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番外297 思い出と仲間と

 エンデウィルズの正門前に来たのは、随分と久しぶりだ。広々とした石造りの広場と、翡翠のような巨石の柱。

 そして広場を抜けたところにある、見上げるような巨大な門と延々と続く外壁――。


 広場の中央には転移用の石碑が鎮座しているので広場中央から距離を取り、仮に大規模な爆発が起こっても影響が小さそうな場所を見繕って八角柱を設置する。


「とはいえ、もしも石碑が吹き飛んでも迷宮が再生させるのだけれどね」


 というのは、同行したクラウディアの弁である。


「流石にエンデウィルズの外壁を越えて、街中まで被害が及ぶとも思えないしな」


 だとしても無人の街だし再生もするのだろうけれど。

 人的被害が出ない、という意味では大腐廃湖より安心できる場所だ。

 クラウディアはマジックサークルを広げる。転移魔法でもしもの場合退避できる準備を整えてから、八角柱の封印術を解くということになる。


「準備できたわ。発動の判断はテオドールに任せるわね」

「了解」


 魔力の動きを見て、爆弾等々の危険物だと判断したらクラウディアと共に即離脱、する手筈だ。それ以外の場合は状況を見つつ判断するということになる。

 では――始めよう。八角柱の封印を維持している魔道具を取り外し、術式を解除する。


 普通ならそれで術式を維持していた魔力が四散するはずなのだが、一瞬だけ拡散しそうになった後で八角柱の表面から内部に取り込まれていった。


 ここからの八角柱の動きと、魔力の動き方に注視する。八角柱の表面に刻まれた紋様に沿うように光が走り――八角柱の平面部分が外側に向かってゆっくりと展開する。

 花が咲くような、と言えば良いのか。台座の上に八角柱が展開して内側にあったものが姿を現す。それは――強い魔力の塊だった。

 靄のように台座の上で輝きを放ちながら不定形に揺蕩(たゆた)っているが……魔力が集まっていき、何かの形を成そうとしているのが見える。


 魔法生物を作ろうとしているのは間違いない。


 封印術を吸収して生まれる魔法生物、か。俺の望みも汲む、と言っていたけれど。


 魔力循環を行いながら手に魔力を宿して翳せば、魔法生物となろうとしている魔力の燐光も、こちらを探るように指先に絡んでくるのが分かる。

 思い出すのはマクスウェルの核を作った時の対話だ。こちらの思考にも反応して、魔力が動いているのが分かる。だから、あの時のように心の中で思い描く。


 そう、さっき吸収した術は――母さんが遺してくれた術なんだ。イシュトルムの力を封じ続け、みんなをずっとずっと守ってくれた術で――。

 脳裏に母さんとグレイスと俺の、3人で暮らしていた頃の記憶が蘇る。

 死睡の王の襲撃と、その後の事。シルヴァトリアの塔でのお祖父さん達との出会い。迷宮深奥での戦いと月での戦い。それから……母さんとの再会。


 だから、そう。俺の望みを汲むというのなら。封印術を取り込んで形作られるというのなら。そこに望むことがあるとするのなら――。


「これから先を……俺や、みんなと共に歩いてくれる、良い友人であって欲しいかな」


 そんな、望みを口にする。魔力が揺らめいて、まだ形を成していない魔法生物の、感情らしきものが伝わってきた。

 それは――羨望や憧れ、だろうか? ウロボロスが小さく喉を鳴らし、ネメアとカペラが顔を出す。すると感情が強くなる。

 カドケウスや、ウロボロス。ネメアやカペラ、バロール……魔法生物達に強く反応している。


 みんなの姿に、普段の記憶に、魔法生物は強く反応する。

 自身が魔法生物であるからこそ、憧れもまた魔法生物に向く、ということなのだろうか。


「……うん。みんなも新しい仲間を、待っていると思う」


 そんな風に答えると、嬉しそうな感情が伝わってくる。魔力の反応と輝きがどんどん強くなって――。そうして不定形だった光の靄が集まり、輪郭が形作られていく。

 光が収まると――そこには何か……。


「帽、子?」


 クラウディアが首を傾げる。


「あー。ウロボロスやネメア、カペラに憧れていたみたいだから……多分、装備品型になった、のかな?」


 これは……少し予想外であり、納得できる部分もあり。帽子型の魔法生物、ということなのか。確かに、俺の装備品には頭部に装備するものがなかったからな。

 こちらの記憶が大きく影響をしたのか、宝貝から作られた魔法生物にしては、西国風のデザインというか。


 如何にも魔術師や魔女が好んで被りそうな、鍔の広いとんがり帽子が台座の上に佇んでいた。色合いや質感も丁度キマイラコートに合わせたような印象がある。全体的なシルエットは三角形だが、先端部分が少し折れ曲がっているのがいかにも魔法使い的な意匠だ。

 但し、普通の帽子ではない事の証明というように――鍔の上の三角形の部分に何やら一つ目がついていた。目の下には牙の生えた大きな口がついていたりして。

 単なるデザインでないのは目と口が生物的に機能している様子から明らかだ。

 ふわふわと浮いて俺の目線の高さまで来ると、ぺこりとお辞儀をしてきた。


「――うん。よろしく。俺は、テオドール」

「よろしくね。私はクラウディアよ」


 クラウディアと共に笑みを返して、自己紹介すると、帽子もまた目を細めて口元で笑みを浮かべる。この場にいる魔法生物――カドケウスとウロボロス、ネメアとカペラも帽子を歓迎するというように挨拶を交わしている。因みにバロールは連絡役ということで工房側に残っているが、すぐに引き合わせることになるだろう。


 鍔の部分を手に取って俺の頭の上に乗せると、何となく満足げな雰囲気が伝わってきた。被り心地は、悪くないな。大型の帽子なのに軽くて。あつらえたようにぴったりのサイズである。しかも、何やら五感リンクができるようだ。帽子の一つ目からの視界も見える。


 杖にコートにモノクル、帽子で……如何にも怪しげな魔法使い的出で立ちになってしまうのは……まあ、良しとしよう。実際魔術師だしな。うん。


「んー。みんなに紹介してこようか。ええと。八角柱を宝物庫に安置してから、がいいのかな。術を吸収するとなると、実験に使うのも難しいし。力を蓄えないといけないらしいから、当分は動かないとは思うけどね」


 開いていた八角柱は、帽子がそこから離れた時点で閉じてしまっている。


「そうね。では、宝物庫に立ち寄ってから、工房に戻る事にしましょうか」


 俺の言葉に、クラウディアは静かに微笑んで頷くのであった。



 というわけで、工房に戻って、帽子をみんなに紹介することになった。


「それじゃあ、この子がそうなんですね」


 エンデウィルズでの出来事を聞いたグレイスが、テーブルの上に置かれた帽子を見てにこにこと微笑む。みんなから挨拶と自己紹介を受けて、帽子は丁寧にお辞儀を返していた。目を閉じて身体を傾ける感じなのでお辞儀に間違いない。

 バロールとは魔法生物仲間だからか一つ目仲間だからか、ぱちぱちとお互い目蓋を閉じたり開いたりしてアイコンタクトを取っていたが……最後にはお互いお辞儀をするようにして挨拶を済ませていた。


「うむ。マクスウェルという。よろしく頼むぞ」


 と、マクスウェルやエクレール、ジェイクにも挨拶を受けたりして、帽子もぺこりとお辞儀をする。魔法生物達との仲は良好なようだ。


 コルリスやティールとはお辞儀をした後、握手も交わしていた。いや、握手と言って良いのかどうか不明だが、とんがり帽子の折れ曲がった先端部分を使ってコルリスの爪の先端やフリッパーに触れる、という方法での握手っぽい何かである。

 中々飲み込みが早いと言うか応用力があるというか。


「名前はどうなさるんですか?」


 アシュレイが尋ねてくる。

 名付けは……やはり俺の役割ということになるか。俺の封印術で起動して形作られたわけだしな。


「んー……ウィズっていうのはどうかな?」


 魔法使い的なイメージの帽子だからウィザードにかけているのもあるし、姿が頭に被る帽子で……本人も中々賢そうな様子でもあるから、知恵を意味するウィズダムにかけているところもある。

 本人に尋ねるように聞いてみると、空中に浮いてからくるくると回っていた。目と口から分かる表情的にも嬉しそうに見える。


「ふふ、気に入ったみたいね」


 と、ステファニアが微笑み、マルレーンがにこにこしながら帽子の先端と握手をしていた。


「それじゃあ、名前も決まりかしらね」


 ローズマリーが目を閉じて頷く。


「ん。よろしくウィズ」

「よろしくね、ウィズ君」


 と、シーラとイルムヒルトに名前を呼ばれ、くるくる回るウィズである。なるほどな。嬉しい時は回るのか。

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