番外329 収穫と試食と
パイナップルやバナナは、ハルバロニスを訪問した折に貰ってきたものだ。
フォルセトやシオン達にも声をかけて、収穫したいという旨を伝え、すぐに合流することになった。植物園ということで、アルフレッド達も建造に携わっているので工房にも声をかけると、近場なので直ぐにやってくる。アドリアーナ姫やコウギョクも工房に顔を出していたそうで。2人とも顔を合わせるなりテンションが高めなのが分かってしまうというか。
オルトナもアドリアーナ姫、エルハーム姫と一緒にやってきたフラミアやラムリアと再会してハグしあったり嬉しそうだ。
「いやあ、随分育ったねえ」
と、アルフレッドがパイナップルやバナナを見て笑顔になる。
「普通はあの状態から育てても2年程かかるのですが、もうこれですからね。ノーブルリーフ達だけでなく、温泉の魔力や、フローリア様と花妖精達が一緒だったお陰でしょうか?」
と、フォルセトもそう言って表情を明るくしていた。
「このあたりは流石と言いますか。相乗効果で植物の育成が凄い事になっているような気がしますね」
フォルセトにそう答えると、シオン達もうんうんと頷いていた。シオン達もやる気満々だ。
「それじゃあ、収穫を始めましょう」
「パイナップルは収穫したら、しばらく逆さにしておくんだよ!」
「逆さにしておくと……甘みが全体に行き渡る……」
とのことである。追熟とはまた違うようで。それほど時間はかからない、とのことだ。
「それじゃあ、葉の部分が痛まないようにしておくか」
物干し台のような形で棒を2本渡して、そこに逆さに置くようにすればいいだろう。パイナップルの上の部分を切って植えれば、またそこから育っていくわけだしな。
というわけで土魔法を使って適当に保管場所の準備を整え、収穫はシオン達の指導を受けながらみんなで行う。
「ん。すごい甘い匂いがする」
「本当ですね。この香りは凄いですよ……!」
と、シーラが目を閉じて大きく息を吸い込むとコウギョクもそれに続く。
確かに。パイナップルの甘い香りが漂っていて、温室内の温度と湿度も相まって、南国っぽい雰囲気になっているというか。
イルムヒルトとアシュレイ、マルレーンも並んでシーラに習って大きく深呼吸をしたりして、顔を見合わせてくすくすと笑う。
「ふふ、良い雰囲気ね」
「でしょう?」
アドリアーナ姫の言葉にステファニアが答える。
グレイスやエルハーム姫もアシュレイ達の様子を微笑ましそうに見ていた。ローズマリーは羽扇で表情を隠しているけれど、柔らかい表情をしている様子だ。
「バナナは、もうこの段階で収穫しなければいけませんが、しばらくの間置いておく必要があります。追熟が必要なわけですね」
「ああ。だとすると、すぐには食べられませんね。お土産として各自持って帰ってそれぞれに追熟してもらうか、熟してからお渡しする必要があるでしょうか」
「温度管理等も必要ですので環境が整えられるのなら渡しても大丈夫だと思います」
フォルセトは俺の返答に頷く。
目安としては房が黄色くなってから食べればいいわけだから分かりやすい。では、今日のところは両方収穫してもパイナップル側だけの試食、ということになるだろう。
バナナに関しては普通に置いておくと自分の重量で傷んでしまうらしいので、房ごとに吊るしておくのが良いそうだ。
「糸の類が必要なら、裁縫道具がありますよ」
と、グレイスがにっこり笑う。ローズマリーの魔法の鞄の中に一式いれてあるそうだ。では……それを使わせてもらおう。
そうしてどちらも収穫後の保管方法の目途も立ったところで、まずは巨大化したパイナップルから、ということになった。
茎から切り離し、保管場所に動物組や魔法生物組が身体に乗せて運んでいくという、賑やかな作業風景だ。ラヴィーネの背中に乗せて、落ちないようにオルトナが支えていったりしていた。
オスカーとヴァネッサからパイナップルを受け取ったライブラが、宝物でも扱うかのように丁寧に運んでいった姿が中々印象深い。
ヘルヴォルテもクラウディアと一緒の収穫作業は中々手慣れているというか、楽しそうな雰囲気だ。
「こちらでも新しい作物は記録に取っていますが、パイナップルやバナナあたりは公爵領の南方なら温室無しでも育てられそうな気がしますね。温室だけでは収穫量も微妙ですし、公爵領でも栽培を試してみますか?」
株分けしてもらっての栽培と収穫まではできたので、後はそれによって得たノウハウを纏めつつ、適した土地での栽培を模索していく、ということになる。
公爵領南方に関しては地理的にはバハルザード王国に近い場所で海に囲まれた場所だ。南国の植物は十分にいけるだろう。
「おお! それは素晴らしいお話ですな……!」
と、期待に目を輝かせている公爵である。公爵は何というか、好事家な面があるからな。そんな公爵にレスリーや夫人、執事も苦笑していたりするあたり、家族や家人の理解もあるように見えるな。
一通りパイナップルとバナナの収穫が終わったところで、最初の方に収穫して逆さにしておいたパイナップルを選んで切り分けていく。
果肉の上部をグレイスが切り取り、エレナがミシェルやコウギョクと共に空いているスペースに新たな株として植え付けを行っていく。
こうしてみると……気候さえ整っていれば割と簡単に株を増やせるのがパイナップルの良いところかも知れない。
アシュレイが残った果肉部分の温度を水魔法で下げる、そうしてしっかり冷やした果肉をグレイスやフォルセトが切り分け、皮を取り除いて食べやすい一口大にする。それから涼しげなガラスの器に盛っていけば出来上がりだ。
というわけで、みんなと共に植物園の休憩所に移動してパイナップルの試食に移る。
「それじゃあ、頂きましょうか」
各人席について器に小分けされたパイナップルをフォークで指して口に運ぶ。
「ああ。これは――」
「甘くて、美味しい……」
そんな声があちこちから聞こえる。コウギョクは先程まで楽しそうにしていたが、いざ試食となると表情は真剣そのものだ。
たっぷりとした甘みのある果汁が口の中に広がる。食感と甘い風味はパイナップル独特のものだ。俺にとっては懐かしさを感じる味ではあるが、ノーブルリーフ達が協力しているからだろうか。これは……出色の出来だな……。
「実はノーブルリーフ農法だったから結構楽しみにしてたんだ。いや、これは……美味しいな」
そう言うと、フローリアの近くで浮かんでいたハーベスタがこくこくと頷いていた。任せてくれ、と言っているような……そんな気がする。
「これが甘味……素晴らしい、ですね」
と、ライブラもパイナップルを味わっている。ライブラにはまだ五感を再現する機能は備わっていないのだが……マクスウェルが協力しているからだろう。
「ライブラ殿に喜んで貰えて何よりだ」
マクスウェルの日常生活用ゴーレムは味覚も含めた五感を再現することができる。ベリウスの器を作った時と同じ魔道具が組み込まれているからだ。あまり効率は良くないが魔力を食事で補給することも可能であったりする。
それを利用して……マクスウェルのゴーレム内部からミスリル銀糸を引っ張ってきて、それをライブラに繋ぐことで、感覚をライブラ側と共有することが出来る……と。なんというか……割と荒業だが、魔法生物同士ならではの試食法かも知れない。
動物組もパイナップルが気に入ったのか、喉を鳴らしたり嬉しそうな声を上げたりしていた。
「あー。ライブラの感覚器もまた今度作るよ」
「それは……ありがとうございます……!」
と、ぺこりと頭を下げてくるライブラである。うむ。今日は仕事の合間での息抜きということで中々有意義な時間を過ごせたのではないかと思う。ライブラもドリスコル公爵家の面々とこうして顔を合わせて会話ができたので、大分モチベーションが上がったのではないだろうか。