番外296 八角柱の秘密
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。
番外295にて、ミシェルからの報告の最後にて
使い魔のオルトナについても言及する少々の加筆を行いました。
話の流れに変化はありません。お手数おかけします。
そうしてフォレスタニアの執務や、工房でやるべき事、造船所での新たなる飛行船の構想、設計図を練るなどの仕事をこなしながら諸々の準備を進めていく。
そうやっている内に、王城から書面にて宝貝の使い方についての詳細情報が通達されてきた。
「――つまりどの宝貝も、起動時や維持のための魔力消費の大きさを除けば……副作用については連中も知らない、とか、無いんじゃないかって答えたらしい。オリハルコンを通して魔力の動きを見て、そこで齟齬が無ければ起動させる事そのものは大丈夫……なのかな?」
とは言え、使用者も宝貝を使った戦法に熟練しなければならないという性質のものも多いし、最低限魔力の扱いに長けていなければならない。
仙気を使えるか使えないかで機能的な本領を発揮できない場合もある等々、色々ピーキーな面が目立つ印象だ。
少なくとも、俺達の中でも宝貝を扱える者は、魔法を主体にする面々に限られてくるかな。
「あの箱は興味深かったわね。あれについては何と書いてあるかしら?」
と、ローズマリーが尋ねてくる。あの箱――植物を操る箱だな。
「ええと……。混元森羅匣か。事前準備が重要で、使用者が植物の種を採取して箱に入れてやる必要があるらしい。一度箱に入れてやった種は次から箱から呼び出して操る事が可能になる。召喚の際、植物の性質に合わせて強化変質するんだそうだ」
例えば、蔓、蔦の類は生きた縄や鞭となり、ススキのような葉を持つ植物なら剣や刃のような葉っぱが飛び出したり。
混元森羅匣を使っていたホウサイがかなりの強化効果を宿す果実を使っていたが、これは元がかなり希少な植物を元にしているのだとか。
因みに、召喚した植物が損傷を受けると、その度合いに応じて再度召喚するのにはそれなりの時間が必要になる。
それを見越して同じ種類の種を複数箱に与えておくこともできるが、箱は有り触れた植物の種を収めておくのは簡単だが、強力な効果を発揮する植物の種は話が別らしい。
これは保持して変質させる、という能力故だろう。強い効果を持つ植物の種を与えすぎると、全体で収納できる種の数が減るそうな。
つまりは……あの果実とて無尽蔵に使えるわけではなかったのだろう。作り出した果実を食べるというのは「大きな損傷」に他ならないわけで。
「使い手が変わると、今まで収納されていた種は全部箱に吸収されて戻ってこないそうだよ。その代わり誰が起動させても、性能自体はそこまで変化しない、らしい」
「つまりは与えられる植物次第で使い勝手や運用方法が変わってくるわけですね」
グレイスが納得するようにこくこくと頷く。
そういう意味では……植物園がある今の環境は恵まれているかな。今まで集めた植物がどう機能するのかは分からないが。
「少なくとも、ノーブルリーフ達の種を使うのは止めておくべきね」
ローズマリーが言う。
「まあ……ハーベスタ達はあくまで俺達をパートナーだと思って種を預けてくれているわけだしな。これを扱うなら……やっぱりマリーが適任かな。副作用がないなら、だけど」
「そうですね。相手を倒したのもマリー様ですし」
「私達の中で一番植物にも詳しいものね」
俺の言葉に、アシュレイが表情を明るくしてそう言って、クラウディアも目を閉じて頷く。ステファニア、マルレーンもにこにこしながら頷いていた。というわけで反対意見は特に出ない。
「ん、んん……。ええ、ありがとう」
と、ローズマリーは少し頬を赤らめつつ小さく咳払いし、そんな風に礼を言っていた。
では、一度俺が起動させて魔力反応を見つつ、怪しい魔力の動きがなければローズマリーに管理と運用をしてもらう、ということで。
とりあえず宝貝を一通り確認したが、副作用のありそうな魔力の動きは見当たらなかった。問題は――あの都の宝物庫に置かれていた八角柱だ。現在、封印術に魔道具を併用して継続して封印されている状態ではあるのだが。
「これについては、実際に動くところを見てないのよね」
イルムヒルトが中庭に置かれた八角柱を見て首を傾げる。
「一応、情報収集で判明はしたんだけどね」
「どんな宝貝?」
「何か問題がある感じですか?」
シーラが尋ねてくる。コマチも興味津々といった様子だ。
「これについては、長期間放置しておけばおくほど力を溜め込んで、起動させた者の資質や望み、その方法に合わせて色々総合的に汲み取って守護者的な魔法生物を作り出す……らしいよ。問題は、俺がもう封印術をかけてしまっているってことでさ。起動条件を見ると……もしかすると封印術を解除すると同時に宝貝が起動することになりそうでね」
「起動条件っていうのは?」
と、アルフレッドが尋ねてくる。
「柱に対して術を用いる事……らしい。攻撃用の術なら攻めに向いた魔法生物が作られるし、防御用、治癒用の術ならそれに向いた魔法生物が……。あー。封印術だったら……何だろう。補助向きか、或いは搦め手が得意なのが……作られるのか、な?」
幸い魔法生物は起動させた相手に従順だという話だが。
「……小回りが利かない分、緊急時の拠点防衛用という運用は正しいのかも知れないのう」
お祖父さんが言う。
それは確かに。ショウエンの門弟達に照らして考えるなら、相手――つまりあの時の場合はサイロウの性質に合わせて有利になるような術を選択して起動する、という事ができたわけだ。
そうやって八角柱について色々と説明すると、みんなは何やら顔を見合わせ、それから頷き合う。
「そういう事でしたら……テオにお任せしたほうが私達としては安心できるような気もします」
「確かにね。魔法生物の扱いにも慣れているし」
グレイスの言葉にクラウディアも同意する。
「うむ。主殿であれば間違いない」
と、マクスウェルも断言していたりして。みんなもうんうんと頷いている。
んー。そうやって信頼してくれるのは嬉しいが。
封印術を解いたら起動してしまう可能性がある以上、問題を先送りにしても無責任だしな……。少なくとも、封印術の解除までは俺の責任としてやっておく必要があるか。その段階で起動しないのなら、その後の事はまた考えれば良いだろう。
「それじゃあ、迷宮に持っていって封印術を解除してみるかな。これについては、ショウエンの門弟達も起動を確認しているわけじゃないから、念の為にね」
「そうなると、場所はやっぱり大腐廃湖かしら?」
「んー。魔法生物に影響が出るかもって考えると……別の場所が良いかな。少なくとも、転移魔法で退避する準備もしてからが良いと思う」
運用方法から考えて前以って魔法生物を作り出してから事に当たるわけだから、起動させたらいきなり爆発する、なんてことはないだろうが……念には念を入れておいた方が良いだろう。
人が少なく、暴れても爆発しても影響が外に出ない。そんな場所が望ましいが……。
「それなら、エンデウィルズ前の正門はどうかしらね? あのあたりは頑強なはずだわ。もし魔法生物が暴走しても、エンデウィルズの防衛戦力もいるし」
「星球庭園を抜けたところの広場か。それがいい、かな」
迷宮深層、エンデウィルズ。クラウディアの領地。その提案は確かに、色々な条件を満たしていてありがたいものではある。
総合的な要素で作られるというのであれば……どんなものが出てくるかも未知数だ。従順な魔法生物どころか、いきなり目に付く物手当たり次第に暴れ出す可能性だって否定できないし、従順であってもバジリスクのように石化の魔眼なんて持っていられたら街中での活動は――まあ、封印術があるからどうにかなるけれど。
こういう不確定な魔法生物を作り出すという部分が宝貝らしいと言えばらしいが、さてどうなることやら。
そんなわけで、八角柱をエンデウィルズ前の正門前広場に持っていき、封印術の解除を行うこととなったのであった。