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番外378 女王との約束を

「そなた達も聞きたいことは多かろう。魔界についての話も色々したいところなのだがな――。儀式にも時間的な制約があってな。話の途中で帰ることになってしまうかも知れぬが、そうなった場合はすまぬと、先に伝えておこう」


 パルテニアラはそう言って、遠くに見える崩れた城と朽ち果てた街に視線を向ける。

 儀式の仕組みもそうだし、封印の維持もしているから、あまり長く顕現はしていられない、ということなのだろう。

 あの城と街は確かに気になるが……察するに魔界が作られる時に飲み込まれた古代呪術王国の王都か、或いは女王達が魔界に飲み込まれてから作り上げた拠点か。


「他の相談事や疑問等々は……今回の一件が解決してまたお会いした時、ということでも構いませんよ。今は――そうですね。込み入った話より、中断しても問題ないような世間話の延長ということで良いのではないでしょうか?」


 喫緊の事案――まず対応しなければならない門についての話は一先ず終わっているからな。


「そうかの? では、時間の許す限り世間話にでも興じるとするか」


 笑みを向けると、パルテニアラもにっこりと笑う。


「この風景を見せてもらった時から気になっていたのですが、あれは――かつての王国の? それともここに来てから建造した都市なのですか?」

「かつて……地上にあった王国のものだな。このあたり一帯もそうだ。術者どもは荒れ狂う魔力に対して被害の軽減と避難を行うべく、その魔力を利用して異界を構築しようとしたようだが、魔力嵐が術式と相互に影響して想定外の作用を起こしたらしい。結局周囲の土地ごと異界の構築に飲み込まれた」


 始源の精霊であるティエーラの魔力嵐を取り込んで構築された異界だからな。多種多様な生命や精霊がその中から形を成しても不思議ではない。

 いずれにしても、このあたりの景色が元は普通だった、ということなら、相当な変容の仕方であるが。

 そうしてパルテニアラから話を聞いてみれば、かなり広範囲を取り込んで、急速に構築と変異が進んだそうだ。魔界に生まれた生物は広がる異界と共に猛烈な勢いで増殖して……生態系の構築にまで至ってから落ち着いたそうだ。


「最初は王都に篭って凌いでいたが、やがてそうも言っていられなくなってな。苦労したのは……やはり食糧の確保か。王都の外は変異し切っていたからな。何が食用に適するのか、色々と調べる必要があった。妾も変異を起こさないよう呪法等々に対する防護魔法が使えるということで調査隊に加わってな」


 初期段階は王都内部にあった食糧品の備蓄で何とか凌ぎ、それではいずれ何ともならなくなるのが分かっていたので、外に調査隊を派遣するという話が持ち上がりと……苦難の連続だったそうだ。


「果樹園のリンゴの樹どもが根を器用に使って歩いているのを見た時は――どうしようかと思ったものだ。果実に目と牙があって、騎士や魔術師達が噛みつかれたりして……収穫に際して生傷が絶えなかったな。まあ……味は悪くなかったが。かなりの魔力を宿している上に収穫してもすぐに実るので重宝した。勿論、安全性を慎重に確認してからではあるが、口にしても我らが変異しなかったのは僥倖であったよ」

「何と言いますか……リンゴが魔物化しているような印象ですね」

「まさにそういう代物であったな。リンゴが食用に適していると分かって……しばらくリンゴ料理ばかりが食卓に並んで、うんざりしてまた調査に行って持ち帰って試す、というのを繰り返していたな」


 エレナが驚愕に目を丸くすると、パルテニアラは笑って答える。

 これは……今だから笑い話にできる内容なんだろうな。当時は調査も命懸けだっただろうし、食糧がそういうものばかりでは別のものを探しに行きたくなるというのも分かる。


「調査して分かったのだが、魔界の構築が落ち着いてからは、拠点外で見境なく変異が起こるというような状況からも脱していたようだ。もっとも――変異への対策無しには立ち入れないような危険地帯も点在しておったがな」

「地上で言うところの……魔力溜まりのようなものですか」

「近いな。魔界のそれは性質が悪いが」


 ガブリエラの言葉に頷くパルテニアラは少し遠くを見るような目をする。

 メイナードは……後からになって変異によって力を得る事を選択したわけだし、そうした場所を逆に利用して力を得た、ということになるのか。


「とはいえ……魔界の生活は過酷ではあったが、悪い事ばかりでもなかった。変異した生物や魔物の中には、敵対的な種もいたが友好的な者もいたからな。魔界で生まれた種族と仲良くなって、物々交換をしている内に向こうも我々の言葉を覚えたり、見様見真似で村を作ったりと、我らの生活様式を模倣したりしておった種族もいた」


 それはまた……。


「どんな種族だったんです?」

「二足歩行する多種多様なキノコ達だ。見た目はともかく平和的な性格の種族だったぞ。……あの者達が交換してくれるキノコには色々助けられたものだ。食糧にも薬にもなった」

「……中々興味深い話ね」


 と、ローズマリーが反応を示していた。

 魔界と聞いて殺伐とした雰囲気を想像していたが、多様性という点では案外賑やかなところなのかも知れない。危険地帯もあるし変異した魔物もいるようだが、それだけではないということなのだろう。


「っと……本当にただの世間話というか思い出話になってしまったな」


 パルテニアラがそう言って頬を掻く。そろそろ儀式の時間も限界に近付いているのかも知れない。


「いえ。陛下のお話には楽しませてもらっていますよ。こうして話をするのも、お互いの理解を深めるのには重要かと」

「そう思ってもらえると嬉しい。妾もこの時間を楽しく思っている」


 目を閉じて、どこか愉快そうに笑うパルテニアラ。


「少し真面目な話もしておくか。魔界に関しては最終的に拠点の維持が難しくなって撤退したということもあってな。妾達も手を付けられなかった部分がある。懸念される危険性がないかについては、調査が必要となってくるのかも知れんな」

「では……その話を進めることも、陛下との約束ということにしておきましょうか」

「ふむ。では、そなた達との再会を楽しみにしておこう。妾はそろそろ行かねばならぬ」


 パルテニアラがそう言って。周囲の景色が霧に薄れるように白く白く霞んでいく。


「陛下、またいずれ……!」

「どうか、お気をつけて……!」


 エレナとガブリエラの言葉に、パルテニアラは任せろと言うように、にやりとした表情を向けて応じた。

 そうして、白く染まる視界の中で光が弾けたかと思うと――俺達はいつの間にか元の儀式場に戻ってきていた。

 精霊の気配はもう過ぎ去った後で……後には清浄な魔力が残るばかりだ。


「とても力強いお方でしたね。お話できて良かったです」

「魔界でもきっと、勇気づけられた方は多かったのではないでしょうか」


 そんな風にグレイスとアシュレイが言う。


「確かにね。あんまりしんみりせずにこっちも負けずに気合を入れようって気分になるのは……人徳かも知れない」


 そう答えるとマルレーンもこくこくと頷いていた。

 それに、色々と重要な情報も得られた。ザナエルクの打倒や再会の約束もしてしまったしな。きっちりと約束は果たさなければなるまい。


 さし当たっては――予定通り住民の避難誘導か。シリウス号を動かせればそれが一番早いのだろうが、現場にシリウス号で行ってコマチの絡繰りやメダルゴーレム等々で手伝いをするというのが良さそうだな。

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