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番外292 ホウ国との約束を

「――しかしまあ、北を突っ切って西に向かった方が、普通に旅をするより早く東に帰れるってんだから、理屈は分かっていても不思議なもんだな」


 と、レイメイが水晶板から北極圏の光景を見ながら言う。

 

「タームウィルズには転移門があるからの」


 と、イグナード王。そう。帰り道は北方ルートだ。みんなでシリウス号に乗ってタームウィルズに向かい、転移門でそれぞれの国に帰るということになる。

 というわけで、今現在は北極圏の上空を結構な速度で高速飛行中である。


「転移門か。里に帰って落ち着いたら、一度エインフェウス王国には行ってみたいもんだが」

「おお、それは良いのう。レイメイなら気に入るのではないかな」


 レイメイの言葉にイグナード王がそんな風に答える。レイメイとイグナード王は、性格的には相性がいいというか話題も合うようだ。

 それとも鬼と獣人は話題が合いやすいということなのか。イングウェイとレギーナ、ジンとツバキも武術や修行の話題で盛り上がっていたりするが。


「転移門のお陰で、こうしてみんなで一緒に帰れるのは楽しくて良いですね」

「うむ。賑やかで大変結構よな」


 上機嫌なユラの言葉に御前も笑みを浮かべて頷く。


「次に皆と会うときはカイ王子の即位の時、か。その時が楽しみではあるな」


 オリエがそう言って頷く。


「カイ殿下がタームウィルズとフォレスタニアに訪問してくる折りには、前回より色んな方に会えるかも知れませんよ。各国の皆さんもヴェルドガルに遊びに来るのを楽しみにしていた様子ですし」

「確かに。エベルバート陛下も次の機会を楽しみにしておられたのう」


 と、お祖父さんが笑って、七家の長老達も頷く。

 そうだな。各国の国王、女王達の間でもヒタカノクニやホウ国に対しては興味が向いているようだし。

 ホウ王朝が再興してカイ王子が即位する。その上で転移門も整備されるとなれば……今後の交流のためにもあちこちから応援と祝福ということで、使者なり国王本人なりが式典に出席する可能性は高い。


 カイ王子の正統性、人柄、それに王朝周辺の人材の層の厚さ等々から見て、今後のホウ国は安定して治世が行われる可能性が非常に高いからだ。

 ホウ国に関する顛末等は既に連絡を入れてあるから……そうなると各国も今から調整に入る、ということになるだろうな。


 後は……ティールに関してか。北極の景色は故郷を思い出すのだろう。食い入るようにモニターからの光景を眺めていて……。そんなティールが心配なのか、オボロや雷獣、サトリ達が寄り添っている。


「ティールの仲間達の事も、帰ったらティエーラに聞いてみるよ。皆の居場所も、見つかっていると良いな」


 そう声をかけると、ティールは振り返りお礼を言うように首を動かして声を上げた。

 ただ、お礼と共に……身振り手振りを交えて更に声を上げて、こっちで知り合ったみんなと、そのまま別れるような事になるのは寂しい、と言っているようではあるが。


「それは……確かにね。南極圏に契約魔法を絡めた転移門の建造も、ティールの仲間達さえ良ければって思うけれど」


 そう言うと、ティールは嬉しそうにフリッパーをパタパタとさせていた。動物組にうんうんと頷いていたり、マクスウェルも核を明滅させていたりして……みんな嬉しそうだ。

 転移門にしても……ティール達だけが使えるような……最低限ティールだけが使えるような契約魔法が組み込まれているなら、問題はないだろう。

 しかしそうなると……ティール達への魔法による防護も同時に必要になってくるか。南極とヴェルドガルとでは環境が違い過ぎるからな。


「みんなもティールと仲良くなったものね」


 ステファニアがそう言って、コルリスの背中を軽く撫でる。

 イルムヒルトも楽しそうに微笑みながらリュートを奏で始める。明るい旋律が流れ出すと、セラフィナが足を揺らしながら歌声を響かせ、コルリスがリズムを取る様に鼻をくいくいと上下に動かして――そうしてシリウス号はタームウィルズに向かって飛んでいくのであった。




「あっ、セオレムが見えてきましたよ……!」


 アシュレイが嬉しそうに声を上げた。モニターの彼方に王城セオレムの尖塔が見えてくる。


「ん。遠くにあるセオレムを見ると、帰って来た感じがする」

「そうね。転移で戻ってくるのとはまた違うわ」

「転移で戻る時は、用事があってという事が多いからかしらね」


 シーラが言うと、クラウディアとローズマリーが同意する。


「到着したら、まず宝物庫に八卦炉と宝貝の核を安置してくるよ。王城にも連絡はいれてあるから」

「でしたら……私達は一足先に、王城でお待ちしていますね」


 と、グレイスが胸の辺りに手を当てて微笑み、マルレーンと笑みを向けあう。

 そうだな。報告もしなければいけないし、マルレーンも、ローズマリーも、ステファニアもメルヴィン王とは顔を合わせておきたいだろうし……。

 メルヴィン王としてもそちらの方が安心できるに違いない。


「そうだね。じゃあ、宝物庫に顔を出したらすぐに王城に向かうから」

「ふむ。儂もメルヴィン王に挨拶をしてから国元に帰るとするか」

「そうですね。私達もご一緒します」


 というわけで、イグナード王やユラ達も先に王城セオレムへ挨拶に向かうということになり、結局全員で王城へ、ということになった。




 造船所にシリウス号を降ろす。通信機で帰還する旨、宝物庫に関すること等の連絡を入れておいたので、既に造船所には王城からの迎えの馬車が来ていた。


 甲板から降りると、メルヴィン王とジョサイア王子が直接迎えに来てくれていた。


「只今戻りました。こうして皆揃っております」

「うむ。高位の邪精霊相手ということで、相当な激戦であったようだが……。顔を見て安心した。皆無事なようで何よりだ」


 メルヴィン王は俺の言葉に相好を崩して言った。ステファニア、ローズマリー、マルレーンが揃っているのを見て穏やかな表情を浮かべている。ローズマリーは口元を羽扇で隠しているけれど。


「積もる話はあろうが、まずは王城にて、戦いと旅の疲れを癒して欲しい。それからゆっくりと話をするとしよう。テオドールは先にホウ国との約束を果たしてくるのであったな」

「はい。約束を済ませたらすぐに王城へお伺いします」

「うむ。では、迎賓館で待っておるぞ。例の話も進めるのであろう? 関係者も迎賓館に呼んである」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、テオ君、また後でね」


 アルフレッドは軽く微笑んで馬車に乗り込む。コルリス達動物組も、馬車を護衛するためについていくようだ。


「では――私達も行きましょうか」

「ああ。それじゃあ、よろしく」


 というわけで、クラウディアと共にフォレスタニアの居城へと飛ぶ。ヴィンクルもあまり出歩く気がないようで、一緒にフォレスタニアへと飛んだ。


「じゃあ、ヴィンクルも、また後でね」


 そう声をかけると、ヴィンクルは小さく笑い、喉を鳴らしてぱたぱたと飛んでいくのであった。

 俺とクラウディアは隠し扉から宝物庫へ入り――まずは土魔法を用いて大理石のような質感の台座を作る。

 この台座はあくまで宝物庫で管理しておくもので……人目に晒すという事もほとんどないだろう。

 だが、草原の王や聖王の事を考えると適当に置いておく、というわけにもいかない。後世に宝物庫を管理する者が約束を果たす事を伝える意味でも、しっかりとしたものを作っておきたい。

 聖王と草原の王の……少年時代をイメージした人物像を装飾として形成。更に文言を彫り込む。


「――我らの友誼と信義に基づき結ばれた契約に従い、正統なる後継者が正当なる理由にてこれらの秘宝を必要とした折には、然るべき手続きに基づき、返却がなされるものとする。後世においても約束と信頼に変わりはなく、管理者たる者の責務が間違いなく履行されることを望むものである……と、こんなところかな?」

「今の段階では良いのではないかしら? 封印や契約の術式は後でしっかりと組むとして……」


 台座の中央に八卦炉の核を安置。周囲に草原の王が作った宝貝の核を、一つずつ飾る様に配置。水晶の中に封印し、台座に魔石を埋め込んで封印術と隠蔽魔術を発動させる。

 因みにこの魔石もアルフレッド製で、ホウ国滞在中に魔石に刻んでもらったものである。


 ふむ。見た目的には中々良い具合になった、かな? とりあえずはこれで良いだろう。では、続いて、王城へ報告に向かうとしよう。

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