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番外349 離宮への潜入

 一先ずの情報収集はできた。侯爵達を救出する作戦についても連絡したが、メルヴィン王を始め、各国の王や関係者からの賛同も得られたので、これも実行に移す事になるだろう。

 ただ、侯爵が投獄された経緯についてはまだ不明な点も多い。

 ベシュメルクの裏の事情へ関わり方や、これまでの侯爵の行動如何によっては……ヴェルドガルで保護することになっても、結局行動の自由が認められない、という可能性もあるだろう。だがまあ、それは確かめてみなければ分からないことでもある。

 ベシュメルク王への対応も……離宮への潜入の結果如何のところがあるしな。


 そんなわけでみんなから魔道具を借り、装備品をきっちりと整えてからの出撃だ。

 今回、ホルンとコルリスは後方待機だ。潜入する時は良いとしても、脱出する場合は結界を破る事も想定されるので俺と行動を共にしていなければならないし、俺が先頭で動かないと結局みんなも脱出できない。それを考えると単独潜入以外はどうしてもリスクが増えてしまう。


 カドケウスは同行するが……極力別行動はしない予定だ。やはり実質的に動くのは俺一人、ということになるだろう。


「それじゃあ、行ってくるよ」

「はい。十分にお気をつけて」

「お帰りをお待ちしています」

「いってらっしゃい」


 言葉を交わしみんなと抱擁し合う。柔らかな感触と、暖かな体温。鼻孔をくすぐる香り。

 暫く抱き合ってから離れると、みんなも俺を真っ直ぐ見て頷いてくる。うん。気合が入った。

 後方待機となるホルンは、気を付けて、といった感じで声を上げていた。コルリスもサムズアップを俺に向けてきたりして。こちらもサムズアップを返しておく。


 ウィズが顔に巻き付いて兜型に変化したところで、宝貝を発動させて方向を合わせ、土の中へと飛び込んでいく。目指すは離宮だ。

 少し土の中を泳いでいくとやがて王都の中心部――王城と外界を隔てる結界に到着する。


 ここの結界壁はかなり強固だ。空からも地中からも対象問わず侵入を拒み、脱出も阻む。

 正規の方法――正門などの出入り口を通るのなら話は別だが、それはつまり、侵入や逃走を阻もうとするのならそこだけ固めれば良いという事だ。

 現に前にカドケウスで調査をした時は、遠目で見ても正門付近は相当警戒が分厚いものだった。前に侵入を許している、ということもあるのだろうが。


 そう考えると、王城に侵入したという連中の事が気になるな。余程内情に精通しているか、それとも何か特殊な技術を持っているか。


 ともあれ、潜入するつもりなら結界か正門をどうにかして越えなければ始まらないということだ。

 まずは周囲の土を退ける。ウロボロスを構えて魔力循環。練り上げた魔力でマジックサークルを展開――。


「行くぞ――」


 分解術式の光を身体の周囲に纏い、分厚い結界壁へと突っ込む。

 抵抗はほとんどなかった。地中の土ごと結界壁を分解して内側へと突き抜ける。後には分解された魔力が漂うばかりだ。


 すぐさま背後で結界に空いた穴が塞がっていき、所持していた身代わりの護符が燃え上がる。

 やはり……結界に呪法を組み込んでいたらしい。不正な方法での突破に対してカウンターを返す、といったような。


 だが、どうやら問題はなさそうだな。護符が燃え尽きたことで魔力の動きも停止している。呪法のカウンターは一度発動してしまえば継続する類でもないらしい。

 身代わりの呪符が代わりに燃え尽きたことで、カウンターが完遂されたということになるわけだ。


 後は……脱出時にも大魔法を使わねばならないわけで。今の内にマジックポーションを使って、消費した魔力を回復しておくとしよう。


 さて。王城敷地内の地下を泳ぎながら、離宮を目指して進んでいく。

 エレナに王城の見取り図を描いてもらい、それをウィズに記憶してもらっている。土の中からでも地上の建造物の位置が光のフレームとして見えているわけだが、これは50年前の記憶を元にしたもの、という点を前提にしなければならない。


 生命感知と魔力ソナーで地上の様子を探りながら敷地内を進み……やがて離宮の位置につける。

 離宮内部の見取り図もエレナから貰っている。離宮は刻印の巫女の生活の場でもあるらしいが、離宮内部や王城内部から隠し通路を通って、研究区画に入る事が可能だそうだ。

 主に魔法研究や実験は地下区画で行われる、らしい。これは実験が失敗した際のリスク軽減が目的だろう。爆発等々が起こったとしても地下であるなら被害は限定的だからだ。


 一定の成果として纏まった研究内容は上層に資料として保存されるそうだ。耐火の術や構造強化を施した資料庫、という話で、実験の失敗によって資料が失われる事を防ぐ目的があるのだろう。これも、離宮の隠し通路側からしか立ち入ることのできない場所らしい。


 ……潜入を目指すのなら、まずはやはり上階の資料庫だろうということで、エルマーやイチエモン達とは意見の一致を見ている。


「成果を見せてもらうことで、現在進行形で行われている研究についても、ある程度の推測ができるのではないでしょうか」

「左様。その後に地下の実験場を見た場合でも……そこで行われている事が何なのか、すぐに把握できるのではないかと愚考するでござる」


 といった意見だ。

 更に付け加えるならば、ベシュメルクは魔法技術を秘匿している関係上、資料庫には見張りを常駐させることができないという事情がある。

 つまり、忍び込むことに成功してしまえば、無人の資料庫で行動する時間を確保できて、潜入作戦の成果を上げやすくなる、というわけだ。


 離宮近くの中庭――地表付近まで浮かび上がる。地中から生命反応と魔力反応を見て、周囲の状況を確認。魔力ソナーを放って地形を確認。

 巡回の兵士がやってきて……そうして通り過ぎたところで、針のような形状になったカドケウスが地上に飛び出す。潜水艦の潜望鏡のような要領で……五感リンクによって周辺の状況を確認していく。


 時刻は深夜。今いる場所は庭園だ。だが、庭園には魔法の明かりを灯した柱が、街路灯のように点在していて、夜であるにも拘らず案外見通しが良い、という状況だ。

 巡回の兵士達の位置関係を確認して、カドケウスを引き戻しつつ少し移動する。植え込みの陰から地上に身体を出す。


 風、光、隠蔽術の3重の偽装フィールドを展開。巡回する兵士達の合間を縫うように空中へと飛び出す。カドケウスが背中で翼状の形態に変化。音もなく飛行していき、離宮の外壁に取りつく。ウィズの演算能力も上乗せし、リアルタイムで纏う幻術を変えている。


 中庭巡回中の兵士の位置関係なら、どこから見ても向こう側の風景が透過されているような幻影を纏っているわけだ。音、温度、魔力感知も遮断している。後は物理的に触れるぐらいしか感知する方法はない。


 ここからだ。離宮内部の構造が変わっていなければいいのだが。

 石壁に魔力を浸透させ、構造強化を部分解除。土魔法で溶けるように潜り込みつつ、即座に壁を修復する。


 そうして潜り込んだ場所は……離宮内部の通路であった。

 豪華さを感じさせる内装。調度品の置かれた通路が左右に伸びていて、等間隔に壁に魔法の明かりが灯っているが、夜間だからか光量は控えめで少し薄暗い。

 ここはまだ離宮の「表部分」だ。隠し通路に近いところを選んで内部に潜入はしたけれど。

 偽装フィールドを纏ったままで廊下を移動していく。曲がり角から覗き込むと――。目的としている扉の前に2人の見張りが陣取っていた。


 離宮自体が完成された建物だ。隠し通路等もあって融通が利かない分、改装等々もしにくいだろうとエルマー達は見積もっていたが、それも的中している。


 ……あの2人は持ち場から動かないだろうな。呼び笛まで首からぶら下げている。物音での誘導なども片方だけが動いて声を掛け合いながら、といった調子だろう。

 となると、離宮内部に侵入した時の要領で、隣の部屋から壁を抜いていけば目的とする部屋へと侵入できるわけだ。


 通路を巡回してきた兵士を柱の暗がりでやり過ごし、いなくなったタイミングを見計らって石壁に土魔法で小さな穴を開ける。壁の向こうは仮眠室だ。これもエレナの描いてくれた見取り図通りだ。

 寝台の上に四人の兵士がいる事を確認。穴からスリープクラウドを流し込んで眠りを深いものにしてやる。


 そうしてから壁に溶け込むようにして侵入。侵入口を土魔法で修繕。眠っている兵士達の間を抜けて、目的としている隣の部屋に入り込む。


 ――そこはまるで書庫のような部屋だった。だが、ここは俺が目的としている資料庫ではない。この場所自体が偽装なのだ。


 貴重な魔術書、古文書を集めている書庫だから兵士達が守る。学者や魔術師が泊まり込みで調べものをするために内部に立ち入る……という事に表向きはなっているし、そうした設備も整えられてはいる。


 だが、実際のところは……ここは離宮の裏側に通じる、隠し通路がある場所なのだ。

 エレナの教えてくれた情報を元に、隠し扉のある書棚へと向かう。壁の後ろに魔石が嵌め込まれているそうだ。カドケウスに書棚の後ろ側を探らせると、すぐに目的のものは見つかった。壁の向こうに気になる生命反応、魔力反応はなし。


 魔石を反応させれば――立っている床ごとぐるりと回転して壁の裏側に入った。

 装飾のある表側と違って、飾り気のない、無機質な印象の通路だ。行くべき方向は分かっている。通路を進んでいくと、やがて上に向かう螺旋階段に突き当たる。


 そうして進んでいくと――。完全武装の巨躯の鎧兵士が2人、通路を完全に塞ぐように待機していた。ただし、生命反応はない。魔力反応はエレナの作ったエッグナイトと似たような波長。つまり……呪法兵だ。


 人間の見張りを資料庫に立てられないなら、呪法兵を置けばいいというわけだ。

 無詠唱で魔法を叩き込む用意をしつつも、首からぶら下げたメダルを呪法兵に見せる。呪法兵は片手を差し出してメダルに翳し、それから畏まるように通路の脇に移動して控えた。


 そう。エレナに作ってもらった正式な許可証である。王家の血を使うものなので、同格の権限を持つ者か作った術者本人が命令しなければ、自動型の呪法兵は制御通りに動く、と言っていたっけな。

 隠蔽術のフィールドを広めに展開してあるので遠隔からの探知は届かないが、至近の呪法兵には認識してもらえるというわけだ。


 人間相手には存在を感知させなければいいし、呪法兵のような相手には正規の手順で退いてもらえば良い。正規の許可さえあれば、こんな見た目であっても呪法兵は制御通りに動くというわけだ。

 不意打ちで阻害術式を叩き込む用意もしていたが、とりあえず強硬手段は取らなくて済むようだ。


 個体識別ではなく、血統で判別しているのだろう。エレナが出奔してセキュリティ回りが変えられている事も予想されたが……完成された呪法兵に手を加えるとなると、またそのために研究しなければならなかったり、色々大変だからな。


 他に研究を進めたいものがあるのなら、そのあたりに手を付けられないのも仕方がない。それとも、逃げ出した巫女と魔術師に何ができるという驕りか。

 それもそうだ。外壁、王城と厳重に結界も張られている。見張りも多く、資料庫にある情報など、巫女や宮廷魔術師は元々閲覧できる内容なのだから。

 出て行った王族が後になって危険を冒して侵入してくるなどというのを、想定していない。だから懸念があっても脅威を低く見積もり、結果として手つかずというわけだ。


 とはいえ、俺から言わせれば、正当な相手から許可を貰って必要なものを閲覧しに来たに過ぎない。ベシュメルク王の方が間違っているのだ。

 扉を開けて、中に進むとそこは所狭しと書棚の並ぶ空間だった。では……手早く目的のものを探していこう。きちんと分類分けされていれば探す手間が省ける。研究者達の合理性と整理整頓ぶりに期待したいところだ。

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