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番外343 故郷の空にて

 城の大部屋を借りて、打ち合わせの時間を作ろうと準備を進める。

 そこでふと窓の外を見ると、海が青くて随分といい眺めだった。


「――ベシュメルク行きを控えていなかったら、海で遊んだりもしたかったところですが」

「ふふ。私もここからの眺めは気に入っておりますぞ。気楽な観光目的での歓待ができれば良かったのですが」

「では、また何かの折に遊びに来させていただいた時にでも」

「おお。それは良いですな。国境付近と言っても長らく平和が続いておりましたからな。海の幸も豊富で良いところです」

「では、懸念が片付きましたら是非」

「ん。海は良い」


 俺の言葉にフィリップは相好を崩し、海の幸という言葉にシーラが反応していた。

 そうしてみんなにお茶が行き渡ったところで机の上に地図を広げる。地図の上にはこのあたりに都、このあたりに湖……等々、大まかな内容ではあるが位置関係が記されている。

 土魔法で作った簡単なシリウス号の駒やらを用意してベシュメルクの地理や侵入ルート等々を確認していくという寸法だ。


「連絡を受けてはおりましたが、ベシュメルクの地図とは……驚きですな」


 フィリップが言う。通信機でのやり取りもあったが、フィリップはこの街での準備が忙しくてタームウィルズでの話し合い等々には参加できていなかった面があるのだ。

 なのでその説明と、明日からの行動をみんなで確認という意味合いがある。


「ヴェルドガル王国とドラフデニア王国の国境付近の地図を合わせ、更にエレナさんの知識で補ったものですね」

「現在の街の位置などはともかく、大凡の地理という面では大きくは変わらないと思われますので、お役に立てる事もあるかなと」


 と、俺の言葉を捕捉するようにエレナが恐縮しながら言う。

 エレナの知識は50年前のものだが、地理に関してはそのまま通用するだろう。月から見える情報、ティエーラの星球儀を合わせたものでもある。

 開拓地等はそのまま発展しているかも知れないが……刻印の巫女は実際の政治からは距離を置く立場でもあったので、細かな村々の位置までは把握していないとのことだ。


 そういった点はこちらで前提として踏まえておけばいいだけの話なので、エレナの知識は非常に助かる。

 実際に政治を行わない立場でありながら、こうした基本的な知識がしっかりしているというのは……やはり彼女の師匠である魔術師が立派な人物だった、というのが大きいだろう。


「というわけで、僕達としてはこういった航路を取りつつ都付近を目指すということになります。船を待機させるのならばここや、ここ……それからこのあたりが候補になるでしょう」


 といった調子で地図をあれこれと示しながら、確認と説明を兼ねて話をする。


「乾燥地帯の利用や魔力溜まり周辺ですか。考えましたな」


 にやりと笑うフィリップ。

 ベシュメルクは結構地理的な変化に富んでいるようで……砂漠とはいかないまでも、やや暮らしにくい乾燥した地帯もあれば、温暖な場所もあり、北部に森林、山岳地帯と南部に海に面した地域がある。王都の場所はほぼ国土の中央だ。


 その上で魔力溜まりもやはり大小点在している。王都に対して潜入しやすいような位置を見繕わなければならないが、俺達の場合はシリウス号を移動拠点としているので、普通は潜伏先としては向かない場所でも問題なく使える、というわけだ。


「人を避けるにはもってこいですからね。隠蔽結界も張りますし」


 魔力溜まりにしても奥地に陣取らなければ魔力溜まりの主を刺激することもなく、仮に魔物が出てきたとしてもゴブリンやコボルト等の比較的与しやすい相手になる、というわけだ。


「後は実際に現地を見て……現場での判断を下してから、必要に応じて連絡を取り合うという形になるかと。あてにして向かってみたら村や街が近くに発展していて拠点として不向きだった、なんて有り得ない話でもないですからね」

「承知しました。後詰めの方々にもできるだけ動きやすい環境を整えられるよう、こちらとしても動いていきます」

「よろしくお願いします」


 後詰めと連係する時にこちらの位置を知らせる必要が出てくるかも知れないからな。態勢の構築は重要だが、フィリップに関してはそういった実務に関しても経験豊富なので頼もしいことである。




 そうして一夜が明け……いよいよベシュメルク潜入の日がやってきた。

 門までフィリップが見送りに来てくれる。


「船の位置まで着いていくわけには参りませんからな。私はここで見送りさせていただきます。あまり大したお持て成しもできずに申し訳なく思っておりますが」

「いえ。食事も美味しかったですし、風呂も部屋も立派なものでしたから。お陰でぐっすり休めましたよ」


 海の幸をふんだんに使った料理で夕食も朝食も満足感があったからな。今の状況を見ればあちこち見て回ったりといったような歓待の仕方ができないのもやむを得ないし。

 フィリップは相好を崩すも、姿勢を正して真剣な表情になると、真っ直ぐ俺を見て言った。


「――陰ながら武運長久を祈っております。どうか、皆様揃ってご無事にお帰りになられますよう」

「ありがとうございます。行ってきます」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 そう言ってフィリップと握手を交わし。そうして俺達は近くに待たせているシリウス号へと向かうのであった。




 そうしてシリウス号に乗り込み、しっかりと点呼を取ってから南東部の都市を後にする。針路はここから北東方面へと取る予定だ。光と風、隠蔽術の三重迷彩フィールドを展開し、高度を上げて目的の場所へと進んでいくわけである。


 動物組は同行すると目立ってしまうので船の留守番をしてもらっていた。

 食事等々の用意もマクスウェルやイグニス、ティアーズらが用意したりできるので、魔法生物達とのんびり過ごしていたようである。


「船の中で窮屈じゃなかった?」


 と、艦橋で落ち着いたところで尋ねると、リンドブルムが声を上げて大丈夫だったと応え、コルリス達もこくこくと頷く。ホルンが言うところによると、隠蔽術のフィールド内なら見つからないからみんなして甲板で日光浴などしていた、とのことだ。


 その横でシャルロッテがいそいそとブラッシングの用意を始めている。シャルロッテ個人としては船で留守番、というのも歓迎だったのかも知れないな。ブラッシングなどのケアは結構重要だったりする。スキンシップで体調の変化にすぐに気付けるし、動物組も調子が良ければ動きもキレるというものだから。


 さてさて。シリウス号は点在する魔力溜まりの中心から距離を取りながら、間を抜けていくような航路を取る。フィールドに加えて、念のために監視の目がない地帯を選んで進んでいくという寸法だ。


 しばらく飛行していくと、ベシュメルクとの国境を越えるあたりに差し掛かる。水晶板モニターからあちこち見て生命反応等々も監視中だが、特に変わった反応はない。高空を取っているので大まかな風景しか見えないというのもあるが。


 それでも……エレナにとっては生まれ故郷だからか。食い入るように眼下に広がる景色を眺めていた。

 マルレーンが心配そうな視線を向けると、エレナはそれに気付いたのか「大丈夫ですよ」と微笑む。


「私にとってはそれほど前の出来事に感じませんし、郷愁や感傷というわけではないのです。それよりも……ベシュメルクは空から見るとこんな風なんだな、と思ってしまって、少し……見とれていました。過去には色々ありましたが、それでも……守りたい人達も暮らしていますから」

「その気持ちは……分かるような気がします。私もシルヴァトリアの騒動では似たような気持ちになりましたよ」


 エリオットがそう言って静かに目を閉じる。ザディアスが色々と画策していたが……エリオットはそれでも世話になった人達がいるからシルヴァトリアを守りたいと、力を貸してくれたわけだし。

 そんなやり取りにみんなも思うところがあるのか、静かに頷いていた。


「敵はあくまでも悪事を画策する者であって、そこに住まう人々ではないですからね」

「はい……!」


 エレナも決然とした表情で答える。

 では……気合を入れて、エレナの提供してくれた情報から作成した地図と見比べながら進んでいくとしよう。地理上の違いが見られれば、俺達でもすぐに気付けると思うしな。

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