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番外357 解呪

「そうなると、多少の広さと人目に付かない場所が必要か?」

「それについては問題ないかな。広さと言っても最小限で事足りるから――」

「なるほどな……。そうやって活用するわけか」


 と、スティーヴン達を交えて、夢の世界で放たれた呪いに対処する方法、手順等々の具体的なところを打ち合わせる。


「それじゃあ、明日の朝一番で準備をするっていうことで」

「了解した」

「……何だか、魔法に関することでこうして事前に色々話し合って決めるって新鮮だね」

「そうかもね。城の魔術師連中は私達に説明するとか、そういうの全然なかったし」


 と、一通り話が纏まったところでレドリックが笑うとイーリスが苦笑して肩を竦めた。


「そういう事なら、お互いの事についてお話をするというのも、これからの信頼の為にいいかも知れませんね」


 そんな風にアシュレイが微笑むと、ユーフェミアも笑って頷く。


「そうね。時間はたっぷりあるもの。解呪についても纏まったみたいだし、お話しましょうか」


 というわけで、色々と話をすることになった。俺の事や皆の事。スティーヴン達が城から逃げ出した後の日常であるとか。

 俺自身の事については幼少の頃の話に始まり……魔人の事やタームウィルズに旅に出た事から端を発して……事件や旅を通してみんなと出会っていった事といった話になるだろうか。


 グレイスやクラウディアの出自や事情であるとか、シーラやイルムヒルト、それにマルレーンに関する事件であるとか……スティーヴン達には驚かれる事も多かった。

 同時に色々と納得もしてくれた様子だ。エリオットの境遇についてはスティーヴン達と似たところがあるし、クラウディアとユーフェミアの悩みも通じるところがあるからだろう。


「一緒の時間を共に歩んで過ごしたいというのは……他人事には聞こえなかったわ」


 そう言って目を閉じるクラウディアに、ユーフェミアも思うところがあるのか、遠くを見るような目をしていた。


「しかしまあ……テオドール公は波乱万丈というか、噂以上の修羅場をくぐっているんだな」

「……色々と納得したような気もするわ」


 そんな反応を貰ってしまうが。


「現状は悪くない、と思っているよ」


 そんな風に答えるとグレイス達が微笑み、スティーヴン達も静かに笑って頷いていた。

 その他にも、スティーヴン達が地方に出てからの暮らしぶり等を聞いたりもした。スティーヴンが冒険者登録をしつつみんなで狩猟や採集をして、それをギルドで金に換え、食糧、衣類に……更に奮発して生活用の魔道具なども買ったりしていたそうだ。


「魔道具を組み込んでみんなでお風呂を作った時は、楽しかったわね」


 エイヴリルが微笑んで言うと、コマチやアルフレッドがうんうんと頷いていた。魔道具を作る、魔道具を組み込んで何かを作るというのは……うん。確かに楽しいが。


 ともあれ街から外れた目立たない場所にみんなで隠れ家を作って、半分自給自足の生活を送っていたわけだ。身を隠してではあるが、それはそれで楽しい共同生活だったというのが、口振りから分かるような気がする。


 そんな風にして……夢の世界での時間はのんびりと過ぎていくのであった。




 明くる日。朝一番で色々と動き出す。協力体制を取る以上は行動を共にしていた方が良いだろうという事で、備品等々を運び出してシリウス号に積み込んでいく。

 並行して甲板に結界を描く。ここでユーフェミアが封じ込めている呪いを順々に解放。結界の外にスティーヴン達に待機してもらって、術式が結界に引っかかったところを俺達が処理、という作戦を立てている。


 呪いは対象に向かうのでユーフェミアが優先的に攻撃される、という危険性は少なめだが、そこはしっかりと安全対策をしておくべきだろう。

 呪いに対処可能なのは、俺、シャルロッテ、オルディア、エレナという面子になる。なのでそれ以外の面々がユーフェミアを守る。


「ん。任せて」

「きちんと守るからね」


 と、シーラやイルムヒルトがユーフェミアの周りを固めて声を上げる。エレナのエッグナイト、エッグビーストも呪いへの対処が可能なので、ユーフェミアの防御に回ってもらった。ユーフェミア自身にもカドケウスとバロールを付けているので、結構な防衛戦力になっている。


 グレイスの場合は……加減が難しいので若干護衛には不向きだが、強烈な闘気の一撃で呪いをも断ち切る、というのは可能だ。解放順の来ていない面々を船の中に避難させておいて、入り口に陣取ってもらうというのが望ましいだろうか。


「それじゃあ、これを……そうね。2枚ずつ持っていてもらえるかしら? 呪いに対して身代わりになってくれるのよ。受け取ったらコルリス――あの手を振っているモグラのところに行くのよ?」


 と、子供達に身代わりの護符を配っていくローズマリーとマルレーンである。ローズマリーの指差す方向には船の案内役として待機しているステファニアとアシュレイ、目印代わりになっているコルリスがいる。


 後は呪いの解放に合わせて甲板で一人ずつ待ってもらう。

 最初はエイヴリルからだ。ホルンもユーフェミアの意向を聞けるので、ユーフェミアには人払いの手助けもしてもらう。続いて戦闘員として呪いに対抗できる者を優先的に解除していき、呪いに対する防衛やユーフェミアの護衛として動いてもらうことになるだろう。


「私達は準備できました」


 と、シャルロッテが真剣な表情で言うと、オルディアとエレナも気合の入った表情で頷く。

 それぞれマクスウェルやベリウス、ヴィンクルがついて護衛として待機中だ。解呪組から少し離れたところ――結界の外にエイヴリルも待機し、それをイグニスやジェイクが護衛として守る。


「そっちは?」

「こちらも問題ないわ」


 結界の縁に立つクラウディアが言う。では、始めよう。合図を送るとクラウディアの足元からマジックサークルが広がり、結界が展開する。

 ホルンとエイヴリルが揃って頷き、ユーフェミアに合図を送る。

 そうして。ぼんやりとした光が眠るユーフェミアから放たれたと思うと――その光の中から黒い奔流が飛び出した。

 それは四足の獣――黒い犬の姿となって空中を駆け、真っ直ぐにエイヴリルに向かった。当然のように結界の壁に激突する。そこを狙ってシャルロッテが準備していた阻害術式――ベノムフォースを叩き込むと、黒い犬の動きがぎくしゃくとしたおかしなものになってそうしてシャルロッテが更に光弾を撃ち込むとあっさりと形を失い、弾け飛んだ。


 阻害術式によって正常な働きができなくなったところに光魔法の弾を受けて、術式の維持ができなくなって吹き飛んだというわけだ。

 迷宮核に侵入していたあの魔法生物と似た波長を感じる術式ではあるが……放たれてからもしぶとく残り続けてはいても、こうした対抗術で狙い撃ちされてしまうと脆い印象があるな。


「やりました、先生!」


 と、シャルロッテが笑顔を向けてくる。頷くとシャルロッテも嬉しそうに頷く。


「これほどあっさりと解呪できるとは……」

「術の性質と状況を逆手に取っているし、対抗するための術もあるからね」


 スティーヴンに答える。ユーフェミアがお膳立てを整えていてくれたからな。

 後は相性の良い術で順番に処理していけるなら問題は無い。対抗手段がないとか、対応できない状況だと結構厄介な気もするが。


「この調子でいこうか」

「それじゃあ次は私が」


 と、オルディアが一歩前に出る。そうだな。呪いから力を奪って宝石の形に固めてしまっても、意味をなさなくなるだろう。正確に対象へ向かうというその性質故に、万端準備を整え一つ一つ解放して解呪していくなら、負担も少なく処理していけるはずだ。




 そうして一人一人解呪していき――最後にユーフェミア自身に向けられた呪いを解放するということになった。この場合、夢の世界の入り口から飛び出してすぐにユーフェミアに向かって突っ込んでいくという事で、今までのように結界に激突したところを仕留める、というわけにはいかない。


「マジックサークルを展開する。準備ができたら合図するから、指定した位置から呪いを解放してくれ」

「分かったわ」


 スティーヴン達がユーフェミアの周りを護衛として固め、そうしてマジックサークルを展開。エイヴリルに合図を送ると、程無くして直上から呪いが解放される。真下に向かって飛んできて――頭上に展開した分解術式の光に突っ込んで、末端部が消滅する。呪いが危険を察知して迂回しようとする。だが、逃さない。掲げた掌を握り込むように、分解術式の輝きを掌中で操って包囲する。


「――消えろ」


 握り潰すように消滅の輝きを集中させて、そのまま黒い犬を分解、消滅させる。そうして……呪いが消失した事を確認し、小さく安堵の息を吐く。


「何だか、マジックサークルの規模が……。さらっと使ってたけど、とんでもない大魔法だったような……」


 と、目を瞬かせているレドリックである。

 うむ。後は封印の呪具を用いてやれば、ユーフェミアも眠りから目覚めることができるだろう。

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