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番外381 石切り場にて

 作戦をある程度詰めたところで、シリウス号で採石場へと向かう。

 すると山の一部が切り開かれるようにして土砂が取り除かれ――岩場が剥き出しになっている場所があった。

 大きな白いサイコロが重なったような特徴的な地形。石を四角く切り出し続ける事によって、結果そうなったという人為的なものだが、普段見慣れないものなので興味深く感じてしまうところはあるな。


「石切り場って、どうやってあんな風に石を切るの? 魔法?」


 イーリスが尋ねてくる。


「魔法でもできると思うし、俺はそうするつもりだけどね。道具を使うなら……最初に小さい穴を等間隔で一列に空けて――穴にクサビを金槌で均等に打ち込んでいったり、木のクサビに水を吸わせて膨らませたりして切る……というか割るんだったかな」

「石ハ割レヤスイ方向、アル。職人ノ技術ト、経験ダッテ主ガ言ッテタ」


 ティールの背中に止まったロジャーが、身体の陰から顔だけ出してそんな風に教えてくれる。ティールがロジャーの言葉に相槌を打つように、くいくいと首を縦に動かしていた。

 何やらティールとロジャーは鳥類同士ということで仲が良くなったように見えるな。そのおかげでロジャーも他の動物組とも早く打ち解けたような気もする。中々結構な事だ。


 まあ……それはともかくとして。確か景久の子供の頃の知識では、そういった石の微妙な機微を読む職人技が必要のない、誰でも思ったように石を割れる便利な道具が生まれて、職人の技術も衰退してしまったとか、どこかの社会科見学だったかで教えてもらった記憶がある。

 道具が進化することで貴重な技術、知識が失われる事もあるという、ちょっと考えさせられるような内容だったから印象に残っているのかも知れない。


 というわけでシリウス号を停泊させてみんなで甲板から眼下を見やる。

 花崗岩等を石材として得るわけで、分類するなら鉱山の一種ということになるからか、コルリスはふんふんと鼻をひくつかせて、甲板の縁から顔だけ出して下を覗き込み、周囲の匂いを探っていた。もしかするとどこかにコルリスの好物が埋まっているのかも知れない。


「帰ったらお昼にしましょう。コルリス」


 というステファニアの言葉に、コルリスはこくんと頷いていた。


「どうするの? メダルを使うのかしら?」

「あれは術式の書き換えがまだだからね。最後の仕上げには使うけど、ここは一気に進めていこうか。ちょっと行ってくる」


 と、イルムヒルトの質問に答えて、甲板から石切り場へと降りていく。

 石切り場の石材を大量消費してしまうし、作戦を決行することで整備された街道も一時的に通行止めになってしまうが……そのあたりの原状回復は事件解決後に請け負うということで。


 岩山に手をついて、可能な限り広範囲に魔力を浸透させていく。土の精霊王、プロフィオンの加護もあるので、こうして魔力を広げる作業も効率よく進められる。

 バロールが上空から広い範囲を見渡し、五感リンクでウィズがどの程度の範囲までヒュージゴーレムに作り替えられるかを光のフレームで教えてくれる。


 よし。では始めよう。そのままマジックサークルを展開する。


「――起きろ」


 クリエイトヒュージゴーレム――。四角く切り取られた岩山の一角がごっそりとヒュージゴーレムに作り替えられ、緩慢な動作で立ち上がる。


「こいつは壮観だな……」

「あんな巨大なゴーレムを……お一人で、しかも即席で作ってしまうとは」


 と、スティーヴンとガブリエラが甲板からそんな声を漏らしていた。ユーフェミアや子供達も歓声を上げ、喝采を送ってくれた。


「ん。テオドールはあれでそのまま建築したことがある」

「造船所がそうだったとお聞きしていますが……納得しました」


 シーラがそんな風に説明するとエレナがにこにこと笑う。


 四角いブロックが身体のあちこちから飛び出した無骨な印象のゴーレムではあるが……まあ、見た目は大した問題ではないし、そちらの方が後々都合も良い。

 更にもう一体。同規模のヒュージゴーレムを同様の手順で作成。制御下に置いたままでみんなに声をかける。


「それじゃ街道まで移動しようか。石材が不足したら改めて調達に来るっていうことで」

「分かりました」


 シリウス号に先導されるような形でヒュージゴーレム達を引き連れ、街道へと向かう。

 現場に到着したら、まずはヒュージゴーレム達には体育座りで待機させておいて、目測で大体の位置を決めていく。丘陵に隠れ、丘を越えたところで行軍してきた兵士達の目に入るような位置取りにすることが望ましい。


 ただし巨大呪法兵に関しては高い位置に視点がある事が予想される。となると、上空の光を屈折させるなり幻術を用いるなりして、高所から見ても街道封鎖の察知が遅れるよう、少しだけ細工をしておく必要があるだろう。


 というわけで石材を配置するおおよその位置を、丘の上から見て決めていく。街道脇を見渡せば森があるが――。そうだな。街道に石材を配置しつつ、森には霧を発生させておくなどして、いかにも迂回した場合は待ち伏せや罠を張っている、と相手方に思わせるというのが良いだろう。


 おおよその位置を決め、ウィズに光のフレームを作ってもらって大体の範囲を決めていく。では……石材を配置していくとしよう。


 まず、体育座りしている片方のヒュージゴーレムを使う。街道を塞ぐように横たえさせてからまずヒュージゴーレム制御の術式を解除。岩の塊に戻したところで改めてクリエイトゴーレムで分割していく。

 大中小、様々なサイズの四角いブロックに足だけ生えたようなデザインのゴーレムが岩の塊から分割されて、各々所定の位置に歩いていく。そうして指定のポジションに到着したところで足を収納させてその場に鎮座させる。


 分割した、と言っても人より大きなサイズだ。よじ登るのも一苦労である。

 少人数が通れる程度の隙間を開けて、互い違いにゴーレム達を配置していけば……あっという間に直角で構成された通路のようなものが街道上に形成されていた。大人数では通れず、入り口が多数。あみだくじのような通路を進むと袋小路も用意してあり、ちょっとした迷路のようになっている。完全に地上から来る人間の足止めを目的とした構成だ。


「これは何と言いますか……。角で隠れて待機できるような場所が多くて、待ち伏せされていそうとなったら、正直ここに入りたくはありませんな」


 エルマーがそれを上空から見て言う。うん。諜報部隊のリーダーのお墨付きともなれば安心だな。

 ヒュージゴーレムが控えているお陰で、相手方にゴーレムを使える術者がいるというのは一目瞭然。角待ちで奇襲を仕掛けるにしても、ゴーレムであるなら敵の人数が多くても問題なく配置できる。通路内で待ち伏せされていると、警戒せざるを得ない状況だ。もっとえげつない手を使うと想定した場合、生き埋めや押し潰しといった策も懸念されるだろう。


 迂回するにしてもヒュージゴーレムの放置をしたままでは危険性が高い……となれば、こんな石を配置しただけの簡易な迎撃拠点は、巨大呪法兵で蹴散らしてから進軍させれば良いという結論になるわけだ。

 巨大呪法兵を戦力として運用を考えた場合……例えば城塞のような拠点を攻略する手段として用いれば、これは絶大な効果を発揮するからな。ここでまず前面に出して使わない手はない。


 後は……相手の手札にどんなものがあるのかと想像した場合の、いくつかの懸念への対策だな。これについてはあちこちに魔道具を仕込む等して対応策を仕込んでおくという具合だ。というわけで、みんなで手分けして魔道具を設置するなどして、迎撃準備を仕上げてしまうとしよう。

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