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番外371 侯爵領の再会

 マルブランシュ侯爵領に到着したのは日が沈もうという頃合いになって、であった。

 ただ飛ばしてくるだけならもっと早くに到着も出来たが、要所要所にハイダーを配置してきたというのもあり、その作業のために最高速で、とはいかなかった側面がある。

 とはいえ、侯爵の使い魔によると現在、領地は異常もなく安全とのことで。

 ハイダーで後方の状況も確認できるから言えることではあるが、現状は一先ず、お互い戦いの前の準備段階に入った、といったところだろう。


 マルブランシュ侯爵領に関しては――緑豊かな穀倉地帯といった長閑な雰囲気の領地だ。侯爵家が代々農業を専門とする魔術師を輩出してきた家系だから、領地もそういう方向性になるのは必然と言えるのかも知れない。

 領地の西側はヴェルドガル王国とベシュメルク王国を隔てる山岳地帯で、進行方向遠方には山々の稜線が見えているが……山岳奥地は魔力溜まりもあって、あまり人が立ち入らない場所、というのが分かっている。


 山岳地帯の裾に広がる平原に――侯爵家の領地が見えてくる。外壁と、街の中央にこじんまりとした雰囲気の城。


「いやはや。こうして見ると頼りないものですな。陛……いや、ザナエルクが私の領地であれば家族を送っても問題にしなかった理由も分かろうというものです」


 侯爵はそんな風に言って頭を掻いていた。

 まあ、立地的にヴェルドガル側から攻められる危険性が低いから、国防の要衝としての発達をしなかった、というのは分かる。通常の魔物に対する備えとしては十分なものというぐらいだろうか。


「とはいえ、あの巨大呪法兵を城や砦のような拠点で迎え撃つのは難しいかと。住民の被害を出さないためにも、防衛よりも野戦で撃破すべき相手でしょう」

「かも知れませんな。王軍に立ち向かうというのは……皆様と合流するまで考えられなかった話ではありますが」


 俺の言葉に、侯爵が真剣な面持ちで頷く。

 そうだな。ザナエルクからしてみると侯爵の人望や能力はともかく、このあたりの軍事的な備えの脆弱さも考えに入れて宮廷魔術師として上の立場に据えた、というのはあるかも知れない。

 いざという時に反目されても対応しやすいし、魔法技術を開帳せずとも軍事力を盾に要求を呑ませる事も視野に入れられるからだ。だがまあ、それでもザナエルクは侯爵の人柄というか、志の高さを侮り過ぎだとは思うが。

 このあたりは裏の魔法技術の高さが、お互いの知識の前提としてあるからこその油断、かも知れない。


 そうしてシリウス号はゆっくりと速度を落としながら、街には入らず近隣に停泊する。迷彩フィールドはまだ展開したまま少し高い位置に停めておけばいいだろう。

 こちらの正体は王都でも隠し通したのだから、そのアドバンテージは利用できるだけ利用させてもらおう。


 シリウス号から降りて、街へ向かうと、既に使い魔から侯爵が帰還すると連絡が来ていたからか、街外れに何台かの馬車で迎えが来ていた。


「おお……! お帰りなさいませ、父上!」

「ご無事で何よりです……! 旦那様!」


 そう言って侯爵を見るなり駆けつけてきたのは、後嗣である息子夫婦と、侯爵と同年代ぐらいの執事や騎士、それから使用人といった顔ぶれだった。


「あなた!」

「父上! 良かった、無事で……!」


 ヒルトン達、4人の貴族の家族達も連絡を受けたのか、迎えに来ている。妻や息子、娘、年老いた親に抱きしめられたりして、涙を浮かべて再会を喜んでいる様子だった。


「揃って救出できて……良かったわね」


 と、その光景を見たローズマリーがそんな風に呟く。アシュレイがにこやかに頷き、マルレーンもこくこくと笑顔で首を縦に振って。そんな反応に少し照れくさそうに咳払いをするローズマリーである。


 家人達の喜びは相当なものだ。彼らからすると侯爵やヒルトン達は処刑寸前だったわけだからな。

 ザナエルクとの約束や侯爵自身の意向で、安全の為に王都に近付かないように厳命もされていたし、そんな状況で諦めかけていたところに、こうして思いがけず再会できるようになったということで……侯爵達は家族に温かく迎えられているという印象であった。


 そんな中で1人、馬車の中から彼らの再会を喜ばしそうに見守っている人物が一人。いや、肩に美しい青色のカラスもいたりするが。


 その人物は――ああ、確かに。容姿はエレナに似ているかも知れない。年齢としては16、7歳ぐらいだろうか? 俺達の視線に気がつくと馬車から降りて、深々と一礼して、こちらに歩み寄ってきた。

 途中でエレナに気付いたのか、彼女を見て驚いたような表情になるも、歩調はそのまま。俺達の前までやってくると作法に則り、挨拶をしてくる。


「お初にお目にかかります。当代の刻印の巫女の役目を任ぜられております、ガブリエラと申します。ほんの少しではありますが、ロジャー――侯爵の使い魔から事情はお聞きしました。侯爵や彼らを助けて頂き、感謝いたします」


 やはり。件の人物だったか。身を隠しているわけだから馬車から降りなかったようだが、まあ、この場には関係者のみなので大丈夫と判断したようだ。


「俺、ロジャー! 主人、助ケテクレタ、アリガト!」


 と、青いカラスのロジャーもそんな風に翼をバサバサと羽ばたかせながら声を上げる。

 どうやらこのカラスが侯爵の使い魔らしい。青いカラスというのは……魔物の種族では聞いたことがないな。高い魔力を持った突然変異種か、長命であったために魔力を宿した個体かも知れない。

 出迎えに来ていた家族達も一先ず落ち着いたのか、ガブリエラとロジャーの言葉を受け、俺達の方を向いて、感謝の言葉と共に深々と頭を下げてくる。


「再会できて何よりです」


 と、こちらも返答して一礼を返す。


「ここでこのまま立ち話というのもなんですからな。まずは城へと移動しましょうか」


 ガブリエラの肩から飛び移ってきたロジャーの頭を撫でながらマルブランシュ侯爵が提案してくる。そうだな。まずは場所を移して、そこで腰を落ち着けて話をすることにしよう。




 城の一角にある広々とした部屋に通され、そこでお茶を飲みながら話をする、ということになった。

 自己紹介をして、俺達の正体、何故ベシュメルクの調査に来たのか、侯爵領に急行してきた理由であるとか、使い魔からでは伝えられなかった重要な情報等々も侯爵領の面々に伝える。


「ヴェルドガル王国の境界公に、エルメントルード殿下本人、とは……」

「――生体呪法兵……。ザナエルク王の考えそうなことです」


 侯爵の息子であるギリオンや、ガブリエラは俺達の話に、そんな風に相槌を打ったりしながら耳を傾けていた。


「これからの話になりますが、僕達が侯爵を救出した結果として、ザナエルクはこの土地に兵力を差し向けてくるもの、と考えられます。僕達としても最大限の支援は行いますが、領民に危険が及ばないような策は講じておく必要があるかなと」


 領地、領民を危険に晒さないよう迎撃方法を考えている事を説明する。

 侯爵本人や4人の貴族とその家族についてはザナエルクが王である限り反逆者となってしまうが……。


「問題ありません。元々父が処刑されてしまえば、私の後嗣としての立場を保証するなどという王の言葉も、どこまで信用できるか分かったものではありませんからな。仮に……私達が退けばここは直轄地となります。王が我々を悪者とし、大義名分や外聞を気にして動く限りは、領民は安全なのではないか、などと、ガブリエラ殿下とこれからどうすべきかを相談していたのです」

「私には実権も力もありませんが……侯爵のご家族の証言や協力があれば、王の危険性を他国に警告して聞いてもらうぐらいのことはできるかと、そんな事を考えておりました」


 と、2人が言う。亡命も視野に入れていた、ということになるか。

 ともかく武力が足りないなら足りないで、現実的に王に対抗する方向で相談を進めていたということで。

 状況が変わった――つまり俺達が味方についたことで、撤退するよりも迎撃する方向で全面的に協力してくれるとのことだ。

 一先ず、侯爵領の人々との連係と、これからの方向性については問題なさそうだ。それを確認したところで、ガブリエラが口を開く。


「これからの方針については、大丈夫でしょうか。皆様の事情もお聞きしましたので、刻印の巫女姫についての話もしておきたいと、思っているのですが」


 そうだな。彼女の祖母に関する話など、色々気になる事もある。そのあたりの事情もガブリエラから聞いてみよう。

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