロミューが言う。なるほど。これなら……ザナエルク派が影武者を本物だと言い張って抵抗するなどという手も不可能だろう。バルソロミューに確認してみたが、王冠や王錫もしっかり回収されたようで。そのあたり、所在が気になっていたので俺としても安心した部分がある。


「それで、魔術師のほうはこれで全員かの?」

「はい……」


 お祖父さんの問いかけに、1人の魔術師が頷いた。


「怖がっていたり絶望してたりするけど……。多分……大丈夫、だと思うわ」


 エイヴリルが彼らの感情を見て言った。なるほどな。魔力反応を見るに、本当に研究者畑ばかりか。呪法兵も活動停止しているとなれば……それは抵抗するしない以前の問題というわけだ。兵士達が怪我をしないように助けられている事も……大人しく投降するという判断を後押ししている部分はあるだろう。


「念のために魔法封じの術と魔道具を受け入れてもらいます」


 というわけで、バロールと手分けして封印術を施し、腕輪型の魔道具で封印術が解けないような処置を施す。

 これは封印の呪具と同じもので、他者に開錠してもらう必要がある。

 調べた上で情状酌量の余地があると判断されれば、放免される事もあるだろうが……だとしても研究の放棄、技術の悪用禁止、秘密の厳守といったところは誓約魔法によって誓わされることになるだろう。


「これで……一応はケリがついたのね」


 と、連行されていく離宮の魔術師達を見て、イーリスがぽつりと漏らす。

 そんなイーリスをそっとエイヴリルが髪を撫でたりして。スティーヴンはどこか遠い目で、兵士達に連れられて行く魔術師達を眺めていた。




 そうして……王都に残っていたザナエルク派という問題も一先ず片がついた。戦闘もなかったので、無血開城ということになるのだろう。

 俺達は大きな円卓の据えられた会議室のような場所に通され、今後の体制等々の話し合いをすることになったのであった。

 パルテニアラも同席して封印についての話もするので、ベシュメルク側の面々はかなり厳選される形になる。


 クェンティンは王族の一人であり家長であること。バルソロミューも――ザナエルクが独裁体制を強めていなければ、本来なら宰相に相当する重鎮であること。

 それらを考えれば、彼らについては本来真実を知らせてあるはずの立場なのだそうな。だから、パルテニアラの話にも彼らも立ち会うということになった。


 ……真実。過去の大災害や巫女姫の本当の役割等々についてだな。それらをある程度知らせた上で、伝統を守っていってもらうのがベシュメルクの本来の形、というわけだ。


「――ザナエルクが王座に就き、反対派を粛清して以降、そういった真実の伝達もなされなくなってしまったというわけですね」


 エレナの言葉に、クェンティンがかぶりを振る。


「本当ならば、私の父もそうした話を伝えたかったのでしょうが」

「家の存続と引き換えにそうした伝達を許さないということにしたのでしょう。詮なきことかと」


 オーレリア女王が目を閉じて言う。


「今後の体制についてですが……基本はザナエルク王以前の時代の方法に立ち返り、今の状況に合わせ、是正すべき点を是正するということで良いのではないかと」


 と、クェンティンが言う。


「そうですな。まず、王位継承は伝統に則る。そうなれば王がもう少し御成長なさるまでは、クェンティン殿下が摂政となられるべきでしょう。ご夫婦でザナエルク王と距離を取っていた立場だけに、新しい体制でも不満は出ないものと」

「許されるのなら、マルブランシュ侯爵やバルソロミュー殿に補佐を願いたいところではありますが。実務を行える立場ではなかったので、いきなり内政を動かしていくことには不安が残ります」


 クェンティンがオーレリア女王達を見て尋ねる。


「具体的な人事については、そちらにお任せします。先王の悪事とそれに携わった者達への清算と、人道に悖る研究の途絶がしっかりと行われていれば、他の事については干渉すべきではないでしょう」


 オーレリア女王の静かな返答に居並ぶ面々が頷く。これからの体制とベシュメルクの在り方ね。恐らくは……秘密主義を止めて国交も開かれることになるのだろうとは思うが。

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