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番外382 最後の子供達

「その魔道具は霧の奴だね。地図でいうと――このあたりに埋めておいてくれればいいかな」

「ん。了解。最高に見つけにくく偽装しておく」


 と、シーラが樽に仕込んだ魔道具を森の中に持っていく。偽装に関してはシーラに任せておけば問題あるまい。

 俺はと言えば――シリウス号の甲板で全体の進捗状況を確認しつつゴーレムの制御メダルに術式を刻み直すという作業をこなしている。


「メダルゴーレムも迷路の中に配置してしまって構わないのね?」


 ステファニアが尋ねてくる。


「ああ。こっちももう見せても大丈夫。ゴーレムが破壊されても核は土や壁の中を泳いで逃げるようにしてるし」

「配置箇所は迷路で言うと……なるほど。角待ちの間隔を分からないようにしているのね」


 ローズマリーが迷路の模型を覗き込んで薄く笑う。印をつけた場所がメダルゴーレムの配置箇所だが、ローズマリーの言うように配置場所に多少の偏りを持たせる事で相手の集中力が切れたところに攻撃、というような配置をしている。


「遅延が目的だからね。試しに通らせたら実は妨害がなくて簡単に突破された、なんていうのも意味がないし」


 といった感じで、要所要所にメダルゴーレムを配置していく。直接的な妨害だけではなく、迷路の順路を変えたりといった手立てにも使えるので、地上から来る敵兵に対しては高い効果を発揮するだろう。


「結界の準備も大丈夫です」


 そう言って、フォルセトとシオン達が甲板に上がってくる。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


 フォルセトが笑みを浮かべて応える。


「これは……皆さんの作業が終わってから発動ということになるでしょうか」

「そうだね。今すぐ発動だと作業が大変になるから」

「じゃあ、仕上げにだね!」

「みんなと一緒のこういう作業は……楽しい」


 シオン達にもそんな風に受け答えをして、みんなで手分けして作業を進めていく。やがてそれらの作業も終わり……マルセスカの言っていたように仕上げとして結界を張って……監視の目を残して、一旦侯爵領直轄地まで撤収するということになった。


 結界も張り終わったところで、入り口と出口に立て看板を立てておく。

 警戒中につき往来禁止、という旨のマルブランシュ侯爵の名前入りの看板だ。周辺住民の避難は済んでいるし、ザナエルク側も軍備を進めて侯爵領に進軍しようとしているから、あちらから一般人がやってくるということはない。戦闘に巻き込まないという意味合いでも、間者を通さないという意味合いでも、領主の名で往来を禁止してしまえば安心というわけだ。


 まあ……本当に知らずに来て引き返すようなことになってしまう者には申し訳ないが……戦闘に巻き込まれるよりはマシと思って我慢してもらおう。

 こうして封鎖しておくことで、その人物が王軍に見つかった場合でも侯爵領の関係者という嫌疑を減らす方向でも作用するしな。




 直轄地近郊に戻り、シリウス号の甲板にて遅めの昼食を取る。


「お待たせしました」

「沢山作ったからたっぷり食べてね」


 と、グレイスとクラウディアがにっこりと微笑む。

 今日の昼食はグレイスやアシュレイ、マルレーンやクラウディアやイルムヒルト達が用意してくれた。

 マンモス肉のカツ丼、蟹と貝の味噌汁、茶碗蒸し、キノコの炒め物、マヨネーズを使ったコールスロー……ということで和食寄りの構成で、しっかり食べてしっかり働けるようにという内容だ。

 各々の割り当てでも足りない場合はカレーポテトも用意してあるので満足いくまで食べられるだろう。


「ん。絶品」


 と、シーラが満足げにもぐもぐとやりながら言う。

 カツも衣に味が染みていて肉も柔らかく、タマネギもとろけるようで……米と合わせて食べるとこれがまた食が進むと言うか。

 エビの入った茶碗蒸しや、適度な味付けで旨味たっぷりの味噌汁、バター醤油で炒めたまろやかな味わいのキノコ。さっぱりしたコールスロー。


 ガブリエラやマルブランシュ侯爵、スティーヴン達も和食は初めてなので最初は珍しがっていたが――。


「これは……美味しいですね」

「素晴らしい料理ですが……私としてはどうしても見たことのない作物が気になってしまいますな」

「見たことのない料理だったが……気に入った。こいつは美味いな」


 ――という、上々の反応を貰っている。子供達も海産物には余り慣れていないが、舌鼓を打っているようで何よりだ。

 そして、マルブランシュ侯爵としては白米がかなり気になるらしい。


「フォレスタニアで開発している料理もあります。あちこちから作物や食材等も集めていますからね」

「白米もその一つで、今現在、私の領地でも規模を広げて生産しようと計画を進めているところです」

「ほうほう。後でもっと詳しくお話をお聞きしたいところですな」


 俺とアシュレイの言葉に、そんな風に食いついてくるマルブランシュ侯爵である。勿論農業の専門家であるマルブランシュ侯爵とはこの手の話は大歓迎である。いずれミシェルやハーベスタ達にも引き合わせたいところだ。


「コレ気ニ入ッタ!」


 ロジャーは随分とコールスローに使われているマヨネーズが気に入ったようで。

 確か……普通のカラスもマヨネーズというか、油が好物だった気がするが……ロジャーも多分に漏れず、という感じらしい。


 動物組もたっぷりと肉や魚、それに鉱物等々を食べ、魔法生物組も魔力補給を受けてご満悦だ。コルリスも石切り場にいったせいで食欲増進していたのか、いつもより食が進んでいる様子で、ステファニアやシャルロッテもそんなコルリスににこにことしていた。


 そんな調子で和やかに食事が進み、食後に茶を飲みながらイルムヒルトの呪曲で疲労回復といった時間を過ごしていると、シリウス号の外部伝声管を用いてティアーズの警戒音が響いた。


 ――敵方に動きがあった、という合図だ。監視網として残してきたハイダーからの映像に反応があったのだろう。俄かに弛緩した空気が引き締まったものとなり、みんなと顔を見合わせ艦橋へと移動する。


 そうして――そこに見る。

 敵方の派遣してくる軍勢――。巨大呪法兵の動向を掴まなければならないから、ハイダーを配置したのは街道から結構離れた位置だ。そのおかげで、全体を見る事が出来た。飛竜、幻獣、騎馬を駆る騎士達と、それに随伴する兵士達。地上部隊と飛行部隊の混成だな。

 ……人間と騎獣という組み合わせでの飛行部隊の規模はヴェルドガルの方が上だが。問題は敵軍の中に甲冑を纏った天使といったような意匠の人工物が混ざっている事か。


「呪法兵――ですか」


 グレイスがそれを見て眉をひそめた。


「多分ね。巨大呪法兵と意匠の系統が同じだし、僅かに地面から浮遊して移動してる。ベシュメルクの隠していた戦力なんだろうな」


 巨大呪法兵も――軍勢の最後尾からついてくる形だ。

 飛行部隊に関しては――連中にとっても貴重な戦力なのか、呪法兵と合わせても絶対的な数は多くない。事が大きくなる前の鎮圧を目的としているので、各地の兵力を結集させるより巨大呪法兵の武力を前面に押し出し、王都の軍を動かして迅速な解決を狙う……というのも分かっていたことではある。


 そこで街道での迎撃となるわけだが……罠が疑われる状態で飛行部隊が先に突出してくるということは考えにくいが可能性として想定していないわけではない。その場合は俺達できっちり迎え撃つことになる。巨大呪法兵と連係して動くのなら……これも対応するまでだ。


 王都側に一番近いところに配置したハイダーからの映像なので、行軍速度から大体の到達時間を割り出せるだろう。


「巨兵の肩あたりに――誰かいるようでござるな」


 と、イチエモンが言う。ハイダーを操作して望遠から拡大すると――。


「あの女!」


 イーリスが声を上げた。長い髪を風にたなびかせ、口元に嘲るような薄笑みを湛えた女魔術師がそこにいた。

 ……ディアドーラだな。ユーフェミアの夢の世界で容姿を見せてもらったが。確かに本人に間違いない。ユーフェミアの記憶と、寸分違わずに同じ姿のままだ。


 だが、それより気になるのは。空に浮かんでいるディアドーラが、何やら話しかけている人物の方だった。

 左右対称の意匠が施された甲冑を纏った、双子の少女が巨大呪法兵の肩に座っていた。楽しそうに話しかけるディアドーラとは対照的に。2人とも表情は凍り付いたかのような無表情で――。それを見たエイヴリルは何かを察したかのように目を大きく見開く。


「まさか……私達以外に、まだ……?」


 生体呪法兵――。その表情から何かを察したのなら、スティーヴン達が精神操作を受けていた時と、共通した雰囲気なりを見出したのかも知れない。


「地下区画からは……全員連れ出したはずだわ。私達が逃げ出した後に、ということかしら?」


 ユーフェミアが怒りを押し殺したような声で言う。

 察するに……研究が凍結される前にそれまでのノウハウを動員して、完成形を用意したということになるのか。


「何を話しているのかな。もっとハイダーを近付かせて、会話を拾うとかは――」


 レドリックがそんな風に言うが。


「それは止めておいた方が良いな。この双子……相当腕が立つと思う。ハイダーを無理に動かすと、察知される可能性がある」


 ハイダーには、そのまま待機を命じておいた方が良いだろう。

 呪法兵の肩などという高所にいるから、相当近付かせないと風魔法を駆使しても会話は拾えないしな。それよりも映像を記録しておいて……唇の動きから会話の内容を再現できるか、後で試してみよう。ウィズならシミュレートできるだろうか。


「予想外の相手だが……もし本当に生体呪法兵だと言うなら、するべき事は決まっている」


 スティーヴンが静かに言うと、イーリスも言葉を引き継ぐように言った。


「あの子達は――私達の妹だわ。精神操作を受けているっていうなら、それを解いて、助けてあげなくちゃいけない……!」


 その言葉に、スティーヴン達が揃って頷く。


「気合が入るのは分かるけど――気負い過ぎないようにね。エイヴリルの精神操作の解除に対して、対策を練っている可能性がある。封印術ならそういう後付けの対策は潰せると思う。もしその場での精神操作解除が難しそうなら、意識を失わせてくれれば、後はどうにかしてみせる」


 そう言うとスティーヴンは目を見開いた後に――にやりと笑った。


「……心強いな。どうか、妹達のために、力を貸してくれ」

「勿論だ。全力を尽くす」


 俺もにやっと笑って。そうしてスティーヴンと拳と拳を合わせたのであった。

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