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番外335 古の戦い

 日々の執務。それに開発や訓練と準備を進める日々を送っていると、オーレリア女王から連絡が入った。月の民の過去の資料関係の話だ。

 実際に顔を合わせて話をしたい、とのことで再び地上に降りてくるそうである。エスティータ達と共に転移港で待っていると、オーレリア女王と護衛の武官が現れる。


「これは、女王陛下。お待ちしておりました」


 エスティータ達が恭しくオーレリア女王を出迎える。


「ええ。みんなも出迎えご苦労様。テオドール達も、こんにちは」


 と、オーレリア女王はエスティータ達に微笑み、それから俺達にも挨拶をしてくる。


「はい。オーレリア陛下。ようこそタームウィルズへ」


 と、俺達からも挨拶を返す。

 エスティータ、ディーン、ハンネスは月の民代表として地上に駐留してベリオンドーラの管理にも携わっている。

 エスティータ達としては女王の訪問だから月の都や魔力送信塔まで迎えにいきたいところなのだろうが……月は省エネ精神が徹底しているということもあり、オーレリア女王達としては転移港で待っていてくれれば構わないという方針らしい。


「ああ……。これが夏の空気というものかしら。先日来た時よりもまた暑くなっているのですね。地上の季節の移り変わりは素敵だわ」


 と、オーレリア女王は心地よさそうに空を仰ぎ、大きく息を吸い込む。

 そう。季節はもう夏本番というところだ。転移港の庭園でも花が咲き誇り、蝶やら蜂やらの姿を見かける。そういった季節の変化を、月に暮らしているオーレリア女王としては強く意識するところがあるのだろう。


「私は秋も好きだわ。葉が黄色や赤に色付いていってね」

「ああ。それは素敵ね。紅葉が見頃な季節に、地上に遊びに行きたいわ」


 クラウディアがそう言って微笑むとオーレリア女王も楽しそうに頷いた。


「紅葉が綺麗な季節というと……テオの誕生日あたりになりますね」

「ああ。それは……良いわね。その時に地上に降りたら、きっと楽しそうだわ」


 グレイスが微笑んで言うと、オーレリア女王も嬉しそうに笑う。


「では、その時は是非遊びに来てください」

「ええ。楽しみにしておきます」


 そうして俺の誕生日に予定を空けておく等、具体的な約束が交わされる。今度の誕生日にはオーレリア女王も遊びに来るというのが確定である。


 というわけでオーレリア女王を連れ、馬車に乗って王城へ向かう。

 王城ではメルヴィン王、ジョサイア王子と共に、デボニス=バルトウィッスル大公とその後嗣であるフィリップ。マルコム=ブロデリック侯爵が俺達の到着を待っていた。

 デボニス大公とブロデリック侯爵は――ヴェルドガル王国の東部、南東部に領地を構える面々で、ベシュメルクとも国境を接している。


 今後ベシュメルクとの緊張が高まる事も予想されるので、領主である彼らと認識と方針を共有しておく必要がある、というわけだ。


「これは、オーレリア女王。よくぞ参られた」


 と、メルヴィン王達もオーレリア女王に挨拶をして。俺達もデボニス大公達と再会の挨拶をかわす。


「ふむ。このまま情勢も落ち着いて楽隠居かと思っていたのですが。中々にままならぬものですな」

「国境を接するお二方にはご心配をおかけすることになってしまいますが」

「いやいや。事が事と言いますか。過去の大災害と、その時に生じた異界となれば……事と次第によっては再び世界の危機が訪れてもおかしくはありませんからな」

「うむ。捨て置くわけにもいきませんな。巫女が不在であろうとも、そういった輩が諦めるとも思えませんし」


 デボニス大公とブロデリック侯爵は、俺の言葉に対してそんな風に返してくる。


「まずは王の塔へ。サロンで腰を落ち着けて話をするとしようか」


 と、メルヴィン王が先導する。王の塔のサロンへと向かい、そこでみんなで腰を落ち着けての話となった。

 全員にお茶が行き渡ったところでオーレリア女王が口を開く。


「まずは……そうね。前回の打ち合わせの通り、月の離宮に収められている古い資料を当たりました。月も長い歴史があるので資料は膨大で……騒動の折に失われてしまったものもあります。全てを検分したわけではなく、欠けている部分を想像とエレナ姫のお話で補っている部分もある……と前置きした上での話になりますが。古代の呪術王国に関してのあれこれを、裏付けるような内容の記録もいくつか見つける事ができました」


 それらを分析したところによると……月の民の先祖を辿って行けば地上にルーツがあるらしいことが分かったと、オーレリア女王は語る。

 精霊との交信と感応を得意とする民であり、様々な精霊の力を模倣するように魔法を生み出すに至り、王国を築き上げた、と。その頃には呪術の民との対立も無かったようではあるが……。


「虚無の海より月へと小さな星が落ち――砕けた月の欠片が地上に注ぐ……。月の民にとっても神話のようなお話ではあるのですが、恐らくその際に月のオリハルコンが地上に齎されたのではないかと」

「月面への隕石の衝突ということでしょうか」

「解釈するのならそういうことになるでしょう。細かい説明は割愛しますが、夜空の流れ星もそういったものです」


 俺から捕捉をするとオーレリア女王が頷く。

 隕石の衝突によってオリハルコンが地上へ。それが呪術の民の手に渡り、研究の末に変質させる手法を確立させたわけだ。

 精霊支配の術を得て、その力で領土を拡張していく段階で月の民と対立。

 月の民も隕石が降り注いだ時にオリハルコンを手に入れていたのか、それとも対立の際にオリハルコンの存在を知って、精霊を救出した際に変質したオリハルコンを手に入れたか。そこは分からなかったそうだ。


「結論から言うなら、我らの先祖は呪術の民とはまた違う方法でオリハルコンの力を引き出しました。星々の力を借り、助けた精霊達の力を借り……そしてオリハルコンの意思を受け……その由来を知り、虚無の海を渡る手段を得たのです」


 かくして彼らは月に渡りオリハルコンの管理者となる。偶然とはいえベシュメルクが手に入れて精霊達に害を与え、大きな争いの火種になった以上は月のオリハルコンをそのままにしてはおけなかった、というわけだ。


 得られる力の大きさから見ても分かる。月の離宮や船、迷宮にも使われているし、竜杖に組み込まれてからの利便性も相当なものだ。

 そんな大きな力を持つ鉱石が月でただ放置されているとなれば……。また同じような経緯で新たな欠片が地上に落ちてこないとも限らない。彼らが先んじなければ呪術の民がオリハルコンを得るために月に渡る可能性もあっただろう。


 だから……所在を知り、そこに渡る手段を得てしまった以上は管理しない、とはいかなかったわけだ。呪術の民に対抗する意味合いがあったにせよ、だ。


 そうして精霊達の力とオリハルコンの力を得た古代の月の民は、呪術王国を押し返して――精霊達を解放した……と、一言で言ってしまえば簡単なものだが、結構長年に渡る戦いがあったようだ。


 そうしてその過程で天秤は傾いていき……今度は月の民が隆盛を誇ったというわけだ。

 地上のあちこちの民とも交易があったりするのは、やはり月という場所に居を構えたからだろう。月面から地上を見れば地理については一目瞭然だし、月の船という移動手段もあったしな。


「その後は……知られている通りね。突然の大災害によって地上と月の行き来は途絶。魔力送信塔も破壊されて、月は総力を結集した月の船とクラウディア様を地上へと送ったのです」


 その後の月の歴史については俺達の知っている通り、か。イシュトルムの反乱等と離宮での眠り等もあって、過去の歴史を伝承するどころではなかったのだろうけれど。


「それと……古い時代の破邪の術、というものも見つかっています。これについては後でテオドールに伝えるわ。対抗術式の完成度を高めるためにも使えるのではないかしら?」

「それは……助かります」


 精霊を解放するために作られた術、ということか。礼を言うとオーレリア女王はにっこりと笑うのであった。

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