番外330 王達の集結
そうして収穫したバナナやパイナップルに追熟のさせ方や食べ方といった注意書きを添えて、あちこちに配りに行ったりした。
「実は植物園の果実については……余も前から楽しみにしていてな。無事に収穫できるようになったのは誠に喜ばしい。早速今日の晩にでも楽しませてもらおう」
と、王城に届けに行くとメルヴィン王は上機嫌で相好を崩していた。
「領地の南方なら栽培できるかもとテオドール公と話をしておりましてな」
「そうですね。植物園の意義としては栽培方法の研究や、株分けの大元としての機能ではありますので。その方向で貢献できれば嬉しく思います」
ドリスコル公爵と一緒にそんな風に言うと、メルヴィン王は満足げに頷く。
「では、それが上手くいけば安定的な供給も見込めるかも知れぬな。どうかな、公爵。少し具体的に話を詰めておきたいのだが、このままサロンで茶でも飲みながら相談というのは」
「それは良いですな。では、お付き合い致しましょう」
……といった調子で、ドリスコル公爵はメルヴィン王と具体的な方法まで相談し始めていたから、南国系の果実に関しては栽培の話も色々と進んでいくだろう。
冒険者ギルドに持って行った時も……大分喜んでくれたという印象がある。
「おお。これは素晴らしいのう! うむうむ。丁度……そう、丁度仕事もひと段落ついたからのう! 職員達と一緒に楽しませてもらうとしようかのう!」
と、笑顔でパイナップルとバナナを受け取って、いそいそと準備を始めるアウリアであった。タームウィルズ側の冒険者ギルドにはシュウゲツも通常業務の研修に来ていて、ヘザーとベリーネも一緒にいたのだが……まあ、アウリアについてはいつもの事ということで2人とも納得している節がある。
ヘザーとベリーネがにこにことした笑顔でアウリアを見ながら他の職員に耳打ちして、オズワルドが肩を震わせていたから、多分休憩が終わればアウリアの仕事にチェックが入ったりするのだろう。
気になるところでは、フォレスタニアの家臣団の所へ持って行った時に、テスディロスとウィンベルグがパイナップルの味に結構な衝撃を受けていたことだろうか。
「これが自然の恵みというものか……。うむ。素晴らしい……」
「果実がこれほどの芳醇な味わいを宿すとは驚きですな……」
といったような反応だ。ゆっくり咀嚼して天を仰いでいたりした。
フォレストバードの面々やゲオルグとその部下達にもパイナップルの受けは良かったが、魔人として活動していた時間が長かったテスディロスとウィンベルグとしては果物の味にも相当な感銘を受けるもののようで。
「ふうむ。これはテスディロス達に色々な馳走を振る舞ってみたくなりますな」
「ああ。それ、何となくわかります」
「この前みんなで馴染みの酒場に連れて行った時も随分喜んでくれましたからねぇ」
と、ゲオルグの言葉にロビンやルシアンがそんな内容の談笑をし、それを聞いていたオルディアが嬉しそうに笑う。オルディアとしては、人間社会に交わって日が浅いテスディロス達を心配している面もあるようだが……そのあたり安心してもらえたようだ。俺としても嬉しいやりとりではあるかな。
そんな調子で今回の収穫物はあちこちから好評価で迎えられたのであった。
「――やあ、テオドール公」
「これは、レアンドル陛下」
「ゼファードも元気そうで何よりです」
と、転移港にやってきたレアンドル王、グリフォンのゼファードと挨拶をかわす。グレイスにもこもことした羽毛を軽く撫でられてゼファードは心地良さそうに目を細めていた。
今日は――レアンドル王、ファリード王、イグナード王が合同訓練で迷宮に潜る日ということで、転移港で待ち合わせをしているのだ。
エレナとライブラも実戦経験を積んでおきたいということで訓練に参加。俺の場合は付き添いということになるか。あまり前に出ないつもりではいるが、管理者権限もあるのでいざという時の安全や退路の確保等々もできるだろう。
「いやあ、迷宮での訓練は得られるものが多いのだが、側近達が渋い顔をするのでな。説得に手間取ってしまった。テオドール公の同行が条件と言われたが……まあ、そのあたりの事は最初に伏せておいた余の作戦勝ちというところか」
と、レアンドル王が笑う。ああ、うん。俺の同行は最初から決まっていた事だからな……。
「ああ。それは……私にも経験があります。暫く前のお話ですが、領地に大型の魔物が出て被害が出ているというから、土魔法が役に立つかなと同行を申し出たらゲオルグ達に止められてしまって。友人のアドリアーナも似たようなお話をしていましたよ」
「うむ。必要な時に前に立てないというのは歯がゆいものだ。王故に仕方がないというのも分かるがな」
ステファニアが同意すると、レアンドル王は目を閉じてうんうんと頷く。
「マリーは――王城を抜け出してこっそり迷宮に潜ったりとかは?」
「ん……まあ……。ほんの少し、見に行くぐらいは、ね」
シーラが話題を振ると、ローズマリーはそんな風に答えて羽扇で口元を隠してしまう。ああ。これは……占い師として城を抜け出していた頃に潜ったことがあるな?
マルレーンがそんな姉達の反応ににこにこと笑みを浮かべ、アシュレイやクラウディア、イルムヒルトがくすくすと笑う。
迷宮に潜る前としてはややほのぼのとしたやり取りだが、エレナも笑っていて……肩の力も適度に抜けて良いのではないだろうか。
そうこうしている内に転移門が光り輝き、イグナード王とファリード王も姿を現す。俺達を見ると、上機嫌で挨拶をしてくる。
「問題なく顔触れがそろったようで何よりだ。約束を楽しみにしていたのでな」
「うむ。強者と肩を並べて戦えるというのは良い刺激となる」
「まあ、やや説得には骨を折ったが」
と、レアンドル王が先程の話題を口にする。
「ふうむ。儂のところは鍛錬については推奨されるぐらいではあるのだが」
「尚武の気風は羨ましく思うが、中々な。文化的な違いというところか」
イグナード王が言うと、ファリード王は楽しそうに肩を震わせていた。そうして顔を合わせての挨拶も一段落したところで尋ねる。
「確認しますが、今回は夜桜横丁に向かう、ということで宜しいのですね?」
「うむ。話を聞いた感じでは、対人を想定した訓練となるとその場所が良いのではないか?」
頷くイグナード王である。まあ、対人とは言っても絡繰り人形ではあるのだが……見慣れない搦め手を多く使ってくる相手だけに、対ベシュメルクを見据えた訓練としては有意義な部類だろう。絡繰り忍者だけでなく、妖怪もいるので色んな状況を想定した訓練になるのが良い。
「東国に近い区画だというのも気になっていたからな」
「うむ。東国の……密偵と似たような体術を使う人形という話だったな」
レアンドル王とファリード王も乗り気な様子だ。では、予定通り夜桜横丁へ、ということになるだろう。
「忍者達ですね。本職の方も興味があるそうで、夜桜横丁で訓練という話をしたら同行したいと」
「おお。イチエモン殿か。それは面白そうだ」
「突然の参加であるにもかかわらず、快く受け入れてもらい、感謝しているでござる」
「私も……よろしくお願いします」
と、俺達と一緒にやってきたイチエモンも、エレナと共にそんな風に言って頭を下げていた。
「いやいや。我らも東国の武芸やベシュメルクの術には興味があるのでな」
というわけで今回はイチエモンとエレナも同行しての夜桜横丁での訓練だ。それが終わったらこの前収穫した果実でもと伝えると、王達は楽しみが増えたと不敵に笑って頷き合うのであった。