表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1107/2811

番外350 調査と襲撃

 忍び込んだ資料庫の書棚を見ていく。ところどころに奇妙な魔力反応があったりして、魔法的なトラップなのか、それとも魔術書の類なのか判別が難しいところがあるが……そういったものは一先ず除外していく。

 今回の潜入の目的は、まず第一に、魔界の扉を解放するための研究が継続されているか否かを判別するものだからだ。


 いくら呪法兵の目を誤魔化したといっても、油断して長時間身を置いているのは侮り過ぎだ。手早く進めて行こう。

 図書館程分類を正確にはしていないだろうと思うが、研究者がある程度利便性を考えるなら、同種の研究成果は同じ場所に纏めるし、何かしら規則性を持って資料の保管をするだろう。


 なのでどのような規則に従って書棚に収められているのか推測したり、先んじて紙が経年劣化していなさそうな、新しめの資料に注目しておくと効率的に調べる事が可能だと思われる。そうして端から順に見ていくと……規則性も何となく分かってくる。


 大雑把に言うなら……攻撃術の研究開発、治癒術の研究開発といったような具合に、研究の内容ごとにプロジェクトに名前が付けられていて、後はその研究の頭文字順に書棚に収められている……というような感じだ。

 部外者には分かりにくくはあるが、まあ内輪だけで理解できればいい資料庫なので、それもセキュリティの一環ではあるのか。


 そうなると……魔界だとか封印だとか刻印だとか。そのあたりの頭文字に相当する資料が収められている書棚を調べていけば遠からず目的のものに当たるだろう。


 そうして……それらしき資料を発見する。紙の劣化具合からすると、少し古い時代のもののようなので、現在も研究が続けられている証拠、となるものではないが……報告書だな、これは。

 符丁や暗号化がされていないので資料として技術的な価値はない。しかし途中経過を理解しやすいので、ここで目を通しておくだけの価値はあるだろう。

 カドケウスに読ませて五感リンクを通してウィズに記憶させつつ、俺自身は並行して他の資料を探る。


「これは……」


 報告書には、魔道具、魔法生物等々……様々な手段を駆使して刻印の巫女の代替品となる「合鍵」を作ろうとしたがどうしても上手くいかなかった、という旨の内容が記されている。


 つまり、エレナの行方が分からず、刻印の巫女の代替を作ろうとしたわけだ。エレナに出奔され、行方が分からなくても魔界の利用を諦めてなどいなかった、というのがこれで分かる。


 ともあれ、鍵側をどうにか偽造や複製するのは、ベシュメルクの初代女王が作り上げた呪法が強固過ぎて無理、という結論らしい。

 であれば先に作られた門側をどうにかするか、新しい門を作る方が望みもあるのでは、と報告者の見解が書かれていた。


 刻印の巫女というセキュリティは、最初に作られた門に対する後付けだ。初めからセットで作られたわけではないのなら、付け入る隙があるのでは、ということなのだろう。

 そこでセキュリティ側が強固すぎるなら土台の方をどうにかする、という発想なわけだ。実際、手元にある門を研究解析する方が捗るだろうしな。


 代替品を作る技術開発の過程で得られた副産物についても……並行して研究を進め、技術として活かしていく、という旨が記されて報告書は結ばれていた。

 このあたりの分岐した研究のその後も気になるところだが、今回の作戦を考えると枝葉ではあるか。本筋を追っていこう。


 資料を時系列で追っていくと……新しい門を作るのは無理という報告も出てくる。

 門に限らず、過去の技術の復元全般が上手くいっていないらしい。そもそも足りていないピースがあるのでは、とあるが……なるほど……。

 精霊の支配技術であるとか、そのあたりの失伝した技術研究もこれで芳しくない、ということが分かった。オリハルコンありきの技術だから、それに関する情報が失われている以上は再現が上手くいかないのも当然だろう。研究者の勘は良い線をいっている。


 そうして、ベシュメルクの研究は、結局今ある門をどうにか開くだとか、最悪の場合は破壊する、という方向に集約していくわけだ。

 門をどうにかする前の段階として、魔界の生き物に対抗するために戦力の増強を検討する必要もあるとか……ああ。これはこれで、ろくでもない方向に進んでいるな。


 そして……新しい時代の研究資料が書棚から抜かれてスカスカになっている。

 地下区画の実験場に参考資料として持ち込まれているから、だな。

 これで過去の研究の経過を辿って……現在に繋がった。状況証拠を見るならば、研究が継続していると見て間違いあるまい。


「とりあえず……最後の報告書以後の新しい時代の研究資料は幾つか纏めて失敬していこうか。研究の妨害にもなるし、今現在、どの程度の成果が出ているのか推測する材料にもなる」


 付け加えるなら研究者が持ち出して不注意で紛失したのか、侵入されて盗み取られたのか判別しにくい。それで研究者が失脚したり研究や実験が停滞するのなら、こちらとしては万々歳というわけだ。こんな研究を続けている奴に遠慮はいらないだろう。


 そんなわけでローズマリーから借りてきた魔法の鞄に資料を放り込んでいく。カドケウスやウロボロス、ウィズ、ネメア、カペラ達が含み笑いを漏らしていたりして。うむ。


 さて。問題はここからの行動だ。

 今までの過程では見つからずに資料庫に潜り込めたし、比較的新しい時代の成果も現在研究が継続されていることの証拠として押収し、妨害工作も地味ながら仕込めたわけだ。

 ここから地下区画への潜入となると研究者も呪法兵もいるだろうから、発見されるリスクも跳ね上がるが……。


 侵入がばれることと、今回仕込んだ妨害工作はトレードオフの関係だ。それでも最新の研究成果の奪取や破壊などとの天秤にかけるなら価値はある。

 しかし侯爵の救出を考えるのなら、ある程度の成果で満足し、察知されない内に離脱するというのも有りだ。状況も変わってきているので迷うところだな。


 と、そこまで思考を巡らせたところで、扉を開いて先程の呪法兵が姿を見せる。何かヘマをやらかしたかと身構えたが、呪法兵は何やら空中に魔力で形成した文字を浮かべていた。


 ――警告。王城正門に攻撃を仕掛けてくる賊が出現。警戒態勢への移行と機密保持の規定につき資料庫を一時的に封鎖するので、利用中の研究者は地下区画の防衛設備へと移動されたし。


 と、そういった内容だ。これは……タイムリミットだな。

 ここで呪法兵の警告に従わないと、戦闘になることも有り得る。

 警戒度が上がるのなら地下区画への潜入や破壊工作も難しくなるから、侵入が発覚することを防ぐのを優先するべきだ。


 それにこのタイミング……。俺の行動が発覚すると攻撃中の人物の罪として誤解されてしまう事も想定される。味方に成り得る可能性のある相手に濡れ衣を着せるような状況をわざわざ作るのはよろしくない。さっさと退散するべきだろう。


「承知した。すぐに移動するので、お前達はこの場所の守りを固めて欲しい。まだ外での潜入なら移動する時間は十分にあるだろう」


 言葉が通じるかどうかは分からないが、そう答えてすぐに出ていく素振りを見せる。2体の呪法兵達は俺の退室を見届ける、というように入口両脇に分かれて待機する。

 キマイラコートの内側に仕込まれている魔法の鞄の中身は分からないらしいな。ではこのまま手ぶらを装って退散させてもらうとしよう。




 城内は慌ただしくなっていたが、警戒の目が外に向いているのなら脱出もそう難しくはないだろう。地下区画からは研究員を退避させているなら鉢合わせする者はいないし、あっさりと偽装の書庫まで戻ってくることができた。

 仮眠室にいた交代要員の兵士達も叩き起こされて警戒に当たるようだ。仮眠室から出払ったところで悠々と部屋の中を通りぬけ、寝台の下に潜んで迷彩用のフィールドを展開。周囲の生命反応を見ながら脱出の機を窺う。


 今――。

 通路を見張りが通り過ぎて視線が切れた瞬間を狙って、壁を通り抜けつつ即座に修繕を行う。離宮の外壁も突き抜けて修繕。そこからは止まらない。空中から植え込み近くに着地して、すぐさま土の中に潜り込む。


 後は結界を破って脱出するだけだが……攻撃を仕掛けた賊、というのが気になるな。

 正門からわざわざ仕掛けるというあたり、一体何を目的としているのか。そちらも見に行き、可能ならコンタクトを取りたいところだが……さて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ