番外390表 歪みの獣
――少し距離を置いたままで、ザナエルクと対峙する。
周囲の将兵達が赤い輝きを散らしながら俺達の横を通り過ぎていく。まだ――動かない。こちらは戦闘に巻き込まないためだが……奴は、約束を守る事を誇示するために、か?
そして将兵達が十分に背後へと遠ざかったところで、俺と奴は互いに向かって突っ込んだ。
身体を横に回転させるようにして、頭上から錫杖の先端から伸びた呪法の大剣が振り降ろされる。身を躱して避けながら雷撃を叩き込めば――奴は避けない。防御もしない。
その身に雷撃を受けるが牙を剥いて笑い、代わりというように奴の手の中に雷撃を幾重にも束ねたような槍が出現した。
「返すぞ!」
投げつけられた雷撃の槍を――こちらも雷撃を纏って受け流す。互いに止まらずそのまま突っ込んでいって切り結ぶ。ウロボロスを振るえば、奴は赤い輝きを纏った錫杖で応じる。魔力と呪力がぶつかり合って火花を散らした。
薙ぎ、巻き込んで、払い、叩きつけて受け流し、掬い上げて刺突する。
応酬する攻防の中で奴の錫杖に纏った呪力が形を変えて、剣や斧に変化した。杖術同士の攻防の中に、時折違う系統の斬撃や打撃が混ざる。錫杖に意識を引きつけての空いた右腕での呪法の細剣の刺突! 斜めに展開したシールドで逸らしてウロボロスを跳ね上げるも、呪法の翼を変形させて打擲を受け止め、そこから錫杖の刺突を幾度も見舞ってきた。
避ける。避ける。ウロボロスの先端から魔力衝撃波を放って杖を掴んだ翼を吹き飛ばし――刺突した錫杖が背後で展開。
引き戻して引っ掛けようとする大鎌の刃に合わせるように踏み込む。対呪法の解呪術式を掌に宿して呪法障壁を砕くと同時に使用した魔力を衝撃波として奴に打ち込む。
「むっ!」
脇腹を打たれて吹き飛ぶも、空中で赤い輝きの翼を広げると踏み止まり、こちらの追撃に合わせるように錫杖を胴薙ぎに叩きつけてくる。
ウロボロスで受け止めて、空中にシールドで固定したウロボロスを支柱に、全身を跳ね上げるように回し蹴りを叩き込む。側転して回避。その手の中に髑髏を模したような紫色の炎が生まれる。苦悶の悲鳴を上げるそれを、投げつけてきた。
即席の魔法生物――いや、呪法生物か。ヴェノムフォースを叩き込んで四散させる。
「その若さで随分と多様な武芸や術に通じておるものだ! だが、こんな術はどうだ?」
その時には既にザナエルクの次の呪法が展開していた。二重のマジックサークルが展開し――こちらに向かって手を翳す。あの形――転移魔法に似た系統――? いや――!
「――コンフリクト」
集中する魔力の反応。背筋を走る嫌な気配に従って、大きく飛ぶ。次の瞬間奴が手を握り潰すと同時に、破裂するような音と共に、直前まで俺のいた空間に奇怪に尖った岩石が出現していた。
コンフリクト。転移魔法――衝突。座標を指定しての物体転送か!
まともに食らえばどうなるか分からない危険な術だ。転送された物体と変に融合するか、身体の内側から物体に押し退けられて破裂するか。あまり愉快な結果にはなるまい。
月の民の転移魔法は、転移先に物体があればその隣に転移するようにという、安全装置のようなものが術式に最初から組み込まれている。だが、奴の呪法にはそれがない。最初から殺傷を目的とした引き寄せと転送がセットになった転移術。だからマジックサークルも二重に連動させて発動させる必要がある。
弾丸は――何でもいい。そこらの土や水。空気でさえ相手を殺せる。性質的にはレゾナンスマインにも似ているが――。呪法への対策をしていなければ相手の身体の一部を抉るような使い方さえ可能だろう。
錫杖を浮かせたままで幾重にもマジックサークルが展開。周辺の地面を転移で引き寄せて、空間に炸裂させる。マジックサークルの規模から言えば第7か第8はあるであろう、高等呪法の連射――!
周辺に広がる環境魔力を渦のように集めて高めつつ、右に左に飛んで、先を読ませないように動く。発動するまで一瞬のタイムラグがあるから、その座標からそれ以上の速度で離脱すればいい。
奴もまた、先を読んで俺の移動しそうな空間に術式を予め置いておくように発動させる。一握りの土や石の塊があちらこちらで炸裂する。魔力循環を使う者の弱点を射程の短さだと知っているのか。こちらが踏み込もうとする座標に炸裂させて、一定の距離を保とうとする。
転送された石や土をストーンバレットで弾丸に変化させて撃ち返す。呪法障壁に阻まれて弾丸が弾け飛ぶ。間隙を縫ってミラージュボディの分身を飛ばして的を増やし、隠蔽術まで発動させて魔力反応を消失させる。
次の瞬間には低速の呪法誘導弾を放って俺のいる方向を見極めようとしてくる。ミラージュボディとの間隔を狭め、誘導弾の行方を攪乱しながら踏み込む。
「ちっ!」
横に浮かせた錫杖を手に取り、そのまま俺の打ち込みに応じる。ミラージュボディと連携した上下段同時攻撃――!
胴薙ぎの一撃が脇腹に直撃したが――まただ。
最初に叩き込んだ雷撃もそうだが、呪法障壁や反射呪法による防御さえ行っていない。
反射についてはこちらが対策しているから行使するだけ無駄だというのは分かるが――触れた瞬間に、込められた魔力ごと拡散してしまうような反応を見せるのは奇妙だ。吸収されているわけでもない。ただ体表を流れるように魔力が散って、威力が殺されている。
当然、ダメージがないからそのまま最速での反撃に転じられる。大上段。切り裂くように呪法剣が降ってくる。退かない。その距離で応じる。ウロボロスで受け止めて踏み込み、掌底を叩き込んでそこから魔力衝撃波を打ち込む。衝撃が広がって――いかない。一度目と手応えが違う。
突き込んだ腕の先に魔力反応の集中。最速で腕を引き戻せばそこに土塊が転送されてくる。杖術での攻防の中にコンフリクトを織り交ぜて。それを皮一枚で避けながらそのまま切り結ぶ。コンフリクトはウロボロスでも迂闊に受けられないが、まだ――。
「――耐性を――その場で獲得しているのか! それも呪法の応用だな!?」
「抗いがたい節理への反抗の意思。望まぬ事象を望む方向に反転させる力こそが呪いなれば! 風を呪い、土を呪い、火を呪い、水を呪い、時を呪い、死を呪う。それはやがて万象を克服せしむる道となるであろう!」
牙を剥いて笑うザナエルク。ミラージュボディが見切れないなら己の目の無力を呪えばいい。目に赤い輝きを宿し、幻惑への耐性を獲得し、俺本体の位置を見切ると、そのまま錫杖に呪力を集中させて打ち合ってくる。
一瞬の間隙を縫って殴打する。魔力打撃への耐性を用いて身体で止め、ダメージにならないのを良い事に最速での反撃を見舞ってくる。重い衝撃。斬撃を受け止めさせて動きを止めて――押し流す方向の――その先にコンフリクトを発動してくる。避けられるタイミングでは、ない。
こちらもマジックサークルを展開してフィールドを纏う。弾けるような音と共に、奴の転送した土塊が俺のすぐ横で爆ぜて落下していく。
「何ッ!?」
「転移魔法ぐらいこちらにだって使える! 後付けでの干渉ぐらいできるさ!」
転送された物体はフィールドの外側に押し退けられる。そんな専用の対抗術式をコンパクトリープから抽出して組み上げた。
踏み込む。ダメージにならないというのは驕りだ。ウロボロスに纏う――魔力の波長を変化させる。変化させた魔力を集束させて至近から叩き込む。
「ぐっ!?」
苦悶の声と共に脇腹の打撃を受けた箇所が炎上する。それは消えることなく苛む高熱の瘴気。魔剣士ゼヴィオンの技。
「流石に――これは受けたことのない性質の魔力だったか?」
「やりおるな! 魔力の性質そのものを変化させるとは――!」
高熱によって生じる炎が掻き消える。ウィズの分析では高熱はまだ残っているが、炎自体は消せるか。突っ込んでくるザナエルクとの攻防は、今度はまともなものになった。
耐性任せで肉を切らせて骨を断つような戦法は、俺がどう魔力を変化させるか分からないから悪手となると思ったのだろう。
青白い魔力を纏うウロボロスと赤い呪力を纏う錫杖が激突して反発し合う。
奴の身体からマジックスレイブが四方に散って。そこから赤い弾丸が飛んでくる。ウィズの分析が警告を伝えてくる。それは密集した呪法の針だ。
マジックシールドを広く形成しながら大きく飛ぶ。無数の針を高速で叩きつけることでシールドを細かく穿って崩し、殺到させることで貫いてくる。またしても――防御不能の射撃!
ネメア、カペラの蹴り足で初速を稼ぎ、レビテーションと魔力光推進で加速。マジックスレイブと弾丸そのものを振り切る。奴もまた、飛行呪法への強化増幅を用いてこちらの動きについてくる。
青と赤の光の尾を引いての高速戦闘。並走しながら放ってくる呪法針にソリッドハンマーを展開して対抗。針ごと薙ぎ払うように巨石を叩き込めば、反射呪法を局所的に展開して俺ではなく、ソリッドハンマーそのものに衝撃を跳ね返して粉砕。
こちらは前方にシールドを纏い。奴は呪法による耐性任せで。ソリッドハンマーの破片の中を最短距離で突っ切る。
周囲の精霊達が力を貸してくれる。かき集めた魔力を取り込んで循環。更に力を増大させて馬鹿げた速度で天地を入れ替え、飛び回りながらすれ違い様に打ち合う。激突の度に火花が散って、その度に重い衝撃が互いの身体を突き抜ける。それでも耐性を構築する奴には苦にならないのか。
無尽蔵というように呪力を噴出させて自己への強化を重ねて激突して弾かれ、打ち合っては切り結ぶ。
奴を倒すのならば。
螺旋衝撃波。まだ足りない。
ルセリアージュの舞剣やヴァルロスの斥力の剣によって一撃で絶命させる、か? それとも重力空間で押し潰すか? 推測が正しければ奴は受けた傷でさえも呪いで拒絶してしまう。一度受けた技、術に耐性を獲得する。その限界値がどれほどのものかが見えていない。大前提として一撃で意識を刈り取る必要がある。大技で、それができるのか否か。
だが、本当に? そうした方法で倒せるのか?
どこか引っかかる。違和感がある。練り上げた魔力も環境魔力も十分に高まっているが、手の内が見えていない内に勝負を仕掛けるのは危険だと、何かが警鐘を鳴らす。何だ。何が違う。
――そうだ。理屈に合わない。奴はさっきから高等呪法を連発し、それでも纏う呪力にも得物を叩きつけ合った時の重い衝撃にも、些かの衰えも見えない。俺のように周囲から取り込んでいるわけでは無いのに。
ああ。そうだ。間違いない。こんなことは高位魔人と戦った時でさえ有り得なかった。
つまり――奴はないはずの物を引き出している。消費されるという当たり前の事象を呪う。老いるという当たり前の事も拒絶して。
では。そのツケは――どこに行く? 歪ませた事象の帳尻は? 歪み。負債。反動。そんなものを、奴は自身で引き受けるつもりなど――。
「――ああ、そうか。精霊達は、加護があるからだけじゃなくて……怖がっているんだ。お前が世界を歪ませているから――!」
俺の言葉に、奴は牙を剥いて獰猛な笑みを見せた。身体は真っ直ぐこちらに向けたまま。両手を広げて後ろへと飛ぶ。空間に亀裂が走り、そこから濃密な瘴気――負の魔力が撒き散らされる。そしてそれが空間の亀裂から姿を覗かせた。
「くく。消耗戦と見せかけて勝負時を逆手に取るつもりだったのだがな?」
真っ黒な。それは血に飢えた獣。呪法の反動で生じた歪みに形を与えた――悪意の塊。
「此度は――流石に大きく育ち過ぎた。城の魔法陣で支えておくにも限度があろう。だが、余とそなたの間に刻まれた悪縁も十二分。余の生み出した歪みの獣は……そなたが受け取るのだ。万象を呪い、結果を拒絶する力が結実させる獣。実に――合理的な大呪法であろう?」
こちらがマジックサークルを展開するのと、奴が俺に向かって指先を突きつけ――亀裂の隙間から獣を殺到させるのは、ほとんど同時だった。
視界を埋め尽くす程の真っ黒な歪みの獣の海へと――大魔法をぶつける。第9階級光魔法スターライトノヴァ。浄化の輝きと、呪いの反動から生まれた負の獣。相反する力が、正面から激突する。
白い光の柱と、黒い獣の群れが。ぶつかり合って拮抗する。ウロボロスを握る手に反動。重い衝撃が術式を通してこちらに突き抜けてくる。
「ぐ、うううッ!」
膨大な力と力の激突。出力を上げて練り上げた魔力を、集まってくる魔力を、術式に練り込んでいく。術式の放出と激突を支える負荷に、ウロボロスを握る手の毛細血管が弾けて指先から血がしぶく。ウロボロスが苛立たしげに唸る。
奴にとっては――育て上げた獣を対象に向かわせているだけに過ぎない。スターライトノヴァとぶつけ合っても反動のようなものは生じないのだろう。ただ笑いながら俺を指差し、力尽きるのを待っているに過ぎない。
悪縁、か。恨みを通して呪うというわけだ。逆恨みも良いところだが――。身代わりの護符は、この物量では通用しないだろう。じりじりと、押されていく。
「まだ。まだまだまだ!」
止める! 止めてみせる! 相反する力を持つ、この術であるならば、拮抗させて支える事が出来る!
俺の放出する力が俺だけのものではなくて。精霊達が。ティエーラ達が背中を支えていてくれるから。みんなが、待っていてくれるから。過負荷の痛みも軋むような重みも、耐えてみせる!
呪法。呪い。事象を拒絶する力。
そう。様々な呪法を見てきた。迷宮核に巣食った呪法の生物。そこから作り出した闇魔法。エレナの教えてくれた呪法の基本。解呪の術式。スティーヴン達の能力。呪法兵。
スターライトノヴァを放ったままで組み上げられるような、ささやかなものでいい。触媒は俺の身体で事足りる。
手の中にマジックサークルを形成する。新しい魔法。だが、ささやかな魔法だ。笑いながら、手の中に生まれた輝きを、自らの胸に打ち込む。
呪法。悪縁を通して、呪術的なラインが奴と俺との間に形成されているというのなら。こんなのは――どうだ?
「な、にっ!?」
奴の、焦ったような声が聞こえる。
呪法と契約魔法の応用変化。いや、間違いなく呪法の域にある術だろう。
亀裂から放出される歪みの獣の一部が制御を違えて奴の肩口に食らいつく。
「ぐ、お、おおっ!」
同時に、こちらにかかる黒い獣からの圧力が弱まる。こちらの放出する光が、奴の放出する暗黒を押し返し始める。
「こ、こんな事が! 貴様ッ、よくも、こんな真似を!」
呪詛返しとは違う。呪法のラインを逆用して、奴に阻害の術式を送り込んでやった。
奴が専門家で呪法への防御を行えるとしても、こうして繋いでいる瞬間ならこちらから呪法を送るのも苦労はしない。
ラインを辿り、俺が呪う相手へと向かわせるだけの話。だがそれは、迷宮核に食い込んでいたウイルスと――まあ、似たようなものだ。そういう意味では過去の負債を返してやったとも言えなくもない。
「負債者を俺だと誤認させている。だから俺に歪みが殺到するわけだ。だけど今、その指定の制御が少し上手く行かなくなったとしたら……どうなるのかな?」
さあ。迷宮核以上の対魔法防御や対抗呪法がこの状況で構築できるというのなら、見せてもらおうか。
「ぎっ! がっ! きょ、拒絶する! 拒絶する拒絶する拒絶する! お、おおっ、おのれえええええええッ!」
食い破る歪みの獣から受けるダメージを呪って拒絶。肉体的損傷を復元する。
そうだな。俺が妨害しているのはあくまで歪みの獣の負債者を指定する術式。他の術は問題なく構築可能だろう。だが、それは自身に向かう歪みを更に膨れ上がらせるだけの結果で。
食らいつく獣がますますザナエルクに殺到していく。そして俺に向かってくる獣は術式で抑え込んでいる。
「う、おおおおおおっ!」
「自分の行動のツケは自分で払うんだな」
均衡が崩れて浄化の白光と歪みの獣の両方がザナエルクに殺到。そのまま後方に押し流されて地表に着弾。大爆発を起こす。爆風に吹き飛ばされるようにザナエルクが地面に転がった。
呪法のラインを切断して阻害術式を解呪。しかる後に歪みの獣でスターライトノヴァを負債の対象と指定して盾として利用。なるほど。
こちらも奴を追って、転がった奴の前に降りる。地面に這いつくばり、荒い息を吐くザナエルク。老いていく。急速に老いていく。
スターライトノヴァの盾にしながら、消し切れなかった獣は自分の肉体で引き受けた、か? そんなこともできるとは驚きだが。
「……邪魔をする……邪魔をする! 王である余を……何故阻む! 何故王として生まれた余が、過去を隠して他国の顔を窺いながら生きねばならん……! 我が国に残された遺産を利用して何が悪いというのか……ッ!」
「……そんな考えだから、こうなったんだろう。俺は別に、今を生きる人達にまで過去の罪の贖いを求めるつもりなんか無かった。エルメントルード姫とも始祖の女王とも……手を取り合えたのに」
「黙れ!」
膨大な呪力を集中させた剣での薙ぎ払い。老いても呪力の制御には些かの衰えもない。だが、それをウロボロスで止めていた。受け止めた杖に衝撃が走り、身体から血がしぶく。
それが最後の抵抗だったのか。奴の呪力が急速に枯渇していく。歪みが呪力にも回っているらしいな。
だが、こちらの魔力はまだまだ、といったところだ。精霊達が。この場で戦っているみんなが。俺に力を集めてきてくれる。
こちらの放出する魔力に、枯れ木のような老人が呻き声を漏らす。
「お、おお、おおおお。み、認めぬ……認めぬぞ……! ここで余を滅ぼそうとも、我が魂は死をも呪い、貴様らを必ずや……!」
「それは――無理な相談だ」
マジックサークルを展開。その規模に、ザナエルクの表情が絶望に歪む。
死をも拒絶し、その歪みを他者に撒き散らす。自分の生死や魂さえ勝負に賭けて、俺以外の者にさえ仇なすと言うのなら……こちらも相応に応じるまでだ。
「お前なんざに、何一つ奪わせはしない。拒絶しようとする意志の根幹さえ――残さない」
「ま、待てッ! 何を――!?」
光闇複合術式。スピリットバニッシャー。
「消えろ!」
「う、おおおあああああっ!」
ウロボロスを跳ね上げると同時に、ザナエルクを中心に巨大な光の柱が噴き上がった。陽光よりも眩い光によって、ザナエルクの恨み言さえ飲み込まれて崩れ散っていった。