番外303 フォレスタニアの水晶湖
さてさて。クラウディア、ティールと共にヴェルドガルへ転移で飛んで、ティールにはフォレスタニアで待機してもらい、俺達は迷宮中枢へと向かう。
迷宮核内部に意識を沈め――迷宮の制御を行う。術式の海に浮かんでフォレスタニアを俯瞰する。
フォレスタニアは――巨大なドーム状の構造をしている。
地下に中枢部へ続く罠だらけの迷宮。その上に城と街、そして湖畔。
湖を渡ったところに今は対岸部分の陸地があり……外周と天蓋部分に遠景が映し出されている、というわけである。
さてさて。その上でどこにマギアペンギン達の区画を作るか。
候補としては幾つかあったが――新区画拡張というよりは……迷宮内にある区画移動ゲートを用いての移動にすれば、フォレスタニアへの影響は少ないと言えよう。あくまでもフォレスタニア内からしか移動できないから名目上フォレスタニアの新区画、ということになるけれど。
他の場所は、拡張工事に当たって人の往来を一時的に制限したりする必要があるが、ゲートを通しての移動なら拡張する際の影響も少ないので安心安全である。
水中や水上に施設を作るという案もあったが、マギアペンギンにとっては淡水よりも海水の方が望ましい。それに、気候の違いもある。南極と同等とまではいかないが、寒冷地を作る必要がある以上は、独立していた方が環境維持のための魔力消費も少なくて済む。。
空中に浮島、という手も考えたが……迷宮の魔力消費を無駄に大きくするのもどうかと思うしな。
そんなわけで――。迷宮核の補助を受けながら、新区画を迷宮核内部にて疑似的に作っていく。さて。どうしたものか。
「規模的には海とまではならないかな。そうなると池か湖サイズか。塩分濃度は海水と同等で……タームウィルズの冬季程度の気温と水温にして――」
迷宮核に指示を出していくと、周囲に魔法陣が無数に浮かんで、完成見本となる風景が俺の周囲に映し出される。
冷たい湖、か……。いっそ南極付近の見た目を再現するより、マギアペンギン達にも別の景色を楽しんでもらう方が良いのかな。
陸地はパウダースノーで覆う。湖畔には氷の神殿を作り、南極の対の設備として内部に転移門を建造。フォレスタニア側に移動するためのゲートもこの氷の神殿に作る。
ログハウス的なロッジも似合うかも知れない。ここはあくまでもマギアペンギンが快適に過ごせる区画であって、あまり一般に公開する予定のない場所ではあるのだが、外からの訪問者が快適に滞在するための設備も必要だろう。
陸地のあちこちに幻想的に光る水晶の柱を生やして光源にしてみたり……といった具合にイメージを広げ、周囲に映し出される風景にも反映していく。
湖の中には……そうだな。マギアペンギン達の食糧になるような……オキアミや小魚が生成されるようにしておくか。
光る珊瑚やらも配置して水中の光源に……と色々やっていく。
雪景色にロッジ、幻想的な照明、などと色々やっていると……何となくスキー場を連想してしまうような場所になってしまった。
「んー……。泳ぐだけじゃなく、陸地をトボガンで滑るような場所も必要か」
雪ではなくもう少ししっかりとした氷の平地をロッジの近くの湖畔に形成。湖がプールなら、このあたりはプールサイドといった雰囲気だ。
ちょっとした丘陵地帯も作ってゲレンデとして滑ることができるように。マギアペンギンも訪問者も遊べる、かも知れない。
外周部に映す遠景は――針葉樹林で良いだろう。フォレスタニアの外周に近い風景を整えつつ、森の向こうにフォレスタニア居城の尖塔を映すことで、疑似的にではあるが隣接する区画であると、見た目にも分かりやすくする。
そうして色々と区画内をこねくり回し……ある程度納得のいくものができたところで迷宮に実際に建造していく。魔力消費に関しては……問題ないな。
フォレスタニア側からのゲートは、湖畔の一角に設置。後はそこに居城から橋を伸ばし、ゲートと兵士の見張り所を隣接させれば、もし誰かに悪用された場合の防犯体制も万全に出来る、という寸法だ。
では……実際に作ってしまう事にしよう。
「ただいま――」
新区画に作った転移門をマギアペンギンとの契約魔法で結び……俺の許可がある者とマギアペンギン以外は使えないという条件付けをした上で、実際に転移門を起動。テストを兼ねて転移門を通って南極に戻ってくる。
「おかえりなさい」
通信機で連絡を入れておいたのでみんなも転移門の前で待っていてくれたようだ。クラウディア、ティールと共に戻ってくるとグレイス達が笑顔で迎えてくれた。
「転移門はちゃんと起動してるみたいだね。こっちでは何か変わったことは?」
尋ねるとみんな顔を見合わせて、微笑みを浮かべた。何か……良い事があった、ということかな。
マルレーンが嬉しそうに氷の神殿の外を指差す。
「見せたいものがあるのね?」
クラウディアが尋ねると、マルレーンはこくこくと頷いた。神殿の外に出ると……見せたいものというのは、一目瞭然だった。
南極の夜空に浮かぶそれは――光の帯とでも言えば良いのか。
……オーロラだ。緑と紫と――夜空の青。幾色かの輝き。幾重にも重なる光の帯が織りなす、幻想的な光景。その光の帯の向こうに満点の星空が透けていて……何とも幻想的な風景だった。
暫し、その光景に目を奪われてしまう。
「これは……凄いな」
「私達もびっくりしたわ。マギアペンギン達の話だと、冬が近くなると、時々こうして見る事ができるらしいわ」
イルムヒルトがそんな風に教えてくれる。
確か、極点に近い地域では、オーロラが出来やすいという話だったか。冬に多く見られるはずだったから……条件としては確かに合致するな。
暫くその光景に目を奪われていたが……。やがてオーロラも薄れて消えていく。
「いや……。良いものが見れたな。新区画も出来たけど……さっきのオーロラを見た後だとちょっと自信がなくなりそうだ」
大自然の作り出す風景は流石に圧巻である。
「あの区画の風景も、私は綺麗で好きだけれど。見慣れない風景だし、マギアペンギン達もきっと喜んでくれるのではないかしらね」
俺の言葉にクラウディアがそんな風に言って微笑んでくれる。そうであるなら嬉しいが。
そんなわけで、早速見学希望者を募り、マギアペンギン達を新区画に案内するということになった。
ティールが声をかけてくると、抱卵していない面々が集まってくる。みんなで転移門から飛び――氷の神殿から外に出る。
水晶湖……とでも名付ければ良いだろうか。幻想的な色に輝く水晶の柱が雪から飛び出して……ぼんやりと湖底の光る湖が雪の森の中に佇んでいる光景。
マギアペンギン達が嬉しそうに声を上げて、目の前の光景に飛び出していく。
パウダースノーの感触というのは……マギアペンギン達にとっては好ましいもののようで。倒れ込むように雪の上にダイブするものもいて。そのまま埋まった感触を楽しんでいるのか、満足げに鳴き声を上げつつ動かない者、フリッパーをパタパタとさせたりしている者。様々だ。
また別の者はティールと共に嬉しそうに氷の上をトボガンで滑り、湖の中に飛び込んでいく。
翻訳の魔道具によると……ええと。暖かくて子育てするときに良さそうという感想が聞こえる。ヴェルドガルの冬ぐらいの気候を想定しているが、マギアペンギンにとってはかなり暖かい場所ということになるわけだ。
他にも光る水晶が綺麗であるとか柔らかい雪が最高であるとか……中々にテンション高めだな。確かに……見慣れない光景だけに喜んで貰えているようで。
湖に飛び込み、ひと泳ぎして戻ってきたティールは……湖の中も広々としていて楽しかったと言ってくれた。うむ。それなら良かった。