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番外328 植物園の再会

「ご無沙汰しております、テオドール公」

「お久しぶりです、テオドール様」


 顔を合わせると明るく笑うオスカーとスカートの裾を摘まんで行儀よく挨拶してから微笑むヴァネッサ。兄妹に続いてレスリー、それからドリスコル公爵夫妻、執事のクラークも姿を見せた。

 ドリスコル公爵家の面々が顔を見せたという事でライブラも挨拶にやってくる。


「僕はオスカー=ドリスコル。よろしく、ライブラ」

「ヴァネッサ=ドリスコルですわ。よろしくお願いしますね、ライブラ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 オスカーとヴァネッサの差し出した手に握手で答えるライブラ。続いてレスリーのところにライブラが向かう。

 レスリーに関しては……相対した時に少しの緊張感があった。


「レスリー=ドリスコルだ。君の事は、兄から話に聞いている」

「与えられていた務めを十全に果たす事が出来ず……レスリー様には――」


 と、ライブラは頭を下げようとしたが、レスリーは手でそれを止めると、穏やかに笑って首を横に振った。


「それを言うなら私が余計な冒険心を出したばかりに、済まない事をしたと思っている。主の家系の者を傷つけられないようにと命を受けていたのであれば、私が隠されていた地下区画に近付かなければ良かったのだから。何より、私の心の弱さがあの夢魔に付け入る隙を与えてしまった。自分を責める気持ちは私にも分かる。しかし、君が気に病む必要はない」


 レスリーはワグナー公の別荘にある地下書庫に入り、そしてグラズヘイムに魅入られてしまった。憑依してライブラの目を掻い潜り、外に出て活動を始めた、ということになる。


「しかし……それではレスリー様は……」


 ライブラが心配そうな声で言う。レスリーがライブラの失敗を許すというのなら、レスリーが1人で事件の責任を抱えてしまうようなものだ。実際、夢魔事件の後始末として、レスリーはあちこち奔走している。だがレスリーは静かに笑う。


「こんな私を、皆は受け入れてくれた。家族に助けられ支えられて。だから、立って前に進むことが出来ている。そこにライブラもいてくれるというのは……ワグナー公や公爵家の歴史にも、今の私を応援されているようで、心強い」


 そんなレスリーの言葉に、ライブラは深々と頭を下げる。


「今回の事件が解決した後になってしまいますが。レスリー様のお仕事に私の術や知識が必要でしたら、是非お役立て下さい」

「ありがとう。だが、その前に……今回の事件でも、自分が怪我をしないように気を付けて欲しい」

「はい、レスリー様」


 そんなレスリーとライブラのやり取りに、公爵家の面々は相好を崩していた。そうして、ライブラは公爵夫人のジャネットや執事のクラークとも挨拶をかわす。それから、エレナも公爵家の面々に紹介する。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「よろしくお願いしますね、エレナ様」


 オスカーとヴァネッサも気さくにエレナと握手をかわす。


「今日は――植物園に足を運んでみるというのはどうでしょう。ライブラは草花に興味があるようですので」

「さっきケンネルと通信機で連絡をしていたのですが……ミシェルさんとオルトナも、急に予定が空いたので、今日は植物園を覗きに来ているみたいですよ」


 と、アシュレイが教えてくれる。ああ。それは良いな。転移港があるおかげでミシェル達も気軽にタームウィルズに訪問できるようになったからな。


「ミシェルさんはシルン伯爵領の魔術師です。植物や農業の専門家で、ノーブルリーフ農法にも協力してもらっていますから、色々面白い話も聞けるかも知れませんよ」

「おお、それは良いですな。では、参りましょうか」


 そう言って公爵は嬉しそうに笑うのであった。




 植物園に向かうと、そこにはフローリアと談笑しているミシェルの姿があった。近くで花妖精達も楽しそうに飛び回っているし、ハーベスタを始めとするノーブルリーフの鉢植えもふわふわと浮かんでいる。

 ミシェルの使い魔であるヒュプノラクーン……オルトナも一緒だ。俺達がやってきたのを認めると、オルトナがぺこりとお辞儀をするように挨拶をしてくる。


「これは皆様」

「ああ、テオドール。こっちよ」


 と、ミシェルがこちらを見て一礼し、フローリアがにこにこと笑みを向けてくる。というわけで初対面の面々を紹介する。ライブラも含めてドリスコル公爵家の人々ということでの紹介となった。流石に公爵家ともなると、ミシェルは驚いて緊張している面持ちであったが、みんな気さくな様子だったから、すぐに打ち解けて笑みを浮かべて挨拶を返していた。勿論エレナもミシェル達に紹介する。


 オスカーとヴァネッサ、エレナとライブラも、オルトナと楽しそうに握手をしたりしている。オルトナも動物組との再会が嬉しいのか、コルリスやラヴィーネ達にハグをしたり、初対面となるティールやオボロとも握手をしたりしていた。

 ライブラはと言えば、花妖精やノーブルリーフ達とも丁寧に挨拶をしたりして。そんな光景を公爵夫妻が微笑ましそうに見守る。


 そうして自己紹介も終わったところでミシェルに尋ねる。


「今日は植物園を見に?」

「そうですね。祖父のお店がお休みで、ノーブルリーフ達は任せて遊びに行って来たらどうかと言われてしまいまして。急に予定が空いたので植物園を見たくなりまして」

「そうだったのですか。お休みの日に仕事相手と、というのは些か申し訳ない気もしますが、ご一緒しても?」

「勿論です! 御多忙とケンネル様にお聞きしていましたが、お会い出来て良かったですよ。オルトナもこの通り喜んでいますし」


 と、ミシェルはにこにこと笑う。そんなミシェルに答えるように、オルトナがこくこくと頷いていた。うむ。

 植物園か。各地の植物が色々集まっているからな。ミシェルとしてはそのへんの成長も気になっていたのかも知れない。


 ノーブルリーフ農法関係のレポートはこの前に受け取ったばかりだし、急な休みだったので連絡は遠慮したのだろう。まあ、俺達が植物園に行くというのも先程決まったことだし中々良いタイミングだったのかも知れない。


 というわけで、みんなで連れ立って植物園の中を見て回る。夏の温室……ではあるのだが、区画ごとに一定の温度と湿度に保たれているので、冬や春に比べて極端に暑くなるということもない。


 が、植物は旺盛に育っていた。色とりどりの南国や東国の花に、ヘルヴォルテとライブラだけでなく、ミシェルやドリスコル公爵も興味津々といった様子である。

 どこそこで入手した、こんな薬効を持っているというローズマリーの話や、フローリアがどんな性格の子なのかという話をしたりして、それにミシェルを交えて何科の植物に似ているという学問的な話にもなったりして、中々に面白い。


「何だか、賑やかで楽しいです」


 というのはエレナの言葉だ。セラフィナや花妖精達を肩に乗せたりして、植物園の風景とみんなの話を楽しんでいる様子であった。


「このへんの果物も随分と大きくなったのね」


 と、イルムヒルトがにこにこしながら言う。

 本当だ。パイナップルやバナナなど、幾つかの果物は収穫しても良い頃合いだろう。というか、ノーブルリーフの影響でかなり大型化している。

 とりあえず収穫して皆に食べてもらう分、株分けして増やす分等々……あちこち割り当てることができそうだ。


「そろそろ収穫できそうですね」

「そうね。この子達もそろそろ大丈夫って言っているわ」


 と、グレイスの言葉にフローリアが太鼓判を押してくれる。


「おお、収穫ですか。この時期に居合わせるとは幸運ですな!」

「ん。楽しみにしてた」


 期待感をあらわにする公爵と、収穫を心待ちにしていたシーラである。


「それじゃあ、みんなで収穫しようか」


 というと、居合わせた面々が湧く。


「ええと。一部は冷やしてお城や神殿、工房や商会、ギルドに届けるとして……」


 と、ステファニアが段取りに思考を巡らし、マルレーンがステファニアの言葉に合わせて指折り数える。

 うん。見た感じでは知り合いのみんなにも楽しんでもらえる量はあるかな。足りないと感じたらジュースを作って味と風味を楽しんでもらうということもできるだろうし。


「ふふ。作物の収穫と試食は醍醐味よね」


 と、クラウディアが微笑む。クラウディアとしては、迷宮村の住民達と農作物を育てたり収穫したりもしていたからな。


「そうだね。味見しないで人に渡す、というわけにもいかないし」


 役得ということで。収穫したらそのままみんなで試食してみるとしよう。オスカーとヴァネッサも顔を見合わせて表情を明るくし、ライブラからも少し浮かれたような波長の魔力が伝わってくるのであった。

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