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番外298 南極への旅立ち

 そんなわけで……若干予想外の出来事ではあったが、新しい仲間としてウィズが増える事になった。

 俺の仲間であればかぶられる事にも特に抵抗はないらしく、シーラやマルレーンにかぶられてみたり、コルリスの頭の上に乗ってみたりと、中々に馴染んでいるようだ。みんなとも仲良くやって行けそうで何よりである。


 そうやってみんなとの関係が良好で心配する必要がなくなると、ウィズ自身の細かな能力等が気になってくる場面ではあるが……これについては本人が五感リンクで感覚的に伝えてくれるところもあるので、迷宮での検証などと含めて色々判明してきている。


 八角柱がどの程度の間その力を蓄積していたのかは分からないが、ウィズがかなり強大な魔力を宿していて、相応に強力な力を使えると言うのは間違いない。


 ……面白い能力がいくつかあり、まず帽子として目と口を閉じていれば普通のものと変わりないように見せかける事が出来る。他にも同じ帽子であるならシルクハットやらベレー帽やらと色々変形できる。どんな場面、どんな季節でもウィズさえいれば帽子には困らない、というわけだ。

 まあ、本人としては元のとんがり帽子の姿でいるのが気を張らなくていいので楽らしいので、普段はその姿でいることになるのだろうけれど。


 そんなこんなでウィズも加わって更に賑やかになった中、日々の仕事や今後の準備を進める中……それと並行して南極への旅支度も整えていったのであった。


「えーと。食料に関しては、こんなところでいいかな」


 出発前に目録と船倉の中の物資を照らし合わせる確認作業はいつもの通りだ。シリウス号では食料品の冷凍保存もできるので、多めに物資を積んでも腐らせることもない。旅行中に使い切れなければ帰ってから消費すればいいのだし。


 だから日程に比べて食料を多く積んでおけば、諸々安心というわけである。

 冷凍した肉と魚が多めになるのは動物組がいるからこそだ。鉱石もきっちり山盛り積んであるのでコルリスの食糧確保も十分だ。


 そして――ここでも早速ウィズには役に立ってもらっている。五感リンクというよりはその応用で五感の統合とでも言えば良いのか。

 ウィズが自己の認識上に光の文字を浮かべて俺の視覚と併せる事で、こう……VR技術のはしり的な、拡張現実の機能を持たせることができるわけだ。


 目録に合わせた物資のチェック。更に人数から予想される一日の食糧消費量と、実際積まれた量から何日食糧が持つか等々の数値。これらをウィズに求めれば、瞬時に計算を済ませて俺の視覚上に文字や数字として求めるデータを示してくれる、というわけだ。

 こういう計算が、ウィズは相当得意なようで。しかも意思を持っているから応用範囲も非常に広い。


 俺の視覚とあわせて3点の視差で測量を行い、目標までの正確な距離を測ったり、対象物の移動速度を割り出して数値化したりもできる。


 これによって何ができるかというと……例えばお互い高速で飛び回るような戦闘において魔力光推進を必要になるだけの出力に押さえて細かく調整することで無駄のない魔力運用が可能になる、というわけだ。肉眼では感知しきれない微妙な光の変化なども感知することができて……相当分析能力が高いと言えよう。


「んー、これは便利だな……。助かるよ、ウィズ」


 目録に得られた予測数値も書き込みながらウィズに話しかけると、頭の上で頷くような気配があった。バロールの視点からではウィズが目を細めてにこにこしている様子が見られるな。うむ。


「――転移門建造の物資は問題なかったわ」


 そうして確認を済ませたところで、ローズマリーが転移門用の物資の目録を手に俺の所にやってくる。


「それじゃ目録を交換して、もう一度点検したら出発の準備をしようか」

「分かったわ。それじゃ、マリーに代わって続きは私が」


 ステファニアが目録を受け取る。別メンバーによる二重チェックを行い、問題が無ければ出発だ。




 さて。今回同行するのはいつものメンバーに加えて、ルスキニアとマールという顔ぶれになる。


「お話が決まってからずっと楽しみにしてたんだよ!」

「ふふ、ルスキニアと一緒に旅というのは昔を思い出しますね。召喚されていない時もあったのでずっと一緒だったというわけではありませんが」


 うきうきしているという印象のルスキニアがマールと共に造船所にやってきた。

 昔……つまり、かつて七賢者が地上に降りてきて旅をした時の話ということになるか。


「あの人達……七賢者の子孫であるテオドール様や、旅の途中で立ち寄ったハルバロニスの住民である私が一緒というのも……そう考えると不思議な縁ですね」


 フォルセトがそう言うと、マールとルスキニアも頷く。


「何と言いますか。絆のようなものを感じますね」

「うんうん」


 そんな2人の会話にクラウディアも思うところがあるのか目を閉じたりしていた。

 メルヴィン王を始め、タームウィルズとフォレスタニアの知り合い達が造船所に見送りに来てくれる。


「未踏且つ極寒の土地……か。空を飛んで向かうとはいえ、十分に気を付けるのだぞ。ホウ国への訪問に関してはこちらで進めておく故、それらに絡んだ心配は無用のものであると考えてもらって良いぞ」

「ありがとうございます。ティールの話では無人の地帯でもありますし、今まで向かった土地とはまた気を付けるべき点が違いますから……油断はしないようにしたいと思います」

「うむ。確かに。政治的な懸念を抱える国と、どちらが厄介かは難しいところではあるな」


 メルヴィン王は俺の返答を受けて、少し冗談めかして微笑む。


「留守の間のフォレスタニアについてはお任せください」

「何か問題が起こりましたら、通信機で連絡を致します」


 と、セシリアとゲオルグが言う。


「うん。ありがとう。今回はそんなに長丁場にならないとは思うけど、留守の間のことは頼む」


 テスディロスやウィンベルグ達とも言葉を交わし、それからアウリアとも挨拶をする。


「ふむ。未踏の地の探索とはまさしく冒険者の本懐じゃな! 儂は今回、シュウゲツ殿を迎える準備がある故、残念ながら同行はできぬが、十分気を付けるのじゃぞ」

「ありがとうございます。戻ったらまた打ち合わせをしましょうか」

「うむ。土産話も楽しみにしておるぞ」


 そうして、七家の長老やアルフレッド達、オルディア、イングウェイ、ツバキ、コマチ達……見送りに来てくれた面々とそれぞれ挨拶を交わす。

 甲板に乗り込んで点呼を行うという段になって、ティールが少し離れたところに移動し、俺達みんなに礼を言うようにぺこりと頭を下げる。フリッパーを身体の前で揃えて、長く深いお辞儀をしてきた。


「――ん。大丈夫。みんなも一緒」

「私達も頑張るね。だから安心してね、ティール」


 そんなティールの行動に、シーラとイルムヒルトが穏やかな表情で言う。


「私としてもティールの仲間達に会ってみたいです」

「そうですね。ティールのお友達が沢山いる光景というのは……楽しみかも知れません」


 グレイスとアシュレイがにっこりと微笑み、マルレーンが笑顔でこくこくと頷く。みんなもティールに穏やかな笑みを向けて……。大切な人と離別する辛さというのは――みんな知っているからな。


「そうだな。みんなで、一緒に会いに行こう」


 そう言って手を差し出すとティールは顔を上げ、嬉しそうに声を天高く響かせた。そうして身体を左右に揺らし、フリッパーをぱたぱたとさせながら嬉しそうにこちらに走ってくる。俺と手を繋ぎ、コルリスに背中をぽんぽんと軽く叩かれたりラヴィーネに顔を擦りつけられたりして。随分と嬉しそうだ。


 そうしてみんなでシリウス号に乗り込み……きちんと揃っているか点呼を終える。見送りのみんなに手を振られて、こちらも手を振り返し――ゆっくりと船体が浮上し出す。


 南極探索か。ティールの仲間達がいる場所は星球儀で把握しているが、冬に近付いている上に人跡未踏の地であることを考えると、油断は禁物だ。気合を入れて事に臨むとしよう。

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