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番外384 斥候と幻影

 行軍速度と敵軍の位置を把握しつつ、マルブランシュ侯爵領側にも見張りを残して動いていく。現在は――迎撃拠点の少し後方にシリウス号を配置し、何時でも動けるように待機中だ。


 マルブランシュ侯爵と4人の宮廷貴族達も、後方待機より前線であるシリウス号側へと詰めている。

 魔術師なので居合わせれば何かできる事があるかもと、アルフレッド達の魔道具作りを手伝ってくれたり、作戦立案等々で相談に乗ってくれたりしているというわけだ。


 侯爵領直轄地は侯爵の息子夫婦と騎士団長達がしっかり守っている。

 領主が前線に出て戦うのなら、自分達は領地と領民を守るのが務めです、とシリウス号へ避難するのは固辞された。マルブランシュ侯爵やガブリエラ達がシリウス号に乗るのとは意味合いが違う、ということだろう。


 ともかく、直轄地に護衛としてティアーズ数体を残しているし、シリウス号からの直接転移もできるのでこちらとしてはいざという時も対処可能な状況である。


 懸念としては……敵本隊が迎撃拠点を事前察知して大きく迂回してきた場合、というのが想定されるが、それにも対応できるよう、進軍ルートを予測してそちらにもハイダー達を配置している。そうした場合の迎撃位置も既に見積もりが終わってはいるので、多少面倒にはなるが問題はあるまい。それに、その可能性も低い。


「敵軍の動きは――わたくし達の予想通りというか、最短での行動を優先して街道を動いているようね」


 ローズマリーがハイダーから送られてくる情報を見て静かに頷く。


「これについてはこれまで隠してきた戦力を投入しているし油断……ではないんだろうね」


 そう答えるとマルブランシュ侯爵は目を閉じて頷いた。


「王軍と侯爵軍の手勢の差は通常兵力だけで足りますからな」

「反乱の芽を大きくしたくないという事情を加味して考えれば……どちらかというと対応の速度を優先したいのかなと思われます」

「ふむ。相手方に時間を与えすぎても対処が難しくなりますからな」


 そうだな。この場合の懸念は国外への亡命により、ベシュメルクの危険性が伝わってしまうことか。

 ザナエルク側も十分に時間を使えて、後ろ暗い事がないような案件であるなら、国王に逆らったとして南北に領地を持つ貴族達にも働きかけて、包囲して攻めるという手を使うのだろうが、今回はそうも言っていられないし、軍事力の観点だけで言うならその必要もない。


 スティーヴン達と俺――ラケルタだが――を侯爵側の戦力として加味するにしても、兵力差は歴然としていると敵方は見積もっている。これはスティーヴン達の能力が敵方に情報としてある、という部分が大きい。

 不確定要素はあるものの敵側の通常兵力に加え、大小の呪法兵や双子といった特殊な戦力も派遣しているのでこれらで対処可能と考えているのだろう。


 ディアドーラを含めた上層部は幾つかの竜籠に分かれて乗って進軍しているようで、作戦立案もその中で行われているのかそのあたりの情報は監視の目だけでは漏れてこない。


「ん。後は、ザナエルクが姿を見せていないのが気になる」


 と、シーラが言う。


「それは確かに。あの竜籠の中から動かずにいるのか……それとも……」


 ディアドーラ達が乗りこんでいった大型の竜籠には王家のものであると示す紋章が入っていたりして。ディアドーラもだが近衛兵達も同乗しているらしい。


 だからと言って的になりやすいそこにザナエルクが乗っているとは限らない。

 ザナエルク自身は王ではあるが実力を持っているからだ。となれば、そちらに目を向けさせて軍の中に紛れている、という戦法も使えるだろう。

 だが、自尊心、自負心は相当なものだ。だからこそ、同行しているとしたら竜籠に乗っている可能性は高いと思われる。

 そういう点をみんなにも伝え、警戒をしておくべき材料という共通認識を作っておく。


「王都から動いていないという線はどうかしら?」


 クラウディアが首を傾げる。


「そっちの可能性もあるけどね。自らの手で八つ裂きに、みたいなことは言ってたから、王都から動いていないとしたら、ラケルタに対しては生け捕りにして来い、なんて命令を下しているっていう事になるのかな」


 まあ……こちらとしてはあらゆる可能性を排除せず、いずれであっても対応できるように、というのが理想だな。


「そういった見えていない部分は予想を立てて対処するとして……最初に対応するべきは――この連中かな」

「上手い事、丘陵地帯まで敵本隊を乗せてやらないといけないものね」


 ステファニアが俺の言葉に頷く。水晶板モニターには敵本隊から少し離れて先行する斥候部隊の姿が映し出されている。

 飛竜に乗って、本隊から離れて先行移動中の騎士達だ。

 上空から敵の待ち伏せや罠の有無を見たり、異常があれば本隊に知らせるという役割を担っているわけだが……可能性が低いにしても、事前に迂回するという選択を取られないようにしておく必要がある。


 こちらの迎撃拠点を斥候が目撃し本隊に報告した場合……将兵に迎撃拠点を見られていない段階なら、理由をつけて事情を伝えず迂回する、というのはまだ可能だからだ。

 しっかり本隊に迎撃拠点を見せることで、敵方を勝負の場に乗せて降りられない状態に出来る。要するに「怖気付いて回避したなどと思われたくない」という、相手方の面子、沽券に係わる部分を利用するというわけだ。


「どうするの? 偵察を倒しちゃうとか?」


 イルムヒルトが尋ねてくる。


「倒してもいいけど偵察隊が戻ってこないと、一人も逃げられなかったっていう情報が伝わるし、空に対する備えもあるだろうってバレるからね。もう少しだけ手札は伏せておきたいかな。ここは俺が何とかするよ。もう少し偵察隊を引きつける必要があるけど……マルレーン、ランタンを貸してもらっても良いかな?」


 そう言うと、マルレーンは嬉しそうににこにこしながらこくんと頷くのであった。




 マルレーンからランタンを受け取り、丘陵地帯の少し手前の森に潜んで先遣の偵察隊を待ち受ける。

 迎撃拠点に仕込んである大規模な幻術のオンオフなら、偵察隊の目を誤魔化して対処も可能であるが……少人数の行きと帰りに合わせて広範囲を幻術でカバーしておく、というのはややコストが高くつく。

 なので、その前に何かあると思わせることで、偵察隊にはそのままお帰り願うという、ローコストな作戦で行こうかと思う。


 森に潜んで待っていると、偵察隊が街道の向こうから編隊を組んで飛んでくるのが見えた。所定の距離まで近づいたところで既に起動させていたランタンの幻術で見える風景に変化を生じさせる。


 即ち――丘陵の頂上で兵士が手旗で信号を送り、やや間を置いて、丘の向こうで狼煙が上がるといったような変化だ。それらは全て偵察隊用の座標付近に合わせた、ランタンからの幻影に過ぎない。


 だがそれを目にした偵察隊は、あからさまに飛行速度を緩めた。自分達が敵方の何かしらの警戒網に引っかかったことを察知したからだ。

 偵察隊は結局のところ、戦闘を目的としては動かないし、報告すべき内容を見つけた際に、自分達だけでそれ以上進むべきか否かを判断しない。どこそこでどんなものを見た、と、本隊に異常を知らせる役割が何より優先される。

 本隊を進めるのか。偵察隊をもう一度その地点から先まで行かせるのか。そこは上役の判断に任されるからだ。


 故に――この程度の内容でも本隊へ報告しに戻る、というわけだ。偵察隊は飛竜達を回頭させて街道を戻っていった。


 狼煙もな。結局後方に合図を送るためのもので……この程度では敵は慎重になりこそすれ、迂回するような情報にはなりえないだろう。本隊との位置関係から考えると……偵察隊がまた戻ってきた場合は今度こそ問答無用で排除して構わない。1人も逃さないという前提ではあるけれど。


 偵察隊が所定の距離まで先行し、戻るまでのタイムラグを考えれば、報告が行く頃には本隊が丘陵地帯に到着することになるからだ。そうすれば、俺達も迎撃のために動いていくだけでいい。後は……敵がこの報告を受けて動きを変えないかどうかを注視しておくとしよう。

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