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番外380 迎撃作戦

 そうしてスコットと共に侯爵領に点在する領民に声をかけて回り、マルブランシュ侯爵とも連係して避難誘導を進めていった。

 ドワーフの樵のように外れた場所に暮らしている面々を誘導したら、次はコマチの絡繰りやメダルゴーレム、それに竜籠も動員して、老人や子供のいる世帯など、避難の遅れている領民の移動を補助する方向にシフトする。


「侯爵もここまでして下さるなんて」

「生まれて初めてですよ、竜籠なんて乗るのは」

「おばあちゃん、足元気を付けてね」


 と、孫娘に手を引かれて竜籠に乗り込むお婆さん。

 一家が乗り込んだところでリンドブルムが声を上げて侯爵領の飛竜達を統率し、竜籠が侯爵領の直轄地に向かって飛んでいく。


「すっげー! ゴーレムの馬車だって!」

「タッカー、慌てて走らないように! みんなちゃんと乗れるんですから!」

「それにしても、流石はマルブランシュ侯爵ですね」


 メダルゴーレムで作ったゴーレムの幌馬車に、嬉しそうに乗り込んでいくのは孤児院の子供達と職員達だ。開拓村や宿場町からの避難民が次々に侯爵領向かって出発していく。


「主、自分ノ手柄ナッテルノ、申シ訳ナイ言ッテル。解決シタラ本当ノ事、言ウッテ」

「大丈夫だよ、ロジャー。こっちも侯爵が魔術師なお陰で、出自が隠せたまま動けて都合がいいからね」


 と、シリウス号側に合流したロジャーに笑って答える。そんな調子で避難誘導を進め、やがて一通りのところが終わる。

 侯爵領ではしっかりと領民の点呼が行われているようだった。

 ザナエルクが制度を変える前から戸籍制度に近いものがあるから、漏れがないかチェックもできてこのあたりは便利だ。冒険者も世情には敏感なので一緒に避難してきている。


 ドワーフの樵もそうだったが、避難民や冒険者の中には侯爵への協力を申し出てくれる者もいたりして。そうして集まった面々をエイヴリルがまとめて感情の色を見る事で、敵の間者がいないか等、確認するという手筈になっている。

 まあ……昨日の今日で避難誘導を始めたわけだし、住民の戸籍制度や等級分けをしているせいで、逆に間者を紛れ込ませにくい、という部分はあるかも知れないな。


 続いては……タームウィルズからの支援物資の転送と迎撃準備だな。




 通信機には支援物資の集積はもう少しかかるとの返答があったので、先に迎撃のための準備を行う、ということになった。

 城に向かい、侯爵達と迎撃を行う場所の最終的な決定と作戦確認を行うというわけだ。避難誘導完了の報告や互いへの労いの挨拶もそこそこに、地図を広げて確認と話し合いを行う。

 城の一角にある広間を臨時の発令所兼作戦会議室とし、そこのテーブルの上に地図を広げ、みんなで覗き込む。


「迎撃の場所は――幾つか候補を絞っておりましたな」


 避難誘導も終わっているので、後は直轄地や宿場町等々が戦闘に巻き込まれないような位置での迎撃が前提条件となる。その中にあって、今現在把握している敵戦力を考えていくと、最良の迎撃地点というのも自ずと絞られてくるわけだ。


「そうですね。目印の付けてある場所がそうです。避難誘導の折に上空から実際のところも色々見ていたのですが――この場所が良いのではないかと。近くに採石所がありますので、敵の足止めをするのに都合が良いと申しますか」


 と、地図の一点を指し示す。王都から侯爵領に至る道は平野部が多く、野戦での迎撃となると、どうしても真っ向勝負で頭数が多い方が有利に働く。高低差のある地形がないわけではないのだが、そういった場所は街道から離れていて、わざわざ行軍する理由はない。

 俺が示した位置の近くにある採石所もそうした場所の一つだ。このあたりの平野部には珍しい小高い山があったからそこが石切り場として利用されている、ということなのだろう。街道付近は緩やかな丘陵になってはいるが、別に難所でもなんでもない。


「確かに、そこには採石所がありますが……街道から外れるので進軍の妨げにはならないのでは? 伏兵を潜ませる、ということでしょうか?」


 侯爵は採石所があるからそこに決めた、という俺の言葉を受けて質問してきた。


「採石所自体には伏兵を置いたりするわけではありませんよ。ただ……。丘陵地帯でやや見通しが悪くなっている事と、採石所から石材を調達できることを考えて、というわけですね。侯爵ご自身も、家族の皆様も土魔法に通じている家系のご様子ですし、僕達も王都の地下から攻めましたからね。そうした事実は敵方も知っていますから。その情報を利用させてもらおうかと」


 侯爵が魔術師だから色々魔道具が用意できた、と領民向けに言ったのと同じだ。

 マルブランシュ侯爵家の人々が土魔法を使えるから。そして王都でも地下からの攻めを行ったから。

 土魔法関係の技法を用いて採石所から石材を用いて迎撃用の仮拠点を作れた、と敵に思わせる作戦である。


 例によって、地図上に模型を配置して作戦を説明していく。


「まず、大軍が行軍しにくくなる程度に街道に岩を持ってきて、行軍の遅延妨害を行いつつ、隘路での罠を疑わせる事で、迂回するかどうかの判断を迫ります。更に――これ見よがしにヒュージゴーレムらしき石の巨兵――囮でもいいのですが、これを同時に配置すると言うわけです」

「なるほど。敵の巨大呪法兵の注意を引きつつ、軍の迂回、という選択もしにくくするわけですか」


 岩の模型をごろごろと置いて街道を塞ぎつつ、その脇にヒュージゴーレムを配置すると、それを見たエリオットが頷く。


「ふむ。確かに……巨大なゴーレムが控えている状態で、無視して軍を迂回させるというわけにもいかないでござるな」

「挟撃、困ル。兵士達、士気ニ関ワル」


 イチエモンやロジャーもそんな風に状況を分析する。

 そうだな。そうなると当然、敵方もヒュージゴーレムは無視できないというわけだ。

 相手方としては通常の軍よりも巨大呪法兵が主戦力である。騎士や兵士、或いは小型の呪法兵達といった戦力は、領地の占領や統治、その維持を目的として随伴してくる。


 だから、見かけ上の兵力がどれだけいようと、ヒュージゴーレムに対して通常戦力をぶつけて消耗するわけにはいかない。

 従って、こちらが対抗しようと繰り出したヒュージゴーレムを巨大呪法兵で叩き潰して更に進軍、というのが敵方の出方となるはずだ。


「満を持して繰り出した巨大呪法兵がこちらのヒュージゴーレム如きに背を向けたなどと思われるわけにもいかない、ということかしら」


 ローズマリーが俺の立てた作戦を見てそんな風に言う。


「そう。敵方の面子や自負心が、罠を疑わせても他の選択を許さないわけだ。相性的なところから来る被害の規模やその後の統治を考えても、どうしても巨大呪法兵で対抗せざるを得ない」

「長年かけて用意していたものだものね。対応して作った程度のヒュージゴーレムを粉砕できなければ笑い話だわ」


 と、思案するように顎に手を当てながら、クラウディアも頷く。


「テオの本当の狙いは……敵の分断でしょうか?」

「ああ。兵士達の被害を減らすために、地上の進軍もやりにくくするわけですね」


 グレイスが言うと、アシュレイも得心いったというように応じる。マルレーンが感心したようにふんふんと頷いていた。


「それもある。分断しないとどうしても巨兵と通常戦力を交えての混戦になるし、巻き添えの被害はその場合、ただじゃ済まないからね」

「ん。ザナエルクは巨兵にまともに対抗できると思っているかどうか、微妙なところ」

「巨大呪法兵を先に倒してしまえば……。それで通常の兵力の戦意もくじける、かしら?」


 シーラとイルムヒルトが言う。そうだな。そういう見積もりがあっての混成部隊ということになるのだろう。派兵する規模に多少の不安があっても制圧に苦労はなく、早期に反乱の芽を摘めるとなれば、巨大呪法兵を前に出してくるだろうし。


「これは敬服いたしました。確かに敵方とはいえ、末端の兵士から怪我人や死者を徒に出すわけには参りませんな」

「まあ、騎士達の上層部は暗部と繋がっていそうですから、そのあたりに加減は必要ないと言えばそうですが」


 と、侯爵の言葉に答える。

 そうしてみんなに意見を聞いてみて……作戦の基本方針はこれで行こうということになる。

 後はみんなの意見を参考に、色々な想定をしながら細部に修正を加えていけばいいだろう。あまり長い時間をかけて作戦を練っているわけにもいかないから万全万端というわけにもいかない。……概ねのところが決まり次第手早く動いていくとしよう。

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