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番外394 王都に残された者達

 今回は偽装フィールドも何も展開していない。

 当然、こちらから王都が見えるということは、連中もそれに気づくということだ。兵士達が慌ただしく動き、外壁や城壁の上に移動していた。

 俺達がマルブランシュ侯爵領の方から現れた、というのは連中にも分かっているだろう。だから余計に慌てているというのは間違いない。


 だが、俺が忍び込んだ時に見た呪法兵は出ていないな。

 サルヴァトーラを動かしたということもあり、もう呪法兵は隠していないから、ザナエルクとディアドーラ、王都の騎士と兵士達という戦力が出払っている状況であれらを隠し続ける意味があるとは思えない。

 王都側で有事が起こった際はそれらを防衛戦力にしてもおかしくはない、と思うが……。


 いずれにせよ、こちらは戦闘が目的ではない。それを明確にするという意味でも三隻は揃って同じ方向から進むし、速度は変えない。

 近付くに従って段々速度を緩め……そして、お互いの顔が見え、声も届かせる事の出来る距離でシリウス号を停泊させる。

 城壁を固めていた将兵や魔術師達は緊張した面持ちであったが、顔を見合わせたのが分かった。

 そのまま、各国の代表達やフードを被ったエレナ、ガブリエラ、マルブランシュ侯爵達と共に甲板に出て、セラフィナの能力で声を周囲に響かせる。


「僕は――ヴェルドガル王国フォレスタニア領主、テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します。今日はヴェルドガル王国の代表としてではなく、対魔人同盟各国で統一した意思、見解をお知らせする名代としてこうして呼びかけています。戦いを目的としてではなく、お知らせしたい内容と、今後について話し合いたい内容がありまして、こうして突然ながら伺いました。どなたか、この場を取り仕切る事の出来る権限を持つ方との面会を求めます」


 その言葉に将兵達の表情に、訝しげなものが混ざった。


「し、しばし待たれよ!」


 やがて、ある程度身分のありそうな武官がそんな風に大声を響かせて、伝令が命令を受けて城壁の上をレビテーションで去っていく。

 飛行呪法、ではないな。それだけを見て判断するのも早計だとは思うが、他の諸々も鑑みればザナエルク達が出払っている分、王都側が手薄なのは間違いないだろう。


 しばらくすると王城から身形の良い人物数人と、騎士、魔術師といった面々が姿を見せた。宮廷貴族、武官、魔術師。それぞれの代表といったところだろうか。総指揮権を持っている人物は後方待機しているかも知れない。もしもの事があっては一大事だしな。


「もう少し船を寄せても? この距離では声を響かせねばならず、内容が万人に筒抜けになってしまいます」

「……良いでしょう」


 そんな風に返答が帰って来た。

 というわけで、各国の王が空中戦装備を使ってシリウス号側の甲板に渡ってきて、各国代表が同じ船に揃ったところでシリウス号を少し前に出した。

 まずは自己紹介ということで、改めてお互い名を名乗る。連中の中で最も身分が高いのは政務補佐官バルソロミューということだった。騎士団、魔術師の主だったものは出撃してしまっているからな。


「他の国では宰相に相当する大臣ですが、基本的にはベシュメルクでは内政も王の意向で動きますから……。宰相の名は使いません。王の意向を受け、内政の実務を担当するお方ですね」


 と、ガブリエラが小声で教えてくれる。


「ガブリエラ殿下も……マルブランシュ侯爵と繋がりがある、という理解でよろしいか?」

「そうなります。あなた方にとっては業腹かも知れませんが。ですが、国外と通じて謀反を起こしたというわけではありませんよ?」

「……殿下はエルメントルード様のお孫であらせられますから、な。王に対する心情も様々ありましょうが――。いや、今は止めておきましょう」


 バルソロミューはそう言ってかぶりを振った。

 こちらの現れた方向。同行する各国の王。それにマルブランシュ侯爵とガブリエラ。怪我をした兵士達の一団。そして甲板に置かれた呪法兵らの残骸と騎士達の装備。


 よろしくない材料のオンパレードのせいか、彼らは会話の内容が自分達にとって明るいものではないと予期して浮かない表情だ。

 俺はまあ、潜入工作と戦闘を最初から行った立場ということで立ち会うが、役割分担としては先程の呼び掛けまでで、一先ず話し合いの場は各国の王に譲る。


「まず……単刀直入に伝えておきましょう。テオドール公と私達はマルブランシュ侯爵領に進軍した者達と戦い、これを撃破しました」


 オーレリア女王が言う。


「サルヴァトーラ。飛行する呪法の兵、それに騎士団長ら飛行戦力は残らず撃破されたということも伝えておこうかの」

「残った地上軍の将兵達はザナエルク王の術により一時暴走状態となり……我らと交戦。これの制圧を目的として戦闘を展開。その戦闘の最中でザナエルク王は崩じ、将兵達の暴走も解除されて今に至る」


 シルヴァトリアの代表としてお祖父さんが言い、その言葉をファリード王が引き継ぐように伝える。ザナエルクが戦死したと。そう告げる言葉に、彼らの間にはあからさまに動揺が広がった。


「ザ、ザナエルク陛下が……?」

「ば、馬鹿な! 陛下は王宮におわすではないか!」

「だが……あ、あの残骸は確かに……。クロムウェル殿の兜まで……!」


 と、彼らの間で騒ぎになる。ザナエルクが王宮に……? 考えられる可能性としては……ああ、影武者か? 変装して俺の不意を打つのだとしても、王都に残っていると偽情報を流さねばならないからな。


「残骸や装備品を持ちかえったというのなら、陛下に関しても何かあって然るべきではないのか……!?」

「交戦中に大魔法で消滅しました。証拠となるものは何も残ってはいません」


 と、オーレリア女王が淡々という。彼らは一様に衝撃を受けて絶句したようだった。


「ま、まさか……陛下が敗れるとは……。だ、だから呪法兵が反応を示さなくなった、と……?」


 魔術師が狼狽したように、一歩二歩と後ろによろける。


「何だと……? 何かを知っているのか? この緊急時。交渉相手がいると言ってもその点だけはこの場で明らかにしておかねばならんぞ? 私は陛下よりこの場に赴くように言われてここにいるが、事と次第によっては、立ち会うべき者が変わってくる可能性すらある。心して答えよ」


 と、バルソロミューから凄まれて、魔術師は冷や汗をかきながら言葉を続けた。

 ……冷静だな。こちらの話が事実であるとするなら、王を打ち破った俺達にはったりを言っても無駄というのを理解している。そして、その可能性は残骸や兵士など、物的証拠から言えばかなり高いのだ。


 その上で……交渉に際して、本物の王ではない影武者の意向を反映する事などできない。だからまずそこを確定しておかなければ、誰に報告して誰の意向で方向を決定すべきかも分からず、話にならないということなのだろう。

 ザナエルクがいないとなれば、例えば話に出たエレナの従甥がまだ赤子の次期ベシュメルク王に代わり、この場に立つという選択も有り得る。

 同時に……先程のガブリエラへの言葉からしても、あまり王国の裏の事情を知らない人間というのが分かる。


「そ、その……陛下は我が国で最も優れた力を持つ術者でもあります。敵の不意を打つために変装して出撃した軍に加わっておいでだったのです。騒ぎにならぬよう影武者を残し……。更に……陛下の血を受けて駆動するはずの呪……ゴーレムが機能停止しており……。これらは本来、留守中の王都の有事の折に、守備兵として動かす手筈だったのですが……」

「な、何故……! ……何故すぐに報告しなかった?」


 バルソロミューは言い募ろうとして、交渉の場である事を思い出したのか、意図して自身の感情を押さえつけたようだ。


「王都を空けている事を知らせるなと……」

「そちらではない。それは他ならない陛下の御意向であると理解しよう。影武者が影武者であると周知するなど愚かな話だ。だが、ゴーレムが機能停止したのであれば、それ即ち、陛下の大事であろう? 何故その時に報告しなかった?」


 冷静な質問に、魔術師も少し平静を取り戻したのか、かぶりを振って答える。


「ゴーレム兵は、今まで隠して温存してきた、いわば我が国の切り札だったのです。人目に付かない場所に安置されており、空飛ぶ船の来襲と聞いて、我らも言いつけ通り動かそうとしたところで……初めて事態を把握した次第なのです」

「何と……いうことか。では、陛下がお隠れになったというのは……」

「間違いない……のでしょうな」


 多少の混乱はあったようだが、一先ずザナエルクの戦死については王都でもそれを示す材料が揃っていたようだ。そうして共通認識ができたところで、レアンドル王が言う。


「軍を打ち破り、我らが王都に現れ、今後の事について話をしたいと言う。この意味がおわかりか」

「……降伏勧告、ということですかな?」


 淡々と言うレアンドル王にバルソロミューは覚悟はしている、と言うように聞き返す。

 対魔人同盟各国が参戦している。つまりベシュメルク周辺国全てが敵であること。ザナエルクが戦死していて今、王都にいるのは影武者であること。飛行戦力の壊滅。地上軍も制圧されて保護されている事。巫女姫であるガブリエラもマルブランシュ侯爵と繋がっており、反ザナエルクの立場である事。

 それらが、今彼らに伝わっている情報ということになるか。


「そうだな。無血での開城を妾達は求めておる。しかし、決して貴国を侵略しようという意図の行動ではないし、民や国土、金品を奪おうという目的でもない。故に、それらを求めていないと言うことも前提として理解しておいてもらいたい」


 エルドレーネ女王が言う。


「では……何のためにこんなことを?」

「それは――私の口から説明します」


 そんな、静かな声に注目が集まる。それはエレナのものであった。

 この場での話を秘匿することもできるようにまだフードで顔を隠してはいるが……少しだけフードの端を持ちあげて、居並ぶ面々だけに顔を見せた。ガブリエラを幼くしたようなその容姿に、全員の表情が変わる。


 エルメントルード姫を知っていても知らなくても。それに裏の事情を知らなかったとしても。これだけガブリエラに似ていれば、何事かと思うか。


「……やはり、クェンティン殿下にも立ち会って頂く必要がありそうですな」


 それぞれの立場はこれだけでは判別できないが……バルソロミューは驚きの表情を浮かべた後で言った。クェンティン……。エレナの従甥の名だな。

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