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番外351 敵の敵は

 分解術式を用いて結界を突き抜ける。入った時と同じように呪法の発動と、身代わりの護符の消失が起きた。……よし。これで脱出は完了だ。


『見つからずに脱出できたよ』


 と、結界内部では念のためにと外部との通信は控えていたわけだが。通信機を使うと『お帰りなさい!』とすぐに返答が返って来た。

 残してきたバロールに嬉しそうに手を振ったり笑顔を向けてくるみんなの姿が見える。


『詳しい事は帰ったら話すよ。王城の正門付近で戦闘が起こっているみたいだ』


 嬉しそうな表情になったのも束の間。みんなの表情に緊張が走る。


『それは、例の彼らですか?』

『多分そうだと思う。これから正門付近に向かってみるから、ティアーズ達を飛ばして王都の周囲を監視していて欲しい。外に逃げたかどうかで、こっちの動きも決まってくる』

『分かりました!』


 そんなやり取りをかわしながらも、地中を進んでいく。

 すると――正門前の状況が目に飛び込んできた。噴水のある広場になっているのだが……生命反応を見ると、駆けつけてきた兵士達があちこちに転がっているという状態だ。


 カドケウスを少しだけ地上に出して状況を視覚で見る。転がっている連中にはしっかりと生命反応の光が見える。命に別状はないようだが……。3人の人物を遠巻きに囲んで睨み合っているような状況だった。3人でこれだけの兵士達を寄せ付けない。殺さずに戦闘能力を奪う程の実力差を持っている、ということか。


 騎士は後方に詰めているが呪法兵は出てきていない。現状を見るに兵士達では荷が重そうにも見えるが、こんな状況にあってもベシュメルクは街中では秘密の保持を優先するという事なのか。


「お前達は、疑問に思わないのか……?」


 広場の中央――。

 長髪、髭面の男が、遠巻きにしている兵士達を睥睨しながら、牙を見せるように獰猛に笑う。歳の頃は30そこそこ、ぐらいだろうか。粗野な印象で。見た目は……賊と言われれば違和感もないが、その立ち振る舞いは堂々としたもので、かなり人目を引く。


「正門前の広場でこれだけの騒ぎを起こした上で……侯爵と我らの間に繋がりはない! 彼の者を濡れ衣で処刑しようとしている……! ……などと、声高に叫ぼうとも。貴様らが主君と仰ぐ王はお前達に任せきりだ。それとも我らが王城に踏み込まぬ限り、手の内は見せないということか?」


 そう言って肩を竦めて嘲るように笑う男。身振り手振りを交えた、芝居がかったものだが、やけに楽しそうだ。


「言わせておけば――! 陛下を愚弄するなどと――!」

「これだけの包囲から逃れられると思うな!」

「待てッ! 迂闊に動いては――!」


 男の挑発に乗せられたように、若い兵士達が激昂して突っかける。騎士の警告の声。笑う男が両足を開き、中腰になって地面に拳を叩き落とすような仕草を見せる。

 その瞬間。詰め寄った兵士達が頭上からの不可視の何かによって、纏めて石畳の上に叩きつけられていた。


「がっ!?」


 身体が弾むほどの衝撃がその威力を物語っている。

 ――これか。既に倒されている兵士達も似たような技を食らったようだ。だから、一定の間合いを保ったままで踏み込めずにいる。


「その通りだ。迂闊に踏み込むと手痛い目に遭うぞ?」


 そう言って男が笑う。

 闘気を使ったわけではない。魔法とも、違うように見えた。今のは――。


 いや、技の正体よりもここで気にするべきは男の言動か。

 これだけの大騒動を起こしたその目的は……王の行動に対して正当性を問う、というものだろうか?

 侯爵への嫌疑……少なくとも自分達との繋がりは濡れ衣だと。処刑の話が噂だと広がっている今だから、こうして主張しにきたということか。


 もう一点。男の言動で特に気になるのは、ベシュメルク王が戦力を隠しているのを知っている節があるということだ。

 王城に一度忍び込んだのなら呪法兵等の存在を知っていてもおかしくはないが……だとしてもベシュメルクの内情をある程度知っているからこその言動のように思えてならない。


 そしてそれは……誰に向けての言葉なのか。内情を知る騎士達への揺さぶり、か? 彼らにとって、この行動は自分の身を危険に晒してまで、実行するような価値があること、ということなのだろうか? だとするなら――。


 そうこうしている内に広場にますます騎士や兵士達が集まってくる。弓兵やら魔術師といった遠距離攻撃の出来る面々の到着を待っていたようだ。


「潮時だな」


 男は遠くから迫ってくるその連中をつまらなそうに見やると、傍らにいたフードを被った小柄な人物に目を向ける。

 男の仲間は頷くと、地面に手を着いて――何やら光の円を広げる。マジックサークルではない。ないが、何やら転移魔法にも似ていて。だとするならそれはゲートなのだろう。


 だが、それが広がりきるよりも早く。

 一人の騎士が笑って水晶のようなものを掲げると、音もなく重圧のようなものが周囲に広がっていった。

 簡易の結界――。地面に広がっていた光の円が砕けるように弾けて消える。


「なん、で!?」

「ちっ……!」


 困惑の声を上げるフードと、舌打ちして騎士を見据えて身構える男ともう一人の仲間。水晶を掲げる騎士はにやりと笑って――。


 そこまでだった。地面から飛び出した俺が、水晶を掲げている騎士を横合いから殴り倒したからだ。空中に投げ出された水晶を、闘気を纏った槍――の振りをしたウロボロスで、一閃して粉砕する。展開された結界が消失するのを確認。


 飛び出す瞬間までは偽装フィールドを展開していたので、地面から飛び出してから突っ込んできた、とは気付くまい。今後も地下には目を向けさせないために、カドケウスを翼に変形させ、羽ばたかせて空中に舞い上がり、男達に告げる。


「結界は壊した! さっさと逃げろ!」

「お前は――?」


 男達が驚愕の表情で俺を見上げる。フードの方は弾かれたように地面に再び手をついて、ゲートを広げる。


「なん、だ? 魔物……? 竜……!?」


 混乱しているのは兵士達も一緒らしい。俺の声に合わせてウィズが兜の口を動かしているからな。

 そうしている内にゲートの準備ができたと、仲間が合図するが――男はそこで予想外の行動に出た。


「来いッ! 逃げるぞ!」


 と、空中にいる俺に向かって手を差し出してきたのだ。逡巡は一瞬。詰め寄ろうとする兵士に闘気の斬撃を飛ばして牽制しつつ、男に向かって突っ込む。

 男の手を掴むと、そのまま地面のゲートに引き摺りこまれた。光に包まれて、一瞬後には別の場所に飛び出すように放り出されていた。


 ここは……既に王都の外だ。周囲には男の仲間達。みんなも俺達の転移を把握している。

 王都の近隣に潜む集団を確認済だったからだ。

 ティアーズ達が望遠で確認したところ、ゲートのようなものは最初から開いていたらしい。だとするなら、フードの方は予め対になるゲートを作っておいて、改めてゲートを開くことでそこに転移できる、というような、術なり能力なりを持っている、ということだろう。


 ともあれ、男の仲間達は俺という予想外の同行者がいたので、固まったり身構えたりしているようだったが。

 男が仲間達の動きを手で制する。


「待て。こいつは……あー。多分だが、敵じゃない。助けてくれたんだよ」


 多分、か。一先ず攻撃を仕掛けないように。しかし警戒は完全に解かない程度に、ぐらいの言い回しかも知れない。


「味方だと思わせて、仲間のところに案内させる作戦かも知れないぞ」


 俺がそう言うと、男は笑った。


「その時は、仲間達総出で倒すだけの話だ」


 そうして言葉を続ける。


「そういう作戦ならわざわざ言わないだろうさ。それに、そもそもそういう手を使うなら、もっと適切な見た目の奴がいるだろ? だから信用したっていうのは変か?」


 そういうものか。自分達の能力を知っていれば単身で飛び込んでくるはずもないという自負があってこそだな。だから、こちらも率直な返答をしておく。


「こっちにも理由があるんだ。事情も分からない内から正体は明かせないんだが……まあ、簡単に言うと俺達にとってはベシュメルク王が敵かな。だから割って入った。利害が一致した場合に今後の協力も出来るかと思ったから」

「……なるほどな。そういうことなら答えておく。あの王は、俺達にとっても敵だ」


 と、どこか楽しそうに笑う男である。さて……。どう話を進めたものか。

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